空気を読める女
2011/07/31 17:21 登録: えっちな名無しさん
中学時代の話。
この日の英語の授業内容はCan I、May Iで始める文の練習だった。
つまり「〜してもいいですか」とお願いするための文法だ。
授業の半ばで、隣の席のKさんがノートも取らずにうつむいているのに気がついた。
真面目な彼女が、授業中にノートを取らないなんて信じられない。
落ち着いて彼女の様子を観察してみると、脚は内股で、何かに耐えるように唇をかみしめている。
様子を見るに、もしやトイレか?
「Kさん、トイレ?」
心配になって聞いてみた。
「……ううん、そんなことないよ」
否定されたけど、どうも嘘っぽい。
Kさんは人並み以上に羞恥心がある子だから、知られるのが恥ずかしいのかも。
そこで実験してみることにした。
「じゃあ手を机において、脚少し開いてみて」
「え……いいけど」
Kさんは少し躊躇したが、指示通りにしてくれた。
5秒、10秒……
「あっ無理」
たちまちKさんは脚をきゅっと閉じて体を丸めてしまった。
やっぱり予想は当たってたみたいだ。
「無理しないで行ってきたら」
「だって恥ずかしい……」
頑として拒むKさん。
どんなに説得しても受け入れられず、自分に出来るのは、心の中でKさんにエールを送ることだけだった。
そして授業終盤。
Kさんは限界が近いのか、涙目で苦痛に顔をゆがませている。
すると先生から、今日勉強した内容を使った英文を1つ考え、出来た人から見せに行く、という課題が出された。
その瞬間、Kさんはノートに素早くシャーペンを走らせ、あっという間に先生のもとへと向かった。
「これでいいですか?」
「…………。はい、いいですよ。それじゃあ、今日は出来た人から終わりにしましょう」
え、まだ10分以上あるのに?
先生の言葉に驚く自分。
Kさんはノートを自分の机に置いて、あくまでも平静を装い教室を出ていった。
だけどその後廊下を駆ける音が聞こえたから、やっぱり相当危険だったんだろう。
よかったなー、と思ってKさんのノートに目をやる。
そこには綺麗な文字で英文が書かれていた。
『May I go to the toilet?』
空気を読んだ若き英語の女先生に、自分は尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
Kさんも同じだったようで、教室に帰って来ると自分に言った。
「私も大人になったら、先生みたいな気が配れる人になりたいな」
「ところで、間に合った?」
「……何とか。心配してくれてありがとう」
Kさんの顔は、ほのかなピンク色に染まっていた。
※風の噂だけど、Kさんは今どこかの学校で英語の先生をやっているそうな。
出典:オリジナル
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