夫が泣いた。
2014/01/04 21:08 登録: ただの名無しさん
オリンピック開幕を迎え、盛り上がるロンドン。
私たちは開幕式を生中継で見ていたが、クイーンが減りから飛び降りた瞬間、「えっ。」、「ダイブした?」
さすが大英帝国である。壁が薄い我が家では、隣の家から「oh my gosh!!!!!」と大爆笑する声が聞こえてきた。「飛んじゃったよ!」、「がははははは!」数ヶ月のベイビーがいる隣人、赤ちゃんも大興奮で「ギャーーー!(大泣き)
つられて私たちも思い切り笑った。
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★お気に入りの帽子ナンデス。
いつからだろう、あんなに寂しかった海外生活だったのに、この国が、この場所が、「家」と思えるようになったのは。
私だけじゃない、夫もそうだ。出会った頃はあんなに寂しく心を閉ざした人であったのに、いつからだろう、優しく笑って、イギリスでも数は少ないが温かな人たちに囲まれるようになった。
そのおかげで、毎日本当にリラックスしている彼、いつ見ても笑っている。微笑むというより、笑っている。
例えば、「おっちゃまちぇよー おちゃおちゃ、おーおちゃ、おっちゃまちぇよー」と延々と不可解な言語で朝からカクカク踊っているので、
「それは何ですか。」と聞いたところ、
「もちんにささげるにほんのうだです。わたし つくった。うだ。すげいよー。」
それは日本語じゃありませんと突っ込みたくなる気持ちを堪えて、ありがとうと返しておく日々。
または、「お茶いりますか。」って聞いてくれたから、「はい、お願いします。」って答えたのに、
「ごしゃくえん!!!」(500円)」って、
君が笑って嬉しそうなのはいいけれどね、うん、嬉しいけれどね、
どこのギャグ、それ!!!
「今日はディスカウントあります。スペシャルのレートです。そして1200円。やすいですよー。」
あがっとるわ!ぼったくりか?
数年前からずっと同じギャグを言っていると思うので、もはや私は彼に相当な借金があることになる。お茶借金、払うものか。
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★近所のラベンダーが綺麗でした。
そんな居心地が良くなってきたイギリス生活でも、それでも日本への夫の思いは別格のようで、「やっぱりクリスマスは日本にどうしても帰りたいんです、おとさんの2段のケーキ食べたいんです、みんなで会うください。わたしとんでいきます。」と未だにぐちぐちと未練じみたことを言っているのだ。
南アでは学校で散々いじめられ、高圧電流の流れる塀に囲まれていた村に住んでいたため、友人が居ても遊びに行くには「両親の車の送り迎え」、それを頼むのが申し訳なくてますます一人で居たという夫だから、南アでの生活に全く未練がないどころか、むしろ思い出したくもないという。スーツケースひとつで初めて国を出るため飛行機に乗ったとき、見送りに来てくれたのは父親だけだったと。
それが、いまや、「ゴードンいつ帰ってくるの!」、「帰ったら焼き鳥食べにいこうね。」、「美味しいチーズケーキ見つけておいたよ、早く食べにおいでよ。」、「秋葉でフィギュアをつれて、カレーを食べにいこうよ。」
毎日のように日本の友人と、こうしてメールやLINEのアプリで話をしているのだ。心は日本に置いてきたというのだ。
実は、先週末などは、あまりに愚痴愚痴言うので大喧嘩に発展してしまった。
「イギリスは雨ばかり、高いし食べ物も美味しくないし、南アの家族が近くに居るのも何だかそわそわする。日本が恋しい。」
しれーとそんなことを言うので、私も怒れてしまった。
「ごーちゃん、私はね、30年日本で生まれて育ったのだよ!もちろん日本が恋しいけれど、それでもイギリスに住まわせてもらって、楽しいこともいっぱいで、不便さも含めてこの国を楽しめるようになってきた。ごーちゃんみたいに英語が母国語じゃないし、ずっと寂しいと思うこともあるよ、でもイギリスのここのお家が私たちのホームなんだからね、日本が恋しいと思うけれど、それでも生きていくって思ってるんだ、ぐちぐち言わずに今の幸せよおおく見つめて、淡々と生きろおおお!」
それからはあーだのこーだの、大喧嘩。そして終いには、
「アンフェアだ!ゴードンはいつも喧嘩のときは英語でしょう?!日本語でそこまで喧嘩できないから、私が英語使うでしょう?アンフェアだ!ゴードンの日本語はまだまだ上手じゃない!」
「も、もちん、しどいです!わたしのにほんごへたくそいいました!うわーーーーん。」
泣かせてしまった。
夫にとって「日本語が完璧に話せない。」というのは、どんな事を責められるよりも「ぐさーーー」と心に突き刺さるらしい。その後数時間、「もちんはばか」、「もちんはしどい。」、「わたしぺらぺらほしいです、でもすまん!」、「にほんじんうまれたかったです、でもあふりかにうまれた、どうして?!」、「びえーーー」と鼻水をだらだら流しながら、ワンワン泣いている夫を見て、やりすぎたあと私も悲しくなってしまった。(ちなみに夫30歳。)しまった、いじめすぎた。
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★心がほっとするということ、初めて知りましたよ。
数日しょぼんとしていた夫だが、記憶が薄れていく速度も私の10倍ほど速いので、ある日そおっと部屋を見て様子を伺ったら、「へへへ、この日本へのチケット安いです。もちん、帰りましょう!」などと、へらへらしているので、古い表現だがその通りずっこけた。
今まで生きてきた中で、あまりにサバイバルで辛い経験が多すぎて、夫の「悩む」神経はもしかして焼ききれているのでは?と思うほどである。
喧嘩をすると体力を消耗するので、ぐたーとしていたのだが、在英5年で不思議な法則を発見した。落ちている時に、誰にも何も言っていないのに、そういうときこそ日本から荷物が届くのである。
「羽二重餅が食べたい。」そう呟いた私のメールを覚えていてくれたのか、友人からはダンボールいっぱいの食品が届いた。みかんがたんまり入るような、大きな箱の中に、いっぱいの和菓子や懐かしいものが詰まっていた。ダンボールにはマジックで「素子愛しとるでね!」と大きく書かれていた。
届けてくれたポストマンのおっちゃんが、「君のところに荷物を届けると筋肉痛になる!」とブラックユーモアたっぷりで嬉しそうに笑っているほど、それは重かった。
ゴードンは口をあんぐり開けてその箱を眺めていたが、それだけでは終わらず、更に数週間後にまた荷物が別の友人から届いた。
「はい、今日も筋肉痛。」
そう言いながら運んでくれるポストマン、それもずっしり重かった。開けると夫の大好きなポッキーや、カレーせんべい、懐かしい日本のお菓子がまるでスーパーごと来てくれたみたいに、いっぱい詰まっていた。
「素子ちゃんが笑顔で暮らせますように、祈ってるよ。」
ゴードンに見せると、「日本の人は、どうしてですか・・・・。」、言葉にならないほどびっくりしているようだった。私の胸もいっぱいで、言葉にならなかったので、二人で何も言えずにただその箱を見つめて涙ぐんでいたのがつい先日。
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★にほんにいくと、いっぱいおみやげもらいますよ。
その後に、家族から更に続けて3箱も薬やら懐かしい食料が届いた。
ポストマンは「俺は本当に、本当に、今日も筋肉痛。」と、玄関先でタバコをすいながら、私が涙目でそれらを受け取るのを優しそうに見てくれていたっけ。しっかりお砂糖2杯にミルクたっぷりの紅茶も飲んでいったけれどね。
「ゴードンへ。」かわいいお手紙が一緒に同封された、彼らの気持ちがいっぱい詰まったそれら、中にはゴードンのための「ポン酢」が入っていた。瓶なのである。重いのである。赤ちゃんが居るのに、物入りだろうに、どんな気持ちで送ってくれたのかと思うとたまらなくありがたかった。
安静にしなければといわれている妊娠中の妹からは、私の命の糧の「高野豆腐」が届いた。彼女のかわいい結婚写真を見て、遠く離れていてごめん、お祝いできなくてごめんとやはり泣いてしまった。
これらが本当に、毎日のように続いたものだから、ゴードンは何だか深く深く考え込んでいるようだった。ふと部屋を覗いたら、真夜中に「日本の文化」という分厚い本を抱えたまま、床に転がって、ひっくり返って寝ていた。
「おきてください、風邪を引きますよ。」
そう揺さぶると、
「まろですか。」
半分寝ぼけながら、おかしなことを言うので、
「はい、まろです、とてもまろです。だから起きてください。」
「それならいいです、まろならいいです。」
ふらふらと起き上がると、ベッドに顔面から倒れこみ、ぐーと寝てしまった。
(まろってなんですか)
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★手作りのケーキももらいますた。
そしてとどめに、母からどえりゃあ(名古屋弁)大きな箱が届いた。ポストマンは、「これは、俺は明日NHSにいかないといけないくらい重い。筋肉痛じゃなくてぎっくり腰だあ!」と言うので、「いつもありがとうね、助かるよ。」とお礼を言ったら、「全部日本からだったね。君にはいい友人や家族がいっぱいいるんだな。日本の人は優しいんだな。送料は、ええと、9400円っていくら?」
「80ポンド位だよ。」
「げっ、まじで?よほど大切なものなんだな?」
「食料品だと思う。おかんからだから。」
「えっ(絶句)」
そして、はあとため息をついたポストマン、「君がここに引っ越してきてから、俺は毎週のように日本からの手紙や荷物を届けたよ。最初はなんだか鬱々とした顔をして、元気がない君を見ていつも心配していたけれどね、今は元気そうに笑うようになったね。支えてくれる人がいっぱいいるんだろうな、君は恵まれてるね。」
「あなたもその一人ですよ、日本の友人家族はもちろん、ここでもたくさん私に元気をくれる人が居ますよ。」
彼はにやっと笑うと、「それでも俺は筋肉痛にぎっくり腰だからね!」と言いながら、タバコをふかしてぶんぶん手を振って去っていった。
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★BRAAIをする時もひとりですから。
その晩、夫に箱を見せた。宛名がゴードンと素子となっていたので、一人で開けるのはもったいない気がした。
「またきたです!」もはや、どうしていいかわからずにオロオロする夫に、「でもね、これはゴードン様と素子へってかいてあるでしょう?」と促して、箱を開けてもらった。
手に持ったときは「ずっしり」来たその荷物だったが、意外と「素子」あてのものは軽かった。どれも私にとってはたまらなく好きなものばかりであるので、おかんありがとうと、涙が止まらなかったが、それでも、「中に漬物石でもはいっているんじゃなかろうか。」と思うほど、箱の半分は軽い乾物であった。
「あれ?」
夫の手がぴたっと止まった。大きな箱に、「ゴードン様へ」とわざわざ指定がされてあった。娘よ、これはゴードンへのものだからね、名前書いておいた位ね、ゴードンのだからね、そんな雰囲気が漂う白い箱を夫が持ち上げて、
「ふえーーーー」
変な声を出した。
「もちん、これ、もちますよ、すごくおもいです、おもすぎます。」
「どれ。」
持ち上げてみた。「う、重い。」
ずっしりと、まさにずっしりと重いその箱、「ゴードン様へ」、夫はすでに真っ赤な顔をしてもじもじしていたが、「あけていいですか。」となきそうな声で言うので、「どうぞ」と促した。
「うわあ・・・すげいよー。」
ぱっと顔を輝かせた夫の目の先に、真っ白なかわいいうどんがぎっしりと箱に詰められていた。1段どころではない、3段になって詰められていた。
夫が崇拝する「うどんのおいしい国」、香川県のおうどんであった。「つくたばしょ、これ香川、香川県って、もちん、かがわ、かがわ!ちずでみるとこんなにかがわ。」
大興奮の夫、「ねえ、ここにも何か入っているよ。」、袋を見つけたので夫に渡すと、夫はますます真っ赤になって黙ってしまった。
そこにはきちんとうどんのスープ、それにゴードンの大すきな名古屋の味噌煮込みのスープも添えられていた。
箱を持ってじいっと手元を見つめていた夫だが、急に「送料 9400円、きゅーせんよんしゃくえん。」と呟くと、だだっと箱を抱えたまま自室にこもってしまった。
あっ、うどん泥棒と思わず追いかけそうになったが、母に電話を入れたかったので夫はほうっておくことにして、受話器を取った。
「もしもし。」
「はい、ん?だれ?だれ?もしもーし。」
娘の声も忘れているおかん、仕方がない。私は大の電話嫌いで、親不孝なことに数ヶ月に一度電話するのがやっとなのだ。「生きとるか!」そう怒った声でおかんが留守電にメッセージを残し、渋々電話をするという、親不孝な勝手な娘である。
「娘の素子ですが。」
「ああ、そうだっけ。」
そんなとぼけた会話も全く変わらなく懐かしい。「おかん、荷物が届いた、ポストマンも今度こそはぎっくり腰になると言っとった、そのくらい重くて、送料見てひっくりかえったわ。本当にありがとう。」
「ああ、重いのはゴードンのうどんでしょう。あの子、うどんうどんっていっつも言ってるからね、送ってやらなきゃと思ってたんだわ。届いてよかったわ、ははは。」
「この前、KちゃんからもTちゃんからも荷物届いた。」
「あれ、そんなら中身全部うどんにしてやればよかったね、娘のはよかったかね。ははは。」
私は何だか、胸がいっぱいになってしまって、何もいえなくなってしまった。母は60歳を過ぎて、未だに働いている。私が小さな頃に父と離婚してから、一切の援助を受けずに女手ひとつで私たち姉妹を育ててくれた。私が初婚した後にようやく再婚した母は、「娘より先にまた結婚するわけにいかないでしょう!」と明るく笑ったが、一本筋が通った立派な優しい人だと涙が出た。
小さな頃は母が家に居ないことを、「寂しい」と思ったことも多かったが、時がたてばそんなことはどうでもいい、パスポートもなく、仕事に追われて海外にすら出たことがない母、私が離婚をしたときも、「周りが何を言おうが、きっと分かり合える日が来る。まっすぐ自分が選んだ道なら、私はいつでもあなたの味方だから、一生懸命生きなさい。」そういってくれた母、
おかん、離れていてごめん、本当にごめん、親不孝で勝手でごめん、なんだか胸が押しつぶされそうな位、うまくいえないけれど、涙がこみ上げてきた。
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★いつか、おかんに、ラベンダー畑を見せてあげたい。
「こっちのことは心配しないでいいから、ゴードンのご両親をしっかり支えなさい。」
ふと、まじめに母がそういうので、「それがさ、ゴードンはクリスマスも日本に帰るってわがままいっとる。日本がいいって駄々こねてるんだわ。」
そう伝えると、「いかん。クリスマスはお母さんと過ごしなさいってゴードンにしっかり伝えて。日本のお母さんの命令ですからって。それより先に帰ってきても、ドーナツもお菓子も買ってあげないっていっとき!」
「・・・おかあさん、ありが・・」
感激して思わずそういいかけたとたん、
「あ!パパが帰ってきた!ちょっとかわるで!」
「えっ・・・」
「もしもし、もしもーし(父)」
「おとうさん?」
「うーん、だれだ?」
「いや、その、娘の素子。」
「ああ!そんなのおったわ!」
全く変わらないのである。照れ屋で、口下手な父、義理の父ではあるがバージンロードも一緒に歩いてくれた、私の大切な父は、
「荷物が届いたんだわ、ありがとう。」
そう涙ぐむ娘に、
「そういえば、昨日テレビで世界一まずい料理の国はどこかって、アンケートやってたぞ。どこだと思う?」
「・・・・・なんか嬉しそうだね。」
「イギリスっていっとったぞ!はははは!」
お礼を言わせてもらう暇もないほど、照れ隠しに、つまらないことを言うのだ。しかも、「風呂に入るから、じゃ。」と、あっさり電話を切られてしまった。
今までもご紹介してきたうちの父、私にとっては義理の父ではあるが、私は世界で一番彼のことを尊敬している。おとうさんと呼べるまで何年もかかってしまったが、彼からは言葉では言い表せない位の幸せをもらった。優しさをもらった。
もっと話していたかったが、「じゃ。」と爽やかに会話が終わってしまったので、
なんじゃそりゃあとぼけーと居間で座り込む私。と、「そうりょう 9400円」、「ぎゃーー!」いきなり夫に後ろから声をかけられて、心臓バクバクした。
夫はそこに、まだ箱を抱えて、さっきまで真っ赤だった顔は何だか白く見えた。
「80ポンドあったら、あのゲームも、このゲームもかえますよ。おかさん、美味しいおすしたべれます。どぢて!!!」
「知らんよ、いま電話したけれど、うどんくらいいつでも送ったるって言ってたよ。」
「おかえしわ」
「いらんよ、二人が元気でにこにこしてたらいいわって。ゴードンがにこにこで美味しいって食べてくれたらいいわって、そうおもっとるよ。」
「ちがい!にほんのひと みな おかえしくれます、わたしもおくる。」
「手紙だけでいいじゃん、ありがとう、おいしかったよ、それが一番嬉しいんだからさ。ゴードンがおいしかったって、それが一番おかんはうれしいんだよ。それにねえ、クリスマスは帰ってくるなって。にほんのおかんの命令だって。ミシェルとすごしてあげなさいって、じゃないとドーナツもお菓子も買ってくれないんだってさ。」
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★かわいいものも みつやりました。お値段あっても かわいいもの。
夫は放心したようにぼけーとそれを聞いていたが、突然何が起こったのか、泣き出してしまった。本当に、子供みたいに泣いた。うわんと泣いた。
「なななな、なんで泣く?!」
「しらん!」
ただただうわんうわん泣いているので、私も慌てて、どこか痛いんじゃないかと心配したり、お腹がすいたのではないかと聞いてみたが、夫は箱を抱えてうずくまって子供のように泣くばかり、私はオロオロしてしまったが、そのうちに大切なタオルも鼻水まみれで、ああっ私のお気に入りのタオルがあ!と怒りもこみ上げるわ、とにかく仕方がないので放って置くしかなかった。そのうちに何だか暇をもてあましてしまい夫のことを取り残し、キッチンでお料理などし始めた私、だってお腹すいたもんね。
「小さなことなんだろうか。」
突然夫がそういうので、「ん?なに?」と言うと、
「小さなことが少しずつ、みんなを優しくにこにこと、温かくしているんだろうか。そういう風に生きていったら、俺の人生も何か変わるんだろうか。」
ものすごくまじめな顔なのである。何か夫の中で、衝撃的に思うことがあったのだろう。
「うーん、そうだねえ。私は少なくても、自分が一人で美味しい大福食べるよりも、半分こして、友達と美味しいねーって食べたほうがうれしいかな。」
「はんぶんこ できない ときわ!」
「その場合は、もらってもらうかなー。自分でどうしても食べたいときは食べちゃうよ。でも、もらってもらうのも、同じ位嬉しいなー。これ差し上げたら、どんな顔しておいしいねっていってくれるかなーとか、そういうのが自分で食べるより嬉しいこともあるよ。いつもじゃないけれどね!私も食べたいしね。」
「そんなしとたち、まわりにいませんでしたから、しりません、にほんの家族だけ、友達だけ、わたしに いろいろ おみやげくれます。うどんはすごくおもいです。いつも いつも むかしむかしから おみやげ とどく。わたしわ おかえし しないで ぜんぶ たべました。わたしわ ばかです、よくないの ひとです。」
あああ、そういうことか。それで自分を責めて部屋にこもったか。
「ゴードンのこと大すきな人は、お返しとか別に気にしてないよ。ゴードンが元気でにこにこしてくれていたらいいなって、それだけ思ってるんだよ。いいじゃん、別に、出来るときにお返しすれば。それに、日本の人だけじゃないよ、優しい人はいっぱい居るよ。お友達のあの人も、日本人じゃないけれどいつもいっぱい良くしてくれるでしょう?」
「それはおくさんにほんじんだから、かれもいいしと、やさし!」
「あー、ぜんぜん違う、日本人とかそういうの関係ないの!同僚のJはイギリス人で、奥さんフランス人だけれど、ワイン1ケースフランスから抱えてきてくれたでしょう?ボスはいつもお土産くれるでしょう?」
「それわ わたしありません、もちんのことみんな すきです、もちんはみんなにおみやげきちんとします、にほんから ホリデーから、いつもいつも むかしむかしから おみやげかいました。わたし しませんでした。みんな日本が好きになった、もちんのこといつも にほんのしとはやさしいといてる、Jはもすぐにほんにいくです、おくさんとずっとにほん大好きになったからって、もちんがむかしむかしからやさしから わたしじゃ ありませんから!」
そして、
「いやだ、わあしわ いちばん ばかです、いやだ!」
どんどん落ち込んでしまう夫、もう何を言っても仕方がないので、更に放置を決め込むことに。しかし、ずずずずと私の使っていたキッチンに割り込むと、「わたし うどん ゆでる。」
おかんがくれたおうどんを手際よく沸騰したお湯にいれると、「にこにこ れしぴがありますから、それみてつくる」
箱に入っていたレシピを真剣によみつつ、「ねぎ いれる。ねぎない。ごまいれる、ごまあります。たまごいれる、たまごイギリスの危ないですから生はやめる。おしょうゆいれる、おしょうゆ私この前かってきた。まいどありがとござますのおみせでかったのある。」
ぶつぶつぶつぶつ真っ赤な目でうどんを茹でる彼、あれ、どうやらいつもより多くないか?そう聞くと、
「もちんのぶんのゆでます」
「あら、今日は優しいのねえ。いつもは自分の分だけ茹でて、こっそり食べちゃうくせに。」
「おかさんもちんのおかさんだから、もちんがたべたらうれしいですよ!。わたし ばかじゃ ありません。」
「ゴードン様って書いてあったよ。そういうのはゴードンのものなんじゃないの?」
「ちがい。これわ、おともだちにもあげます。にほんのおともだちもうどん好きです。あしたもてきます。あっおゆがぶくってなる、もちんがうるさいからうどんがまろになります、やめて」
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★まろのうどんですか。
まろになったうどんでもいい。そうか、優しくなったね、またずっと昨日より、優しくなった君、
優しい人の周りには優しい人が集まる。お友達の家で、美味しいおでんをご馳走になって、貴重な和食材を惜しげもなくご馳走してくれる心の温かい友人にイギリスでめぐり合えたのも、全て、ゴードンが優しい心をはぐくんでるからなんだけれどね。
自分ではなかなか気がつかないよね。私はしっかり、ここで、あなたのそういう変化を嬉しく見守っていくからね。大喧嘩もするし、お互い酷いこともいっぱい言うけれど、それでもおかんが教えてくれたみたいに、お友達が家族が教えてくれたように、ここでしっかり生きていくでね。毎日ニコニコで、イギリス人のユーモアに爆笑しながら、助けてもらいながら、無理しないでふつーに生きていくから。
「できますた!」
夫が作ってくれたうどんはとても美味しかった。熱々が好きだから、お水できりっとしめることを何度教えても「もったいない」とやらない、適当なうどん職人きどりなのだが、それでもとても美味しかった。
おかん、ありがとう。みんな、ありがとう。ゴードンへの気持ちは何倍にもなって、大きな元気だまで日本からびゅんって届いとるよ。
次に会うときは、もっとぼけーとしたゴードンの顔が見られると思うから、それまでみんなも元気で居てね。
ゴードンがオリンピック観戦で日本の女子バレーを応援するって張り切ってるからね、阪神タイガースかモンハンのTシャツを着て、日本の旗を持って応援に行くって。いや、なんだか、Tシャツは全くバレーに関係ない気もするけれど、精一杯応援してくるね!
ロンドンから、今日も、私たちはもりもり元気です!皆さんもお元気で!
出典:ロンドン工夫しながら豊かな生活
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