爺さんのそば屋

2011/02/10 09:30 登録: えっちな名無しさん


爺さんは昔そば屋をやっていたんだけど、お弟子さんに譲って悠々自適な生活をして
いた。それでも、お弟子さんが可愛いのか気になるのか、たまに店に顔を出してはお弟子
さんの手伝いをしていた。

その日もお弟子さんの店に顔を出して、店の手伝いをしていたら出前の注文が入り、爺さ
んが代わりに行ってくると言ったそうだ。

主人たるもの店にいられる時はいるべきで、出前なんかは引退したジジイに任せておけと
言いそのまま出前に出ていった。

出前先はお得意さんの警察で、行き慣れたところなので往復十分もあれば帰ってこられる
ところなのに、三十分たっても爺さんは帰ってこないので、おかしいと思い始めた頃、出
前先の警察署から電話がかかってきた。

爺さんのバイクが、右折しようとしたトラックに後ろから追突され、意識不明の状態で病
院に搬送されたとの連絡だった。


結局爺さんは三日間ほど意識不明のままでそのまま逝ってしまった。

その時、お弟子さんが俺たち身内にいきなり土下座をして、『俺がオヤジさんに配達を頼
んだせいです。すみませんでした』と泣きながら繰り返していた。
当然、お弟子さんに責任があるなんて思っていなかった俺たち親族は、そんなお弟子さん
を慌てて引き留めたが、それでもお弟子さんは床に額をすりつけたままで顔を上げようと
もしなかった。

そして、その姿を見た時にこれまで堪えていた涙が一気に溢れてきたのが不思議でしょう
がなかった。

後日通夜の時に、病院で一緒に爺さんを看取ってくれた警察の人がやってきて、『自分た
ちが出前を頼んだせいで……』と言ったきり、後は言葉になっていなかった。

その時に叔父が『オヤジの味をそこまで気に入ってもらってオヤジも本望だったと思いま
す。オヤジの味はこの○○君(お弟子さんの名前)がしっかり受け継いでいます、これから
もひいきにしてやってください』と言ったのが今も心に残っている。


あれから十年以上経っているけど警察の人はずっとお弟子さんの店のお得意さんのままだ。


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