タクシーの運転手

2013/03/30 14:09 登録: えっちな名無しさん

タクシー運転手の奥さんが、まだ五才に なったばかりの子を残して亡くなった。 父親は仕事ででかけている時間が長く、そ のあいだ隣の家に子どもを預けていたのだ けれど、深夜になっても帰ってこないのも のだから、親切で面倒をみていた隣人もさ すがにしびれを切らして、子どもをひとり の家に帰してしまうことも多かった。 子どもは寂しくて、父親が帰ってくるま で、親の名を呼んで泣いていたそうだ。

ある晩、子どもの泣き声がぴたっと止ま り、笑い声が聞こえてきた。 隣人は、「ああ父親が帰ってきたのだな」 と納得したのだけど、そのしばらくあとに 父親の帰宅する音が聞こえてきて、「父 ちゃんおかえり」と子どもが出迎えてい る。

そうした夜が何晩かつづいて、不審になっ た隣人はある晩、子どもの様子をみにいっ た。 子どもは、暗い部屋でひとりで喋っては 笑っている。 その様子が、だれかと話しているもののよ うなので、翌日、父親にそのことを話し た。

父親は、子どもに毎晩だれと話しているの か、とたずねた。 「母ちゃんだよ。おいらが寂しくて泣いて ると、母ちゃんがきて、だっこしたり、頬 ずりしたりしてくれるの」 「それで母ちゃんはどっから入ってくるん だ?」

子どもは、土間の縁側を指さした。 「あの下から、にこにこしながら這ってで てくるよ」

それから父親は仕事をかえて、早く帰宅するようになったそうだ。

出典:さぁ
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