食卓の計略
2006/12/08 21:47 登録: 焼きプリン
少しづつ本格的な冬が近づいていた12月のある日の事だった。
家で母親と夕食の準備をしていた時に妹は暗い顔で帰って来たのだった。
「おう。由紀お帰ぇりんごりら」
「ただいまんごりらぁ・・・・・・・」
まるでカバンに鉄アレイでも入れているかのようなダランとした格好で自室へ向かう妹の姿があった。
「もうメシだよ」
「うん・・・・・」
何だろう。やけに暗い面持ちで妹はそう言った。学校でなにかあったんだろうか。
そんな時だった。電話がけたたましく鳴った。
「はい、鈴原ですけど」
「あ、新ちゃん?」
「おう。サツキか」
「新ちゃん由紀ちゃん帰ってきた?」
「今帰ってきたよ。何かやけに暗い顔してたけどさ」
「由紀ちゃんさあ、今日告白して振られたんだよね・・・・・」
「え?マジで!?」
「うん。新ちゃんさあ、今日くらいは優しくしてあげなよ?いつもの調子じゃだめだよ」
「それで暗かったのか」
「ちゃんと帰ってるようで一安心。あたしも結構慰めたりしたけどさ、新ちゃんも優しくしたげなよ?」
「それは約束できないなあ」
「なんで!!」
「何か急に怪しいじゃん。幼馴染のお前はいいかもしんないけど、兄貴にはそういう事知られたくないんじゃないの?」
「うーん、それはあるかも・・・・・・・」
「まあ、俺なりに慰めてやるから」
「うん。さりげなくね」
「ああ。ありがと」
「うん、じゃあね。あ、由紀には電話かけた事黙っといてね」
なるほど。妹は振られて悲しんでいるという訳か。
妹に気づかれないようさりげなく慰める必要があるな。
「新一、今の誰?」
母さんが出来上がった料理をテーブルに運びながらそう言った。
「母さん秘密だよ!」
「何が」
「由紀さあ、今日振られたらしいんだよ。だからさあ、さりげなく慰めてあげよう」
「まあ。由紀がねえ・・・・・・青春ねえ・・・・」
「そこでこの孔明が策を用意した」
「何ね孔明って」
「妹を慰める策、それは『本社から製品回収の命令キタコレ』の策!!」
「またあんたは余計な事を考えてるんでしょ!!」
「ちょ、母さん俺は本気で心配してだね・・・・」
「で、どうすんのwwwww」
「この人ノリノリだよ・・・・」
「母さん協力しちゃうwww」
「じゃあ、将軍に策を授ける。耳をかせい」
なぜかノリノリな母さんに策を授けていると妹が降りてきた。
「いただきマングース」
何だ。誰だ今のは。妹だ。
「なあ、由紀。普通にいただきますでいいじゃん」
「何か文句あんの!!」
「い、いや、その・・・・・・」
「何や!!」
「沈黙の妖精もさ、今はご飯な訳。それをお前遠くから『いただきマングース』なんか聞こえてきてみろ。ちょっと半切れで仕事していくぞあいつら」
「妖精なんかいるわけないじゃんバカ!!」
「・・・・て母さんがさっき言ってたよ」
「ちょwww、新一母さんに責任転嫁しちゃ駄目よwwwww」
妹が黙々と夕食を食べ始めた頃合を見計らって将軍に合図を送る。
なぜかウインクしてくる将軍。
「母さん、ドレッシングある?」
「あるわよん」
「あ、これこれ。やっぱサラダにはこのドレッシングだよね!」
「新一、よく振りなさいよ。混ざってないからそれ」
「そうか!振らないとね!!」
「そう!!よく振って!!」
将軍と一緒に「振る」を連呼しながら妹の様子をうかがう。
「由紀の分も振ってやろう!!」
「母さんも振っちゃう!!」
妹の眉毛がピクンと動いた。味噌汁の豆腐をつかんでいた箸を止めゆっくりと顔を俺達二人に向けた。
「何さっきから・・・・・・」
「え?ドレッシングじゃないか!!なあ母さん!!」
「え?母さん??そ、そうね!ドレッシングね!!」
「ドレッシングが何だって・・・・・?」
「いや・・・・・何でもないです・・・・・」
沈黙の妖精が切れ気味で3分間ほど我が家の食卓を飛びまわった後、俺は本題の作戦に移行した。母さんに目で合図を送る。すると母さんは俺に向かって再びウインクをした。
「お母さん、何で兄貴にウインクしたの今?」
「え?見えちゃった?」
「由紀。俺と母さんはな。ただならぬ関係なんだ」
「ただならぬ関係って?」
「なぜ母さんが最近肌ツルツルなんだと思う?」
「ええ!?ちょ、二人もしかして・・・・・・?」
「そうだ!!お前の想像した通りだ!!」
「信じらんない!!親子で何やってんの!!いつからそんな関係なの!!」
「先週友達にもらったエステの割引券を母さんに渡してからだな」
「え?エステ?」
「そうよ。新一にエステの割引券もらったから、母さん行っちゃった!おかけでほら、母さんスベスベ!!」
「由紀何を想像したんだ・・・・・・・!?」
「うるさい!!普通の関係じゃん!!」
「いや、エステに行くなんて、それはただならぬ事だろう」
「うるさい!!」
そろそろいい感じで妹がキレてきたな。よしよし。
母さんは妹に漬物が乗った小皿を置いた。
「お兄ちゃん醤油とって」
かかった!!
「申し訳ございません。たった今本社のほうから連絡が来まして、製造された醤油に異物が混入している可能性があるようなのです。お客様の安全性を考えて、今一時的に販売を停止させていただいてます。申し訳ございません・・・・・」
「はあ?」
「我が社としましても安全を第一に考えた上での事ですので、なにとぞご了承ください」
「何言ってんの?馬鹿じゃない。早くそれ取ってって!」
「いえ、お客様・・・・・わが社の信用問題に繋がりますので、それだけは勘弁してください・・・・・・・」
「お客様じゃねーよ!!早く取れって!!」
「じゃあ、代わりにポン酢でお召し上がりください・・・・・」
「何で漬物にポン酢かけなきゃいけないの!!あたしゃマニアか!!」
「お客様!!私はお客様の事を考えて言っているのですよ!!」
「早く取れよコイツ!!イライラさせやがって!!」
「ああ、おやめください!!それは異物が!!」
「うるさい!!」
パクッと漬物を食べる妹。
「うえっ!!これ醤油じゃなくてコーラじゃん!!まずう!!」
「m9(^Д^)プギャー!!!!!!!!!騙されたー!!!!!!」
「兄貴・・・・・?」
「m9(^Д^)プギャーーーーーー!!!!!!!!」
「さてと・・・・・・・・・・・」
そう言うと妹はゆっくりと部屋の端に置いてある木刀を握り締めた。
「m9(^Д^)プギャ・・・・・・・・・て、ええ!?ゆ、由紀!!」
「お兄ちゃん・・・・・・!!」
とてもやさしい顔で笑顔を作る妹。
「さ、さてと・・・・・ちょっと散歩にでも行くかな・・・・・」
「待って、お兄ちゃん」
俺が逃げ出すのと同時に妹は笑顔で追いかけてきた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「待てっていってるでしょー!!!!!」
「ちょ、俺をどうする気だぁ!!」
「いい子だからぁー!!」
「俺はお前が振られたって言うから、少しでも忘れさせてやろうとだなぁー!!!」
「うるせー!!もはやあたしの目的は一つ!!貴様の死!!人が落ち込んでる時にムカツカせやがってー!!!」
「ふっ、でもその瞬間は振られた事を忘れていられただろ?」
「もはや、貴様の死のみが我が望み!!」
「ちょwwwwwwww俺の苦労が台無しかい!!!!!」
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