追想曲
2007/02/18 23:01 登録: 夏
追複曲
┗『輪唱の一種。体位法に基づき忠実に模倣しながら追い掛け合う曲のこと。またの名を追想曲、カノンと言う。
曲が始まってからすぐに互いの音ははすれ違い、交わることはない。
つかず離れず2つの旋律は追い駆けっこを続けていく。
そう、まるでかつての僕達のように……。
あいつが好きだったこの曲を、僕はもう二度と聞くことはないだろう。
子供じみた駆け引きや、つまらない意地の張り合いで大切な物が見えていなかったあの頃……。
これから話すのは、そんなつまらない男のくだらない罪の話。
覚えておくにはつらすぎて、忘れてしまうには大事すぎる想い出……。
いつ終わるかはわからないけど……よかったら聞いてくれ。
僕には一つ下の幼なじみがいる。
一つ下といっても、国が定めた年度制によって別れているだけで実際には僕が一週間早く生まれたというだけだ。
「誰が年度制なんて決めたんだろう……」
というのが文目(あやめ)の口癖だ。
本当に生まれてからずっと一緒で、親同士が知り合いということもあってか家族ぐるみの付き合いも少なくはなかった。
兄妹同然、いつだって一緒にいることが当たり前だった……。
文目は本が好きな奴で、いつも部屋の中で本ばかり読んでいる文学少女。
黒淵の度の強い眼鏡に太い三つ編み……。
おおよそ『オシャレ』なんて言葉とは無縁な奴だ。
お世辞にも顔が良いとは言えない。
―それでも笑うと少し可愛くて、好きな本のことになると夢中になる文目のことが僕は大好きだった。
だけどそんな《本当の文目》を知っているのは僕しかいなくて。
一つ下の学年の教室で文目はいつも独りぼっちだった……。
僕が心配すると
「大丈夫だよ〜っ!」
と、いつだって笑っていた……レンズの奥の瞳に悲しみの色を讃えながら。
皆が文目の良い所に気付いていないことが、僕はくやしくて堪らなかったんだ。
だから僕は中3の夏にある計画を立てた。
名付けて―
【文目大改造計画】
内向的な性格と人見知りを治し、明るいスクールライフをエンジョイしてもらうべく制作された壮大な計画だった。
―だけどその夏休み……
この【文目大改造計画】が実行されることはなく、それどころか一度も文目に会うことのないまま僕にとって中学最後の、文目にとって2回目の夏休みは過ぎ去った。
文目のいない初めての夏はどこか味気ない、つまらないものだった。
出典:追想曲
リンク:http://hp9.0zero.jp/136/2009343/

(・∀・): 21 | (・A・): 23
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