鬼餅の由来

2013/07/13 17:18 登録: えっちな名無しさん

昔々、あるところに仲の良い兄妹がおりました。
賢く美しい妹は請われて遠くの村へ嫁いでいき、未婚の兄は両親と暮らしていました。
 
ある日妹は、こんな恐ろしい噂を耳にします。
故郷の村に鬼が住みつき、夜な夜な人を殺して食べてしまうと。
そしてその正体が、どうやら自分の兄らしいのです。
なんと兄は両親や村人を殺して食べ、鬼に変貌してしまったという話でした。
 
確かめに行ったところ家に両親はおらず、兄が1人でグツグツと、鍋で何かを煮ていました。
 
「おお妹よ、よく来たな。肉でも食え」
 
血走った眼はうつろで、見た目もまともな人間ではなくなりつつありました。
そして鍋からはみ出すように覗いていた具材は、人の手足でした。
 
(ああ、噂は本当だった。兄は狂ってしまった。なんと恐ろしい)
 
あわてて逃げ帰ろうとした妹を、鬼が引きとめます。
 
「逃げるのは許さん。お前も食ええええ」
 
なんとか隙をついて逃げたものの、兄を怒らせてしまいました。
その内私を食べにやってくるだろう。
退治しなければならない。鬼となってしまった兄はもう兄ではない。
 
妹は一計を案じて準備をし、自分を追ってきた兄を迎え撃つことにしました。
 
「お兄さん、先日の非礼のお詫びにおいしいお餅をたくさん用意しました。海でも眺めながらいっしょに食べましょう」
 
そう言って巧みに崖の上へ誘い出し、兄に差し出したのは、鉄釘や石塊を包んだ餅です。
当然歯が立たず、無理に食べた兄は口も腹も傷めてしまいました。
妹は、普通のおいしい餅を兄の前で食べて見せます。
 
「妹よ、お前はこんな硬い餅を平気で食えるのか」
 
「あら、柔らかくておいしいのに。お兄さんは歯が弱いのね」
 
鬼の自分でも食えない硬い餅をペロリと平らげる妹が、不意に恐ろしくなった兄ですが、あることに気付きました。
 
妹は着物の裾をはだけさせたまま、脚をひらいて座っていました。
着物の下は何も着けていません。
そこには縦にパックリと開いた唇のようなものがありました。
 
「妹よ、お前には口が二つあるのか?」
 
「ふふ、上の口は、お餅を食べる口。下の口は……鬼を食べる口じゃあああ!」
 
まさに鬼の形相でその部分を兄の顔に近づけた時、恐ろしさに後ずさりした兄は、そのまま崖下へと転げ落ちて死んでしまいました。
 
こうして鬼はいなくなり、村に平和が訪れたというお話。
 
(沖縄の昔話:鬼餅の由来より)


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