俺のじいちゃんが幻想入りしてた

2011/03/24 11:54 登録: えっちな名無しさん

 俺のじいちゃんが、少年時代に体験した話です。
 じいちゃんの生まれ育った所は、結構田舎の山間部だった。じいちゃんが12歳くらいのある日、親に頼まれて一人で山菜を採りに家の裏山に行く事になった。
 しかしその日はなかなか収穫が思うようにいかず、ついいつも以上に山の奥へと足を進めてしまったらしい。しかしそこから、子供だったじいちゃんの不思議な体験が始まるのだった。

 フッと気が付くと、辺りには見慣れない植物が群生しており、木々もかなりの樹齢が経っているかの様な太く大きなものばかり。慣れ親しんだ山とは違う、明らかに異質な森と風景の中に自分はいたという。
 一体ここはどこなのかと思っていると、今度は彼方から野犬の類とはまるで違う、獰猛な雰囲気の獣の雄叫びが聞こえてきたり、1メートルはあろうかというトカゲに羽が生えた様な巨大生物が低空飛行で目の前を横切ったりと、あまりに信じられない光景をいくつも目撃したという。

 子供だったじいちゃんはすっかり恐怖にパニックとなり、必死になって山から脱出しようとした。しかしその頃にはもう自分のいる場所や方向も定かではなくなっており、その奇妙な森の中を彷徨い続ける羽目になったという。
 そうしている内に数時間が経過し、すっかり体力も消耗してついにじいちゃんはへたり込んでしまった。自分はもう帰る事が出来ないのかと、恐怖と絶望の中で泣いていると、一人の男がそんなじいちゃんの元にやって来たという。

 その男は、着物に似たしかしそれまで見た事もない妙な服装をしていたという。(後になって知ったアイヌ民族の伝統衣装にそれは似ていたという)しかしそれでも、目の前の男はじいちゃんにはまさに天の助けともいうべき存在に見えたらしい。
 幸い、その男は非常に優しそうな人だったという。じいちゃんに対し、「ここは危ない所だからすぐに帰った方がいい」と言い、森の出口まで案内してくれた。じいちゃんは前を歩く男の背中だけを必死に見つめながら、歩き続けたという。

 そして気が付くと、いつしか見慣れた山のふもと近くに到着していたのだった。
 安堵するじいちゃんに無言のまま微笑を浮かべながら、男はまた山の奥へと消えていったという。

 無事家に帰ると、その体験を親や周囲の人間に話したものの、当然ながら山の中にそんな場所があるはずがないと皆は言い、誰にも信じてもらえなかったという。その後もじいちゃんは仲間達と山の奥へ何度も入ったらしいが、結局は二度とそんな場所を見つける事は出来なかったのだった。

 その後、じいちゃんは周囲から変な目で見られるのを恐れて、この体験を人に語る事はほとんどなくなったのだが、それでもあの日に自分が見たものは、決して夢でも幻でもないと俺に強く言っていた。そんなじいちゃんもすでに亡くなり、今となってはそれが本当なのか嘘なのか、確かめる術はもうない。


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