再会姉弟

2004/07/15 18:33 登録: えっちな名無しさん

391 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/18 06:23 ID:y+MjZmyp
会社入って半年と少し、そろそろ仕事覚えて一人暮しにもなれてきた頃に
合コンってほどでもない飲み会があったんよ。身内だけのはずだったんだけど
ツレのツレのツレなんてのになるとさすがに知らん人もいるわけだ。
んでその知らんはずの一人にいきなり下の名前+ちゃん付けで呼ばれてびっくり。
一見して年上っぽかったし、美人じゃないが中の上くらいの容姿だったんで
それなりに愛想よく応対してたんだけど、話し始めて五分ほどしたら

「ああ! やっぱりNちゃんだ!」

ってでかい声で言われてもあんただれよ? そういやまだ名前聞いてなかったなぁ
とか思ってたらまたびっくり。名字が十五年前に親父と離婚した母親の姓と一緒。
つまり姉。ちなみに二歳上。「なつかしいなー」とも言われたが、当時の俺は八歳
である。この位の時の二年差は大きい。ぶっちゃけ姉のことを俺はほとんど覚えて
なかったりした。かなり気まずい。まわりは勘違いしてるし尚更きまずい。しかも


392 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/18 06:23 ID:y+MjZmyp
「ねぇ、今日Nちゃんの部屋いってもいい?」

おいおいちょっと待て。あんたは久しぶりに会った弟と昔話に興じたいのかも
知れんけど、俺はほとんど記憶にないんだって。しかもあんた長身で黒髪ロングで
地味目の化粧でカシスソーダ゙二杯で顔真っ赤になってて……やべぇ、全部つぼ。
はっきしいって女としか見れん。

その日は耐えた。が、姉は実家暮らしらしく、俺の部屋をちょくちょく避難所
代わりに使い始めやがった。家賃四万ちょいの俺の部屋が、もちろん何部屋もある
わけがない。つーかワンルーム。さすがに弟とはいえ男に着替えを見られるのは
抵抗があるのか「背中向いてて」と言われるのだが、窓ガラスに写ってます
姉さん(いまだに抵抗がある呼称だ)。

……そろそろ限界が忍耐で危険。


429 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/25 01:31 ID:DaBwTG2L
飲み会で偶然であった二人の姉弟。分かたれた十五年間はそれぞれの時間を
それぞれに与え、姉弟をただの男と女にしてしまった。猛る背徳の恋慕。
暗く狭いアパートの一室で、彼らは今日も背中合わせで眠る。

……ってゆー展開を想像してたのになぁ。平気な顔で鼻をかむし足の爪を切るし
『うたばん』の下ネタギャグに大笑いするし、なんか違う。

まあ姉ができても日々の生活にそれほど変化があるわけでもなく、今日も今日とて
ホテルのフロント勤め。今日は日勤だし、久しぶりに午後に遊べ「すみませーん」
なぜいる姉よ。

「いらっしゃいませ。ご宿泊で御座いますか?」
「あはははは御座いますかだって御座いますかだって御座いますかだって」

仕事だからだよそれに今は受験シーズンなんだよ部屋いっぱいなんだよ
しかもそんな時に予約なしでウォークインなんてすんなよゴルァァァァ!
などとサービス業で言えるはずもなく、主任の目も光ってたので真面目に対応。

「お一人様シングルでよろしいでしょうか?」
「ううん、二人」

……ナンデスッテ?



430 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/25 01:31 ID:DaBwTG2L
「会社のコと来てるの」
「左、様で、御座い、ますか」
「びっくりした?」

スゲェびっくりしました。びっくりしたけど、職場に知人が来るのは『部活の
大会の予選で敗退したのに実は親が見に来てた』というぐらい気まずいので
そろそろ帰ってほしい。疲れるし。俺とか俺とか俺とかが。

とりあえずその後は何事もなく(だからBer宛の荷物をフロントに持ってくんな!
宴会事務書に直接持ってけぇ!)業務も終了し、上がろうかと思ったらタイミング
よく内線。部屋番号を見て、とても嫌な予感。

「はい。フロントでござい」
「いーまー、ビール飲んでまーす!」

飲食物の持ち込みは禁止されてます、姉さん。

「加湿器もってきてー」
「たいへん申し訳ありませんが、当ホテルでは」
(ブツッ! ツー、ツー)

せめて最後まで聞いてください、姉さん。


431 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/25 01:32 ID:DaBwTG2L
ああ、この部屋二三日くらい窓を開けたままにしとかないと使えないな、と思わず
考えてしまうほどアルコールの匂いがひどい部屋だったりした。つーか缶ビール
四本を二人で空にしたぐらいで、なぜそこまで泥酔できるのだろうか? あ、
連れの人ベッドに倒れてる。……もうちょっと屈んだら見えそう

「なにしてるの?」
「Tさん(←俺は姉をこう呼ぶ)の赤い顔を見ています」

いやまあ、実際すごい赤っぷりだった。首から上が均一で真っ赤になってる
人の顔なんて始めて見たよ。歯まで赤くなってるんじゃないかと思うくらい
凄かった。

「気持ち悪い……」
「酒飲めないのに無理するから。ってゆーか何でうちに帰らなかったん?」
「遠い、から」
「いやそっちじゃなくて、俺んちの方」
「――――」

なんとゆーか、特に計算した会話じゃなかったんだが、
……ポイントが上がったっぽい。んで、

「あのさ、Nちゃん来月の頭、空いてる?」
「? うん」
「実家に帰るんだけどさ、その、一緒に来てくれない?」

なんて、えらく思い詰めた様な顔で言われたりして、驚いた。


438 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/26 19:24 ID:mHI5Rlkv
そんなこんなで当日。えらく早朝に目が覚めてしまった。やることないので
コンビニへ。タオル・下着・歯ブラシを買う。いや別に新品を用意することに
特別な意味なんかないぞ、と自分さえ騙せない嘘をついていたら知り合いの
店員が「なんだお前お泊りグッズかゴムも買っとけ箱で買った方がお得だぞ
ゲェアハハハハ」死ね。

12:00に駅前の噴水へ行く、前に土産とか何も持っていない事に気づいて
慌てて購買に走りマスカットを二房購入。良く考えたら俺は、実に十五年ぶりに
母親と再会するわけでもあった。正直顔も覚えていないのだが。

三十分後にようやく姉が到着。時間に几帳面な彼女にしてはとても珍しい。
や、やあ、なんて俺は中学生かと思うぐらいぎこちない挨拶を交わしてから
件の姉の実家へ。が、なんだか妙な雰囲気である。やたらとテンション高く
喋ってたと思ったら急に無言になるし、寄り道したがるし、え? 喫茶店?
俺食べてきたんですけど、ってなぜすでに店内に入ってるんですか姉さん
「青汁あるよ」いりません。

……まあ、この時点で気づいとくべきだったんだけど。


439 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/26 19:25 ID:mHI5Rlkv
とゆーわけで、気づかなかった俺が間抜けだったのかなと、姉の家に着いて
思ったりした。俺のせっまい部屋にはごちゃごちゃと何に使うかも分からない
物を置いたりしてるのに、こっちには皆無。つーか、生活感がない。
誰かと暮らしてればあるはずの空気がごっそりと抜け落ちている。

「向かいが私の部屋。んで、ここが母さん部屋だった場所」

その空き部屋の奥に仏壇があった。つまり昔いなくなった母親は、今もいなかった
というわけだ。十年以上経ってんだから、有り得る話ではある。

「……けっこう落ち着いてるのね」
「いや、まあ、Tさんには悪いんだけど、オレ母親の顔って思い出せないんだわ」

亡くなってたのが父親だったら同じ反応をしたかも、って姉はぼやいてた。

「えーと、俺の小汚いアパートにしょっちゅうやって来てたのは……」
「そ。この家に帰るのがヤだったから」


440 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:03/01/26 19:25 ID:mHI5Rlkv
ああそういえば、この間も会社の後輩とホテルに泊まってたりした。要するに
姉は一人でいる事に耐えられないタイプの人らしい。その点では、彼女が
Nちゃんと呼ぶところの『弟』という存在は、男でも友達でも同僚でも単なる
知り合いでもなく、大変彼女にとって都合がよろしかったわけだ。別にそれは
責めるような事ではないが、間の抜けたオチではあるなぁとか思った。

でもまあ、俺は母親のことも姉のこともほとんど覚えてなかったんだけど
一つだけ思い出せた。というよりも気づいたというべきか。

「姉さん、実は相談があるんだけど」
「……?」
「金貸して」
「……はあ?」
「せめて二部屋はある所に引っ越そうかと思うんだけどさ、敷金とか礼金とか
 高い高い。『半分』出してくれたらなんとかなるんだけど、ダメ?」
「……」
「あれ? はずした? 寒かった? 駄目なやつは何やっても駄目、みたいな?」
「年下、の、癖に」
「姉っぽいとこ見たことないし」

俺の姉は昔も今も、とてもよく泣く人だなという事です。

(・∀・): 561 | (・A・): 151

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