閣下のサンクチュアリ
2005/05/08 03:26 登録: えっちな名無しさん
閣下のサンクチュアリ
閣下の私生活は謎に包まれている。数年来の親友である私でさえ閣下が休日に何をしているか知らないし、家族構成や経歴、ましてや趣味や賞罰など知っていようはずもない。
「閣下は明日の休日など何をして過ごされるのですか?」
金曜の仕事帰りに私は尋ねる。
我らが所属する部隊に完全週休二日制が採用されたのはつい一昨年の事だ。
男性ならば当然のことであるがご多聞に漏れず私も三度の飯よりもオナニーが好きである。
オナニーのために人生を棒に振りかけたことも一度や二度ではない。
自慢するわけではないが中学三年生の時には県主催の英語弁論大会で「オナニーと私」(英題:Fuck myself slowly one more time)最優秀賞を受賞したことさえある。
そんな私に週休二日の報せは天啓にも思われたのも無理もないだろう。
休日が日曜だけである場合に比べると二日連続での休日がある場合に可能であるオナニー回数(以後可慰数と略す)は飛躍的に増大する。
一日の休日がある場合の可慰数x(通常1〜4回)に対して二連休における可慰数は2〜3x回である。単純に休日が二回ある場合と異なり「休日が連続している」と言う事実は人間を肉体的にも精神的にも昂らせ、その精神活動の結晶とも言えるオナニーに美酒を傾けさせるのだ。
いや、オナニーは確かに私の趣味だが閣下がそれを嗜まないともいえない。個人の趣味は多種多様であるのだから。
しかし閣下も休日に何もしないというわけではないであろう。同僚や友人たちも各々ゴルフやテニス、アウトドアスポーツなどに興じていると聞く(もちろんそれらの趣味がオナニーよりも有意義であるとは私には到底考えられないのだが)。閣下もそのような趣味に興じたりあるいは出来の悪い愛人などにいれあげたりしているのかもしれない。
「参謀長官は月曜日に有給をとってヨーロッパに視察を兼ねた旅行に出かけられるようですよ、閣下も気分転換に旅行などなさってはどうですか?」
参謀長官と閣下は士官学校からの同期で自他共に認める閣下のライバルである。
参謀長官がクレスタを買えば閣下はマーク?を買い、閣下がカレーを食えば参謀長官はハヤシライスを貪り食うというふうに彼らは常にお互いの存在を念頭に置いた行動を取ってきた。お互いに「あいつにだけは負けたくない」と言う意識が彼らを高め、現在のような地位をもたらしたと言っても過言ではないのだ。
そんな関係にある二人であるから閣下といえど参謀長官の休暇の話を聞いたならば口も軽くなり御自分の休日の話などなさるかもしれない、私はそう思ったのだ。
「うむ、しかし人は人であるからなあ。参謀長官がどうだかはしらないが私はそれなりに用事もあるから旅行などするわけにも行くまい。」
しかし閣下はそう仰った。私の小細工などに乗せられる閣下ではないのだ。
それが分かっているだけに憎らしくそして堪らなくいとおしい。
その白い喉笛を思い切り噛み千切ってやりたいと思うし欧米人のように彫り深く美しく整った顔を苦悶に歪ませてやりたい、論理的言辞を弄しわれわれ凡人を困惑させるその口を、いや、その言葉を閣下に吐かせるおそらくは美しく透きとおりそうな薄い灰色の脳味噌をアスファルトの上にぶちまけさせてやりたい、何よりも美しい閣下を私のやり方で愛し、そして辱めてやりたいのだ。
コンプレックスの塊のような私であるから人間と接するのはやりにくくてしょうがない。人のあらゆる美点は私の醜悪な一面を明らかにするものでしかなかったし優しい思いやりの気持ちでさえより婉曲な方法で私を貶める一手段としか私は捉えることができなかった。
しかし閣下のように自己と比較することも愚かに思えるくらいの優れた人間に出会ったことは却って私をコンプレックスから解放した。
あらゆる閣下の美点はあたかも私の美点のように思われたし、閣下が私に時折見せる優しさに対しては私は誰に対するよりも素直に、敬虔なキリスト教徒が聖母マリアの胸に抱かれるように身を委ねる事が出来たのだ。
「それは閣下の本心でしょうか?人との比較に意味がないことなど当然のことでしょう、それでも我々が何かと他人との比較を行なうのは自らの価値の確認が相対的にしか行えないものであることを無意識に知っているからであるし自己の位置づけの座標軸は他人であるしかないことを認識しているからに他なりません。そうであるのに閣下が参謀長官との関係を無視するのは愚かであり、そのような理由で私をあしらうのであれば私に対する侮辱であると受け取らざるを得ません。閣下はこの私を侮辱するのですか?」
私は軍刀の柄で思い切りテーブルを叩いた。想像以上に大きな音がして閣下はたちまち震え上がる。私は顔面蒼白の閣下を正面から睨めつけながらさらに続ける。
「あなたは何気なく仰ったのかもしれない、しかしあなたは御自分の地位を理解していらっしゃるのか?軍人は陛下の楯であり剣である、それはあなたの言葉ではなかったのか?何よりも無垢なる存在である陛下の道具である軍人には感情に任せた行動が許されないのはもちろん他者の感情に任せた行動を引き寄せる言動は厳に慎まなければならない、それが出来ないのであれば軍人は道具でも人間でもなく単に国家に有害な暴漢に過ぎない、いや、強力な暴力を持っているぶん暴漢よりも有害だ、あなたはそれがおわかりか?」
私は感情の昂りを抑えることも出来ず勢いに任せて閣下をサーベルの柄で一撃した。さすがは軍人である、閣下は直立不動の体勢を崩すことはなかったが、その顔色はもはや蒼白を通り越してどす黒くさえある。
しかし私の意図は大恩ある閣下を侮辱することでもないしそれによって自己満足を得るつもりもさらさらない。すべては閣下のため、有益な休日の過ごし方と理想的家庭生活のためであるのだ。
とはいえ私も人間であるから自分の吐く言葉に酔っていたのであろう、無抵抗にリノリウムの床に視線を固定した閣下を何度も暴言と共に殴打した。
教育、軍人の心構え、アジアの大義、所詮は建前論に過ぎないこれらの言葉であるが判断能力などなくただただ勢いに任せて暴力を振るう私を正当化させるには十分であったのだ。
「しかし、、、私の休日の過ごし方の問題であるし、、、君には関係のない私的な問題ではないのだろうか、、、?」
気丈にもまだ閣下は口答えをした。
しかし閣下は分かっていないのだ、半端な反論は私の感情の悪化を招くだけであるしその場合には閣下にとっても私にとっても良くない結果しか生じ得ない、つまりは今までも際限なく繰り返されてきた終わりのない暴力である。
確かに閣下は上官であり上司である。我々の組織において閣下が死ねと言うのであれば私のような下士官には寸刻躊躇する自由さえ与えられていない。上官の意思は我々の脳髄よりも、DNAの遺伝情報よりも上位にあって我々の身体に命令を下す絶対者なのだ。
そうでなければ軍隊という組織は集団としての意思を失った烏合の衆であり、ひいては我々が仕えるべき人民の生命を危険に曝す事にもなりかねない。
だから軍隊における上官への絶対服従はルール以前の至上命題であるのだ。
しかし今日の閣下の問題については話が別である。
私と閣下は上官と部下と言う立場で話をしていたわけではないし閣下の軍人としての資質の問題を問うている訳でもない、ただ閣下の生き方の問題であり、閣下の友人としての私の考え方の問題である。
だから私はやはり口答えをする閣下を許すことはできない。
「まだわかっていないのか?貴様のその態度こそが全ての問題の出発点であるのだ、歯を食いしばれ、その甘えた考え方を叩き直して精神を注入してやる。」
私はもう一度拳を振り上げた。鍛え抜かれた鉄の手拳といえどもずきずきと痛み、軍服の袖口は閣下の鮮血に赤く染まっていたが私は半端に閣下を解放するつもりなどさらさらない。
「もうやめて、お祖父様も十分わかってらっしゃるわ。これ以上お祖父さまを打つというのならそのかわりに私を打って。」
少女が閣下と私の間に遮る様に立った。このまま閣下を打てば少女も犠牲になるのは自明だ。
いや、少女を殴るのが厭な訳ではない。女性であろうと子供であろうと殴らなければならない時には殴るのが私の信条でありライフスタイルである。
子供の時には昆虫を殺した。ちょうど小学校に入学する前くらいの頃である。
虫にも弱い虫と強い虫がいる。頭を潰されても逃げようとする虫もいるし毒やキバをもった虫もいる、そんな強い虫たちを幼い私は好まなかった。私は逃げ足も遅く羽根も持っていない弱い虫たちを好み、母が子を胸に抱くように踏み潰し引き千切りしたものだ。
同じようにだんだんと大きくなった私は小動物や子供を愛した。あるいはそれらの行為は法に触れ、道徳的にも許されないものであったのかもしれない。
しかし愛は本質的に利己的なものであるし愛が深ければ深いほどその現れ方は歪なものになると決まっているのだ。だから私は心情的には少女を打つことには何の躊躇いもなかった。むしろ私が気に掛けたのは別のことである。
閣下が優柔不断で建前論しか頭にない旧弊な人間たちの象徴であるなら私は情熱的で正義漢、しかしともすれば短絡的発想で行動する若者の象徴であると言えよう。だとすれば少女はか弱いながらも知性と理性を象徴するインテリジェンスの象徴であるに違いない。
そして旧弊的な勢力が若い情熱に任せた行動に取って代わられる時、つまりは今閣下を私が陵辱しているこの瞬間であり2.26事件において青年将校たちが国家を我が物として私利私欲に走った奸賊たちを一掃した瞬間である。
その時にインテリは果たしてどのような行動を示すことが出来るのか。知識人たちがその思想に行動を伴わない点において批判されるべきであるとは思わない。机上のみにおいてしか確立することの出来ない理論や数式が存在するのは確かであり、机上で確立した理論を実行する者が理論を作り上げた者と別人物であっても一向に差し支えないのである。
しかし仮に実行を自らの手段としないはずのインテリゲンチアがやむをえず自ら行動したとすればどのような結果を生み出すであろうか。歴史は語っている、インテリゲンチアは理論の実行を行った瞬間にインテリゲンチアたる自己の位置づけを失ってしまい単なる理論の一実行者に(しかも実行者としては二流の)堕してしまうのである。
しかし少女がその程度のことに気付いていないとは到底思われない、彼女のしようとしていることは閣下を守ることでもなく私を撃退することでもなく自らに課された枷への大いなる挑戦である。労働者階級を抑圧し、支配しようとしたにもかかわらず時代の波に飲み込まれていった知識階級の世紀を超えた復讐である。そうであるならば私はこれに暴力で応えるべきではない。
「君は何ゆえに閣下を庇うのだ、君の前にいるのはベトナムの勇者でもないし陸軍の重鎮でもない、ただの名誉にしがみつく老人だ。君が閣下を庇うのが単に同情に由来するのであればそれはかえって閣下の経歴に泥を塗ることになる、そこをどきたまえ。」
「いいえ、どきません。あなたこそお祖父様に対して何をしているのかわかっているのですか?お祖父様がいなければあなたが今の地位を手に入れることなどできなかったのはわかっているでしょう?すぐにこの部屋から出て行きなさい。」
少女は私の威圧にも一歩も怯まない。
むしろ歴戦の勇者であるはずの私の方が少女の凛とした態度に一歩あとずさった。
私は無言となり少女も視線をそらさず私をじっと見つめる、そしてそのままの何時間が過ぎただろう、私はふと気付いたのである。
私の週末の休日における自慰の回数は通常10回程度である。これは当然金曜の夕方に行為をスタートすることを念頭に置いた回数である。
しかし金曜の夜のオナニーに割ける時間が少なくなれば可慰数は極端に小さくなる。3−1=2ではなく1、あるいはもっと少なくなる可能性さえあるのだ。しかも少女とこのような議論をしていては私の自慰行為に対するモチベーションは限りなく減少しこのまま家に帰ってシャワーも浴びずにベットに潜り込んでしまうかもしれない。
それだけは避けたい。だからといってここで議論を中断して帰宅したのでは閣下に対しても少女に対しても、何より我々の周囲で固唾を呑んで議論の行方を眺める同僚や部下たちに対して示しがつかない、もはや問題は私だけのものではなくなってしまっているのだ。
「仕方がない、お嬢さん、ちょっと失礼します。」
私はおもむろに軍服のズボンから屹立した男性器を取り出し、そしてためらいがちにオナニーを始めた。
たしかに仕事の場でオナニーをすることなど常識はずれであるかもしれない。しかしもはや就業時間は終了したのであるし何よりフライデーナイトである、場合によっては少女とのぎすぎすしがちな議論に華を添えてくれるかもしれないのだからこの際問題はないであろう。
「やめろ、若い娘の前で君は何てことをするのだ。」
状況の理解できていない閣下はだけはそんなことを言って私に殴りかかろうとしたがいちはやく閣下の不審な動きを察した私の同期である陸軍中尉に取り押さえられ事なきを得た。
「閣下、おやめなさい。見苦しいですよ。」
陸軍中尉も若い頃は閣下の下で働いていたこともある。そんな彼にはつらい台詞であったに違いない。
しかし人には言わねばならぬ時がありそれが今である、彼の頬を流れる一筋の涙がそれを物語っていた。
「やれ、ヤマザキ大尉、閣下のことは俺に任せろ。貴様は何も心配する必要はない、自らなすべきことをするのが軍人だ。貴様の精嚢が空っぽになるまで射精してしまえ。」
陸軍中尉が必死に閣下を押さえつけて私に叫ぶ。皮肉にもそれはかつて陸軍中尉と私が閣下から教えられた軍人の心得の第一である。少年兵として貧しい農村から出てきた私と同じような環境の陸軍中尉と私はすぐに仲良くなった。そしてそんな我々に目を掛けてくれたのが当時新進気鋭の最年少の将軍である閣下であったのだ。閣下は何も分からず、新たな環境と親元から離れた不安に押しつぶされそうになる我々を厳しくかつ優しい父のように指導してくださったのだ。
だがあの時の閣下はもういないのだ。陸軍中尉に押さえつけられているのはあの日の面影などない自己の欲望にしか関心のない醜悪な老人だ。
「中尉、すまない。」
私は戦友の声を背に自らなすべきことに集中した、性器は熱く、熱くなってゆきやがて来るべき昂りへと肉体を備える。目を逸らす少女、絶叫する閣下、涙ぐむ戦友、直立不動で敬礼する部下たち、囃し立てる同僚や野次馬たち、私はあらゆる存在を背中に感じながら嗚咽の声を発し悦楽の園へと深くどこまでも落ちて行った。
止め処なくあふれる涙の訳を誰が説明できるだろう?
天空に弧を描いて飛び去った精子の行方を誰が知っていると言うのだろう?
行く当てのない彷徨の末に辿り着くべきエルドラドの在り処を誰に教えればいいというのか? 師団本部の庭に咲き誇った金木犀の花の香りが不意に私の鼻腔を擽った。見上げる空は遥かに高く卑小な我々を哂っているようである。
そんな青空の下で閣下の叫び声だけがよく通る声で響き渡る、そしてそれが閣下のサンクチュアリであったに違いない。

(・∀・): 28 | (・A・): 42
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