家族記念日
2006/07/10 22:47 登録: 焼きプリン
真っ白な砂浜が広がる海辺にその子はいた。待ち合わせがこんな所というのもめずらしい。
今日俺はメル友と初めて会う事になっているのだ。インターネット上で出会ってからもう半年
になる。
海が見える所で会いたいというのが彼女の希望だった。理由は教えてはくれなかった。
俺は20歳の大学生。彼女は17歳の高校2年生という事だった。
彼女はボーっと海を見つめているようだった。不意に風で彼女の帽子が飛ばされる。
ふわりと俺の足元に落ちる帽子。振り返った彼女と目が合った。
「杏子さん?初めまして。和明です」
俺はそう言いながら帽子を彼女に差し出した。彼女はしばらく俺の顔を見つめた後
ゆっくりと帽子を受け取った。
「あ、あの・・・・・・・初めまして。杏子です」
メールでの印象と同じ感じがした。丁寧な物言い。落ち着いた感じ。だが、どこかぎこちなく
心の深いところまでは入っていけない感じ。メールではいろいろな事を話した。趣味や
今はまっている物や、学校での出来事など。
「思った以上に可愛くてびっくりしましたよ」
「そ、そんな事ないです・・・・・・・・・メールでは色々話してるのに、こうやって会うとやっぱり
うまく話せませんね。緊張しちゃって・・・・・・」
「それが普通ですよ。俺も同じです。メールってお互いの顔が見えない分、言いたい事を
正直に書いちゃうでしょう?でもこうやって会うと、お互い生身の人間同士なんだって事を
強く意識してしまうから、うまく話せなくなるんです。俺はそれでも言いたい事を言える関係が
とても大切なんだと思いますよ」
「今思いましたwww和明さん本人に間違いないってwwwwwwww」
「え?何でですか?」
「だって、メールと喋り方同じなんですもんwwwwwwあとそうやって相手を気遣う
やさしい所も」
そう言うと彼女は楽しそうに笑った。それは作り笑いではなく、心から笑っているように見えた。
俺と彼女はしばらく海岸沿いを一緒に歩く事にした。
「和明さん。何で私が海で会いたいって言ったか分かります?」
「もちろん!僕に水着姿を見せてくれるためでしょう!!」
「そんなわけないでしょ!!」
彼女が俺の肘をギュッと握った。
「いてて!!冗談ですよ!!」
初めこそ、ぎこちなかったものの、しだいに俺達は何年も前から知り合いだったかのように
打ち解けていった。彼女の肩にかかる髪。大きな瞳。笑った時の笑顔。
全て今日初めて見たはずなのに、初めてじゃないような不思議な感じがした。
彼女は海を見つめながら、静かに話し始めた。
「メールでも書きましたけど、私、父親を早くに亡くしてるんです。私が小さい頃、沖に流されて
溺れかけた私を父は命と引き換えに助けてくれたんです」
「父親が亡くなったのは聞きましたけど、海で亡くなったんですか・・・・・・・・」
「海を見ると父が見守ってくれてるような不思議な感じがするんです。
だから海で会いたかったんですよ」
そう言った彼女は何だか悲しげに見えた。
「じゃあ、今はお母さんと二人で暮らしてるんですか?」
「ええ・・・・・・・・・」
「俺は逆です。小さい頃に母親を亡くして、今は親父と二人暮らしですよ」
「え!?そうなんですか?何か似たような境遇ですね・・・・・・・・不思議」
そう言ったまま、彼女は黙ってしまった。何か考え事をしているようだ。
俺の母親は俺が小さい頃、先天性の心臓病で死んだ。20歳まで生きればいい方だと
医者には告げられていたらしい。だが、俺の母親は30歳まで生きた。
親父がいつか話してくれた事がある。
母さんが25歳の時、俺を妊娠した。
俺を生むという事は、下手をすると命を落とすかもしれない事を意味していた。
だが母さんは俺を生むと言い張った。そして俺を生み、心臓の方はかろうじて
無事だった。
それから30歳で母さんが死ぬまで、母さんは俺にたくさんの愛情を注いでくれたらしい。
だが、ちょうど俺が物心着く前に母さんは死んだ。だから俺には母親の愛情を
受けたという実感がなかった。親父がそれを語ってくれた日、俺は古いアルバムの中で
母さんに出会った。
海辺で楽しそうに笑っている写真。撮影したのは親父だろう。写真の中の母さんは
心から笑っているように見えた。とても心臓病を患ってるとは思えない。
強い人だ。
自分の人生に悔いを残したくなかったのだろう。じきに訪れる死。それは心を犯す闇だ。
訪れる不安と恐怖に日々戦っていたのだろう。
だが、親父と出会って母さんの人生にも桜が咲いたのかもしれない。
俺を生んでくれた事。自分が死ぬかもしれない事。母さんはどんな気持ちだったのだろう。
次の日、俺は母さんの墓参りに行った。不思議と悲しい気持ちにはならなかった。
それは、母さんが俺に注いでくれた愛情の深さを知ったからかもしれない。
「和明さん?」
不意に彼女の声で我に戻る。
「どうしたんですか。ボーっとして」
「いや、なんでもないです。杏子さんも何か考え事してたみたいだけど」
「あの、私の事杏子って呼び捨てでいいですよ。年下だし、さん付けは何か気持ち悪いです」
「じゃあ、杏子ちゃんで」
「ええwwwwwそれでいいです」
俺達二人は真っ白な砂浜をしばらくあるいた後、海を見つめていた。彼女がゆっくりと話し始めた。
「私のお母さん今度再婚するんです」
それで、さっきから浮かない表情をしていたのか。
「杏子ちゃんは反対なの?」
「いや、そういう訳じゃないいんです。お母さんにも幸せになってほしいし。ただ、知らない人を
お父さんって呼べるかなって。私にとっては、命を張って私を助けてくれたあの人がお父さんだし、
それを私は心の支えにして生きてきたんです。だから、不安が多くて」
気が付くともう夕日が水平線の彼方に消えていこうとしていた。
今日初めて会った彼女とずいぶん深い話をした気がする。もともとメールを通じて色々な事を
話してはいた。彼女が今抱えている不安。俺は彼女の話をずっと聞いていた。
「今日は会えて嬉しかったです。また今度会いませんか?」
「うん。俺も会えてよかったよ。またメールするから。お互い時間が合えばまた会おうよ」
「ええ。ありがとうございます」
彼女を駅まで送ると、彼女は電車で帰って行った。まだ、どこに住んでいるかは聞いてない。
初めて会った日に、そこまでは踏み込んでいけなかった。彼女と一緒に居た今日の時間。
それは、とても楽しかった。何だか、守ってあげたい気持ちになる少女だ。
でも、それは恋愛感情とは少し違う気がした。何だろうなこの感じは。不思議だ。
初めて会ったのに懐かしい感じがする少女。
「また今度会った時に、その訳が分かるといいな」
家に帰るとめずらしく親父が帰っていた。いつも仕事で23時近くに帰ってくるのに。
俺が居間に行くと、親父は座敷の仏壇の母さんに手を合わせているところだった。
「おう、和明帰ったか。待ってたぞ」
「どうしたの?めずらしいじゃん。こんな時間に帰ってるなんてさ」
「お前に大事な話があってな」
「大事な話?」
「俺やっと清美の事を、なんていうか心の中で整理できたんだ」
清美とは俺の母さんの名だ。
「整理できた?どう言う事?」
「いつか、清美がお前を生んだ時の事話しただろ」
「うん。忘れないよ」
「俺は清美が死んでからずっと清美の事を忘れた事はない。いい女だった。俺が清美に
付き合ってくれと言った時、あいつ悲しそうな顔で言ったっけな」
「何て・・・・・?」
「私、20歳までしか生きられないのって」
「・・・・・・・・・・・・」
「あいつ、とても優しい目で言うんだよそんな事。いつも一生懸命なあいつを高校の時
見てて、高3の時告白したんだ」
「ふうん・・・・・・・」
「その言葉を聞いて俺はもうこいつしかいないって思ったんだ。こいつとずっと一緒にいたいって
心から思った」
「母さん、何て?」
「ああ。『私なんかでよければいいよ。短い間だけど』って。でもあいつ20歳過ぎても
生きてた。そして俺達は20歳になった時、学生結婚したんだ。そしてまだ生きてるうちに
いろんな事経験したいって言ってた」
「アルバムに旅行の写真多いけど、何で?」
「清美が色々な場所を目に焼き付けておきたいって言ってな。バイトしまくって金ためて
いろいろな所に二人で行ったな」
「写真にさ、海で母さんが楽しそうに笑ってる写真あるじゃん。あれ親父が撮影したの?」
「ああ。あれは母さんが23歳の時だったかな。あれを撮った後『あたし子供生みたい』って言われた」
「母さん突然だね・・・・・・びびったろ」
「ああ。だって出産なんてしたら、あいつ死ぬかもしれないんだぞ。俺は猛反対した。
清美は写真では笑ってるが、そのあと俺に反対されてこの世の終わりみたいな
悲しい顔してたよ」
「・・・・・・・・・・・」
「海を見ながら必死に清美言うんだ。絶対死なないからって。約束するからって。
自分が生きてた証拠を残したいって。そんな清美を見て俺は泣いた。清美も泣いてた」
「母さん・・・・・・・すごいね。強い人だ・・・・・・・・」
「それでお前が生まれた。あいつ退院して言ったよ。『ほら!生きてるでしょ!』って」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「清美が30歳でとうとう心臓の限界がきて死んだ時、病院のベットにメモ書きがあった。
『今までありがとう。とても幸せでした。20歳までしか生きられなかったはずの私が、
30歳まで生きられたのはあなたからのプレゼントだったのかもしれませんね』って
書いてあった。」
俺の目から涙が流れた。母さんはどんな気持ちでそれを書いていたんだろう。
そんな、今から死んでいく母さんが幸せだったなんて、それを見て親父は何を
感じたんだろう。きっと、親父は大声で泣いたんじゃないだろうか。
「俺はそれがずっと心に残っててな。清美の事を考えると泣きそうになる事がある。
最近になってようやく清美の事を心の中に取り込めたっていうかな、自分の一部
として俺の中に溶け込ませる事が出来るようになった」
「そう・・・・・・」
「俺、今度再婚するから」
「は?」
「大事な話というのはそれだ。大切にしたい人がいるんだ」
「・・・・・そうか。親父強いんだな。母さんも許してくれるよ、きっと」
「清美の事は愛してる。それに嘘はない。ただ、俺もようやく次に進めるようになったんだ」
「親父が決めたんならいいよ。俺は反対しない。母さんも親父に幸せになってもらいたいはずさ」
「そうか・・・・・・そうだな」
「ああ」
「じゃ、今度会う日取りを決めるから、決まったら知らせる」
「でもさ、コブ付きでいいの?相手の女の人?」
「相手にも子供いるんだ。高校生の女の子がいる」
「ええ!!マジで!?」
「仲良くしてやってくれ」
「ああ・・・・・・・・いいけど妹が出来るのか・・・・・・・・・・・」
その日親父が語ってくれた母さんの事を、俺は一生忘れないだろう。
とても切ない気持ちがした。2階のベランダから外に出る。冷たい風が吹いていた。
頭の中で、俺は親父を自分に置き換えてさっきの話を想像してみた。
ベットのメモ書きを見つけた場面を想像したところで、とめどなく涙があふれてきた。
「親父、強いなあ・・・・・・・・・・・・・」
その日、俺は親父の事が今まで以上に好きになった。尊敬できるいい親父だと心から思った。
その時ピローンっとメール音がした。
「杏子です。今度の日曜は用事が出来てしまったので、再来週の日曜に会えませんか?」
そうメールには書かれていた。
「うん、いいよ。今日は楽しかった。また色々話そう」
俺はそう返信した。
次の日、親父が今度の日曜に日取りを決めたと言った。
親父がどんな人を選んだのか興味がある。俺の母親になる人。
妹は・・・・・・・別にいっか。どうでも。
次の日曜まで、時間はあっという間に過ぎた。親父が決めた場所は和食の料理店だった。
大学の合格が決まった時、親父に一回つれて来てもらった事がある。
予約していた席に行くと相手はもう来ていた。一人しかいない。高校生の娘はどうしたんだろう。
席に座っている女の人を見る。何だろう。不思議な感じがする。初めて会ったはずなのにそうでは
ないような感覚。最近似たような感覚を経験した気がする。
「こんにちは。和明さん。古谷洋子といいます」
優しい声だ。年は40代後半といったところだろうか。優しい目をしている。
訳もなく安心できる感じ。ああそうか。写真の母さんの目に似てるんだ。
そうか、だから初めて会った気がしない不思議な感じがしたのか。
「こんにちは。親父からは聞いてます。今日会って親父が選んだ訳が何となくわかりました」
「え?まだ挨拶しかしてないのに・・・・・」
洋子さんは不思議そうな顔でそう言った。
俺は「母さんに優しいまなざしが似ているから」とは言わなかった。
そんな比べるような事は絶対に言いたくはない。この人は母さんじゃない。
そんな事は分かってる。
だが、写真で見た母さんと似た眼差し。いい人そうだ。
「そう言えば娘さんはどうしたんですか?」
と俺が聞くと洋子さんは申し訳なさそうに言った。
「ちょっとお手洗いに行ってるんです。すぐ戻りますよ」
「いやあ、再婚に反対して来なかったのかと思ったよ洋子」
と親父。洋子と呼び捨て。仲はだいぶいいらしい。
しばらく雑談していると一人の少女が戻ってきた。
「こんにちは。俺は・・・・・・・・」
と挨拶をしようとして少女の顔を見上げた時だった。あれ?
どこかで見たような顔。
「き、杏子ちゃん?」
「和明さん!?ど、どうしてここに?」
この間、初めて会ったばかりの少女。メル友の杏子ちゃんだった。
高校生の女の子というのは杏子ちゃんの事だったのか。
なんという偶然だろう。こんなことがあるんだなあ。
「何だ?お前達知り合いか?」
「うんちょっとね」
俺は驚きのあまり、言葉を失った。妹が出来ると言う事はあまり深く考えてはいなかった。
それよりも母親になる人の方に気がいっていたからだ。予想外の事態に何を喋っていいのか
分からなくなった。
「そっか、和明さんがお兄ちゃんになるのか・・・・・・・・・」
杏子はそうつぶやくと小さく笑った。
その後、食事をしながら俺達は色々な話をした。親父達が同じ会社の社員だという事。
偶然、俺の母さんと洋子さんの旦那さんのお墓が隣同士で、お墓参りに行った時偶然
二人が出会った事。それからお互いの事を話すようになり、引かれていった事。
食事を終え、特に問題はなくその日は終わった。
「親父。いい人そうだな洋子さん。俺もあの人好きだ」
「そうか。よかった」
親父は多くは語らず、一言そういった。安心した顔をしていた。
親父は母さんのことを死んでからもずっと忘れた事はなかったのだろう。
本当はもう誰とも結婚するつもりはなかったのかもしれない。
母さん以外の人を好きになる事自体ないと思っていただろう。
それほど母さんの事が親父の中では大きな存在だった。
だが、親父は結果的には再婚を決断した。
俺はそれはすごい事だと思う。
他の人を好きになるというのはどう言う事なのか。死んだ母さんのことを裏切るという
事なのか。俺はそうは思わない。親父は「清美のことを自分の中に取り込めた」
と言っていた。それは恐らく母さんの事が好きだった自分自体を肯定して生きていく
という事なのだろう。再婚したからといって過去の自分が否定されるわけじゃない。
母さんの死を心の中でやっと受け入れ、先に進む事ができたという事。それを死んだ
母さんは怒らないはずだ。あれだけ親父のことを愛していた母さん。
親父の幸せを願ってくれてるはずだ。
海辺の砂浜で一人そんな事を考えていた。
「和明さん」
不意に俺の名を呼ぶ声がする。振り返るとそこには杏子がいた。
「びっくりしましたね。この間初めて会った時再婚の話、和明さんに相談したけど
まさか和明さんのお父さんだったなんて」
「兄妹になっちゃったな。杏子ちゃん」
「本当ですね・・・・・・・・・・・」
しばらく二人で海を見つめていた。
「今から墓参り行かないか?俺の母さんと君の父さんの」
「え?今からですか?」
「うん」
「ええ。いいですよ」
杏子と初めて出会ったとき感じた懐かしい感じ。杏子の母親の洋子さんからも同じものを感じた。
不思議だ。二人とも母さんの優しい眼差しに似ている。一緒にいると落ち着く。
こんな人は世界にもうこの二人しかいないんだろうな。
俺はお墓までの途中そんな事を考えていた。
「本当に私達の親のお墓って隣同士なんですね」
「本当だ。不思議なめぐり合わせだね」
二人でそっと手を合わせて再婚の報告をした。
空を見上げると雲ひとつない晴れ渡った空が広がっていた。
「杏子ちゃん。俺の親父どうだった?この前心配してたでしょ」
「まだ、よくわからないです」
「俺の親父なら大丈夫だよ」
「そう?」
俺は静かに墓の前で、親父と母さんの事を話した。あの日親父が俺に語ってくれたように。
それは、親父がどういう人間なのか分かってもらえる一番の方法だと俺は思ったからだ。
杏子は黙って聞いていた。
「和明さんのお父さん、強い人ですね・・・・・・・・」
杏子はうつむいたまま、そう言った。
地面に落ちる一粒の雫。
「泣いてるの?杏子ちゃん」
「へへwwwwwwこれからは私のお父さんでもあるんですねwwww」
そう言って顔をあげた杏子は笑っていた。目にはまだ涙がたまっている。
「親父の事好きになれそう?」
「もちろんです。今日ここに来てよかったです。和明さんのお母さんも、私のお父さんも
きっと祝福してくれてるはずです。本当に愛し合っていたからこそ、祝福してくれる
はずです」
「うん。俺もそう思う」
「お兄ちゃんwwwww」
「へ?」
「今日から和明さんは私のお兄ちゃんです」
「そうだね」
「私もう敬語やめる。和明さんと出会えた事。私達の親達が出会った事。
とても素敵な事だよ。お兄ちゃんも出来たしwwwwww」
「俺達家族だもんな。敬語は変だよ」
「今日の事で全てのわだかまりが消えた感じがするの。きっとこれから私達家族には
楽しい事いっぱいあるはず。だよね?お兄ちゃん!」
「何か恥ずかしいな・・・・・・お兄ちゃんなんて呼ばれた事ないから」
「あら。これから毎日言うよ。お兄ちゃ〜んってwwwwwww」
「それにしても、こんな事がなかったら俺達恋人同士になってたかもしれないな」
「ふふふwwww」
「何今の意味深な笑顔」
「そうだねwwwwでも私はお兄ちゃんが出来たほうが嬉しい」
二人で見上げた空には相変わらずまっさらな青空が広がっていた。
これから新たに始まる俺達の新しい家族と未来の行方。
それはこの澄んだ青空が語っている気がした。
不意に杏子が走り出す。
「お兄ちゃん早く!バス出ちゃうよ!」
新しい家族。これからの生活。きっと楽しいはずだ。
杏子の笑顔を見てそう感じた。
1年後。
「もう!お兄ちゃん!何あのトイレの張り紙!!右を見ろって書いてあるのに
矢印が左向いてるから思わず左見ちゃったじゃん!『こっちは左だバカ』とか
書いてあるし!」
「お前は左右も分からないのか?俺は悲しいぞ。アホ妹だとは思っていたが、
まさか左右も分からないとは・・・・・・・・」
「何それ!つられて見ただけじゃん!!」
「文字を読め、文字を。母さんに報告しないといけないな。あなたの娘は
左右も分かりませんよって」
「バカ兄ちゃん!」
「何だ和明。朝から騒々しいなwwww」
「ちょっと、聞いてよ親父。母さんも。杏子がさあ」
「お兄ちゃん!!言ったらひどい目にあわせるよ!!」
空は今日も澄み渡った晴天が広がっていた。
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