頭皮
2011/03/06 23:15 登録: えっちな名無しさん
ちょっと頭の天頂付近で指を組み、
頭を押さえて前後にゆすってみて欲しい。
頭皮が張っているか緩いかがこれをやると
良くわかるが、俺はかなり緩くて髪全体が
前後にカクカクと揺れる。
それはまるでカツラをかぶっているような揺れ方だった。
頭の皮が張っているのと緩いのとで何がどう違うかは
今となっては周知の事実なのだけど
あえて伏せておく。
いまでも緩いのは変わりがないが、過去形にしたのは
小学生の時に若干苦い思い出があるせいだ。
俺はA崎、B村、C川という3人の同じクラスの奴にイジメの標的にされていた。
まあ俺も忘れ物が多いし、イジけていたりとまあいじめられやすいタイプだった。
あるとき、先出の3人が俺に言ってきた。
「おい、おまえ、頭を手で押さえて動かしてみろよ」
言われた通りにすると、前後にスルスルと動く髪の毛。
「うわっこいつ、かつらみてぇ!」
「あ〜本当だ、こいつ本当はヅラなんだ」
「おまえ、本当はハゲてんだろ。それ取ってみようぜ」
「俺たちの髪はぜんぜん動かねぇぞ。がっちり根を張ってる感じかな?」
「それに比べてお前の髪はなんだい?やけに頼りないじゃないか。」
「こんなんじゃあっという間につるっぱげ〜」
「それじゃ早かれ遅かれって事で、今取っちゃえよ!」
引っ張られる俺の髪の毛。ブチブチと嫌な音がして頭が熱くなった。
泣き出す俺。
幸いにもクラスの負けん気な女子が割って入ってくれたので俺は解放された。
(どうでもいいけど、こういうやたらと正義感の強い勝気な女って必ずクラスに1人は居るよな)
彼らはその日自宅の玄関に飛び込んだ瞬間に俺に浴びせた言葉など忘れてしまっただろうが
俺の中では忘れられない言葉となって心に重く沈殿した。今でも鮮明に思い出す事が出来る程だ。
俺は次の日から「ヅラオ」というあだ名を頂戴する事になってしまった。
しばらく毎日のように髪の毛を揺すらされる日々が続いた。
でも小学生だから冷めるのも早く2週間もすれば飽きられてそんな事は強要されなくなった。
でも「ヅラオ」は卒業まで続いた。
中学でも3人はよくつるんでいた。しかも俺も同じクラス。最悪だと覚悟したが
さすがに中学ともなれば周りの目が気になる年頃なので露骨に俺をいじめたりは
しなくなった。
彼らはいわゆるイケメンだった。
当時はそんな言葉は無かったがファッションと髪型に気を使い
イケてる男子として女子に人気があった。
スポーツもそこそこ出来るし、かわいい彼女もそれぞれに居て
俺とは全く住む世界が違う住人になってしまった。
その頃の俺はといえば彼らが連れている彼女を
せいぜいズリネタにする位が彼らとの繋がりだった。
それから違う高校に進学し、彼らと再会したのは成人式だった。
もっとも彼らは中学の時とは違う彼女を連れていて
俺の事など忘れていた。
そのまま接点がつながる事などないはずだった。
しかし先日掛かってきた一本の電話が一瞬のうちに俺を小学校のあの日に引きずり戻してしまった。
同窓会の電話だった。
小学生の時の担任が定年を迎えられたので一つ集まろうかという事になったらしい。
幹事は例の勝気な女だった。
団塊Jr世代としてはまさに心身ともに「脂」が乗ってきていい感じになっているはずだ。
俺は、ただ一つ、A崎、B村、C川の三人に酒のつまみにでもあの日の事をネタ程度に振って、
「君達にはそんな事言われたような気がしたけど、今でも残念ながら髪の毛は安泰だよ」
「そんな事もあったっけ?あ〜悪いことしちゃったよな」程度の事でも言ってくれたら
それで全てを忘れる事にしていた。
同窓会の日、思い出話しに花が咲くかと思いきや
記憶が遠すぎてあまり会話は弾んでいないようだった。
せいぜい近況を報告する程度が精一杯だったが
酒も回ってくると賑やかになり始めた。
しかし彼らの姿は無かった。
さすがにクラスの中心的人物だけに欠席する事はないと思っていたけど
複雑な心境だった。
誰かに聞いた。
「あの仲の良かった、なんだっけ?A崎、B村、C川って来るの」
なんか彼らを心待ちにしているみたいで気恥ずかしいので
忘れる訳の無い名前をすっとぼけるようにして聞いた。
「ああ、遅れて来るってさ」
そうなんだ。なぜか少し安堵した。
やがて盛大な拍手が沸いて担任が到着。
少ししてA崎とC川が到着したという報告が入った。
幹事の紹介のあとに入ってくるA崎とC川。
彼らを見て、俺はここ数日綿密に立てていた計画を全てぶち壊さなければ
ならない事を知った。というか知ってしまった。
迂闊にも自分の事だけで彼らの事なんて数ミリも考えてなかった。
小学校から何にも変わってねぇじゃねぇかよ俺。ふざけんな。
まさ・・B村も・・・
悪い予感がしたが、更に遅参したB村は昔とあまり変わっていなかった。
若干太っただけだ。俺はあまりのうれしさに思わず
「そら、いったー」と小声でつぶやいた。
宴もたけなわにさしかかった頃、自然な流れでB村は俺の隣に来た。
「今だ」
「今しかない」
そう俺に言い聞かせた。明らかに常軌を逸していた。
A崎とC川は遠くに居る。聞かれる事は無い。
さらば、小学生の頃の苦い思い出よ。ようやくクビキを断ち切り
俺は未来へ向かって美しく羽ばたく!
「ああ、そうだB村、そういえばこんな事もあったっけ?・・・・・
・・・・だけど、結局俺、全然平気だったよ。今でもこんなに髪の毛あって
邪魔なくらいだよ。ハハハ」
完璧だ。
完璧に俺は言い切った。
そうだ、こい。
「そういえばすまないことをしちゃったよな」
B村、オマエが冗談交じりにでもそう言えば全ては終わる。
本当はA崎とC川にもさらりと触れて欲しかったが彼らには
一生この事は封印せざるを得なくなってしまった。
しかし結果は全く予想外だった。
みるみる表情が渋くゆがんでゆくB村。
彼の不自然すぎる生え際を眺め
ようやく俺はこの話題を持ち出した事を後悔した。
おわり
出典:100%そうなるわけじゃありません
リンク:オリジナル

(・∀・): 140 | (・A・): 39
TOP