10年愛
2007/06/03 17:58 登録: えっちな名無しさん
63 :58:2007/04/11(水) 21:59:51 ID:NdCC6KRi0
かなり長くなりそうですが、書かせてもらいます。
出会いは風の中、なんて歌があったけれども。
彼女と初めて会った日はそのとおり風が吹く冬の日のことでした。
知り合いの友達、ってことで出逢った二人。
彼女は綺麗な人だった。
自分はさすがに自分の身の程を知らないわけじゃない。
高嶺の花。
冬に舞う光。
でも、彼女は屈託のないいい人だった。
女性に免疫がなく、ほとんどしゃべれない俺に優しく接してくれた。
それは突然に。
10年前の20歳のときのことだった。
64 :58:2007/04/11(水) 22:04:03 ID:NdCC6KRi0
あとで知った話だったのだが、
ちょうど彼氏と別れたてだったらしい。
どことなく影を感じる笑顔のわけはそういうことだった。
ただ、影もその一つの美貌で。
帰り際、連絡先を交換した。
彼女から電話がかかってきたのはその翌日だった。
なんでも牛丼の吉野家に一回でいいから入ってみたい、とのことで。
当時大学生で一人暮らし。
ゼミではみっていて学校に友達と呼べる人はほぼいない俺は
自然と学校から足が遠のいていた。
じゃあ、今から
いきますか?
夜の明かりが鋭利でまぶしい。
そんな日のことだった。
65 :58:2007/04/11(水) 22:08:43 ID:NdCC6KRi0
それからというもの、彼女は引きこもりがちな俺をどこかに連れ出してくれた。
会うたびに、彼女が美しくなっていっていたような気がする。
それは、自分にとってはやっぱり高嶺の花で。
会えば会うほど好きになって
そしてだんだんと自分が悲しくなってくる
いつか雪は解け、桜が咲き、ひまわりが揺れて、紅葉となり。
そしてまた冬がきた。
66 :58:2007/04/11(水) 22:11:52 ID:NdCC6KRi0
クリスマスイブのことだった。
当然、何もすることないし、俺はバイトを入れていた。
朝。
彼女からメールが入る。
今日、ひま?
思いがけない言葉だった。
ただ、悲しくもバイトの予定は変えることができなかった。
夕方までなら
夜はデートかな?
もてないの知ってるくせに
バイトだよ
やりとりが続く。
○○ちゃんこそデートじゃないの?
もてないの知ってるくせに(笑)
67 :58:2007/04/11(水) 22:15:34 ID:NdCC6KRi0
昼過ぎに会って二人でご飯を食べた。
世間はクリスマスだというのに、
私たちは何いているんだろうね。
なんて言葉が降ってくる。
僕はあなたがいてくれさえいれば
言葉にならない。
言いかけて飲み込む。
夕方、もうバイトに行かなくちゃならない。
毎年、クリスマスはバイトをする日だ、という意識があった。
自分のひがみ根性が悲しい。
今からどうするの?
家帰って課題でもやろうかな
バイト、がんばってね
彼女の姿を見送って
そして背中は人ごみに消えた
68 :58:2007/04/11(水) 22:28:16 ID:NdCC6KRi0
彼女は俺のこと好きなのかもしれない。
恋愛に関してはじめて強気に考えた。
21歳、彼女いない暦実年齢の俺が
あんなに綺麗な子を彼女にできるものなのか。
考えは上下を繰り返し。
そして結論の出ないままに。
また冬が終わり、桜が舞う。
俺たちは就職活動の荒波にもまれることになる。
俺が就職活動をするころは世間的には氷河期で。
かなり上の大学の奴らでも
下のランクの会社を狙ってきていた。
しゃべるのが苦手、中堅ランク私大の俺は連戦連敗。
夏がきても、それでもまた。
そして状況は彼女も同じだった。
69 :58:2007/04/11(水) 22:57:20 ID:NdCC6KRi0
二人はある日飲んだ。
世間のむなしさ、そして自分の産み落とされた時代を嘆く。
社会が悲しい。
いつかのように影の落とされた彼女の横顔を見て。
このまま、僕らに道がなかったなら
二人で生きていこうか
それもありかもね
二人は声を出さないで笑った。
70 :58:2007/04/11(水) 23:04:01 ID:NdCC6KRi0
もしも二人が35歳になって
お互い相手がいなかったなら結婚しようか
なんて取り決めを決めた夜。
本当はまともに就職して何年かしたら彼女がほしかった。
でも、あくまでも身の程を知る自分がいる。
いつの日も、自分の後ろにもう一人の自分がいて。
冷静にあざ笑う。
自分の影がささやく。
お前の人生はうまくいかないように宿命付けられてるから
そんな大それたことはするな、と。
それから秋がきて。
就職活動に絶望した俺は
もう行動を起こすことはなかった。
夜バイトに行って、そして昼はどこにも行かず引きこもる日々。
71 :58:2007/04/11(水) 23:06:51 ID:NdCC6KRi0
彼女はいつの間にか就職が決まっていた。
携帯電話の販売ショップの店員。
やがて雪が解ける。桜が舞う前に。
俺は卒業した。
行く先なんてないままに。
バイトと引きこもりの日々。
親に合わす顔がない。
彼女にも合わす顔がない。
彼女からのメールも学生時代と比べて減った。
それはやむをえないことなのかもしれないけれども。
孤独を愛し、世間を断絶して。
ただ、35歳の約束だけを心に残して。
72 :58:2007/04/11(水) 23:09:39 ID:NdCC6KRi0
夏が来ても何も変わらない日々は続く。
働き出した彼女のはじめての夏休み。
久しぶりに会った彼女は相変わらず綺麗で。
だめになった僕を見て
君もびっくりしただろう
流れる「僕たちの失敗」。
悲しい再会。
最近どうしてるの
バイトだけだよ
就職は?
誰も、どこも受け入れてなんてくれないさ
廃人になって投げやりになって。
いつでも伏し目がちで何かに怯えて生きる。
あなたは変わったね
彼女がふと言った。
74 :58:2007/04/11(水) 23:38:49 ID:NdCC6KRi0
支援ありがとう。
俺は何も変わらないよ
そう言ったものの、考えたのは彼女が変わったのではないかと。
社会に出て、学生気分が抜けたのに、
いつまでも学生気分でいる俺が許せないのだろうと。
夜がくる。
月明かり。
いつしか酒もすすみ、時計の針は10時を告げる。
帰らないの?
いつもなら門限で10時に帰っていた彼女が
帰る気配がない。
帰らない
そうつぶやいてまたお酒を飲む。
少し酔っているのかもしれない。
そう考えているうちに彼女のほほに一筋の涙が落ちる。
知り合って2年半、はじめて見た彼女の涙だった。
75 :58:2007/04/11(水) 23:45:21 ID:NdCC6KRi0
どうしたの?
悲しい
悲しいじゃわからない
押し問答が続く。
彼女の涙は次から次へと流れゆき。
あなたは今のままでいいの?
すごくまっとうな意見だった。
いつまでもフリーターのままでいるわけにはいかない、
わかってる。
わかってるけど、動き出す勇気がない。
また同じ目にあうのは辛い。
今のままじゃあなたを誰にも紹介できない
それが悲しい
暗闇の中の静寂に。
どこかでセミがなく。
夜は続く。
76 :58:2007/04/11(水) 23:50:01 ID:NdCC6KRi0
帰りなよ
12時を越える頃、俺は言った。
涙の枯れた彼女は無言でうなづいた。
俺はがんばるよ
そう彼女に告げて見送った。
手を振って、そしていつまでも立ち尽くす。
誰もいなくなった部屋の中で
俺も思わず泣いた。
悲しみとはまた違う感情なままに。
そして失われた日々の慕情に。
でも、覚悟は決めなくてはならなかった。
彼女の涙をもう見るわけにはいかない。
翌日から就職活動をはじめた。
77 :58:2007/04/11(水) 23:53:57 ID:NdCC6KRi0
新卒即フリーター、さらに氷河期。
どこを選んでも書類さえ通らない日々。
でも、負けるわけにはいかない。
もしどこかに決まったなら
彼女に告白をしよう
そう決めたことだけを心のよりどころにして。
一輪の花だけを頼りに、思いだけがつのって。
冬の始まる頃、小さいながらも俺は就職が決まった。
彼女と肩を並べて歩いていける。
ただ、現実は残酷。
夢は空虚。
はかなく消えて散る。
78 :58:2007/04/11(水) 23:57:46 ID:NdCC6KRi0
就職決まったよ
彼女に久しぶりに電話をした。
おめでとう
祝杯あげない?
俺は彼女を誘った。
彼女のためにこれから生きていく覚悟はできていた。
ごめん、無理
彼氏できた
突然に吹雪が吹く。
それは彼女とはじめて会ってから3年目の日。
いつ?
一ヶ月前ぐらい
頭が白くなる。
聞こえるようで聞こえない。
目の前に浮かんだ小さな決意は
いつもどこかをすり抜けて。
そうなのか
おめでとう
精一杯だった。
79 :58:2007/04/11(水) 23:59:27 ID:NdCC6KRi0
上に間違いあり
3年目→4年目
80 :58:2007/04/12(木) 00:02:47 ID:NdCC6KRi0
かすれそうな声で俺は勇気を出して笑いながら聞いた
35歳の約束はまだいきているの、と。
彼女は笑って答えた。
35歳になるまではずっといきているよ。
まだ、望みは断ち切られていないはず。
そう考えるしかなかった。
悲しい。
数年前、いや、数ヶ月前まで隣に当たり前のように彼女がいたのに。
近くの高嶺の花はいつしか身近なものになっていたのに。
嘆きは続く。
現実は受け止められない。
でも。これが間違いなく現実。
僕は孤独の中にいた。
81 :58:2007/04/12(木) 00:05:56 ID:sJ2IpxCn0
4月になって就職して。
やっぱりまっとうな社会生活に向いていなかったと痛感。
何をしても怒られるから何もできない。
何もできないことがまた怒られるもととなり。
日に日に、人としゃべることがなくなった。
みんなが自分を落としいれようと結束している。
それが運命であるかのように。
それでも数ヶ月は耐えたものの。
ある日、些細なミスで深夜に怒鳴り散らされ。
お前は本当にどうしようもない奴だ。
人間としておかしい。
繰り返される人間否定の言葉。
もう限界だった。
82 :58:2007/04/12(木) 00:09:53 ID:sJ2IpxCn0
カーテンのリールにヒモがつるされる。
暗い部屋の中でヒモを見つめたまま。
決断を迫られて。
でもできない。
首を通すことができないままに。
この先、生きていてもしょせん自分にはいいことはない。
それはわかってる。
でも、死ぬのはやっぱり怖い。
生きていたい。
明け方を迎えて。
結局何もできないまま。
でも、もうこの場所にいるわけにはいかない。
会社という地獄にはもうのぞみたくない。
俺は思わず外に出た。
行き先は一つだった。
83 :58:2007/04/12(木) 00:13:19 ID:sJ2IpxCn0
彼女の家の近くについたのは夕方近くだった。
迷いが足を止めた。
迷惑をかけちゃいけないと。
でも会いたい。
ただそれだけのことだった。
彼女がずっと好きだった。
失ってからなぜ素直になれるのか。
もう遅いよ。
ただ彼女に電話するも出ることはなく
すがるように留守電に吹き込む
会いたい、と。
でも、彼女に会うことはできなかった。
結局、コールバックがその日はなかったから。
秋風が木枯らしに変わろうとしていた。
現実はこうも悲しいなんて。
わかっていたくせに。
もう一人の自分がまたささやく。
84 :58:2007/04/12(木) 00:18:12 ID:sJ2IpxCn0
その後、仕事は辞めた。
俺は実家に戻ってアルバイトしながら細々と暮らす。
昨日で30歳になった。
この先の見えている人生、
夢なんてものは当然のようになく。
彼女はというと
今週の末に結婚する。
2ヶ月ぐらい前に招待状がきていたものの
欠席に印をつけて返す。
もう、僕は誰にも紹介できない存在になってしまった。
あなたにあわす顔がない。
そして幸せなあなたを見たくない。
これから僕はいつまでもあなたとの青春の日々の思い出を
胸に抱いて生きていくことになるのだろう。
35歳がくるまでは
中途半端に些細な希望を持ちながら。
85 :58:2007/04/12(木) 00:22:29 ID:sJ2IpxCn0
もし、あのとき一言でも彼女が好き、だということを伝えていたなら
何かが変わっていたのだろうか。
終った話を引きずるのは女々しい、
それはわかっているのだけれども。
恋愛に負け、人生にも負ける
死ぬ勇気がないからこれからもだらだら生き恥さらしていくのだろうけど。
非情だね。
出典:恋愛の負け組スレ
リンク:http://life8.2ch.net/test/read.cgi/loser/1170941471/

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