祖父の話
2006/10/30 09:58 登録: いちろう
今から六十年以上前、広島の祖父が東チモールに戦車兵として従軍していたころの話です。
大戦末期ではありましたが、祖父は戦闘らしい戦闘は経験していませんでした。
そんなある日、祖父が深夜に兵舎の見回りをしていると、窓に軍服を着た兵隊の姿が浮かび上がってきたそうです。
一瞬反射かと思った祖父でしたが、よくみるとそれは海軍の制服でした。
その人物は、祖父に敬礼をしてすっと消えてしまいました。
祖父は何故か直感的に『ああ、兄さん』と呟いたそうです。
祖父の兄は海軍で駆逐艦(浦風だか磯風・・・だったか?)に乗艦していたそうです。
その夜、祖父の夢の中に兄が出てきて、
『すまんのう、わしゃこの世の人間じゃないけぇ、もう戻れんわ。○○、みんなをたのむわ、すまんのう』
と泣きながら祖父に敬礼し、消えていったそうです。
その後、終戦から二年後にやっと故郷に帰った祖父は兄の駆逐艦が東シナ海で撃沈されていたこと、それはちょうどあの夢を見た日だったことを知り、号泣したそうです。
私がその話を聞いたのは、十年ほど前、呉での慰霊祭へ向かう車の中でした。
その慰霊祭で見た祖父が泣きながらする敬礼は、どんな戦争映画よりも悲しく、勇壮で、いまも心に残っています。
長々と失礼しました。
出典:オリジナル
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