俺が食ったのは何だ
2006/08/18 00:56 登録: えっちな名無しさん
こんばんは。怪談の季節という事で、僕にも怖いというか不思議な体験談があるので書かせてください。
僕は趣味でバイクに乗ります。それもオフロードバイクで林道ツーリングをするのが好きなのです。
それは3年ほど前の秋の終わり頃の事です。僕は「雪が降ったら通れなくなるからな」と思い、信州のとある林道にツーリングに出掛けました。そこは比較的整備された新しい林道で、お天気も良く快適な走りが楽しめました。
さてそうこうするうちに時計は午後三時を回りました。その頃はだいぶ日が短くなってきたし、僕は帰える事にしました。
ところが。
帰路は行きに通った道をそのまま引き返すはずだったのですが、どうやら枝道に入ってしまったのか、行きに通った路面と違い、道幅も狭く荒れた路面になっていきました。
実のところ僕はかなりの方向音痴だったのでした。
「あれ?ヤバイなあ、道間違えたかなあ」
山の日暮れはつるべ落とし。空はどんどん暗くなってゆきます。林道ツーリングする方なら理解できるでしょうが、林道での迷子はもの凄く心細い事なのです。暗くなった山間部は目標物も少ないし、林道マップを見ても一体どこを走っているのか分かりません。
「ガスの残量は?」「果たして俺帰れるのか?」心細さが増す中、僕は真っ暗になった林道で地図の上で麓の街のある方向を腕時計に内蔵のデジタルコンパスで確認し、その方向の道を選びながらバイクを走らせました。日が落ちた初冬の山はかなり冷え、春秋物のジャケットではブルブルと震えを感じてきました。それに朝から走りどうしで飯も食べてなくお腹も空いてきました。
もう何時間も走ってる気がする。寒い。疲労もピークです。もう泣きが入りそうになった時、前方に明かりらしきものが見えたのです。
「助かった〜。どうにか麓まで下りて来られたんだなあ」と空腹と寒さから逃れられる安堵の思いを噛み締めながらその明かりに向かってバイクを走らせました。
その明かりの前に到着し、バイクに跨ったままそこが何なのか見てみると。どうやら古びたドライブインのようです。ただ、看板も無く、食堂らしき場所も薄暗い白熱電灯が灯っているだけで人の気配はしませんでした。
僕は「まだやっているのかな? 人は居るのかな?」と思いながらバイクを止めて降り、確かめに向かいました。
近づくと、何か焼きもの料理のような香ばしい匂いが漂ってきました。どうやら食堂らしき所からにおって来るようです。
「おっ!まだやってるんだな。もう寒いし腹ぺこで死にそうだし、何か食わして貰おう」と思い、その食堂の戸のサッシに手を掛けました。
サッシ戸は開きました。
「やっぱやってるんだ」そう思い、「こんちは〜!誰かお店の方居ますか〜」と声をかけました。
だが何の返答もありません。だけど調理場の鍋からは湯気が立っている。そしてセルフサービスらしき棚には、さっき嗅いだ匂いの元だろう焼き肉らしき物が皿に盛りつけて置いてあります。僕は更に大きな声で呼んでみましたが、やはり何の返答もありませんでした。
僕はもう空腹に耐えかね、「セルフならお金を置いておけばいいだろう」と思い、その料理をいただく事にしました。
その料理は手の平ほどの大きさの大きなブロック肉を焼いた物で、照り焼き風のタレをかけて焼いたのか、それは食欲をそそる見た目と匂いでした。
僕はもう堪らず一気にかぶりつきました。
う、美味い! ちょっとスジっぽく硬めの肉だが絶妙なタレの味付けだ。
「これ何の肉なんだろう? 鳥かな?それとも豚かな?」そんな事が頭をよぎりましたが、空腹のために続けざまに四個も食いました。
そして。空腹が満たされたのか、疲労のせいなのか、僕は猛烈な睡魔に襲われました。食堂内を見回すと畳敷きの飲食スペースがあったので、睡魔に負けそうな僕はそこで少しだけ仮眠させてもらう事にし、バックパックを枕にして横になった。僕にはそこまでの記憶しかありません。
ふと朝の明るさと冷気を感じて目を覚まし、時計を見るともう翌朝でした。ところが。辺りを見回して僕は愕然としました。
「あれ?俺あのまま寝込んじゃったのか。って何?ここどこ? えっ、食堂に居たはずじゃ…」
そこは何かの廃工場のような建物の倉庫内のようで、寝込む以前とはまるで関係のない場所でした。
「夢でも見てたのかな…」納得がいかないけど出発する事にし、バイクのミラーに写った自分の顔をみると…。口の周りに何かが付いている。
「あの肉のタレだ!」舌を回して舐めてみると確かにタレの味だ。
「やっぱ現実だったんじゃないのか? だってこのタレの味は…」
結論は出せませんでしたが、とにかく僕は出発しました。道はすぐに麓の集落の所に出ました。そして集落にある個人経営の小さなガソリンスタンドで給油した際に、給油してくれてるオバちゃんに尋ねてみました。
「ねえオバちゃん、すぐそこの○○林道入り口近くにドライブインというか、食堂みたいな店有るよね?」
「ええ? 食堂? そんなもん無いよ。お父さん!あの林道近くに店なんか有ったかね?」
「お父さん」と呼ばれたご主人は、
「あの辺りはなあ…。そういやあ県の「犬管理所」があったなか。でもとっくに廃止されて廃屋になっとるぞ」
「あのう、「犬管理所」って何なんですか?」
「ああ、そりゃ、とっ捕まえた野犬や野良猫を殺して焼いて処分するところだな」
そういえば僕が寝込んでしまったあの施設には赤サビた煙突と焼却炉のような物があったが…野良犬猫の処分場だったのか。
野犬や野良猫を殺して焼却処分…。
ま、まさか…。そのまさかの想像をした僕は鳥肌が立ちました。
ある種の犬の肉は大変美味だという。韓国では犬鍋があるというし。
僕は確かに食ったのを覚えてる。あのタレの味を。鳥でも豚でも牛でもない味の肉を!
僕は…あの幻か現実かも分からない食堂で、一体何の肉を食ったんだ!
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