ナンバー・テンから…

2007/03/01 16:11 登録: えっちな名無しさん

女友達がいた。
中学時代、唯一の女友達である。
僕の感想ではクラスの中では割とカワイイ部類だとおもっていた。
が、あくまでも友達。それ以上でもそれ以下の関係でもなかった。
同じ部活だったこともあり普段から良く喋っていた唯一の女友達。ただそれだけだった。
その娘の家は昔の地主だという。一度だけ学校の帰りに見に行ったことがあるが、新築ピカピカの歴史を全く感じさせない家だった。
ただ敷地だけはやたら広くて、庭だけで我が家が何件入るかという感慨にただ呆気にとられるだけであった。
寄ってくかと聞かれたが適当に断った。ウブな僕としては、女子のウチなんか入れるかという古風な羞恥心に支配されせっかくのチャンスをふいにしてしまった。
彼女は少し残念そうだった。少なくとも僕は彼女の表情からそう感じ取った。
普段、学校での彼女はあまり友達付き合いが活発には見えなかった。嫌われているわけではないのだが、向こうから話しかけてくる以外、休み時間は大体、本を読んでいるか図書室かどこかに出かけていた。
僕と喋っている時とは別人のように大人しかった。何故か僕のところへはやってこなかった。
僕が友達と喋っているところを邪魔したくないという彼女なりの心使いだったのかもしれない。少なくとも僕はそう考えていた。単に他人の目が恥ずかしかっただけなのかもしれないけど……。
唯一の女友達は結構やさしかったのかもしれない。
ある日、友達と喧嘩をやらかした。掴み合い寸前のハードな喧嘩だった。実に些細なことから始まった喧嘩は先生の仲裁でその場は納まった。
その日一日。僕は無言で過ごすことにした。
放課後、僕が独り部室で自己正当化の言い訳を考えていると、唯一の女友達が話かけてきた。
「さっきの。結構激しいバトルだったね」
「……」僕は喋りたくなかった。
「今のうちにこっちから謝ったほうが良いよ。後々尾引くから」全てを悟ったような顔でそう言う。綺麗な顔だ。
「うるさいよ。お前には関係ないから」
「ウチの弟もよく喧嘩して帰ってくるんだ。ベソかいて鼻水垂らしながらあいつが悪いんだあいつのせいだ、って」
「はぁ?」
「だからいつも忠告してあげるの。どっちつかず喧嘩は先に謝ったもの勝ちだよって」
「何が言いたいの」
「あんたらもガキだなぁって。ウチの弟と全然違わないね」
僕はイライラしていた。小学生と一緒にするな。オレの場合は高度に政治的意見別れなんだよ!
「だから、先にあやまっちゃいな。そのほうがスッキリするよ」
「っるさいんだよ! 友達の居ないお前に何が分るかっつうの。黙ってろアホ!」
……
言ってしまった。
もっとも言ってはいけないことを。

超最低だ。
これ以上最低な一日が果たして今までにあっただろうか。
友達との喧嘩。しょぼくれているところを女に慰められ逆ギレ。最低な一言。今にも泣きそうな彼女の顔。そして世界一最低な男、僕。
全てが最低だ。こういう状態を米軍俗語で「ナンバー・テン」っていうらしい。なんかの本で読んだ。
僕はこの場に漂う重苦しい空気に圧殺されるまえに戦線離脱することにした。もうこの場にはいられない。
フォローの一言もでてこない。僕は彼女が泣き出さないうちに足早に部室を出ることにした。戦術的撤退だ。脱走ではない……
同じ場に他の部員が居なかったのが不幸中の幸いか。
ドアノブに掛ける自分の手を見て殺意が湧いた。自分が憎くかった。殺してやりたかった。
「ごめんね……」
唐突に発せられた彼女の悲しそうなその一言を、僕は背中で聞き流し無言で部室を後にした。
僕の心無い一言が原因で、翌日からの僕らの間に会話はなくなっていた
僕はあの一件、喧嘩の日以来友達の枠から外れていた。いまだに和解もできずに学校生活を孤独に生きていた。
唯一の女友達。彼女ともあの日以来、一言も口をきいていなかった。つまらない毎日だった。
ある日、社会科の課題でグループごとに調べ物をすることになった。友達グループから外れていた僕は途方にくれていた。自分から外れておいていまさら舞い戻るという愚かなマネだけは僕のプライドが許さなかった。
アホみたいなプライドだったが、今ではこれだけが僕の心の支えだった。だからと言って、別のたいして親交もないグループの厄介になるというのも嫌だった。
先生もつまらない課題を出したものだ。わざわざグループ分けにしなくても……。「好きな人同士」と言うこのフレーズを今日ほど呪ったことは無かった。好きな人かぁ。
途方にくれる僕は、一人机に突っ伏していた。まあ、もうどうにでもなるさ。
投げやりな気分だった。
そのとき、僕の肩を叩く者がいた。誰だ、先生か?
首だけを上げて見つめる視線の先に。仁王立ちで僕を見下ろす女がいた。
彼女だった。
唯一の女友達。だった人。
「ねぇ、相手誰もいないんでしょ」
見てのとおりだよ。
「あの時、わたしの忠告にちゃんと耳を貸していたらこんなことにはならなかったのにね」
つまり何だ。俺をバカにしにきたわけか?
「わたしも友達いないから。独りなわけだよ」
結構前に、同じ部活の先輩が言ってた。
唯一の女友達は先輩には多弁らしく、僕のことをよく喋っていたらしい。
世話のかかる弟、とか。要領が悪くて困る、とか。

そういうことなのか。

まったく。
自分が情けなくて涙がちょちょぎれる。罵倒した女に助け舟をだされるとは。
まさに「ナンバー・テン」だ。
っしょっとっ。
僕は椅子から、さも大儀そうな素振りで立ち上がる。
「さて、早速課題を始めようか。まずは資料集めかな?」


ここにクラス一。ナンバー・ワンなグループが誕生した。


出典:2ch コピペ
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