見える人、見えない人、消し飛ばす人

2013/01/03 16:45 登録: えっちな名無しさん

大学の時に友達になった人のお話。

和歌山県から京都の大学に進学して、入学式も終わった頃、仕送りがないのでアルバイトを始めることにした。
その時に出会ったのが、同じ大学のサチとルリ。

サチは東京生まれ、高校の時に陸上をやっていて、推薦で入学してきており、明るく屈託がない性格。170ちょっとある体は引き締まっており、弾むように歩く姿と笑顔が印象的な子。

ルリは京都生まれの京都育ち、とても物静か。こちらも170近くある身長で、華奢なのに胸と腰がはっていて、恐ろしく整った顔立ちでモテていた。

私はというと、150ない身長がコンプレックスだったのに、何故かこの2人といると心地良かった。

私は子どものころから、霊感というか、そういったモノがたまに見えることがあった。
両親に言っても嫌な顔をされるだけで、唯一信じてくれた祖母が亡くなってからは、誰にも言わないようにしていた。

一回生の夏、三人で避暑地のアルバイトに一週間だけ応募した。
サチは部活があるので、夏期休暇の最期になってしまったけれど、友達とそういったことをするのは初めてだったから、とても心が躍ったのを覚えている。

違和感を感じたのは、バイト先の宿の近くだった。
その一帯が黒いモヤみたく覆われており、残暑が厳しい日だったのに、背筋が凍った。

あ、あっちむいちゃ駄目だ、と気になった左側の窓の外。それでも、うかつにも目を向けそうになってしまった。こういう時、本当に見たら駄目なものが見えてしまう。

その瞬間、右手をギュッと握られた。

「前を向いていなさい」

ルリの凛とした声に、おぞ気が消えた。
すかさず、サチが笑顔で「レズだレズだー!」と笑顔でちゃかし、空気が明るく変わった。

宿について、サチが女将さんと話してる時に、ルリが小声で話しかけてきた。

「厄介だな、ここにいる間、私から絶対に離れるな」

ルリを見ると、平然と何事もなかったかのようにしている。

ああ、ルリも見えるのかなあ、そう思ったが、勘違いだったら嫌なので、そのままにしておいた。

バイトは、食事の配膳や掃除、布団の上げ下げといった基本的なことを、仲居さん達とするだけだった。
力のあるサチは、特に重宝されて別仕事、私とルリは一組になって仕事をしていた。

たまに、嫌な空気になることがあったけれど、無事に最終日になった。

最終日は、女将さんがお給料をくれ、観光しておいでと、昼前に終わらせてくれた。一番忙しい時期ではなかったこともあるだろうが、サチのことをとても気に入っていて、その影響もあったのだと思う。サチといると、いつも、誰かが助けてくれることが多かった。
彼女の明るさや素直さや一生懸命さは、とても、暖かな気持ちにさせてくれる。

私たちは、そこの地元で評判の洋食屋さんやスイーツをめぐり、最後に穴場だと女将さんに教えてもらった場所にいった。とても、よい景色が見えるというので、記念写真を撮る為に。

そこは、山を少し昇って、細い道を抜けた場所だった。

三人でそこに向かっている途中、なにか嫌な気分になった。近づくにつれ、空気が重くなってくる。そして、小さな広場に出た瞬間、サチは歓声をあげた。
小さな町が一望でき、まるでミニチュアのような美しさだった。

でも、私はそれどころじゃなかった。青空の下、周囲一面、腐った生肉のような香りが漂い、黒いモヤに覆われていた。モヤの中から、人の残骸のようなモノが、大量にうごめいている。あまりの気持ち悪さに倒れかけた時、ルリが支えてくれた。

「ああ、あの女将、やっぱり私たちを○○にするつもりだったな」

そういって座らせてくれ、サチに私の面倒を見るように言った。サチは、私の口にスポーツドリンクを含ませてくれた。○○のところは聞きとれなかった。

私はとても焦った、ルリがそのモヤの方にスタスタと近づいて行くのだ。

ルリが死んでしまう、そう思いとめようとするが声すら出ない。

モヤの目の前にルリが立った時、そのモヤが膨れ上がり、彼女を飲み込もうとした。

その瞬間、ルリが右手をふった。

お経や呪文を唱えるとか、そういったものじゃない、ただ右手をふった。

それだけで、モヤが消し飛んでしまった。ルリは、他のモヤにも近づいて、右手をふったり、足で踏んだりしていた。

たった数十秒のこと、モヤは消えてしまい、何事もなく綺麗な景色だけがそこにあった。

私の介抱に夢中だったサチは何も気が付いていない、ルリは綺麗な唇に指をあて黙っているようにと指を一本たてた。

私の体調不良は、すぐに治り、三人で写真を撮り、山をおりた。

そして、電車にのる前に、宿の女将さんに挨拶をしようと思っていたら、駅の近くの小さなお堂のようなところから、女将さんを含む五人の女性が飛び出してきた。
五人とも真っ青な顔だった。
女将さんが歪んだ笑顔で「あそこに行かなかったのかい?」と聞いてきた。

とても嫌な感じの笑顔と声だったが、人の悪意に気がつかないサチは笑顔で「いいとこでしたよ〜写真もとってきました!」と明るく答えた。
五人ともなんともいえない顔をしていたのだけど、ルリが一言「もう、おわりですよ」と呟いた。五人の女性はガタガタ震えながら、お堂に戻っていった。サチは相変わらずで「調子悪かったのかな〜」とのんきに言っていた。

無事に帰宅した後、ルリに聞いてみた、あれはなんだったのかと

ルリは、困ったように「つまらないものだよ、本当につまらなくて、本当にくだらないもの」と言って、詳しくは教えてくれなかった。

ルリは詳しくは教えてくれなかった。でも、彼女は私を守ってくれたのだと思う。

あの後、あの避暑地はさびれてなくなってしまった。あんなに、たくさんの人がいたのに、たった2年でさびれてしまった。

たぶん、偶然だ。あの事とは、何の関係もない。とても不景気な世の中だったのだから。


このこと以外にも、不思議なことはいくつかあった。ルリはなんにも教えてくれない。私が知らない方がいいことなのだろう。世の中には、知らなくていいことがあるのだ。

サチとルリとは、今でも友達だ。月に数回は会っている。約束をしなくても、何故かあうことが多い。住んでいる場所も、働いている場所も違うのに。

縁がある、それだけのことなのだろうと思う。

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