追想曲〜手紙〜

2007/02/19 14:00 登録: えっちな名無しさん

シュウちゃんがこの手紙を読んでるってことは、もう私は死んじゃっているんだと思います。
 
こんな手紙の書きだし、お話の中だけだと思ってたけど、まさか実際に体験するとは思ってなかったよ。
 
ごめんね、字か見にくいでしょう?
もう腕もロクに言うこと聞いてくれないんだ……。
こんなになる前に書いとけば良かったと、今更ながら後悔してるであります。
ごめんね、たくさん書きたいことがあるし、書かなきゃいけないことも山ほどあるんだけど上手く書けそうにないです。
だから、ヒドイ手紙になってしまうと思うけどちゃんと読んでね?
 
 
 
 
 

私、筋萎縮性側索硬化症って病気になっちゃったんだ。
凄いでしょ?何回も何回も書いてる内に、こんな難しい言葉漢字で書けるようになっちゃった。
絶対に治らない病気で、少しずつ体が死んで行くんだって。
でもね、それを聞いたとき死ぬことよりも、このまま何もせずにシュウちゃんの前から居なくなることの方がずっと、何倍も恐いって思ったんだ。
覚えてる?私が中2の2学期のこと。
私、自分なりに頑張ったんだよ。
見たことも無いファッション雑誌とか、慣れないオシャレな美容室とか……ほかにもいっぱい。
廊下で声かけた時だって、もう死にそうなくらい心臓がドキドキしてたんだから。


私馬鹿だから……結局、全部裏目にでちゃって。
逆にどんどんシュウちゃんとの距離は離れていっちゃったよ。
 
でもしょうがないでしょう?
 
だって、私に残された時間なんてホントにあとちょっとだったんだから。
 
でも、最後に、シュウちゃんが好きだって言ってくれて、ホントに嬉しかった。
今までの苦労が、全部報われたような気がしたよ。
最後の、ホントに最後の一瞬まで一緒に居たかったけど、こんなチューブだらけの体、シュウちゃんに見せたくなかったから。
 
 
 
 
 
 


最後に、どうか死んだ私に操を立て続けるようなつまらない人生だけは送らないでください。
私にくれるはずだった愛は、他の誰かにあげてください。
とっておいてもらっても、もう私はそれに応えられないから……。
最後なんていっておいて長くなっちゃったね。
でも最後だから……本当にこれが最後だから、面倒臭がらずにちゃんと読んでください。
 
 
ごめんね、ありがとう。
さよなら……。
 
 
もう居なくなる私にこんなこと言う資格なんて、無いかもしれないけど……
 
 
 
大好きだったよ。
 

文目 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どこまでも広がる青空の下、僕は岬をバイクで走っていた。
少し肌寒い風を頬に感じながら、走り抜けていく。
岬の下には、快晴の空に負けないくらいの綺麗な青の海が、太陽の光をきらきらと反射していた。
 
文目が『死んで』から、丁度一年が経つ。
僕はあの年、高校三年生を留年し、そのまま中退した。
とても学校に行けるような状態じゃなかった。
 
文目の居なくなった世界は、ひどく殺伐としたもので、すべてがモノクロのように目に映った。
薄く靄がかかったように曖昧とした、無為な世界を僕は生きてきたんだ。
僕は僕なりに頑張ってきたと思う。
精神的にも立ち直れたし、高校中退ながらなんとか職にも付くことが出来た。
つらくなかった、と言えば嘘になる。
でもその度に、『文目を心配させるわけにはいかない』と、自分に言い聞かせてここまできた。
 
―でも、いつだって想うのは文目のことだ。
 
生活の端々に、今も文目の姿を感じる。
アイツはいつもあぁだったとか、こういう時アイツならこうするだろうとか……。
その度、自分がどれくらい大切な人を失ったかを痛感させられ、ひどい孤独感を味わった。
そんな白黒の孤独な世界を、これから生き続けることはもはや拷問以外の何物でもない。
立ち直った今だからこそ解る、分かる、判る。
これ以上文目の居ない世界を生きることに、僕はもう何の目的も意味も、希望も見いだすことが出来ない。
あいつが天国に行ったか地獄に行ったかは判らない。
虫も殺せないような奴だったから、きっと天国にいったんだろう。
岬のカーブを曲がりながら、祈るように、願うように快晴の蒼天を仰ぐ。
僕の右後方を、大きなトラックが走っている。

 
 
 
 
 
 
 

文目をいつも泣かしていた、どうしようもない僕があいつと同じ場所にいけるかどうかわ判らない。
 
それでも、同じ場所に連れていってくれるのなら、僕は何にだって祈ろう。
 
文目を殺した神にさえ……。
最後くらい、本当の最後くらい幸せになったっていいじゃにいか。
追想曲みたく、演奏と共に格好良く一緒にはなれなかったけれど……最後には、どうか幸せな記憶を……。
グッと、ハンドルを握る手に力を込める。
堅く瞳を閉じ、思い切り右にきった。
 
 
すぐ後ろで、トラックのクラクションが聞こえた。











出典:創作なのであしからず
リンク:http://hp9.0zero.jp/136/2009343/

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