狐火
2015/10/21 17:23 登録: あでゅー
20151020-『狐火』byあでゅー
その日は月明かりが乏しくて、私は足元を提灯(ちょうちん)で照らしながら急ぎ足で歩いておりました、愛する者の下へ。すると突然提灯の火が消えてしまいました。途方に暮れていると遠くに明かりが見えました。私は火を借りようとその家にお邪魔した分けです。
「こんばんわ」
衣擦れの音がした。暗闇から着物を纏った女が現れた。その女は跪き私に尋ねた。
「如何しましたか?」
「はい、実は提灯の火が消えてしまい難儀しております。出来れば火をお借りしたいのですが」
「貸して差し上げましょう。しかしもう遅い時間です。今日はお泊りになって行くのは明日の朝になさったら?」
お言葉に甘え止まって行く事にした。私は遅い夕げをご馳走になり、おまけにお酒を少々頂いた。こう見ると家には女意外無く、私なんぞがお邪魔するには少々気が引けた。が、女の香と一重の細い瞼に何時しか酔ってしまった。
その私の目線に呼応する様に女がしな垂れかかってきた。女の薄く開いた唇に私の舌を滑り込ませていった。なんと言う貪欲な舌か。私の舌は女に絡め取られて足の爪先まで痺れていった。女の舌に私の身体は隅々まで愛撫されて私は男根意外脱力した。女はやがて大きく開いた股に私の男根をくわえ込んだ。女は腰を大きくゆっくりと動かし私の男根の感覚を愉しんで言った。
「好き。好き。貴方、唇を吸って。ああ愛しているわ。ああああ」
愛している?今晩会って直ぐだぞ。それが愛しているって?だが快感が勝りその事を忘れてしまう。事が終わると何時しか眠りに着いた。女は静かに襖を閉めて行った。
翌朝女は朝げを用意してくれた。目線を合わせると頬を赤らめ下を向いてしまう。可愛い。私が草履を履いて立ち去る時、女は「またね」と言って私を送り出した。またお出でと言うのか。その言葉を繰り返して快感を呼び起こすと股間が大きくなった。またね。良い言葉だと思った。
昨夜の言い訳を考えながら歩いていると、許婚の家が騒がしい事に気付いた。急ぎ足で行くと皆の目線が痛々しいのが分かった。背筋が寒くなり許婚の家に入ると其処には白い布を被った許婚が横たわっていた。幾ら声を掛けても肩を揺すっても許婚は起きなかった。葬式はその日の内に執り行われた。籍を入れてなかった私は焼香だけさせて貰った。一晩の内に極楽と深い悲しみを味わった。
私は一週間後、あの女に会いに行った。そして抱いた。愛する者を失ってその穴を埋めるように激しく抱いた。事が終わった時だった。女が言った。
「やはり私の方が貴方をより強く愛しているわ。貴方は私の物よ」
はっ、とした。誰と比べて、より強く、なんだ?私の物?もしかして私の許婚が死んだ事を知っいる?まさか!?
「何で知ってる?許婚が死んだ事を知ってるんだな?」
女は下を向いて何も言わない。だが唇が一瞬ニヤっとした。私は背に寒さを感じ女からはなれた。そして震える声で言った。
「お前は誰なんだ?女を殺したのか?もしやお前は・・・」
そこまで言うと女は寂しそうな眼で笑って
「私をお忘れですか?私は貴方に助けて貰った狐です」
そして一匹の狐になった。どうやら尻尾はまだ分かれていない様だ。ホッとした。良く見ると右前足に罠の痕が残っていた。それはつい先日私が気まぐれに救った狐だった。
「気持は嬉しいが私は人間で貴方は狐です。子供も作れません。実りは無いのです。だから私は貴方とは一緒にはなれません。・・・・・・。それにしても貴方は随分酷い事をしてくれましたね。私の許婚を殺すなんて。殺したいほど憎い。だけど一度肌を合わせた貴方を殺すなんて出来ない。もう此処には来ないよ。達者でな」
そう言い残して彼女の元を去った。悲しみだけを残して。
翌日偶々私が許婚の家の前を通ると笑い声が聞こえた。不思議思い覗くとそこには死んだはずの許婚が笑っていた。
「お前!死んだんじゃないのか!?どうして・・・」
「何馬鹿なこと言ってんのよ。ふざけないでよ」
私はつい前日有った事を全て話した。
「馬鹿ね。狐に騙されたのよ。でも人間相手に浮気されなくて良かった。本当なら婚約解消物だよ」
嫌、騙された訳じゃない。実際に死んでたんだ。まさかあの狐時間を越えれるんじゃないだろうか。もしもそれで人間の運命が操作されたら、狐に都合の良い様に操作されたら、・・・。何れの日にか天下は狐の物だ。だがどうやら狐にはそうした野心は無いようだ。ホッとしている。
あれから私は普通に生活している。変わった事は、もう動物を助けるのを止めた事だ。
(終わり)
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1999-14s『狐火』byあでゅー
月明かりの中を
足元を気にしながら
急ぎ足で歩く
雲が掛かりません様に
祈る
この山を越えたら
あなたの村です
霧に包まれて
ひっそりと息をする
そんな佇まいです
月は霞んでいます
狐火を頼りに歩きましょう
道を外さぬように
こころ囚われぬように
出典:オリジナル
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