幽霊にくしゃみ(AAあり)
2005/12/11 17:12 登録: もえたろう
359 : ◆yRPaQTO9sg :2005/12/08(木) 00:36:24 ID:WiyM8vYv0
今年の春、晴れて大学生となった僕は都内のとあるアパートに引っ越してきた。外見は今にも崩れ落ちそうな木造のアパートだったが、2LDKで6万という格安
の家賃は貧乏な僕にとって掘り出し物の物件だった。それに、住んでみると以外にも昔の実家と似てて、僕は妙な安心感を覚えたことを今でも覚えている。
大学生になってすでに一ヶ月が経った。その日僕は大学のコンパに誘われてしこたま酒を飲んで帰って来た。初めて会う仲間との酒は、飲めない酒でも平気で飲めたりするものだ。
フラフラになりながらもなんとか家にたどり着いたが、部屋に入り、上着も脱がないままベッドへと倒れこんでしまった。
不意に目が覚めた。いつの間にか部屋の明かりはすべて消えていて辺りは真っ暗で何も見えない。枕元に置いてあった目覚まし時計を見ると、発光している文字だけはなんとか読み取れた。夜中の2時だった。
頭が重い。喉が焼け付くように渇いている。僕はキッチンで水を飲もうと、重い頭を持ち上げようとした。
その時だった。
急に耳鳴りが始まった。その音は頭の中で蠢き、体は言うことを聞かない。僕は瞬時にこの現象は金縛りだと悟った。
そのうち、暗闇に慣れてきた目が部屋の隅を捕らえる。暗闇の中にぼうっと光る白い影。最初は不規則な一本の線だったが、周りの暗闇を飲み込むかのように白い影は形を成していく。
人だ。白い影は人の形へと変化した。よく見ると白い着物を着た人だった。体つきから女性とわかったが、肝心の顔は腰まである黒い髪の毛で隠れていてよく見えない。
白い着物の女は畳の上をすり足で歩き、僕のベットへと近づいてきた。ズッズッズッズッズッと畳を擦る音は、耳鳴りが続いている耳にもはっきりと聞こえた。僕は寝たふりをして半目を開けたままにした。
360 : ◆yRPaQTO9sg :2005/12/08(木) 00:38:08 ID:WiyM8vYv0
とうとうそいつは僕の枕元へと着く。ぼやけた視界の中で顔を確認しようとしたが、相変わらずその女髪の毛で顔は見えなかった。見えているのかわからなかったが、女はじっと僕を見つめている。視線が痛いほど感じられた。
その内、女は僕の顔を真上から覗き込んできた。黒い髪の毛が顔に掛かり、生暖かい吐息が口元にかかってくる。半目を少しだけ開けると、女の顔がはっきりと見えた。
その顔は頭の中で想像していた般若のような顔ではなく、確かに青白い死人のような顔色だったが少女のような可愛いらしい顔だった。すこしはにかんでいて、頬の部分がうっすらとピンク色に染まっている。女は顔を段々と僕の顔に近づけていった。
その時だった。息を吸い込んだ拍子に、女の髪の毛が僕の鼻の中に入り込み鼻腔をくすぐった。
僕は堪え切れずにくしゃみをしてしまう。普段は手で鼻と口を覆ってするのだが、何せ金縛り状態の僕だ。口から出た唾が思いっきり女の顔に掛かってしまった。
「きゃっ!」
…きゃっ?そう聞こえた。
その声と同時に金縛りが解け、僕はしゃがみ込んで顔を着物の裾で拭っている女に声を掛けた。
「ごめん!大丈夫?」
「大丈夫なワケないでしょ?何考えてるのよッ!」
「いや君の髪の毛が鼻に入って…って君、誰?」
顔をあげた女の顔は、さっきよりも顔色がよくなっていた。僕はゆっくりと起き上がると、部屋の明かりを付けた。ぱっと部屋が明るみになる。
女の動きが一瞬止まったかに見えたが、はっと気づいたらしくそそくさと部屋の隅にいくと、着物の裾からポーチを取り出した。青い水練の花が刺繍されている、とても綺麗なポーチだった。
361 : ◆yRPaQTO9sg :2005/12/08(木) 00:38:56 ID:WiyM8vYv0
女は焦っているのか、ポーチのチャックを開けて中身をごそごそと探し出しているうちに床に落としてしまう。ポーチから出た中身は手鏡や口紅やコンパクト、アイシャドーから付けまつげまで多数が散らばっていた。
女は口紅のキャップをはずし、手鏡を見ながら手馴れた手つきで口紅を塗り始めた。口紅の色は顔色に似合わず淡い桜色だった。
「…君、幽霊でしょ」
「ちょ、ちょっと待ってなさいよッ!……うん、完璧」女はコンパクトを塗り終えるとそう言った。最後の言葉はとても小さく、そして幽霊なのにとても活気があった。
女が僕に近づいてくる。さっきの歩き方とはまったく別で、擦り足もせずにすたすたと歩いてくる。
「……幽霊さん?」
「そうよ!私はこの部屋に住んでる自縛霊よ!どう?怖くてぐうの音も出ないでしょ?」
「ぐう」
「ちょ、ちょっと!私をからかってるのッ!?」
「いやだって幽霊のくせに足もあるし、化粧は直すわ俺の鼻っ面まで顔近づけたり……怖いっつーかちょっと可愛いと思った」
女の頬がまたピンク色に染まっていく。
「……もうっ!アンタの事、一生呪ってやるんだからッ!」
「ふーん……まぁ頑張ってくれよ」
そういうと僕は布団に潜り込んだ。「明日学校だからもう寝るわ。おやすみ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよッ!まだ話があるんだからッ!」
ああ、そうだ。そういって僕は女の話を遮ると、女の顔を見つめた。「今気づいたんだけど、上着、掛けてくれてありがとう」
「べ、別にアンタの為にやったわけじゃないのッ!勘違いしないでッ!ベロアのジャケットって痛みやすいんだからッ!」
「それとさ、部屋の明かり、消してくれたのも君だよね」
「そうよッ!明るいと私辛いんだからッ!」
ふと沈黙が続いた。僕はその沈黙によって眠気が増して耐え切れなかった。
「ありがとう」
「だからッ!別にアンタの為に……」
「おやすみ。いい夢見ろよ」そして僕はまた眠りへと落ちていった。
368 : ◆yRPaQTO9sg :2005/12/08(木) 14:14:06 ID:WiyM8vYv0
カーテンからの眩い朝日に僕の目が開いた。二日酔いのせいか頭がひどく痛く、ぼさぼさになった頭を掻きながらゆっくりと起き上がる。深呼吸をして落ち着いた後、僕は昨夜の幽霊を思い出して部屋の隅に目をやった。
あの女の幽霊はまだいた。部屋の隅で突っ立っていたまま寝てしまったのか、体育座りのような体勢で寝ている。幽霊も寝るのか、と僕は新たな発見と同時に微かな笑いがこみ上げてきた。「起こしちゃマズいよな」と、
僕は押入れから毛布を一枚、静かに取り出した。女の幽霊は腕を枕代わりにして、すうすうと寝息をたてて眠っている。その肩にそっと毛布をかけてやる。可愛い寝顔を横目に、僕はそっと身支度を整え、学校へ出向いた。
学校から帰ると、いい匂いがした。隣が老夫婦の部屋からかと思いきや、匂いは僕の部屋から漏れている。一体誰が…。
玄関に入るとすぐキッチンが目に入る。そっと鍵を開けて中を覗くと、そこにはあの女の幽霊がキッチンに立っていたのだ。たすきがけをして、その上から似合わないレースの付いたエプロンを着ている。
これで髪の毛を巻き上げていたら料亭の女将さんだな。横隔膜が落ち着くのを見計らって、僕は玄関を開けた。
「ただいま」
「あっ…こ、これは。ちょ、ちょっと小腹が空いただけなんだからねッ!別に夕飯を作っているわけじゃないわよッ!」
「わかったって。手伝おうか」
「い、いいわよッ!アンタが手伝ったら美味しくなくなっちゃうかもしれないし、つまみ食いしちゃうかもしれないし、それに…それに…」
僕は焦っている彼女が可笑しくてしょうがないので、部屋へ入りジャージに着替えてくつろいでいた。
ふと気が付いたが、僕は先ほどあの女の幽霊のことを彼女と表現していた。
15分後、彼女は鍋を掴んでやってきた。僕はテーブルの上の邪魔なものを片付けて鍋敷きを引いた。
鍋にはいい匂いを漂わせているビーフシチューが満杯に入っている。
「一人で食うには作りすぎじゃないのか」と、僕は口元を緩ませながら彼女に言った。
「つ、作りすぎちゃったのよッ!そ、その…食べる…?」
「ありがたくいただくよ。カレー大好きなんだわ」
彼女は少しほっとした表情でシチューを皿に盛り始めた。
369 : ◆yRPaQTO9sg :2005/12/08(木) 14:14:29 ID:WiyM8vYv0
テーブルの上に並べられた二つのシチューと、レタスをちぎってパルメザンチーズを振りかけただけの素朴なサラダ。何か物足りないと思った僕は、先日買っておいた安いワインを開けた。ついでにキャンドルまで立てて、僕は部屋の明かりを白熱球だけにした。
もうじき陽が落ちる。うっすらとカーテンの隙間からこもれる夕日を尻目に、僕はグラスを持った。
「ほら、乾杯しようよ」
「か、乾杯・・・」
重なるグラスから一滴の音が流れた。彼女ははにかみながらワインを一口飲み込んだ。
「ねえ、アンタ、なんでアタシのこと怖がらないの? アタシ、幽霊なんだよ」
「そりゃあ格好やしぐさを見てればわかるよ。だけどさ、僕、そういうの見慣れてるから幽霊ってよりも一般人となんら関わりなく見てるだけだよ。それに寺の息子だし。
でもさ、初めて君の顔見た時は結構内心どきっとしたよ。だって幽霊のクセにあまりにも可愛いんだもの」
「……か、可愛いからっておだてても出て行かないわよッ!あ、アタシは自縛霊なんだしッ!」
「でもちょっとうれしかったよ、君が出てきたときは」
「え・・・?」
「一人って結構寂しいもんだよな。毎日こうして一人でメシ作って、一人で食って、一人でテレビ見て・・・。実家から出た時は憧れの一人暮らしに色んな想像してた。けど実際は想像してのと違ってた・・・。だからさ、俺、今日は嬉しいんだ。君と一緒にご飯食べれて」
「・・・・・・よ、よかったらコレから毎日一緒にご飯食べてあげるわ・・・・・・よ」
「マジで? 本当に?」
「う、うるさいわねッ!アタシだって・・・さ、寂しかったん・・・だから・・・」
そういうと彼女は黙ってグラスを空けた。僕は嬉しい反面、彼女がこの世の人間だったら・・・と思った。
「ところでさ、名前、なんていうの?」
「あ、アタシは生きてた頃は・・・れ、レイっていう名前だった・・・」
「レイ? 幽霊になってもその名前ぴったりだな」
「う、うるさいッ!そ、それより早く食べないとさめるわよッ! お、おいしいんだからッ!」
彼女の作ったビーフシチューはとても暖かく、そして少ししょっぱい。僕の嬉し涙だった。
393 :本当にあった怖い名無し :2005/12/11(日) 08:03:53 ID:sDpZo0JG0
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'i 'i! l'、 ''""´ | |' | .l 'i <かっ、勘違いしないでよね!
i,'i lヽ゛、 //// i //// l l l |、 .'i, 別にアンタのためじゃ・・・・・
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'i.l,l 'i ヽ、  ̄ ̄ / .| il i ! ', | 、 ヽ
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