金融屋
2012/05/18 21:16 登録: えっちな名無しさん
昔、金融屋をやっていたんだけど、
その年の夏、いつものように
借金返済の追い込みをかけに行った。
そしたら親はとっくに消えていたんだけど、
子供が2人置いていかれてた。
5歳と3歳。上は男の子、下は女の子。
俺はまだペーペーで、周りの兄さんらと違って
顔も怖くなかったらしく、家に行ったときにすぐに
下の子になつかれた。
ボロボロの服で風呂にも入ってなくて
「いつから親はいないんだ?」って聞いても答えない。
「何食ってたんだ?」って聞いたら、
上の子は下をむいて泣いた。
下の子が「こっち」って手を引いて裏庭に俺をつれていった。
破れた金網を通ってでたところは、小学校の裏庭だった。
「あのね、みーちゃんこれ食べたの」って池を指す。
嫌な予感がした。
だってさ、その池って金魚がウヨウヨ泳いでるんだよ・・・
2人を抱きかかえて家に戻ると、テーブルに小さいボウルと茶碗。
「お前ら・・・金魚食ってたのか・・・」って聞いたら「・・・うん」
すっげーやるせなくて涙がでて、俺もその場にいた兄さんらも泣いた。
すぐに兄さんがたくさん食べ物と洋服を買ってきた。
近くの銭湯で体を洗ってやった。
その後、俺らじゃどうしようもないから施設に連絡をいれた。
連れていかれる時に「お兄ちゃんありがとう」っていってた。
・・・
全然ありがとうじゃねーよ・・・
俺たちがお前らの親を追いつめたのに。
俺を含めて何人かは、この後仕事を抜けた。
ただ、救われたのは、
こいつらの親がきちんと出てきた事だった。
その子らの親は、気になって戻ってきたら
子供がいなくなっててショックだったそうだ。
ただし、家のいたる所に連絡先を書いてきたから
すぐにわかったらしい
(もちろん施設のな。事務所だったらびびって逃げるから)。
子供を迎えにいった時に、
自分らのやった事の重大さに気が付いたそうだ。
俺はもう足抜けしてたし、気になってたから
ちょくちょく施設に見にいってたんだけど
親が改心してて良かったよ。
結局、俺が事務所の仲介をやって職も一緒に探してやったんだ。
また金魚でも食わせたら内蔵うっぱらうからな!って脅してさ。
借金の返済はまだ残ってるだろうけど、
両方ともすげー働いているだろうな。
俺が足抜けした理由?
最初からこの仕事は自分に合っていなかったんだけど、
最終的に足抜けしたのは・・・
また号泣しちまうかもしれんけど・・・・
じいさんとばあさん夫婦に追い込みかけた時だったんだよ。
ボロっちいアパートに住んでいてさ、
俺と兄さんが行ったんだけどさ、
孫ぐらいの俺らに土下座して泣いてるんだよ。
「すんません。すんません。」って。
何も食ってなくてフラフラしててさ。
所持金30円だった。
さすがに黙ってられなくて、
兄さんに殺されてもいいから俺は助けたくなった。
『こいつら見捨てたら、俺本当に無情になってしまう!』って思った。
俺も向いてないんだろうけどさ、
その兄さん(子供の話の時もいた)もこの仕事に向いてなくてさ。
顔が怖いのと、両親がこの世にいないからこっちに流れて来た人なんだよ。
「どうするよ。」って聞かれたけど、
追い込みとかもうどうでも良くなってきて、
じいさんとばあさんに飯食わせながら兄さんと逃がす話をしてた。
じいさんは、見るからに人の良さそうな、
騙されやすそうな感じで、まあ案の定騙されたんだけどな。
ばあさんと2人で、八百屋のクズ野菜を貰ってしのいでた生活だったらしい。
働くことも出来ず、年金もわずかだから本当に老いて地獄にいる状態だった。
俺よりも兄さんが同情してて、段取りは全部兄さんがやった。
その為の金も、その後どうするかも全部。
方法は一つ、「夜逃げ」だけ。
兄さんは、2人だけ連れて一緒に消えた。
俺は知らない事になってるから、
数日間だけバレないように気を張ってた。
事務所も、じいさんとばあさんだから追跡しなかった。
1ヶ月ぐらいして、俺が足抜けしたのをどっかで聞いたらしく、
兄さんから連絡がきた。
じいさん夫婦は一緒にいた。一緒に暮らしていた。
俺は、本気で誰かを救った兄さんをすごいって思ったけど、
兄さんはじいさんらに救われたっていってた。
「ばあさんの料理はうめーぞ」っていってた。
実際にこうやって逃がす事もある。
でも、バレたら・・・最悪は海の可能性だってある。
美談でもない。自己満足で書いたのでもない。
若い奴でヘラヘラしやがって、
裁判所に逃げたらどうにかなるって思う奴ら、
そういう奴らからは、遠慮なく頂く。
実際に自殺された事もあった。
でも、死ぬのはいつも騙された奴らばかり。
確信犯で借りる奴らは、上手く立ち回って逃げる。
悔しいな。どうにも出来ないからそう思うのかもな。
出典:1
リンク:1

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