俺とミキと蛍の丘

2006/08/15 12:25 登録: えっちな名無しさん

俺はその日、役者見習いの勉強が終わるとこの場所に来ていた。
祖母が無くなる前に教えてくれた場所。祖母はこの場所を『蛍の丘』と呼んだ。

「久しぶりに来たな。この場所。駄目だ俺。ここに来るといつも泣きそうになる」

祖母が亡くなる前、俺は世の中に意味を見出せないでいた。別に自分が居なくても
回っていく世界。それどころか自分が周りにケムたがられてる状況。あの時まだ20歳にも
なっていなかった俺だが、消えてしまいたかったあの頃。

「ばあちゃん・・・・・・・・」

もともと体の弱かった祖母だが、入退院を繰り返すにつれて、いっそう体調は悪くなっている
ようだった。ある日、祖母が仮退院で家に帰宅が許されたという事で、俺と親父は祖母の様子を
見に行った事がある。夜の10時すぎ。俺は祖母に呼ばれた。

「陽平や。元気でやってるかい?」
「・・・・・・・・・・うん」
「陽平の事、おばあちゃん心配だよ。あんたは強がっているくせに寂しがりやだから」

DQNの俺が寂しがりやか・・・・・・・・・・・・・・・
おばあちゃんだけだ。そんな事言うの。

「何か心配事でもあるのかい?陽平」
「ばあちゃん。心配って言うより、俺もう疲れたよ。将来の夢もないし、何をしていいかわからない」
「陽平・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

祖母は俺の名をつぶやくと、俺の顔をしばらく見つめていた。優しい目をしていた祖母。
今も鮮明に覚えている。

「陽平や。いい所に連れて行ってあげるから、車椅子持ってきてくれるかい?」
「どこに行くのばあちゃん?体に障ると悪いから家に居たほうがいいよ」
「すぐそこだから」

俺が後ろから車椅子を押して、着いたその場所は、祖母の家の裏手の道を10分ほど歩いたところにある
小高い丘だった。周りが木々に覆われており周りからは見えない場所になっているようだった。
祖母の家には何回も来た事があるのだが、こんな場所があるとは知らなかった。

空気が澄んでいる。胸いっぱいに空気を吸い込んでみる。不思議と気が休まる。精神が落ち着く。

「陽平よーく見ててごらん」

しばらくすると、暗闇にフッと小さな明かりがともる。小さくかすかに鼓動している光。
木々に囲まれた小高い丘の上にある場所。そこは小さな無数の光に包まれた。

蛍だ。

月明かりがかすかに漏れる程度のこの場所に、無数に輝く蛍。その光景に俺は言葉を失った。

「ばあちゃん。凄いねここ。綺麗だ・・・・・・・・・・」
「ここは、私とおじいちゃんしか知らないのよ。秘密の場所」

ふっと、俺の肩に一匹の蛍が止まった。それを見つめながら、俺は自分の過去を思い出していた。
高校の先生をムカついてぶん殴った事。何日も家に帰らず家族に捜索願いを出されていた事。
やがて、クラスから孤立していった事。高校を卒業したあの日、自分が何をしたいのかわからず、
心底怖くなってきた事。色々な事が頭を駆け巡る。

気が付くと無数の蛍が俺の周りに集まっていた。

「陽平や。お前蛍に好かれてるよwwwwこんな事ってめずらしいよ」
「俺・・・・・・・・ここ好きだ。心がまっさらになる感じがする・・・・・・」

ふと俺の目から涙がこぼれる。何か見つけなきゃ。自分が心からやりたいと思えるものを。
そしてDQNも卒業しないとな・・・・・・・・・・・・

祖母が亡くなったのはその3日後だった。家族や親戚の前では俺は無表情でいた。
家族には泣いている所を見られたくなかった。葬式が終わり、火葬場で焼かれていった祖母。
祖母の骨を拾う時も、俺は無表情だった。

そのかわり、祖母が教えてくれたあの場所で、涙が枯れるまで泣いた。

「ばあちゃん。俺、真人間になるよ・・・・・・・・・・・・・・・」

俺は『蛍の丘』でそう誓った。

あれから1年。状況は少し変わった気がする。俺は劇団に入り、昼は役者見習いとして芝居の勉強。
夜はコンビニでバイトの生活だ。そして、我が家に従姉妹のミキが同居人として加わった。
迎えに駅まで行った時、久しぶりに見たミキは相変わらず背は伸びていないようで小さかった。

俺と並んで歩くと明らかに不釣合いである。しかし、俺はミキの笑った顔が昔から好きだ。本当に幸せそうな顔を
してミキは笑う。それが周りにも伝染していくのか、ミキの周りではいつも笑顔が絶えることはない。

「陽平兄ちゃん、役者になるの?」
「ああ。やっとやりたい事みつけたんだ。芝居っていいよな」
「お兄ちゃんwwwwwwww」

そういうとミキは急に笑い出した。

「なんだよ。別にいいだろ。笑うなよな」
「いや、なんかさ、あのDQN一直線だったお兄ちゃんが、そんな事言うと思わなかったんだもん」
「DQNは卒業したの!あの運命の日にな!」
「何?運命の日って?大げさに言ってんじゃないのwwwwwwww」
「あれは俺だけの秘密だ」
「まあ、別に聞きたくないけど」
「教えないもんねー!」
「聞きたくないもんねー!」

こ、こいつ・・・・・・・・・
そういえば、ミキって何しに上京してきたんだっけ。親父からは詳細を聞いてなかった。
ただ、都会で一人暮らしは危なくてさせられないので俺の家で一緒に暮らす事になったとだけ
聞いている。

「ミキって何で上京してきたんだっけ?」
「私もお兄ちゃんと一緒。役者目指すの」
「ええ!!まじで!?」
「うん。将来は芸能人よ!!」
「そ、そうか頑張れよ・・・・・」
「何その態度。私は本気ですからね!!」
「お、怒るなよ。ちょっとビックリしただけだって」
「ならいいけど」

蛍の丘で真人間になると誓ってちょうど1年。俺は1年ぶりに訪れたこの場所で今までの事を
振り返っていた。役者になろうと思ったのは、今までの自分と決別するためだった。
芝居を通して全く違う自分になれる気がした。少なくともキッカケにはなる。

「今日は蛍出てないな」

祖母が亡くなる前に一緒に見たあの景色。祖母の心配する気持ち。色々なものをあの時俺は受け取った。
だから、俺は祖母の気持ちに応えなくてはいけない気がした。それが、今やってる芝居なのかはまだ分からない。
だが、今は前と違って毎日が楽しい。以前の暗い気持ちには、あれからなった事はない。

「おばあちゃんには、恩返ししきれないな」

大きく深呼吸し胸いっぱいに空気を吸い込むと、俺は蛍の丘をあとにした。

「ばあちゃん。、また来るから」

数日後、コンビニのバイトを終え、帰宅の途中の事だった。

ピローン

メールの着信音がする。開くとミキからだった。どうせ帰りにデザートでも買って来いとでも
言うつもりだろう。バイトの終わる時間に合わせてメールを送って来るところがずうずうしい。
俺は、深いため息をつきながらメールを開いた。

「陽平お兄ちゃん。あたし今から死ぬから」

何だこれは。一瞬頭が真っ白になる。冗談にしてはひどい。
シーンとした静寂の中、俺の心臓の音だけが大きく鳴っていた。
嫌な予感がする。夜の暗闇が俺の不安をいっそう助長させる。

「おいミキ。冗談はやめろよ。笑えないぞ」

そうメールを返すも返答はない。俺は全速力で家に向かった。
一体何なんだ。なぜこんなメールをいきなり送ってくる?
あのいつも楽しそうに笑っているミキからは全く想像できない。

家の玄関の扉を開ける。いつもと変わりない我が家の光景。
まだ親父は帰っていないようだ。

「おいミキ!!」

大声で叫ぶ。だが返事がない。
2階のミキの部屋に行く。勢いよくドアを開けるとミキは背を向けうずくまっていた。

「おい、何だよあのメール!心配するだろバカ!」

ゆっくりミキが顔だけこっちに向ける。ミキは泣いていた。
じゅうたんに赤い斑点の模様が小さくしみこんでいる。

「お前何してんだよ!!」

ミキの左手首を引っ張る。一本の赤い筋がそこにはあった。

リストカット。

「ちょっとそこにいろ!!手首をしっかり押さえて止血しろ!!」

急いで1階の用具入れから包帯と消毒薬を持ってくる。
ミキの手首をよく見ると、それほど深くは切っていないようだ。
命に別状があるような傷ではない。

「陽平お兄ちゃん汗びっしょりだね」

ミキは深く沈んだ瞳を俺に向け、そう言った。
プチッっと俺の中で何かが切れた。

「ふざけんな!!」

俺の平手がミキの左頬をヒットした。

「どれだけ心配したと思ってんだ!何で手首切ってんだよお前!!」
「うるさい!!私の事なんか本当は心配じゃないくせに!!本当はどうでもいいって
思ってるくせに!!」

ミキはそう叫ぶと、俺を押しのけて部屋から出て行った。

「何なんだよ一体・・・・・・」

しばらく放心していると、バタンとドアの音がした。まさか出て行ったのかあいつ。
こんな時間に何考えてんだ。また死のうとか思ってるんじゃないだろうな。
すぐにミキの携帯に電話をかける。すると部屋の隅から着信が聞こえた。

「置いていってやがる・・・・・・・・」

すぐに家を出る。どっちに行ったんだミキのやつ。

「おーい!!ミキー!!」

俺はありったけの大声で叫んだ。だがそれもむなしく暗闇に溶け込んでいった。
近くのコンビニ。繁華街。神社。本屋。どこにもいない。
ふっと俺の脳裏に昔の記憶が蘇る。

ミキが小学生の時、夏休みを利用して遊びに来た事があった。
俺はミキを色々な所に連れて行った。ミキは心から楽しんでいるように見えた。
だが、帰りに立ち寄った公園でミキは声を出して泣き出した。

母子家庭のミキには父親がいない。学校でもその事をからかわれた事があるらしい。
たまにその事で急に不安になることがあるという。小学生のミキにはつらい事だった。
周りと自分は違うのだと言う事を嫌でも意識させられる。今日は一日その事を忘れていられた。

楽しかった。

だが、それが終わりに近付くにつれて、寂しさがミキを襲ったのだ。
俺はあの時ミキの手を握って

「俺がいるだろ。寂しくなんてないぞ」

と言った。ミキは小さく笑った。帰り際の電車のホームで俺は叫んだ。

「いつでも電話しろ!」
「うん!!陽平兄ちゃん!!」

あれから随分経つが俺にとっては大切な思い出だ。あの時の公園にいるのではないか。
俺は瞬間的にそう思った。

小さい頃の思い出。それはミキにとっても大切にちがいない。
ミキはその公園にいた。ブランコに腰掛け空を見つめていた。

「やっと見つけたよミキ。全くお前は心配させたら世界一だよまったく」
「よく、ここが分かったね・・・・・・・」
「ここはお前との大切な思い出の場所だ。たぶんここだと思った」
「お兄ちゃん。覚えてたんだ」
「忘れる訳がないだろ。大切な思い出だ」

しばらく、無言のまま空の星を見上げる。空にオリオン座が見えた。
不意に俺とミキとの間に強い突風が吹いた。ブランコから落ちそうになるミキ。
俺はミキを抱き寄せた。

「危ないなあ。大丈夫かミキ」
「う、うん・・・・」

ミキの頬が赤くはれていた。俺のビンタのせいなのは一目瞭然だ。
俺は濡れたハンカチをミキに差し出した。

「痛かったろ。すまん」
「・・・・・・・・」
「悪かった。女を殴るなんて最低だな俺」
「そんな事ないよ。私の事本気で心配してくれたから、おもいっきり叩いたんでしょ」
「ああ」
「・・・・・そっかwwwww」

何故かミキはそれを聞くと笑った。

「なにがあった?」
「うん・・・・・・・何かあったというより、いつものネガティブモードに入っただけ。
心配させてごめん」

ミキの心には未だに暗い部分があるのだろうか。生きていく上で絶対的に信頼できる身内。
それは家族だ。ミキにも家族はいる。仲はいい。
だが、ミキはそれをいない父親に求めているのかもしれない。

心の支えをミキは持っていないのかもしれない。
ミキの心にはいつも孤独が住み着いているのかもしれない。
それはとても寂しい事だ。

帰り際、ミキが別れた彼氏にしつこく言い寄られて困っているという話を聞いた。
話している時、ミキの声は震えていた。別れを告げた時、押し倒されてキスを無理やりされた
らしい。今もしつこく電話してくるという。

それが、ミキの心の暗い部分に拍車をかけたのかもしれない。
男性不信。ミキの支えのない心。全てをミキは背負いきれなかったのだろう。
結果、リストカット。何とかしないといけない。ミキの心を救ってあげたい。

数日後、例のミキの元彼と最悪な形で出会った。コンビニでちょうど、おでんを仕込んでた時の事だ。
ピローンとメール音。

「やべ、控え室に置いてくるの忘れてた!!」

あわてて携帯を控え室に置く。

「誰からだろ」

開くとそれは、ミキからのメールだった。

「今、例の公園!お兄ちゃん助け」

慌ててうったのだろう。文章が途中までしか書かれていない。
もう一人のバイトに「すぐ戻るから!」と告げ、急いで公園に向かう。
何があったんだ。

コンビニの制服のまま公園に着くとミキと若い男がいた。
「いいから、もう一度俺とやりなおせよ!!」
その言葉ですぐにピンときた。こいつが例の元彼か。ふざけやがって。
お前のせいでミキはリストカットしたんだぞ!?

「おい!何してんだテメエ!!」
「陽平お兄ちゃん!」

ミキの安堵した顔が見えた。対照的に引きつった男の顔。
「何だてめえ!消えろボケが」
プチッ俺の中で何かが切れた。高校の時担任を殴って以来、俺はもう二度と人を殴らないと決めた。
だが、その事を俺は激怒ですっかり忘れてしまっていた。

ボコっと、一発腹にもらう。
「殺すぞボケが!関係ないヤツがシャシャリでてきやがって」

それから数分後。
「お兄ちゃんもうやめて!!」
俺は馬乗りでその元彼の顔を殴り続けていた。
ミキの悲鳴で我に返る。元彼の顔はボコボコだった。

「二度とミキに近付くな」

元彼はおびえた顔で逃げて行った。
おばあちゃんごめん。俺、またやっちゃったよ・・・・・・・・

「ミキ大丈夫か?何か変な事されなかったか?」
「大丈夫。ありがとう。陽平お兄ちゃん絶対来てくれるって信じてた」
「あまーーーーい!!!!」
「そんな、コンビニの制服で言われても」
「俺バイトの途中だったんだった。やべっ!!!!!」

ミキを家に送ると急いでバイトに戻る。
バイト中、今日の事を思い出していた。確かに結果的にはミキを助けた。だが根本の部分は
何も変わっていないのかも知れない。今日の事がまたミキの心に闇を燈したら。

「おばあちゃんが俺を救ってくれたあの場所ならミキを救ってやれるかもしれない」

ミキに次のようなメールをうつ。

「10時にバイト終わるから、家で待ってろ。連れて行きたい所がある」

「どっか行くの?こんな時間に?いいよ、ずっと家にいるから」

バイトを終え帰りに劇団の仲間からある物をかりた。
家に帰ると親父の車のトランクにそれをしまう。家に入るなりミキが飛びついてきた。
「どこいくのー?」
「親父の車でいくから。先に乗ってろ」

途中俺達の間に会話はなかった。ミキの横顔をチラッと見る。悲しげな顔をしていた。
普段は明るい。でも俺にはそれが心から笑っているとは思えなくなった。
あのリストカットの日から。

「着いたぞ」
「ここおばあちゃん家じゃん」
「こっちだ」

あの日、おばあちゃんを車椅子で押していった時のことが脳裏に浮かぶ。
あの時のおばあちゃんも、こんな気持ちだったのだろうか。切ない気持ち。
だが、不思議と安心するこの場所の空気感。

蛍の丘に着く。だが、蛍は出ていなかった。
俺はゆっくり話し始めた。

「ミキ。ここが俺を救ってくれた場所だ。おばあちゃんと最後に過ごした場所でもある」
「え・・・・・いつか行ってた運命の日がなんとかってやつ?」
「ああ。不思議な場所だ」

ミキは不思議そうな顔で俺を見つめていた。

「ミキ。俺はお前の事本当に大切に思ってる。今じゃ、俺の大切な家族だ」
「・・・・・・家族?」

ミキの顔が一瞬曇る。

「ああ。小学生の時公園でお前泣いた事あったろ?あの時俺はお前を絶対に泣かせたくないと思った。
いつも笑顔でいられるようにしてあげたいと思った」

ミキは黙って聞いていた。

「おばあちゃんが救ってくれたこの場所で、俺もお前を救ってあげたい。
お前は孤独じゃないって事を、お前に嫌でもわからせてやるから、ちょっと待ってろ」

車のトランクからギターを取り出す。

「何?勘当お兄ちゃんギター弾けるの?」
「ちょっとだけな」

近くの大きな石に腰掛けると俺は静かにギターを鳴らし始めた。

「このイントロ・・・・・・・少年時代?」

そうミキが言った時だった。ギターの音色に誘われるように、無数の蛍が暗闇にポッっと燈る。
やさしい空気が流れる。。俺の下手糞なギターにあわせて少年時代を歌う。
心にフッと訪れる小さい頃の楽しかった毎日の思い出。悩みなんか無かったあの頃。

無数の蛍の幻想的な光と、ギターの音色と、少年時代の思い出。強烈に思い出されるのは
やはり、公園で「俺がいるじゃないか」とミキに告げた事。

ミキの方を見ると、ミキはやさしい目をして泣いていた。あの日のお婆ちゃんの目に似ている。
歌い終えるとミキの周りに無数の蛍が群がる。
ミキは泣きながら両手をひろげていた。全身で何かを感じ取っていた。

俺はそっと近付きミキにキスをした。

「ずっとそばにいるから」

俺は蛍の中心にいるミキにそう告げた。

「悩み事何でも聞くから」

「うん・・・・・・・」

ミキは優しい目をしてそう応えた。やがて、蛍は暗闇に消えていった。
この場所は言葉じゃなく心に訴えてくるものがある。
ミキにそれが伝わったと信じたい。一人じゃないと心で感じてくれたと信じたい。

言葉で言う事なんていくらでも出来る。でも、ミキを救う事が出来るのはこの場所で
俺の言葉を心で感じてくれる事だと思った。

帰り道、ミキは何も話さなかった。ただずっと幸せそうな顔で微笑んでいた。
その横顔を見て俺はもう大丈夫なんじゃないかと思った。

不意に「恋人繋ぎ」をしてみる。

「もー!!何か暑いと思ったらwwwwww」

その笑顔は 心から笑っているようにみえた。

俺は蛍の丘を見上げ、こう言った。

「おばあちゃん。ありがとう」

しばらくして、俺は祖母の墓参りに行った。もちろんミキと二人で。
何でおばあちゃんは俺にあの場所を教えてくれたんだろう。
お爺ちゃんとの思い出の場所と言ってた。

墓石にそっと水をかける。

「お兄ちゃん、どうしたの?ボーっとして」
「いや、俺さおばあちゃんの事もちろん好きだったけど、今の方がずっと好きになってる
気がする。不思議だよな」
「あたし達の事を本当に思ってくれてたことを、あたしたちが今理解したからだよ。
お兄ちゃんが、おばあちゃんと最後に過ごした日の事忘れないように、あたしもお兄ちゃんと
蛍の墓に行ったこと忘れないよ」
「忘れてくれ」
「へ?何で?」
「何か、ものすごくキザな事をした気がする。思い出すと恥ずかしい」
「確かに、キザだった!くせーくせーwwww」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「やだ、嘘だって!感謝してるよお兄ちゃん」
「そうか?」
「勝手にキスもされたし」
「し、してねーよ!」
「したじゃん」
「あれは、ほら、その、なんだ」
「いいからいいから」

しばらく俺達は祖母の墓の前で笑っていた。
その様子を祖母はきっと笑って見ていたに違いない。

その後、祖母の遺品を整理していた時ある日記を見つけた。
戦争に行った祖父が帰ってくるのを日々待っている祖母の日記だった。

読み進めていて俺はある一文に絶句した。

「今日、一郎さんの戦死の報告が来た」

毎日びっしり書かれていた日記が、その日だけ短くそう書かれていた。
真っ白な空白がひどくシワになっている。

おばあちゃんの涙の跡だ。

一ヵ月くらい経ったある日、祖母は信じられない物を見る。
蛍の丘でボンヤリしていたら蛍の群れと共に一人の男性が現れたのだ。

祖父だった。

戦死の報告は間違って出されたという事が後で判明したのだが、祖母は
祖父が生き返ったと思ったに違いない。

「信じられない事が起こった。ボンヤリと暗闇の蛍を見ていたら林の奥の方から
誰かが歩いてくる音がする。蛍と共に現れたのは一郎さんだった。あたしは
一目散に一郎さんの胸に飛びついた。言葉が出てこなかった。あたしはひたすら
一郎さんの胸で泣いた。すこし落ち着いてから一郎さんはゆっくりと

ただいま

と言った。それを聞いてあたしはまた泣いた。やさしくあたしを抱きしめてくれた一郎さんの
手が温かかった。ああ、本当に生きてるんだなと実感した。よかった。また一郎さんに会えた」

日記の最後の一文をみて俺は泣いた。

祖母の家の庭に出て、大きく息を吸った。





また、来年祖母と祖父の墓参りに行こう。
ミキと一緒に。

出典: 
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(・∀・): 160 | (・A・): 52

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