盗撮があったのに平和な日常

バイト先の漫画喫茶で、同僚の女の子が「女子トイレ掃除してたらこんな物が置いてあった」と言って持ってきた。一見ただの芳香剤に見えるが、よく見ると小さな穴があいてて、レンズのようなものが中に見える。盗撮カメラだ。

警察に通報した方がいいんじゃないかという話になって、まずは店長に電話で確認。しかし、店長が本部に確認して折り返しかかってきた電話の内容を聞いて驚いた。客が誰も知らない状況なのであれば、警察は呼ばずにそのままカメラは破棄しろとのこと。
店舗の女子トイレが盗撮されてたって事実が公表されれば、会社の危機管理体制が問われ集客に影響するから、内密に処理しろというのが本部の意向だって。

カメラは見つけた子が持ち帰って破壊することになったんだけど、撮影されたデータが内部に保存されてるのか、電波で映像を飛ばして近くで受信してるタイプのものなのかよくわからない。その子は、女子トイレを清掃する前に自分も普通にトイレを使ってしまったと言ってるので、電波を受信するタイプのものだとしたら盗撮犯の魔の手にかかってしまったことになる。
彼女はすごく不安そうに「電波で受信した映像ってインターネットに流されちゃうの？」等と聞いてくるが、そんなことは俺にもよくわからない。お客さんに悟られないように小声でそんな会話をしてる間にも、会計をして何人かのお客さんは店を出て行ってしまった。
もしかしたら、今出て行った人達の中に盗撮犯がいたかもしれない。（すぐに警察を呼んで不審者を一人一人チェックしていれば犯人を捕まえられたかもしれないのに）と思いながら、時間はどんどん過ぎて行った。利用客はほとんど男性だったが、ちらほらと女性のお客さんも見かける。印象に残ってるのはカップル席に彼氏と一緒に来ていた20代くらいの女性。５時間パックの清算だったから、（一度は女子トイレ使ってるよなあ。綺麗な人だけど、トイレ撮られちゃったのかなあ）と思いながら会計処理をした。何も知らないまま店を出ていく２人。

その後も普段通り坦々と仕事を続ける。女性のお客さんが退店するたびに、（この女の人も女子トイレ盗撮の餌食になったかもしれない）という考えが頭をよぎった。
盗撮カメラを見つけた時は、大事件が勃発したかのような緊迫感を感じたが、その後は普段と全く変わらず仕事を続けただけだったため、なんだか拍子抜けしてしまった。店内は平和そのもので、女性のお客さん達も普通にドリンクを取りに来る等してくつろいでいる様子。女子トイレの盗撮なんて大した出来事じゃなかったんじゃないかという錯覚を覚えるほどに平和な店内。知らぬが仏とはまさにこのことか。知ってしまって動揺しまくりの女子が隣に一人だけいるが。

警察を呼んでれば騒然となったんだろうなあ。見過ごしちゃって良かったんだろうか。
女子トイレが簡単に盗撮されちゃうことにも驚いた。芳香剤１個置くだけで女の人のトイレが丸見えなんてやばいだろ。自分は男で良かった。女子トイレがこんな状態なんじゃ、女の人は大変だろうな。今日漫喫に来てた人達みたいに、みんな気づいてないだけなのかな。

出典：あ
リンク：ああ