悪戯したら友人が立ち直った

何年か前の話。嫌韓にハマッてたＡという友人（♂）がいた。

もともとはアニメを愛する物静かなオタク少年だったんだが、
２浪して大学進学を諦めて、家でブラブラしてるうちに右っぽい思想にかぶれ、
そこから反韓・嫌韓に進んだらしい。よくあるパターンなのか？

俺にすりゃ韓国が何しようがどうでもいいわけだが、
Ａは仲間と飲んでても（あまり飲めない奴だったが）会話の流れに関係なく、
ネットで仕入れたよく分からん嫌韓知識を自慢げに振ってくる。
あまりに空気が読めないのが嫌われたのか、もともと少ない友達も随分減らしてた。

まあ、嫌韓といっても初級（名字が左右対称の奴は…とか）だったと思うし、
俺と意見が合わなくても「おまえ在日だろ！」とか言ってくるわけじゃない。
というか、リアルでそんなこと言う奴、見たことないけどな。
ちょっと人付き合いが苦手なだけで、根はまじめな奴だと分かってたから、
俺は少々うんざりしながらも付き合いを続けてた。


ある日、Ａの家で２人で飲みながら、女の話をしてた。
といっても俺は別にモテ男じゃないし、Ａは…説明不要かもしれないが、
女と付き合ったこともないのに「３次元の女なんて」と公言してはばからない。
ネット情報だけでよくあれだけ女の悪口が言えるなと、その点は感心するが。

酒も入ってたし、別に深刻な恋愛論をぶってたわけじゃない。
白人や黒人の女はよっぽど美人じゃないとエロいことする気にならないけど、
同じ外国人でもアジア系の子だったら、そこそこ可愛けりゃイケるよな、とか
自分たちのレベルを棚に上げて盛り上がってたわけだ。

するとＡが、またぞろ「いくらアジア系でも半島女はあり得ない」とか言い出した。
またかよ…と思いながら、ちょっと俺もムキになって言い返す。

俺「でも日本人だって、ずっとさかのぼれば朝鮮系の血が入ってるんだろ？」
Ａ「馬鹿だな。日本に来たのは百済系、今の朝鮮人は新羅系で、遺伝子からして違う。
　そんなこととっくに証明されてるし、学界じゃ常識だぜ」

生物が大の苦手だったＡが、人類学に造詣が深いなんて初めて知った（笑）。

俺「でも、北の将軍様の『よろこび組』だっけ？　美人が結構いたじゃん？
　在日の女の子にも可愛い子がいるしさ。○×ちゃんとか…」

これは、たまたま知り合いの在日の子がそこそこ美人だっただけだが。

Ａ「あいつら整形してるに決まってんだろ。あっちじゃ整形が当たり前なんだし」

韓国美人に整形が多いとは聞くが、北朝鮮や在日の子もそうだとは初耳だ（笑）。

Ａ「いいか、日本人のルーツは南方系。だから日本人にとって本当に魅力的な子は、
　日本以外だと半島じゃなくて台湾にいる」

今の台湾人って、外省人だっけ？大陸系の連中が多数派じゃなかったか？
その辺はよく知らないが、Ａは日本から出たことないのに、やたら台湾びいき。
まあ、俺も別に台湾は嫌いじゃない。ビビアン・スーも可愛かったしな。

あとは電通の工作がどうとか、マスゴミがどうとかそういう展開だったと思う。
俺は別に韓国をかばい立てする義理も何もないんだが、
特定の国や民族に憎悪を剥き出しにするＡの態度に違和感を覚えたというか、
そういう奴だと頭で理解しながらも、はっきり言うと少しカチンときてた。

　<丶｀∀´>　<丶｀∀´>　<丶｀∀´>

次の週だったか、４月１日のことだ。

生まれてこの方、エープリルフールの習慣とはほとんど無縁だったが、
ふと思い立ってＡを引っ掛けてみることにした。ほんの悪戯心ってやつだ。
前の嫌韓話も引っ掛かってたし、ネタはやっぱり韓国でしょう。

といっても、そんなに大それた仕掛けを考えたわけじゃない。
Ａの家に寄ったとき、韓国の某女性アイドルの動画を何本か見せ、
「『太妍』っていう台湾で売り出し中のアイドルだぜ」と嘘を教えてやっただけ。

太妍のことは、その数日前、別の友人（韓流好き）から初めて教えてもらった。
今やメジャーになった少女時代のキム・テヨンの漢字表記だそうな。
というかその時点で俺、少女時代の存在すら全然知らなかったんだが。

俺は中国語も韓国語も全然ダメだが、さすがに聞いて別の言葉ってくらい分かる。
なので動画も、テヨンがソロで英語の歌をうたってる台湾ライブの場面とか、
セリフなしのイメージ動画っぽいのを適当に見繕った。

アイドル好きで台湾びいきのＡだが、別に台湾のアイドルに詳しいわけじゃない。
もともとリアルじゃ素直な奴だし、あっさり騙されてしまった。

Ａ「か…可愛いじゃん////」

ツボにはまったらしく、Ａは食い入るように動画を見つめる。

Ａ「それにマジ歌うまいし。さすが台湾アイドルはハイレベルだな」

俺は笑いをこらえるのに必死だった。

俺「その太妍って子、最近は韓国にも進出してるらしいぜ。
　まだ下手くそだけど、ちゃんと韓国語で受け答えしてるんだって」
Ａ「あんな国に行かなくていいのに。日本の方がずっと市場も大きいんだし、
　外に打って出るなら日本に来た方がこの子のためになるよ」

韓国と聞いてＡは露骨に不快そうな顔をする。とりあえず引っ掛け成功ってことで、
俺はパソコンとにらめっこするＡを部屋に残し、そそくさと引き揚げた。


さて、どれくらいで一杯食わされたことに気付くかと思ってたら、
３時間くらいしてＡから電話があった。

Ａ「なあ、さっきの動画の子、本当に台湾のアイドルか？」

オカズにするつもりだったのかどうかは知らないが、Ａは俺が引き揚げた後、
他にもないか動画サイトで検索したらしい。さすが情報強者（笑）。
すると出て来たのはグループで韓国語の歌をうたう動画ばかり。そりゃ疑うわな。

俺「そのはずだよ。最近は韓国での活動が増えてるみたいだけどね」
Ａ「そ…そうか。でも、韓国語の歌ばっかりだし…」
俺「そりゃ韓国でのライブだもん。可愛いし、歌も上手いんだろ？」
Ａ「まあ、それはそうだけど…」

電話を切ってから俺が大笑いしたのは言うまでもない。
それからさらに１時間後、再びＡから電話。今度は少し怒ってるみたいだ。

Ａ「なあおい、太妍ってやっぱり韓国人じゃねえのか？」
俺「なんで？」
Ａ「台湾のライブでも韓国語の歌うたってたぞ」
俺「サービスじゃねえの？」
Ａ「それに名前の英語表記が『Kim Taeyeon』だし…」

ここで「東北地方の朝鮮族がルーツなんじゃね？」とかシラを切っても良かったが、
さすがに気の毒というか、それは無理があるだろうと判断。
「いや、実はな…」と事情を説明してやった。ここら辺が俺の甘い所だ。
当たり前だがＡは激怒した。

Ａ「おま、ふざけんな！　なんでよりによって韓国のアイドルを○▲×！☆」
俺「だって、おまえも気に入ってたじゃん（笑）」
Ａ「うるせえっ！！　おまえ、人の気持ちを☆■×♪◎◇」

「エープリルフールにしてもセンスなさすぎ」とかひとしきり罵詈雑言を浴びせて、
Ａは一方的に電話を切った。あ〜あ、かなり怒ってら。でもまあ罪のない悪戯だし。


それからしばらくＡとは連絡を取らなかったが、２週間くらいして家に行ったら、
「なんだ、お前かよ」とムスっとしながらも入れてくれた。

まあ、悪意がないとは言え騙したわけだし、その点はちゃんと頭を下げて謝った。
Ａは「酷い奴だよな」とか言いながらも、それほど怒ってるわけじゃなさそうだ。
というか、ふと目に入ったパソコンの壁紙がテヨンのアップだった。

俺「なんだよ。結局ハマっちゃってるじゃん（笑）！！」
Ａ「うるせえよ。だいたいおまえがだな…」

それから数時間、酒を飲みながらＡが少女時代について講釈を垂れてくれた。
いや、ほんの２週間でここまで詳しくなるとか、オタクの執念ってすごいわ。

ちなみにＡによれば、テヨンは少女時代９人の中でも「韓国っぽい顔立ち」らしく、
本国じゃグループで一、二を争う人気者らしい。知らなかった。
俺に言わせれば不細工とは言わんが、そこまで可愛いか？というのが率直な感想。
少女時代ならティファニーとかいう子の方が俺好みだが、それはどうでもいいな。

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それをきっかけにＡは嫌韓から足を洗った…とはならないのが、連中の複雑なところ。
相変わらず韓国政府とか向こうのネチズンの奴らには「反吐が出る」らしい。

それでも、韓国人だからダメ、在日だからダメという考えは捨てたようで、
「いい物なら、どの国の物であれ受け入れて評価するのが日本人の度量」とのたまう。
K-POPでもKaraとかSHINee（？）とかは好きじゃないらしい。よく知らんけどね。

やがてＡの希望通り（？）少女時代が日本に来て、俺が書くまでもないが人気が出た。
ファンサイトのオフ会みたいなのが近所でも開かれるようになり、
Ａも顔を出すようになった。オタ系のイベントとかそっち系の店に行く以外、
ほとんど実家の自室から出ない奴だから驚いた。
俺もオフ会に連れて行かれたことがあるが、あの雰囲気は正直ついて行けないわ。

もっとも、お気に入りの少女時代にも「メロディーは基本、J-POPのパクリ」とか
「日本語版の歌詞が変」と文句を付けるのが、Ａらしいといえばらしい。
その割に動画サイトに少女時代の悪口が書いてあったら、ムキになって
「おまえら、知らないくせに批判すんな」と反論してる。おまえが書くか（笑）。

ちなみに、こないだのお台場デモについては
「韓流とかK-POPというだけで、中身も見ずにありがたがるのは馬鹿」
「でも、中身も見ずに拒絶するのも同じくらい馬鹿」
「本気で抗議するなら、視聴率を下げてやるのが一番効果的」と言ってたな。

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そんなＡに彼女ができた。少女時代ファンのオフ会で知り合った子だ。
あのＡに韓流好きの彼女？と驚いたが、なかなか可愛くて気立てもいい子。

それまで典型的なヒキニートだったが、少女時代にハマってまずヒキから脱却。
彼女ができてデート代くらい自分で出さないと格好つかないと考えたらしく、
バイトも始めて一応ニートからも卒業した。
親が泣いて喜ぶ姿を生まれて初めて見た、とか言ってたな。

彼女が結構しっかりした子で、「今ならダメ人間から卒業できる」とＡを説得。
今じゃバイトしながら専門学校に通って資格を取ろうと頑張ってる。
将来はちゃんと就職して実家からも独立するつもりらしい。
人間、変われば変わるもんだ。

もっともＡ、今もたまに右っぽい嫌韓系サイトはのぞいてるらしい。
それでも外に出て世間を少しだけ見たせいか、それとも彼女の影響か、
陰謀とか工作とか洗脳とか、誇大妄想っぽいことは言わなくなったわ。

こないだは彼女相手に童貞も卒業したそうだ。いちいち報告すんなよ（笑）。
彼女のスッピンを見たのは初めてだったらしく、
「女って整形しなくても、化粧で全然変わるんだな」と感心してた。
ちょっと前まで嫌いで仕方なかった女の知られざる一面を見たんだろう。


別に、嫌韓をやめれば真人間になるとか言うつもりはない。
というか俺、韓国には無関心だし、K-POPにも興味ないし。
ただ、俺の悪戯で他人の人生を変えたかも、と思うと、なんか妙な気分になる。
なので苦節20ウン年、Ａの脱童貞を記念してカキコした。

自分であきれるほど文章下手だが、俺も先祖も一応国籍は日本なんで（笑）。

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