小さな花束

ウチの母さんは今から９年前に死にました。
ウチが10歳の時。

母さんは卵巣癌で、ウチが幼稚園児だった時からずっと入院しとった。
毎週唯一母さんに会える病院に行くのが凄い楽しみだった。

でも、その頃は父さんもあんま良い会社に就いて無くて、家賃も払えん、ごはんもまともに食べれんような生活しとった。

ある日いつものように病院にお見舞いに行った。

でも、その日はいつもとは違って父さんが無い金もちだして、「花を買っていこう」
って言った。
贅沢な花なんか買えんから1000円分の花束。

なんで買ったかって言ったら、そのお見舞いの前の時に母さんと父さんが喧嘩したから。

父さんは会いづらかったみたいでウチ一人で行かせた。

「お姉ちゃんからの花って事にしといて」
っていう父さんの伝言。

病室に入って、母さんに会って、「これお姉ちゃんから」って言ったら
「父さんからじゃろ?」って...
でも父さんとの約束。
頑張って嘘突き通した。
分かっとったみたいじゃけど。
母さんの見通したような嬉しそうな笑顔は今でも忘れん。

その１週間後、突然母さんは逝った。

でも父さんの前では絶対泣かんようにした。
だって父さんケンカ別れだもん。
父さんが１番辛かったのは分かっとるけぇ。

でも母さんはたぶん1050円の小さな花束で父さんとのケンカなんかふっとんだじゃろうね。

親戚とのいざこざで母さんのお墓の場所は知らん。
でも、うちも父さんも母さんのコトちゃんと覚えてますから。


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