地上最強の鈍感野郎(前編)
2004/06/27 01:44 登録: えっちな名無しさん
前に、某スレに書き込んだときは「旅先で・・・・。」というタイトルだったので、
その時に、端折った思いでを書き込ませてください。
なぜ今ごろになって書き込もうと思ったかと言うと、
先日加奈ちゃんと食事に行ったときに、泣きながらこう言われたから。
「鈍感野郎さんの目に、私は映っているだけ?私を通して貴方は、前の彼女さんを見ているの?
私は前の彼女さんの代わりなの?こんなんじゃ、悲しすぎるよ・・・・。」
これを聞いたとき、彼女の目から流れ落ちる涙をみたとき気が付いた。
なんて俺はアホなんだろうと。
まだ16の子供だと思っていたがやはり女性、俺の本質のうじうじしている部分を見抜かれたわけだ。
一度美樹の事をすべてぶちまけてすっきりしたい、と言うのがホントのところ。
美樹がいなくなって、1年も経っていないのにもう他の女と食事か?と思われる方もいると思う。
実際に、俺の周りの何人かはこう思っていると思うし、逆の立場なら俺もそう思う気がする。
後で書くが、美樹の妹と、元同僚の佐々木の言葉は、俺の心に焼き付いている。
2人とも美樹のことが、本当に好きだった。
頭では分かっていてもやはり心のどこかで、納得できない部分が多分にあるらしい。
でもさ、もし自分の意思に反して、好きな相手を縛り付けているのに気が付いたらどう思う?最悪でしょ?
それに、いくら悲しんでも美樹は戻ってこない。ならば、少しでも早く美樹を安心させてやろう。
そう思って、立ち止まるのは止めた。
実際は多くの方の励ましで、その決意が出来たんだけどね。
前置きが長くなりましたが、もし不快になる方やアドバイス、意見等がある方は、
どんどん書き込んでいただけるとうれしいです。私も現在、霧の中を手探りで進んでいる最中なので、
現在進んでいる方向があっているのかわからないのです。
あと、旅先スレと場面がダブルところもありますが許してください。
美樹と出会ったのは、ある昼下がり。その日俺は、あてもなくバイクで街を流していた。
ふと周りに目をやると、リクルートスーツ姿の学生が目に付く。
「ああ、もうそんな季節か。」
そんなことをつぶやきながら・・・。しばらく走っていると道路の隅を遠慮がちに走っている原付が1台。
しばらく後ろについて走っていると、信号待ちでエンスト。
何回もセルを回してはいるものの全くかかる気配はない。
このままじゃバッテリーがいかれると判断した俺は、バイクを止め
「どうした?見てやるよ。」と、声を掛けた。
突然知らない人に声をかけられた美樹は、かなりおびえた様子だったがおびえながらも、
メットを取りこうつぶやいた。
「突然止まっちゃったんです・・・・。どうしよう・・・。」
まず、ガス欠を疑ったがメータはFを指している。
でも、バイクを揺するとガスの音がしない。
そう、このバイクはガスメータがFの所で止まったまま壊れてしまっていたのだ。
俺は、こういう本人が解決できるトラブルのときは、なるべく手を貸さないようにしている。
苦労を1度すれば2度と同じ過ちは、繰り返さないと思っているから。
そういうわけで、俺は美樹にこう声をかけた。
「ただのガス欠だね。バイクで5分くらいのトコにスタンドが有るから、そこまで押していこうか
俺もつきあうからさ。20分も押せばつくと思うよ。」
俺がそう言い、自分のバイクを押し始めたとき美樹は大粒の涙を流しながら、
泣き出してしまった。
「えっ?どうしたの?」
の問いかけに
「試験間にあわない。」
とだけ答えた。慌てた俺はバイクのタンデムシートを指差し
「乗る?送ってやるよ。」
と言った。美樹は
「いいの?」
と言い、俺は
「急いでるんだろ?」
こう答えた。
遠慮がちに、タンデムシートに座る美樹。場所はここからそう遠くないし勝手知ったる地元。
裏道を駆使しつつ、何とか時間内に到着した。美樹は、何度も御礼を言っていた。そして
名前を教えて欲しいといっていたが、
「時間無いんだろ?早くいきな。」
といい、会場内へ送り込んだ。
ある日いつものように出社すると、会社の連中が何か騒いでいる。
俺がその横を通り過ぎようとすると、奴等は口々にこう言った。
「おい!今年の新人達は上玉そろいだぞ!写真見てこいよ!」
この騒動は春が近づくにつれ、益々エスカレートしていった。
バイクで人助けをした事などすっかり忘れてしまった翌年の春、
新人達が研修を終えて各部署に属される事となり、皆で歓迎会をやろうと言う事となった。
俺は呑みに行くなら気心知れた奴等2〜3人で行くのが好きで、
そういう大人数で呑みに行ったりと言うのが大の苦手。
ツーリングとかも同じ。ただの我侭かも知れないけど、あまりの大人数だと自分の
止まりたい所で休憩も出来ないし、気が変わったからといってルート変更もできないから。
そんな訳で、1次会は仕事が忙しいと言う事でサボり。
そのうち2次会も出たくなくなり一緒に残業をしていた後輩に、
「俺2次会もパス。皆に忙しすぎてそれどころじゃないって言っといて。」
と言った。
友紀は、
「何言ってんですか?子供じゃないんだから。タクシー呼んであるんだから早く支度してくださいね。」
と、怒られ渋々会場へと向かった。(今思うと、非常に情けない・・・・。)
2次会の会場はカラオケ屋。部屋の中から澄んだ女性の歌声が漏れてきている。
かなり盛り上がっているようだ。
俺たち2人が入室すると同時に、歌を歌っていた女性がマイクを通してこう叫んだ。
女「あ〜!!あのときのあの人だ〜!!」
俺「????」
女「ほらー覚えていませんか?前にZ?でガス欠したとき助けてくれたじゃないですか〜!
あれからバイクに興味を持ってTWにグレードアップしたんですよ〜!」
俺(???Z?に乗った女子高生?Z?からTWにグレードアップ?どう考えてもグレードダウンだよな?
大型は18才からだよな?高校生じゃ無免だよな?そもそもZ?に乗った女なんて忘れるわけ無いじゃん。)
俺の頭の中は?マークだらけ。
女「まだ思い出さないんですか〜?」
これが俺と美樹の再会だった。
このやり取りはマイクを通して行われている為、皆に筒抜けなわけだ・・・・。
会場は大盛り上がり。俺と美樹の関係捜査大会となってしまった。
友紀「あ〜!だから来たくなかったんだ〜っ。高校生に手ぇだしちゃって。」
同僚「彼女と同じ会社になれてよかったねぇ〜。」
友紀「いつまでとぼけてるんですかぁ〜。」
俺「????????????????」
友紀と同僚達のなかで、ここじゃ話しにくいだろうから、3次会でゆっくり追求しよう
と言う結論になったらしく、俺たちは6人で3次会へ突入した。
奴等は俺を追及しても話が進まないと判断し、美樹を尋問し始めた。
奴等「なに?鈍感野郎さんにどこで引っ掛けられたの?」
「付き合ってるの?」
「あの人すっとぼけてるけど、どうする?殴っとく?」
美樹「いや、前にガス欠のときに助けてもらっただけなんですよ〜っ。」
そこまで話を聞いて俺はやっと思い出した。
俺「あ〜っ。あのときの子か!でもさっき君Z?乗ってたって言ってたじゃん。」
美樹「??そうですけど??」
前のほうの指摘どおり、彼女は同級生にからかわれ「セピアZZ」を「Z?」と教え込まれ
それをずっと信じていたらしい。
俺は30分近くZ?とZZの違いについてじっくりと教え上げた。
その後6人で思う存分騒いでいた。その時友紀が
「タクシー2台呼んでおきましたから、頼みますね。」
と言った。
「任せとけ!。」
俺はこう答えた。
今思えば、友紀は俺に美樹を送らせたかったんだと思う。
でも俺はすっかり勘違いをしており、最も安上がりな方法で解散したい
と言う意味だと勘違いをしていた。
その後会はお開きとなり、俺たちは帰り支度を済ませ、タクシーを待つ。
タクシーが到着し俺たちは、タクシーに分乗し帰宅することとなった。
俺は、1台目のタクシーに美樹と同僚の佐々木+2人を乗せ、3人に
「おいお前ら、しっかり送ってやれよ。俺はコイツ(友紀)と帰るから。」
と言い、美樹にも
「こいつらがしっかり送ってくれるから。じゃあね。」
と言った。
友紀は、「えっ!」と言う表情をしたがすぐに普通の表情に戻り
美樹たちに
「気を付けてね。変な事されたら殴っていいからね。」
とか言って笑いながら、タクシーを送り出した。
ちなみに俺と友紀は、家が同じ方向。そして奴等4人も同じ方向
当時の俺にとっては、最も合理的かつ、最高の判断だった。
奴等を送り出した後、友紀がこう言った。
「ちょっと!!何考えてるんですか!?」
本気で怒ってる。
「なにが?」
「なんで送ってってあげないんですか?!それになんで私と帰るなんて言うんですか!?」
「何で俺が送るんだ?だって俺あの子と家反対方向だろ?俺とお前は同じ方向だろ?合理的じゃん。
それにいつも会のたびに一緒に帰ってるじゃん。何で今日に限って怒ってるんだ?」
「本気で分かんないんですか?」
「ああ。なんで怒ってるの?」
「もういいですよ・・。あの子カワイソ」
友紀は、タクシーの中で大きくため息をついてずっと窓の外に視線を移したまま
一言も言葉を発しなかった。
今なら後輩が怒ってた理由もわかるし、怒られる前に率先して美樹を送ったと思う。
でも当時の俺には、なぜ友紀が怒っていたのか全く分からなかった。
一連の出来事により、俺が成長した証拠かもしれない。
週明け出社すると、やはり例のウワサは社内中に広がっていた・・・。
「なんか、凄い事になってるな。まあ身から出た錆だ。」
なんて慰めだかなんだか良くわからない言葉で、仲間達は俺を慰めてくれた。
昼休みになり、俺は仲間と昼食を取りながら、週末のツーリング話やバイクの話題で盛り上がっていた。
その時、入口のほうから声がする。
「あー。鈍感さんはっけーん。」
美樹は、俺の対面に腰掛け食事をしながら俺たちの話に入ってくる。俺達も美樹のペースに飲み込まれ
皆でバイクの話題で盛り上がっていった。
「で、週末ツーリングどーする?どこ行く?」
「うーん・・・。○○は、行ったばっかりだしなぁ。」
「△△は、どう?」
「でも、3人じゃ寂しいなぁ。」(俺と佐々木と後輩のこと)
などと話していると、美樹が俺の袖口を引っ張った。
「ん?」
俺が美樹のほうを振り向くと彼女は、自分で自分を指差しおどけていた。
「来る?」
「行く。」
こんな感じで、ほとんど言葉を話さずに美樹の初ツーリングの日程は決まった。
金曜日俺は美樹にちゃんとした服装で来るようにいい、美樹も
「わかりました!!」
と元気よく返事をした。
当日、集合場所に俺がつくころには、佐々木と友紀が到着していた。俺たちはしばらく談笑し、
美樹の到着を待つ。でも、待ち合わせ時間を過ぎても美樹はこない。
おかしいと思っていたら、俺の携帯がなった。
「あ、鈍感さん?道に迷ってるんですけど、ここどこかわかりますか?」
かなり間抜けな質問だ。
「わかるわけないじゃん。近くになんか目印とかないの?」
「大きい家がある。」
「・・・・・・・。それじゃわからん。電柱とかに町名とか書いてあるでしょ?」
「■■町って書いてある。」
俺たちのナビゲートを頼りに、美樹が集合場所に到着したのは、
約束の時間を1時間ほど過ぎた後だった。
遅れた美樹は、本当にすまなそうな顔をしていたが、俺が一番驚いたのは美樹の服装だった。
メットは半ヘル(DQN仕様じゃなく、昔のレーサーが被っていたみたいなやつ+ゴーグル)
Gパンは、ふくらはぎの途中までしかないやつ。
上着も前腕の半分までのやつ。
靴下はくるぶしより短いやつ。
もちろんグローブ無し。
もろ、街中のお姉ちゃん仕様・・・・・・。
「なあ?その格好でツーリング行くの?」
「え?ダメですか?」
「まわりを見てみな?そんなカッコのやついないよ?」
この道の駅は、俺の地元ライダーがよく集合場所にしているところで、
多くのライダーが集まる。彼らとの格好の違いに気がついたのか、美樹は
下を向いて黙ってしまった。
「もし転んだりしたら、その格好じゃ危ないから今日はやめとこ?」
この言葉に、佐々木も友紀も同意する。
「ちゃんとした装備買ったらいつでも一緒に言ってやるからさ。」
「ホントにまた誘ってくれます?」
「いつでもOKだよ。」
そういじける美樹を慰めながら、俺たちは岐路についた。こうして美樹の初ツーリングは終わった。(w
美樹を送り届けた後、俺たちは解散し俺は家で眠りについた。
時間寝ただろうか?突然携帯にメールがきた。
たしかこんな文章だったと思う。
「美樹です。装備買いました!!道の駅にいます。今から行きましょう!!
さっき、いつでもいいって言いましたよね?」
俺はその件で他の二人に連絡した。
「あの子から、装備買ったからツーリング行こうってメールが来たんだけど・・・・。」
「えっ!?もう買ったの!?でも私お風呂入ってたんですけど。」
「でも、既に道の駅で待ってるって・・・。」
「マジですか!?じゃあ私も行きますから鈍感さん先に行っててくださいよ。」
佐々木とのやり取りもこんな感じ。
3人ともまさかその日の午後に、装備を揃えて来るとは思いもよらなかった。
道の駅に俺が到着したのはメール受信から1.5h後位だろうか?俺の姿を発見すると美樹は、
「これなら大丈夫ですか?」
と、誇らしげに装備を自慢し始めた。よほど嬉しかったのか、その話はなかなか終わらない。
上着がいくらで、どの色にしようか迷ったとか、どのメーカと迷ったとかそんな話。
しかしその出で立ちは、どこから見ても立派なライダー。ショートの髪と相成ってどことなく
彼女は凛々しく見えた。
しばらくすると他の2人も到着。またしても美樹は装備の自慢をはじめた。
話は尽きない。終わらない。とどまる事を知らない。
「ねぇ。このままじゃツーリング行く時間無くなっちゃうよ。」
との友紀の一言で、ツーリング2ndROUNDはスタートした。
コースは決まっているいつも暇なときに軽く流す走りなれた道。
俺たちは、佐々木を先頭に、美樹、友紀、俺の順番で出発した。
後ろから見てても、とても安心感がある隊列。佐々木も美樹のペースに合わせて
ゆっくりと路面変化の少ないラインを走っているし、
友紀も必ず美樹のミラーに移りこむように走っている。
そんな中、美樹はとても楽しそうに走っていた。
2時間くらいでツーリングは終了。俺たち4人はとあるファミレスで、夕食を取る事にした。
ここは俺たちが、いつもツーリングの帰りや計画を練るのに利用する場所。
席もいつもと同じ、バイク置き場が見える窓際の席。
そして、美樹と最後に会った場所・・・・
そこで、雑談をしていると美樹が、マップルに赤い線を引き始めた。
佐々木「何してんの?」
美樹「へへ〜。これからツーリングでとおった道に赤く線を引いてくんです。地図がどんどん赤くなっていく
のってなんか楽しそうじゃないですか?」
俺「でも、朝はごめんね。」
美樹「しょうがないですよ。あんな格好じゃまともに走れないですからね。でも、私をいじめた罰に
来週も4人で行きましょ。」
友紀「そんなに、楽しかった?」
美樹「はいっ!!」
ここまで喜ばれては、いやな気分になるやつなんていないだろう。
そんな感じで、美樹は俺たちとつるむようになっていった。
ある日の夕方、俺たちは居酒屋でバイクの話題で盛り上がっていた。
美樹「みんな今までどんなバイク乗ってきたんですか?」
俺「初めてのやつが、VT250F→CB1→サンダーキャット→ホーネットだね。」
佐々木「俺はZZR250→ZZR400→ZZR1200」
友紀「私は、CB400SF→フーチュラだよ。」
美樹「鈍感さんのバイクだけ全くわからない・・・。」
この話の中で、俺の車歴について数多くの突っ込みが入ったのは言うまでもない。
こんな形で盛り上がり会は、解散の運びとなった。
帰り際佐々木が
佐々木「じゃあ、俺美樹さんと同じ方向だから送ってくよ。」
俺「ああ、じゃあな。」
友紀「・・・・・・・・!!」
しばらくして、
友紀「なんで、送ってかないんですか!?」
俺「だって佐々木が送るって言ってるの阻止するわけには行かないじゃん。」
友紀「う〜。ちょっと付き合ってください!」
俺は、近くの焼き鳥屋に連れ込まれた。
友紀「まったく!アンタ達二人は気がつかないんですか?」
俺「なにが?」
友紀「ここまで来ると、鈍いとか通り越してアホですよ!女の子が出すサインに気がつきなさいよ!」
ビールを飲みながら、説教は続く・・・・。
友紀「いいですか?そもそも女とは・・・・・・・」内容まではよく覚えていないスマン。
週明け佐々木が、ファミレスで言う。
「美紀さんな、帰り道一言も話さないんだよ。なんか悪いこと俺したんかなぁ?」
俺「でも、さっきまで普通に話してたじゃん。」
佐々木「うん。だから良くわからん。」
友紀「ほんとに、分からないの?」
2人「うん。」
佐々木「話は変わるけど、今度のツーリング3人で行かないか?」
さすがに俺たちも、250ccの初心者ペースでのツーリングが続いていたせいで久しぶりに
本来のツーリングを楽しみたかったところ。3人とも同意見だった。
そこへ美樹がやってくる。
「あ集まってますね。今度はどこ行きます?」
赤い線が増えてきている地図を開きながら、そう答える。
俺「悪いんだけど、今週は都合が悪いんだ。また今度にしよう。」
美樹「むう。分かりました・・・・・。」
ほんとに残念そう。
週末俺たちは、久しぶりに本来のペースでツーリングを楽しんだ。
月曜日、俺が食堂に行くと美樹がいつもの席で立っていた。
俺の姿を確認すると、みるみる顔が紅潮してきている。
(ヤバイ!!泣く)
俺は、そう確信した。
美樹は、大粒の涙を流しながらこう言った。
「3人で私を騙してツーリング・・・。私は邪魔だったんだ。」
他の2人に視線を送ると、
俺は言ってないぞ!のゼスチャーをしている。
尚も話しは続く、
「バイク屋のおじさんに聞いたもん、3人でツーリングに行ったって・・・。」
何とか3人で美樹のご機嫌をった。
しかし、その日から美樹は、10日ほど会社を休み連絡も取れなくなっていた。
社内では俺との別れ話がこじれたとか、好き勝手な事を言ってるやつもいたが、
俺たちは特に気にしなかった。
何も進展がないまま、10日が過ぎたころいつものファミレスに美樹がいた。
「へっへ〜。これを見ろ。」
免許証だった。そこには大自二の文字が・・・・・・。
「自分、免許取り行ってたの?」
「そうだよ。合宿で。」
「・・・・・・・・・。」
三人とも、怒る気がうせた。
そのうち、美樹が言う。
「そーいう訳で、バイクかして下さい。前に貸してくれるって言ってましたよね?」
俺「気を付けてな。こけたら弁償な。」
美樹「大丈夫だって。じゃあ、いってきまーす。」
美樹は、キーを受け取ると一人走っていった。
30分ほど経つが帰ってこない。心配になり、3人で窓の外を見ていると美樹がやってきた。
店内に入ると、美樹は少年のように泣きだし、何を言っても泣くばかり。
30分以上も泣きつづけた。
口から出る言葉は、
「ごめんなさい。転んじゃいました・・・・・・・・」
これだけ。
ここまで謝罪されるともう、どうでも良くなってくる。
俺は、
「気にしなくていいよ。どうせバイクはこけるもんだから。楽しくやろうよ。」
と言った。正直美樹にそんな金があると思わなかったし。
ただ、家に帰って被害状況を確かめると、タンクが凹んでた。結構ショックだった(w
その後、美樹はことあるごとに
「修理は必ず私がします!お金ためてるんで少しまっててください。
勝手に修理しちゃダメです!」
と言っていた。
それからも、いろいろな所へ行き沢山2人で笑った。沢山我侭に付き合わされた。
本当に、美樹は手がかかる子供みたいだった。でもそれが楽しかった。
あるとき、いつものファミレスで美樹と2人で次回のツーリング予定を立てていた。
美樹「今度のツーリングは、2人でいきません?」
俺「何で?人数多いほうが楽しいじゃん。」
美樹「どうしてもです。」
俺「まあ、いいけど。」
美樹「約束ですよ!!破ったら泣きますからね!」
沢山の赤い線が引かれた地図を目にしながら、計画はどんどん練り上げられていく。
大体計画が決まったところで計画は、お開きとなった。
別れ際美樹はこう言った。
「今度のツーリングでは、驚くべき事が起こるよ。」
と、
美樹に質問しても、
「秘密です。当日のお楽しみです!」
の一点張り。そんなやり取りのさなか、佐々木たちが店に入ってくる。
美樹は、佐々木たちを見るとそそくさと逃げ出すように、店を後にした。
シングル独特の排気音が遠ざかる・・・・・。
佐々木「あの子、どうしたの?なんか顔真っ赤だったけど・・」
俺「よくわからん。あとさ、今週末のツーリング俺と美樹で行ってくるよ。」
佐々木「ん?珍しいなお前が女と2人で行くなんて。」
佐々木が帰宅した後も、友紀は俺の目の前で、ずっとにやけていた。
友紀「ついに、初デートですか?」
俺「そんなんじゃないよ。」
友紀「またまたぁ。照れちゃって・・・・・。男女が2人で外出なんてデート意外何者でもないじゃないですか。」
俺「そんな事言ったら、俺とお前はどうなんだよ?」
友紀「それは、例外です!!」
そんなくだらない話題で、2時間ほど盛り上がっただろうか。
俺も帰宅し、眠りについた。
間が空いて申し訳ありませんでした。
夜中、俺の携帯がなる。友紀からだった・・・・。
「いま、鈍感さんの家の前にいる。すぐ着替えて出て来て・・・・。」
声が震えている。急いで身支度を整え外に出ると、友紀はタクシーに乗り込んだ。
そして、俺もそれに続いた。
「どうした?なにかあったのか?」
「・・・・・が・・・・った・・・・。」
「え?」
「美樹ちゃん、死んじゃった・・・・・。」
目の前が真っ暗になった。
「うそだろ!」
「・・・・・嘘じゃない・・・・・。」
タクシーは、そのまま病院へ向かう。
友紀に先導され、病院の一室に向かう。俺は何か違和感を感じたが、それどころではなかった。
そこに、美樹はいた。彼女はまるで眠っているようで、今にも、いつもどおり、
「ねすぎちゃった。ゴメン。」
などと言いながら、眼を覚ましそうだった。
「おい。何寝てんだよ・・・。起きろよ。おい!!起きろ!!!」
俺が取り乱すと、誰かが俺の頬をはたいた。友紀だった。
「何取り乱してるんですか!?こんなんじゃ、美樹ちゃん安心して天国に行けないでしょ!」
冷静さを取り戻した俺は、友紀と部屋を出て自販機の前で色々話した。そして彼女にしがみつきながら泣いた。
その時俺は、先ほど感じた違和感の正体が分かった。その場にいた人間で、慌てているのは俺だけだったのだ。
「なあ、友紀。お前いつからここにいる?」
「・・・・・・・・」
「嘘言ってもダメなのはわかるよな。」
「5〜6時間前からです・・・・・。」
「なんですぐに、連絡してくれなかった?」
「言えません。これだけは・・・・。」
こんな押し問答をしていると、一人の女性が俺に声をかける。美樹の母親だった。
母親の話によると、美樹は母親が病院に駆けつけたときは、まだ意識があったらしい。
そして、俺には事故に会ったことを黙っていて欲しいと頼んだと言う。
理由は、俺が事故のことを知ると、もうツーリングに連れて行かなくなると思ったらしい。
そして、もう置いてきぼりはいやだと言ったという。
俺のほんの軽い行動が、ここまで美樹を傷つけているなんて思いもよらなかった。
なおも、母親の話は続く。そして彼女は、一冊の日記帳を俺に手渡した。
(すまん旅先スレでは、自宅でとなっていますが間違いです。)
それは、美樹が常に持ち歩いていたもの。
中には、様々な出来事が書き込まれていた。
日記によれば、ツーリング初期のころは、楽しいとか、嬉しいという言葉ばかり。だが、
ページを進めると、こんな言葉が増えてくる。
「私がいるせいで、鈍感さんたちがおもいっきり楽しめていない。私が足手まといになっている。」
「友紀さんがトラブルと鈍感さんは、手を出さずに見ているだけ。でも私の場合は、何もいわず手を貸してくれる。
私は、まだ認めてもらっていない。」
俺たちが美樹を、置いて出かけた日はこう書かれていた。
「最悪だ。愛想をつかされたかも知れない。早く手のかかる妹分ではなく、1人の女として認めてもらいたい
友紀さんみたいに。」
自校の間も日記にも、「また転んだ。」とか「うまく行かない。」とかそんな文章ばかり。
俺に合わせるために、影でここまでしているとは・・・・・・。
中には、こんな文章も
「鈍感さんは、私の気持ちに気が付いているのだろうか?2chに書き込もう。気が付いてくれることを期待して。」
これを見たとき本当に、自分が最低な人間に思えたね。俺だけが美樹に合わせていると思っていた。
でも、美樹はそれ以上に背伸びをして、俺に合わせていた。俺に気が付かせずに・・・・。
しかも俺は、今まで美樹の事は
可愛くて、明るくて、人懐っこくて、くよくよしない。そんな子だと思っていた。
でも本当は、傷つきやすく、頑張りやで、寂しがり屋で・・・・・。
俺は、美樹の表面しか見てなかったわけだ。
話が出来すぎている。とか思われる方がいるかと思いますが事実なんです。
もうこんな出来事は、味わいたくない。
このとき確信した、美樹は俺のことが好きだったと。そして、俺も美樹が好きだったと。
でも、もう遅い。どうしようもない。自己嫌悪、後悔。ここまで自分が嫌になった日は初めてだった。
涙が止まらない。怒りが収まらない。でもどうしようもない。
友紀が言う。
「我慢する事ないよ。誰にも言わないからさ。でも、悲しいのは鈍感さんだけじゃない。それだけはわかってね。」
友紀は眼に涙を溜めながらそう言った。2人でずっと泣いた。
思う存分泣きはらした後、再び美樹の部屋の近くに行くと母親がこう言った。
「葬儀の際は、オートバイで来て頂けませんでしょうか?」
意味がわからなかった。なぜ娘の事故の原因で来させるのかが・・・・・・。
いったん帰宅し、布団に入るがやはり眠れない。目をつぶると美樹が笑いかけてくる。
どうしようもなくなり、佐々木たちに連絡を取り、いつものファミレスで待ち合わせ。
つい、いつもどおり4人分のドリンクバーを注文してしまう。3人しかいないのに。
ファミレスに集合しても誰一人口を開くものはいなかった。
葬儀の当日美樹の家にバイクで行くと、母親が
「あそこにとめてあげて下さい。」
と車庫を指差した。そこには、ピカピカのファイアストームと革ジャンが・・・。
「あれは、娘が貴方をビックリさせようと買ったんです。これに乗れば一人前だとか言って。」
その時の美樹の様子を事細かに話してくれた。本当にわくわくしていたらしい。
ファイアストームの隣に、俺のバイクを置く。
その両脇にフーチュラとZZ-R・・・・・。
「これが、美樹が望んでいた風景か・・・・。これが、驚くべき事の正体か・・・・。」
再び、涙が溢れ出してくる。止まらない。
葬式の最中も全く状況は変わらなかった。
葬式が終了し、いつものファミレスで時間をつぶす。また誰も話さない。
何時間か時間をつぶし、帰宅するとポストに宅配便の不在通知が。
見覚えのある字体。見覚えのある名前。美樹からだった。
時間的にもう営業所は閉まっている。たまたまそこにいた職員が目にとまる。
「頼む!!開けてくれ!!どーしても今この荷物を受け取りたい!!」
「え?私カギを持っていないものですから・・・・。明日お越し頂けませんでしょうか?」
「明日じゃダメなんだ!今じゃなきゃ!頼む!」
生まれて初めて泣きながら土下座した。
分かってくれたのか、職員の方は携帯でカギを持っている方に連絡を取ってくれ
俺は、無事荷物を受け取る事が出来た。
帰宅後、荷物を開封する。
中には革ジャンと一通の手紙。手紙にはこう書かれていた。
「お誕生日おめでとうございます。ずっと好きでした。このジャケットが
ぼろぼろになっても一緒にいてください。」(原文のまま)
という文章だった。美樹が言った驚くべき事の正体は、これだった。
悲しみのあまりすっかり忘れていたが、その日は俺の誕生日だった。
また悲しくなった、でも佐々木たちに愚痴るわけにも行かない。だから俺は
2chの雑談スレに愚痴ったりした。そこの方に、美樹の書いた文章を探し当ててもらった。
そこには、なんて事のない日常が本当に楽しそうに書き込まれていた。
またしても涙が止まらない。そして俺の中でこんな方程式が出来上がりつつあった。
美樹の事故の原因=バイク=美樹を殺したもの
では、美樹にバイクを教えたのは誰?
美樹が死んだのは、俺のせい????俺が美樹を殺した???
バイクが本当に憎たらしくなった。自分自身が許せなかった。
部屋の隅でひざを抱え、悩みつづけた。そんな中突然、頭の中にある歌のフレーズが流れ出した。
もう10年近く前の歌なので、タイトルもアーティスト名もわからない。歌詞も間違っているかもしれない。
(知っている方がいたら教えてください。)
こんな曲・・・。
「あの日 あの時 君と出会っていなければ こんなに悲しむ事もなかったと思う
でも会わなけりゃもっと不幸せだった。」
ここしか覚えていない。
このフレーズで随分救われた。短い間だけど随分美樹には笑わせてもらった。
出会わずにいたより随分マシだったと自分に言い聞かせた。
翌日出社すると、予想通り俺達(特に俺)は、話題の人物になっていた。
周囲の好奇そして、憐憫の目に晒された。
とくに、ウワサ好きなおばちゃんたちは性質が悪かった。
「何かあったの?」
「鈍感さんの彼女亡くなったんですって。」
「まぁ!かわいそお〜。」
こんな調子。
そのたびに、友紀はウワサをする奴らに直接文句を言いに言ってくれていた。
自分もつらいだろうに・・・・。
一応、仕事をしてみるがやはり手につかない。
いつもみたいに美樹が柱の影から、飛び出して
「どーんかーんさん!!今日お昼何食べます?おかず半分こしましょーね。」
なんて言ってきそうで、つい周りを見渡してしまう。
午前中俺の仕事は、全く進まなかった。
そんな勤務態度に友紀の怒りが爆発した。
「いいかげんにして下さい!!何しに会社に来たんですか!?
仕事できる状態じゃなきゃ帰って休んだらどうですか!私だって!私だって・・・・。」
泣きながら怒られた。そりゃそうだ友紀にとっても美樹は大事な友人だったのだから。
そのまま帰宅する・・・・・。でも、いつのまにか美樹のことを考えている自分がここにいる。
テレビをみても、画面に映るカップルや笑い声が憎たらしくて、すぐに電源を消してしまう。
目に映るもの全てが憎悪の対象だった。
眠ろうとしてもダメ。空腹感も感じない。
友紀は毎朝毎晩、俺を心配してくれて食事を作りに来てくれた。でも当時の俺には、それが
苦痛だった。友紀の前ではしっかり食事をしたふりをしていたが、友紀が帰った後すぐ吐いた。
そして1人になりたかった。
ある日、俺のやり場のない怒り(八つ当たりともいう)。が友紀に炸裂した。
「煩い!一人にしてくれ!余計な事すんな!!ウザイんだよ!!お前だって心の中じゃいい気味
だと思ってるんだろ!?笑ってるんだろ!?>あwせdrftgyh△●□dfsgはh‖〃ヾ」(後半自主規制)
「そんなわけないじゃん・・・・。私の事そんな目でみてたんだ・・・・・。ごめんね鈍感さんの気持ちを
考えてなかったね。」
友紀は静かに泣いた。
大声で泣かれるより、数十倍心が痛かった。
しばらくして、佐々木が部屋に乗り込んでくる。
「テメー!自分ひとりが悲しいと思ってんのかよ!」
いきなり殴られて、投げられた。大乱闘の後、奴はこう言った。
「そんなお前をみて、美樹ちゃんが喜ぶと思ってんのかよ!」
なおも話は続く。
「実は、俺美樹ちゃんに惚れてて、前に告白したんだ・・・・・。
でも、あの子はお前しか見てなかったよ。あの子のためにも元気出してくれよ。」
佐々木の言葉はかなり重たかった。奴も美樹の気持ちに気が付いていた。
自分の惚れた女が違う男に惚れている。そしてその女は、違い男の気を引こうと
頑張っている。そのことを知っていながら4人でつるんでいたのは
本当に辛かっただろう。
「なあ。区切りをつける意味で走ってこいよ。約束してたんだろ?」
佐々木が言う。
気分転換をしたかった俺は、その案に賛成し集合場所へバイクを走らせた。
もらったジャケットを着て・・・・・。
途中まで友紀と佐々木が随伴してくれる。
その日はかなり暑い日で、走っていても汗が流れ出てくる。
おそらく、美樹がいたらこんな会話がされていたことだろう。
「鈍感さーん。暑い〜。」
「だってこれ着て来いっていったの自分じゃん。」
「でも暑い〜。」
「じゃあ脱ぐ?」
「脱がない・・・・・。」
リアルに情景が想像できてメットの中でにやけてしまう。でも、それが現実となることはない。
美樹はもういないのだから。そのことを不意に思い出し、また泣いた。
友紀と佐々木に気付かれないように、そこからは一人で集合場所を目指した。
出典「バイクにまつわる恋愛話」
http://www8.tok2.com/home2/love2ch/donkan/donkan_2.htm
すみません、こちらが先です。UPミスりました。

(・∀・): 271 | (・A・): 74
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