好敵手物語
2007/06/06 00:44 登録: えっちな名無しさん
“参加”目指し、耐えた1年
夏休みに入ったばかりのがらんとした午後の職員室。
柿生西(現・麻生総合)の近藤勇太(当時2年)と沢海拓(同1年)は、
鵜飼正志監督(36)の呼び出しを受けた。
「これからも(野球を)続けるのか」
並んだ二人に短く問いかけた。
真っ黒に日焼けした二つの顔が黙ってうなずいた。
昨年夏、2人だけの野球部がスタートした。
同校は、昨夏の大会で初戦敗退。
チームから3年生が引退し、部員は近藤、沢海の2人だけとなった。
来春まで2人だけでやれるのか、
耐えた先に新入生は入部するだろうか、
近藤の不安は尽きなかった。
7月末、2人で横浜スタジアムで夏の大会の準決勝、決勝を見た。
緑映える人工芝、スタンドにこだまする大声援……。
”夏のひのき舞台”はまぶしかった。
夏の県大会が終わり、川崎市麻生区の同校グラウンドで2人の練習が始まった。
走り込み、キャッチボール、トス・バッティング。
響くのは2人の声だけ。
どちらかが声出しをやめれば1人の声、
2人ともやめれば無言の練習。
肉体的にも精神的にもきつく、やがて2人は衝突した。
「ちゃんとやれよ」。ふざけてノックを打った近藤に沢海が怒鳴った。
「生意気言うな」
行き場のない不満。
言葉をぶつけながら2人とも泣いていた。
秋季大会の予選が始まり、他校の友人は、その話で持ちきりだった。
自分たちには参加資格さえない。
悔しくないはずはない。
それを口に出さず、黙々と基礎練習を繰り返す沢海。
近藤は言った。
「受け止めてやるから、思いっきり投げろ」
2人のポジションと覚悟が決まった。
新入生が入学してきた春、沢海は新入部員を求め駆け回った。
坊主頭を見れば片っ端から声をかけた。
部員がそろわなければ、夏はない。
近藤の最後の夏、グラウンドに立たせてやりたかった。
5月中旬、沢海は息をきらせて報告した。
「10人になりました」
「やっとだな」と近藤は素っ気なく答えた。
だが、本当はうれしかった。他校の友達に片っ端から電話をかけた。
麻生総合の10人。
陸上部から引き抜いた選手もいれば、初心者もいる。
初戦は15日正午、小田原球場。
「内野も外野も不安だらけ」と近藤がつぶやけば、
すかさず沢海が「大丈夫っすよ」としゃがれた声で応える。
正反対の2人が共に刺激しあい乗り越えた1年。
また、夏が来た。
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