あの日に帰りたい
2005/12/19 00:07 登録: えっちな名無しさん
西暦2020年12月4日、埼玉・熊谷ラグビー場
老人はラグビーの試合を見ていた
秋の爽やかな風が吹き抜けている
観客は老人を含め数十名程度
親子連れが弁当を広げて楽しそうだ
スタンドでは子供達がラグビーボールで遊んでいる
グラウンドでは臙脂のジャージのチームが怒濤のごとく 攻め込み、
紫紺のジャージのチームはボールを持つこともなく
臙脂のジャージのチームに翻弄されていた
目の前で繰り広げられているのは
早稲田大学対明治大学の試合
かつては伝統の早明戦として
国立競技場を満員にしていた試合だ
明治が10年前に対抗戦Bグループに落ちたため
対抗戦でこの2チームが顔を合わせることは無くなったが
定期戦として細々と対戦は続いていた
「懐かしいのぉ、あの頃が」
老人は学生時代に見た早明戦を思い出していた
超満員の国立競技場、重戦車と呼ばれた明治のFWが
早稲田のゴールライン際でラックサイドを執拗に突き
早稲田のディフェンスが必死でこらえる
明治ファンの歓声と早稲田ファンの悲鳴
選手も客も、そして明治の学生であった老人も、皆熱かった
甲高いホイッスルの音が老人を数十年を隔てた現在に引き戻した
早稲田がまたトライを取った
当然という顔で喜びもせず自陣に引き上げる早稲田の選手
明治の選手は下を向くわけでもなく
どうしていいかわからないという感じで、苦笑いを浮かべていた
試合は終始早稲田のアタック練習の模様で終わった
126−0
早稲田が3年連続100点ゲームかつ完封で勝利だ
「お前らもう5トライは取れただろ!」
勝ったにも関わらず、早稲田の佐々木監督は
戻ってきた選手に手厳しい檄を飛ばしていた
明治の選手は負けた悔しさは微塵もなく
怪我をせずに済んだ安堵感と
爽やかな汗を流した充実感に満ちあふれているかの様だった
「おじいちゃーん!」
スタンドで遊んでいた孫が戻ってきた
「僕、大きくなったら早稲田でラグビーやるんだ!」
「おお、そうかそうか」
心なしか孫を見る老人の笑顔は寂しそうだった
夕焼けの空の下、やわらかい夕陽を背中に浴び
老人は孫の手を引きながら家路についた
(・∀・): 82 | (・A・): 123
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