達也と南:本当のその後5<完>
2005/11/28 15:55 登録: えっちな名無しさん
達也と南は、函館を後にし洞爺湖へと車を走らせていた。
「なあ南、・・・・何で和也じゃだめだったんだ?」
「・・・・・・・・・。
そんなこと、聞かないでよ・・・・。
ただ、南にもはっきりとは分からない。
男の人を愛する理由って、自分でもはっきり分かるものじゃないし、
ましてや言葉に出来るものじゃないんじゃない?」
「それはそうだな・・・。ごめん。」
「うん。・・・・・。
だけど、野球のエースとマネージャーという立場でカッちゃんと接し
ているとき以外は、二人だけになると、・・・・・楽しいんだけど、
ふとしたときに何か理由のない緊張を感じることもあるの。
それは、必要以上にカッちゃんに期待をかけ、それを全身で受け止めて、
応えようとしてくれていたことからくるものかも知れないけど、。・・
でも何かが違う・・・。」
「和也はな、三人がまだ小さい頃、南が俺たちを煽って勝負させようとす
ると、なぜかいつも俺の方が勝っちゃて、南が俺を無心に褒めるもんだ
から、悔しかったんだろうな・・・。南が見ていないところで俺に勝て
るようになるまで練習していたよ。そして、いつの間にか俺を追い越し
ていた。
だから、和也が運動も勉強も普段の生活も、本当に誰もが認めるような
文句のつけようがない男として在り得たのは、その力の源は全て南に
認めてもらえる男になりたい。・・・・その一点だけだった。」
「うん・・・。」
「俺はな、そんな和也を敢えてまた抜いてやろうなどとは思わなかった。
いつも同じ空間で遊び、生きている。仲良し三人組みがそのまま続け
られればいいじゃないか。楽しい時間を共有できればそれでいいじゃ
ないか・・・。そんな風に思っていた。
だけど、三人とも成長しないわけにはいかない。そうすれば、幼馴染
というだけの存在じゃなくなってくる。気がつけば、和也は俺とは比較
しようもないほど、誰もが憧れ、尊敬できる男になっていた。」
「・・・そうだね。」
「和也が俺と双子の兄弟だというのではなく、近所の同年の仲の良い友達
なら、俺は、間違いなくそいつと南を争ったろう。素直に南に褒めて
もらえるように頑張った・・・・と、思う。
でも、はっきりと、和也がそういう男になれたのは南に認めてもらいた
いからだと分かっていて、それが紛れもなく俺の大切な弟であれば、
南の期待に応えようと頑張っている全てを知っているだけに、和也こそ
南に相応しい男なんだと・・・、俺は、和也のための道化役でいいじゃ
ないか・・・、俺が自分の感情を抑えていることができさえすれば、
三人がこのままの関係で居られるんだと、言い聞かせてきた。」
「・・・・・・・。
私はね。タッちゃんと二人で居る時は、何かすごく安心できたの。
何も飾らない。お互いをけなし合い皮肉を言い合いながらも、この人
は、本当に南を分かってくれている。普段は南をからかってばかりで、
南を喜ばせるようなことはなかなかしないけど、南が悩み、苦しんで
いるとき、どうすればいいか迷っている時は、南を傷つけないように気
を遣いながら、自然に、でもしっかりとフォローしてくれた。
それは、南を本当に理解し、思ってくれている人じゃないとできない
ことだと感じていたの。」
「和也が事故に巻き込まれていなければ、俺は野球をやっていたかな。
・・・・。自分の感情を抑えきれずに、和也と争うことに耐えられずに、
暴走していたかも知れないな。・・・。
ごめん。やめよう。」
「・・・・。
二人を苦しませたのは、南なのかな・・・・?!
・・・・・・・・。
さあ、でも、これからは二人で、カッっちゃんの分まで一緒に生きてい
こう?!
・・・・・。
達也!南を幸せにしないと、承知しないぞ!!
他の子に目を奪われたりしたら、怖いいからね。」
「はいはい。朝倉南様の怖さはこの上杉達也が一番承知しております。
・・・・。はぁ、このまま南のでかい尻に敷かれていくのかなぁ。」
「でかいって、失礼ね!」
話題を切り替え、南が父と母の思い出や、三人の部屋を両家で作って
もらうことになった経緯などを楽しく話しながら、ドライブは進んで
いた。
対向車線から1台のバイクが疾走してくる。
「あれ、あのバイク・・・! うっそー。」
「えっ、新田さん?!」
なんと、新田明男が後ろに女の子を乗せて近付き、すれ違った。
達也と南は驚き、慌てて側道に折れて車を止め、降りてきた。
新田も気付き、すれ違った先からバイクをターンさせ、達也たちの車の
手前に止めた。
新田「よう、ご両人。あい変わらず仲が宜しいようで。
いや〜、南ちゃん、さらに美しさに磨きがかかったね。」
南 「そうでしょ。気がつかないのは、隣のアホだけよ。
新田さんもお元気そうですね。」
達也「お前、何でこんなところを走ってるんだ。」
後ろに乗っていた女の子がヘルメットをはずし、軽く会釈をしてきた。」
達也「エッ〜! 里美ちゃん?」
里美「どうも。ごぶさたしてました。
わあ。こちらが朝倉南さんですか?!
写真は拝見してましたけど、思っていた以上に綺麗。
これじゃあ、私がアタックしてもかなわないわけだ。」
南 「こんにちわ、初めまして。
このアホのふやけた顔と一緒に写っていたインタビュー記事の写真
は拝見していました。可愛いー。」
達也「アホ、アホ言うな〜!
とこえろで新田、何で里美ちゃんと一緒なんだ。
こんなところで会ったのも驚いたけど、てっきり由加ちゃんかと
思ってたのに。」
新田「まあ、それはいろいろあってな。
どうだ時間があるなら、近くでお茶でもしないか。
あっ。丁度、昼時も近いし、一緒に食事しようか。」
四人はそれぞれ暫く走って、小洒落たレストランへ入っていった。
幸い、正午までには少し時間も早かったので、席も空いていた。
四人は連れ立って奥のテーブルを陣どり、席に着く。
先にオーダーを済ませた。
達也「この季節に北海道でバイクじゃ、お前はともかく里美ちゃんが寒い
だろうに。」
新田「その辺はちゃんと防寒してるさ。
それより、新婚旅行でレンタカーに初心者マークじゃ様にならんな。」
達也「余計なお世話だ。それに、新婚旅行じゃねぇ。
ねえ、それより里美ちゃん、何で・・・?」
里美「だって、上杉さんに振られて、里美だって寂しかったんだもん。」
南 「あ〜ら。誰かさんが勝手にデレデレしてただけなんじゃなの。」
なにかまずい展開に、達也は挙動がおかしい。
里美「ねぇ、朝倉さん。甲子園の入場行進の前の日、私、上杉さんと一緒
の夜を過ごしたんですよ。
楽しかったなぁ、あの時は・・・。」
南 「入場行進の前の日って、私のインターハイ初日の前日?!」
達也は、慌てて椅子をガタガタいわせながら席から立ち上がり、
達也「あっ。俺ちょっとトイレ。
やばいやばい、溜まってたんだ」
南 「こら、達也! 待ちなさい。ちゃんと説明しろ!!」
達也は、ダッシュでトイレに駆け込む。
里美は腹を抱え、新田はのけぞって笑っている。
南だけ、達也の後姿に怒りの視線を向けている。
里美は、自分の一方的な約束に、制約の厳しい中達也が無理をして駆けつ
けてくれて、一緒にディナーを取りながら話したことを丁寧に説明した。
そして、心身ともに疲れ、限界にあった自分の心がどれだけ癒されたかを
語り、でも、達也は里美の話を真剣に聞きながらも、その心はその場所に
はないことも感じ取ったこと、達也がその場で告白した通り、愛する人へ
の自分の気持ちが本物かどうかをはっきりと自覚するための機会としたかっ
たようだったということなどを正直に話した。
そして、里美は、この上杉達也と恋愛関係にある女性は、普通のこの年代の
恋人という概念を遥かに超え、上杉達也が生きている証そのものなんだと
いうことを理解したこと、それは、その相手も同じなんだろうと思わざる
を得なかったこと。そこに自分の入り込む余地など全くないことを悟った
ことなどを、率直に話していった。
里美「正直、妬けたなぁ。
普通の嫉妬なんていう感情じゃなく、この私と同年代で、誰にも壊
されない世界を築いているカップルいるんだ。そしてまさにここに
座っているこの人とその恋人がそうなんだということに。
でも、朝倉さんは、私が想像していた以上に素敵な人だった。
これじゃ上杉さん、脇目もふらないわけだわ。」
南 「そんなことがあったんですか。
でも、ちょっぴり残念だな・・・・。
朝倉南は、上杉達也のことは何でも知らないことはないと、思って
いたのに。」
新田「それは仕方ないよ。
南ちゃんと上杉との生活の中で、あの甲子園の開催期間は、南ちゃ
んが新体操のインターハイ出場という快挙と重なって、二人が最も
一緒に居られない期間が長かったんじゃないのかい。」
南 「えぇ。そうですね。
それに、そのことがあって、次の日があったんでしょうね。」
里美「えっ。なに、なに。何があったの。」
南 「あっ。い、いえ、何でもないです。」
里美「あれ、朝倉さん、顔が赤くなった。」
新田「そういえば、インターハイの初日、いつもと全く違う南ちゃんに
俺たちは随分戸惑っていたけど、何か会場から駆け出して行って
暫くして戻ってきたら、すっかり立ち直ってたね。
そういえば、甲子園の入場行進に上杉の姿がなかったんだよな。」
里美「えぇ〜、えぇ〜。
わあ、何があったんですか?」
南 「いや、それは・・・・。」
10分近くもトイレに身をひそめていた達也が南の様子を伺うように席に
戻ってきた。
達也「あのー。ここに座っても宜しいでしょうか?」
南 「おそいっ。そこはあなたの指定席です。
あなたしか座れません。」
達也「それはそれは。それでは遠慮なく。
お嬢様、お顔が赤いのですが、なにかお怒りでしょうか?」
南 「うるさい。」
それまでニヤニヤしながら二人の様子を見ていた新田と里美は、はじける
ように笑い出した。
料理が運ばれてくる。里美と新田にはパスタのミートソースが、達也と南
には、カレーライスが運ばれてきた。
新田「以前に南風でご馳走になった南ちゃん特製のパスタの味が忘れられ
なくてね。あれ以上においしいパスタにはめぐりあえないなあ。」
南 「それはありがとうございます。
是非里美ちゃんを連れて、ご一緒に来て下さいよ。」
里美「うわぁ。いいんですか?
新田さん、連れてって。」
達也「ほうほう。南特製のパスタねぇ。
時々、とんでもなく辛い出来損ないが出てくるんで、気をつけた方
がいいよ。機嫌が悪いと毒でも盛りかねないから。
イテッ!・・・・本当のことだろうが。」
南 「あれはタッっちゃんがねぇ。」
里美「アハハッ。
本当に、上杉さんと朝倉さんて自然ですね。
新田さんから聞いていた通り、それで私が感じていたた通り、
すごくさりげないというか。若いカップルというより、もう、
長い年月手を取り合って、支えあって全てを一緒に乗り越えてきた
兄弟姉妹のような・・・・。
いえいえ、別に恋人同士の輝きがないわけではないんですよ。何と
も言葉で表現し難いんですけどね。」
南 「そうなんですよ。本当に手がかかる弟で。」
達也「けっ。俺が弟で、南が姉ちゃんかい。」
南 「何か、ご不満でも?」
達也「ふんっ。
ところで里美ちゃん?新田とはどうやって知り合ったの。」
新田「お前から南ちゃんを奪えないと悟った俺が、ナンパしたんだよ。
南ちゅんの一途さは、岩よりも固かったな。」
里美「クリスマスコンサートが終わって、人恋しくなってそっとホテル
から抜け出して、隅田川の淀んだ流れをなんとはなしに眺めていた
んです。
そうしたら、バイクで通りかかった新田さんがバイクを止めて、
心配そうにこちらを見ていて。
背後からだからなかなか気がつかなかったんですけど、ぼんやりと
振り返ったら、ヘルメットを脇にかかえた新田さんの姿があって。
ただ黙ってこちらを伺っていました。
あっ、誰かファンの人に私のことを気付かれちゃったかなと思った
んですけど、そんなミーハーな様子では全くなくて・・・。
こちらも我を忘れて見入ってしまいました。」
新田「あの時は、なんだかこの子は身投げでもするんじゃないかっていう
雰囲気が漂っていてね。」
里美「そうかも知れません。
身投げするようなことはしませんけど、疲れきって、自分を見失い
そうになっていたのは確かです。
で、『大丈夫です』って言ったら、『もう夜も遅いし、若い子がこ
んなところで一人で居るのは感心しないし、危ないよ』っていって
くれて。」
達也「ほうほう。相変わらず、女の子には優しいことで。」
南 「タッちゃん?」
里美「私、何を血迷ったのか、涙が溢れてきて、大声で泣きながら、新田
さんに抱きついていっちゃって。
今考えると恥ずかしくてしかたがないですけどね。」
新田「泣きじゃくっている女の子をとりあえず落ち着くまで支えてやって、
やっと泣き止んで、恥ずかしそうに離れて、その子の上げた顔を見
たら。・・・その時が一番驚いたよ。」
達也「そうか・・・。
まあ、その後は聞くまい。
里美ちゃん、いい奴に出会えて良かったな。」
里美「はい。とっても」
新田「ところで上杉、肩の調子はどうなんだ?」
達也「ああ、ドクターストップは確かだが、もう別に何ともないよ。」
新田「そうか。それは良かった。
もう野球には戻らないのか。」
達也「うむ。もう、燃え尽きた。
苦しむ野球は、もうおしまいにしたい。
隣のお姉さまもこれ以上、けしかけたりしないだろう。」
南 「うん。夢は、・・・・叶えてもらったしね。」
新田「なるほど。
それは残念だが仕方がないな。
南ちゃんが望まなければ、お前がやる気を出すとは思えんし。」
達也「お前はどうなんだ。」
新田「わからん。
上杉達也や上杉和也を超える男が現れれば、大学のダイヤモンドに
立つこともあるかもしれんが、そうそうそれだけの男が出てくるこ
ともあるまい。」
里美「新田さんと上杉さんの対決、見たい気もするけどな・・・・。」
達也「里美ちゃんのスケジュールを考えたら、余り長居は出来ないんだろ
う。付き合っていくのに大変な相手を選んだもんだな。」
新田「うん。まあ、何とかやていくさ。
じゃあ、また、どこかで会おう。」
達也「おう。またな。」
南 「新田さん、里美ちゃん。楽しかったわ。ありがとう。
是非、南風にも寄ってくださいね。」
里美「こちらこそ。私が惚れ込んだ二人の男と、その一方の男の人の恋人
と同席できて、とっても楽しかったです。
南風、必ず行きます。そちらから私に連絡をして頂くのはなかなか
大変でしょうから、私から連絡しますね。」
店を後にし、それぞれの目指すところへと分かれて行った。
「ねえ、今日泊まるところでも、その・・・・やっぱり『婚約者』って記
入するの?」
「ん?だってなあ、普通は身内の続柄か、友人という風に書くんだろうけ
ど、何かスッキリする表現がないし。それが妥当かなって。」
「なあんだ。それだけ?」
「それだけって、他に何があるんだ?
『婚約者』ってのも違うんだけど・・・。」
「ねえ、旅行から戻ったら、家のお父さんに申し込まないの?」
「まだ18歳だぜ。・・・早過ぎだろう。」
「早くな・い!!
すぐに結婚しようって言ってるんじゃないんだからいいじゃない。
あっ、そうか。・・・指輪?、心配してるんだ。
そんなのいつでもいいよ。」
「違うよ。そんなことじゃないって。
まだ俺たちは少なくとも4年間は学生として親のスネをかじらなきゃ
ならないんだぜ。
それに、おじさんだって、南と親一人子一人。たった一人の家族なん
だから、もう少し娘として側に居て欲しいんじゃないのか。」
「ううん。この旅行に出る前に、お父さんがね、お母さんの写真を持って
来て、お母さんとの思い出をひとしきり聞かせてくれた後、『タッちゃ
んは、いつ正式に俺に言いに来てくれるんだ? 早く、安心させてくれ
ないかな? 結婚は、勿論大学を卒業してからになるけど、二人の関係
は、はっきりとさせてくれた方が安心できるんだけど』って、言ってた
よ。」
「そんな話が出来てたの?」
「うん。」
「やけに、うれしそうだな。」
「タッちゃんは、うれしくないの?!」
「ふ〜ん。
ちょっと後ろのバッグに包装された小さい包みがあるから取ってくれる
か。」
「また、ごまかす。
どれ、このバッグ?
中の小さい包みって・・ゴソゴソ・・・
!!!
えッ、これって・・・・。」
「中を開けてみろよ。」
「・・・・・・・・・!
・・・・・・・・・!!」
「もしもし、お姫様?どうかしましたか?」
「ふぇ〜ん。・・・嬉しい〜!
ありがとう。
タッちゃんダーイスキ!!」
「こらあ。運転中にだきつつくなあ!
危ねえだろう。ばか!
本当は最後の日に、ちゃんとしたとこで渡そうと思ったのに・・・。
まあ、安物だけどな。とりあえず、勘弁してくれ。」
「ううん、まさか、まさか、用意していてくれていたなんて・・・・。
ねえねえ、はめていい?」
「もう南のもんだよ。ご自由に。
新体操やめたことだし、ぶくぶく太ったらはまんなくなるからな。」
「大丈夫ですよ〜だ。
うわぁ。ピッタリ!
じゃあ、明日、札幌でタッちゃんにも何かペンダントでも買ってあげる
ね。」
「いらねえよ。恥ずかしい。」
「だ〜め。
しっかり南の名前をローマ字で彫り込んでもらおうね。」
これだけ一人の男と一人の女の間で、兄弟姉妹に匹敵する愛情と、友情
と、様々な葛藤と、そして恋人としての深い感情、大切な者との出会いと
別れを思春期までの間に経験し、共有したカップルも珍しいだろう。
そして、誰もが、このカップルの悲しい顔を見たいと思わないだろうし、
心から声援したくなるだろう。
<完>
予想通り、非難轟々だったね。
さようなら。

(・∀・): 78 | (・A・): 81
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