愛の始まりと終わり
2015/09/25 09:55 登録: あでゅー
20150817-『愛の始まりと終わり』byあでゅー
私は父を殺した、恋人と一緒になるために。
これは、そんな私の話。
1.出会い
私は、訪問リハビリの仕事をしている。
それは施設にいけない人の家へ出向き、手足を動かし、身体の機能を向上および維持する
仕事だ。
私がなぜこの仕事に就いたかと言うと、叔父さんが脳溢血で倒れて、リハビリを受けてい
たから、それで興味がわいた。
世の中から絶対に必要とされる仕事だ。
この仕事を私は好きだ。
ある日、私は新しい利用者さんに付いた。
この人の名前を仮に「あでゅー」とする。
「こんにちは、あでゅーさん。
私は加藤といいます。
よろしくお願いしますね」
(こちらこそよろしく。)
それはパソコンのメモ帳で書かれていた。
うまく発音が出来ないからだ。
「それでは、まず体温から測らせて貰います」
こくり、と頷く。
15秒後、ピーと体温計が鳴った。
「36度6歩です。
次は血圧を測らせて貰います」
血圧計の音がブーーンと鳴った。
「上が120に、下が70ですね」
それらの数値を用紙に書き込んだ。
「どこか痛い所ありますか?」
(お腹が痛い。
でも、うんちは出そうもないから、安心して。)
「そうですか。
では、ベットに移動してください」
あでゅーの身体機能はそれほど高くない。
しかし、うまく身体を操ってベッドに移動して見せた。
案の定、麻痺している右側の筋肉と筋は、かなり硬くなっていた。
リハビリをしながらだと、話ができた。
と言うのは、横になっていると上手く発音できるからだ。
「普段何をしているんですか?」
「パソコンで物語を書いている。
良い暇つぶしになるよ」
そして過去に掲示した物を見せてくれた。
確かに、沢山ある。
ここで、あでゅーの名前の由来を言っておく。
20年ほど前のニフティの掲示板でのハンドルネームだ。
その掲示板で彼は短い話を投稿していた。
そこで、初期に書いた表作の一つ、「さよなら愛しのチキュウヒト」
はちょっと良い話だ。
昔々から始まる物語で、優しさ故に恋人と二人で滅びる話だ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『さよなら愛しのチキュウヒト』(初期型)
昔々、チキュウに一人の女子がいた。
ある日、宇宙人からのメッセージを受け取る。
この星は滅びます。
しかし、あなたは、やさしい地球人です。
あなたを滅びから助けてあげましょう。
1999年X月X日、○○○ここに来てください。
このメッセージは誰にも話さないでください。
彼女は迷いました。
両親と恋人を残して、自分だけが救われていいのかと。
当日、彼女は行きませんでした。
しかし、彼もまた同じでメッセージを受け取っていました。
彼もまた、彼女を思い行かなかったのです。
そして二人は共に滅んだのでした。
さよなら愛しのチキュウヒト
さよなら愛しの恋人たち
PS
このお話は、チキュウと言う星の悲しい話で、長い間語り継がれたのでした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
と言う内容だ。
うる覚えだから言い回しが多少ちがう。
彼はこの様な短い話を、ハンドルネーム「あでゅー」でたくさん書いていた。
あでゅーadieuとは、フランス語で<長い別れを告げるあいさつ>の意味らしい。
切ない言葉だ。
2.昔話
彼は死にたい、と言った。
いつも身体の調子が悪いし、彼を介護している父親が高齢だからだ。
でも、失敗したら怖くて出来ない、と言う。
実は私も、自殺しようとして死に切れなくて、のた打ち回る人を見てきている。
悲惨だ。
だから、彼は殺してくれる人を探しているのだ。
私は彼の気を紛らわすために、毎回何かしらの話題を提供する。
それはアニメの話だったり、ドラマの話だったり、彼の昔の話を聞く事だってある。
昔話であるが、色々中途半端に才能が有った事が、人生を狂わせた、と言っていた。
夢を見たという。
彼の身長は170cm位だが、練習もせずに、その身体で球速142kmを出した、と言
っていた。
でも肩を壊して、何球も投げられなかったと言う。
大学受験で、ある時ローカルな模試で偏差値72を出して全国で1位になった。
それで東大をこっそり狙っていたが、結局偏差値は60どまりだった。
大学で始めたクラッシックギターは難しい曲を弾けるようになり、プロになれるかと思い
、必死に練習したが、伸び悩んで大学を終わった。
一度もコンクールに出れずにだ。
結局、努力しても才能は中途半端でどれも駄目だった。
と言うのが彼の話だ。
話半分だとしても、一応は○○大学を出ている。
馬鹿じゃない。
でも就職に失敗して安月給だったと聞いた。
私のように、才能が無くたって手に職を得たほうが幸せだって、今は思う。
哀れだと思った。
今は趣味のエレキギターで弾いていたRandy RhoadsのMr. Crowleyも、脳卒中で倒れてから
弾けなくなったと聞く。
それでも私は話を聞いて、大丈夫だ、良くなると言って励ます。
只、自殺しないように励ました。
ある時、彼はパソコンで書き出した。
(俺の実家は昔農家で牛を飼っていた。
その当時は貧乏でいつも飢えていた。
着る物も冬だというのに、学生服だけだった。
それでも勉強だけはした。
受験の3ヶ月前からだけど。
そして□□高校に入った。
でも勉強せずに、マージャンばかりして成績はいつもビリだった。
卒業してから1年目はマージャンばかりした。
2年目から心を入れ替えて、勉強して○○大に受かった。
けれど、せっかく受かったのに、またマージャンやギターにこり出してしまった。
就職は小さい会社で給料も安かった。
そして10年で見切りを付けて、札幌にきた。
母の介護をしながら資格を取り、母を看取って、もうそろそろ就職しよと思った矢先、脳
出血でたおれた。
どうだ、俺の人生って駄目な奴の典型だろう?)
そう言って彼は笑った。
なーーんだ、才能が無くて大成しなかった分けじゃなく、マージャンで駄目になったのか
。
やっぱり話半分だ、と思った。
3.逢瀬
その日は夏の日差しがきつい日だった。
私が襟をぱたぱたしてクーラーに涼んでいると、「ゴクリ」と音がした。
初めは何の音か分からなかったが、それは彼が喉を鳴らした音だった。
私の胸は熱くなった。
普段、性的な事に興味が無いように見えてたが、本当はちゃんと欲しがっているじゃない
、と思った。
そう、彼は私に欲情しているんだ。
体温を計る時、血圧を測る時、私は少しづつスキンシップをした。
彼のアソコが立っているのが分かった。
私は嬉しくなり、手を握ったり、胸を腕に押し付けたりした。
帰ってきて私は後悔した。
私は何をしているんだ。
まるで色情狂ではないか。
それにしても、私は何故あんな事をしていまったのだろう。
まさか彼が好きのか?
あんな半身不随で中途半端な奴。
そんな分け無い、絶対に違う。
次の週、私は彼の当番を代わってもらった。
とても恥ずかしくて顔を合わせられなかったからだ。
しかし会えないと寂しかった。
彼の長い指が愛しかった。
私はその夜自分の指で慰めた。
しかし、いくら考えても付き合うなんて問題外だ。
私は一体何を考えているんだ。
そう考えて、もうちょっかいを出すのは止めよう、そう決めた。
次の週、私は彼のリハビリへ行った。
彼は寂しそうに笑った。
急に可愛そうになり、再び同じ過ちを犯した。
スキンシップをすると彼の表情は再び輝きだし、アソコを硬くした。
けれど決して、彼から私に触れる事はなかった。
きっと、苦い経験があるんだろう。
それでも私はスキンシップを止めなかった。
そしてついに精液を出した。
ドクドクドク・・・
彼の恍惚とした顔、それだけで私はいった。
家に帰ってから、私はやっぱり後悔した。
実りが無い逢瀬、それは私にも彼にも深い傷しか残さない。
ちょっと頭が良くたって、ちょっと文才が有ろうとも、ちょっと運動神経が良くたって、
いくら長い指が愛しくたって、いくら優しくたって、・・・所詮は身体障害者なのだ、彼
は。
しかし、彼の遺伝子には興味があった。
一体どんな子供が出来るのかしら。
その子の身長は?
その子の指はやっぱり長くて繊細なのか?
その子が書く話は、やっぱり悲しくてちょっと良い話なのか?
欲しい、彼の子供が欲しい!
彼もまた子供を残さなかった事を後悔している。
実は、彼は一度結婚した事があったが、すぐに分かれた。
子供も出来なかったようだ。
そして歳になって半身不随になってからしまった。
子供を作っていなかった、と後悔したと言う。
人は生まれてきた証として子供を残す。
それは本能的であれ、意図的であれ、そう出来ている。
私は才能がない、本当に哀れなくらい。
だから人一倍その事に執着しているのだろう。
だから、だから、子供が欲しい、彼の子供が。
私の頭は、彼への同情と、愛と、子供への執着と、そして子供が成すであろう事を夢見る
陶酔で一杯になった。
もう私には止められなかった。
彼を抱いた。
彼は喜びの指で私の胸を揉み、そして私の中に放出した。
私の子宮はそれを全て呑み込んだ。
歓喜のうちに。
私は次の週もその次の週も、彼を抱いた。
激しくお尻を打ち付けて、あそこから厭らしい汁をほとばしらせて、最後には全てを逃す
まいとして、奥深く導いた。
そして子供が出来た!
待ちに待った子供だ!
私はお腹の子供の成長を待ち望んだ。
やがてお腹は大きくなり、父に知れた。
「誰の子だ?」
「・・・」
「まさか身障者の子供じゃ無いだろうね?」
「・・・」
「どうなんだ」
仕方なく、正直に答えた。
「ええ、そうよ。
身障者の子よ。
でもね、ちょっと才能があるの」
「馬鹿な!
いくら恵まれた才能が有ろうとも、所詮は身障者。
負担になるだけだ」
「彼はそんなに負担にならないわ」
「駄目だ!下ろせ!」
私は怒って自分の部屋に閉じこもった。
父の反対は当たり前かもしれない。
しかし、普段から婿養子を取れという父は、全く自分の事しか考えてない。
そして私が普通の人とお付き合いできないのは、父のせいだ。
だから私は身障者を相手に選んだのだ。
何が悪い?
私のお腹は怒りに、今にも噴出しそうになった。
そして芽生えた、殺意が!
全部自分が悪いんだ。
私を不幸にして、自分だけ幸せになろうとしている。
朝ご飯だって、パンにマーマレイド、カリカリのベーコン、拭かしたアスパラにマヨネー
ズ、が食べたいのに。
いつもいつも納豆にトロロイモ。
男を作ったって、いつのまにか嗅ぎつけて、婿養子の話をして、すぐに別れさせる。
もう私は切れた。
私は目的を果たすために、ネットで青酸カリを手に入れた。
そして父を殺害した。
4.逮捕
父の死から3ヶ月、突然私は逮捕された。
「何故私が父を殺さなきゃいけないんですか?
たった一人の肉親なのに」
「父親と言い争いしているのを、隣人が聞いていたんだ。
動機はそのお腹の子だね?
一体誰の子だ?」
それだけは話せない。
私は黙秘を続けた。
「青酸カリのアリカが分かったんだ。
それに入手先も分かった。
もう観念したらどうだ?」
私は落ちた。
父親を殺しを自白した。
しかし、子供の父親は隠し通した。
裁判で、私は如何に父親に虐げられたか、延々と訴えた。
しかし、それは何にもならない事だった。
そして、子供の父親不明まま、私は収監された。
刑期は15年。
5.収監
日に日にお腹が大きくなった。
「あっ、動いた!」
私は満足していた、父を殺し子供を助けた事を。
きっと、あのままではこの子は下ろされていただろう。
その位父は頑なだった。
やがて生み月がきて、私は分娩室にいる。
私は格闘した、そして漸く生まれた。
「ああ、なんてかわいい!
あの人そっくり!」
私は喜びの涙を流した。
「これが私が待ち望んでいた子供だ」
私はずーと考えていた名前を付けた。
「一樹」
一人で確り立って生きていって欲しい。
そう願いを込めて名づけた。
「お前の名前は一樹だよ。
一樹、ようこそ未来に!
輝かしく光って、一人でも生きて行ってね。
きっと会いに行くよ。
それまでバイバイ」
私の目には別れの涙が溢れた。
そう、生んですぐに里子に出す、そう決めていたから。
私はいつまでも一樹を見送り、扉が閉まり見えなくなった後、泣き崩れた。
訪問リハビリの仲間が面会に来てくれた。
あでゅーが自殺した事を知らされた。
ああ、ついに死ねたのか、良かったと思った。
彼女は知っていたんだ、私が生んだ子が彼の子だって。
そして、この事件の引き金は彼だって事も。
「彼、あなたに子供が生まれたって知っていたわ」
「良かったわね、あなたと彼の望は果たされたわ」
そう言って微笑んだ。
「それじゃ、もう会う事も無いと思うけど、元気でね。
バイバイ」
そう言って彼女は消えた。
私は彼女に感謝した。
6.今日会いに行く
やっと刑期が終わった。
久しぶりの外だ。
民生委員の○○さんは、良くしてくれる。
住むところも、働き口も世話してくれた。
以前と同じ訪問リハビリの仕事だ。
子供に会いたい。
一目見たい、いやあの人の子供はどうなったか知りたい。
今日会いにいく。
私の事は伏せたままで。
通りすがりのオバサンでいい。
かわいかった。
彼によく似て。
指は長く、ピアノを愛し、勉強もまた出来た。
「どう、私達の子供は?
良く出来た作品でしょう?
あなたも満足でしょ?」
それは死んだあでゅーへに語りかけだった。
私は満足して立ち去った、微笑みながら。
そしてその日、彼女は自殺した。
青酸カリで。
彼女は表情は、穏やかな光に包まれ、微笑んでいた。
(終わり)
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