第10幕:車中にて・2
2007/07/08 18:29 登録: えっちな名無しさん
14 名前: 神主(石川県)[] 投稿日:2007/03/18(日) 23:51:28.09 ID:6jKkRhP70
第10幕:車中にて・2
(´・ω・`)「――飲みませんか?」
( ・∀・)「え、私たちは普段バーボンは飲まないので……。だって、高いんじゃないですか?」
(´・ω・`)「友人が経営するバーボンハウスが商品を入れ替えるって言うんで、棚卸しした商品を少々
貰ったんですよ。こんな寒い日には酒でも飲んで温まるに限ります。見た感じ、事務所のストーブは
……ね?」
15 名前: 神主(石川県)[] 投稿日:2007/03/18(日) 23:54:36.48 ID:6jKkRhP70
ショボは、火の灯っていないストーブを指差す。
_
( ゚∀゚)「はははwwwおっしゃる通りで」
(´・ω・`)「では、早速飲みましょうか……」
( ・∀・)「あ、じゃあグラス持ってきますよ。寒いから、お湯で割りますよね?」
(´・ω・`)「では、お願いします」
_
( ゚Д゚)「あまり熱い湯にするんじゃないぞ」
( ・∀・)「はいー」
事務所の奥の方へとモララーは引っ込んでいく。
17 名前: 神主(石川県)[] 投稿日:2007/03/18(日) 23:56:38.24 ID:6jKkRhP70
それから10分もすると、もう飲む準備は出来ていた。
(´・ω・`)「じゃあ、開けるとしますか……」
そう言うショボは、どこから取り出したのか知らないがコルク抜きを手にしていた。
_
( ゚∀゚)「コルク片がバーボンの中に入らないようにして下さいね」
(`・ω・´)b「友人の店の手伝いもしていた腕ですからご心配なく」
そう言うと、ショボは切っ先をコルク栓に静かにあてがう。
そこからは鮮やかなものだった。
ショボは、迷うことなくコルク抜きを捻り、深くまで差し込んだことを確認するとキュッ、キュッと
小気味良い音を立てて栓を捻りながら抜いていく。
18 名前: 神主(石川県)[] 投稿日:2007/03/18(日) 23:58:47.42 ID:6jKkRhP70
ポンッ!!
事務所内にバーボンの芳醇な薫りが流れる。
( ・∀・)「ん〜。なかなかいい薫りじゃないですか。味わわなくても酔いそうです」
(´・ω・`)「まだまだ。では、グラスに注ぎますよ……」
モララーが戸棚の奥から取ってきたカットグラスにバーボンが注がれる。バーボンは思ったより
少ないので、3人の分量も少なめだ。よく味わって飲まないと少々もったいない。
_
( ゚∀゚)「じゃあ、まずはお湯で割って……と」
19 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:01:39.97 ID:HwaEQaY10
長岡が、真鍮製のヤカンからお湯をそれぞれのカットグラスに注いでゆく。
バーボンの色は薄い飴色になったが、薫りは蒸気に乗ってますます鼻をくすぐった。
( ・∀・)「では、乾杯しますか」
(´・ω・`)「はい。これからも近所どうしで宜しくお願いします」
_
( ゚∀゚)「カンパイ」
チン、とグラスが触れ合う。寒いぶん、その音は美しく響いた。
そんな寒い日には打ってつけの、少しぬるめのバーボンがそれぞれの喉をすべった。
21 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:04:23.24 ID:HwaEQaY10
_
( ゚∀゚)≡3 ( ・∀・)≡3 (`・ω・´)
_
( *゚∀゚)「いやあ、これがバーボンの味なんですねぇ」
(`・ω・´)b「初めての人にも飲み易いでしょう? お湯で割っているぶん、度数は低めになってはいますが」
( *・∀・)「じゅうぶん美味しいですよ。もっと飲ませてください…………」
。
。
。
22 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:06:10.25 ID:HwaEQaY10
車内にて。
('A`;)「――聴いただけでは、ただの酒盛りのようですが?」
(^ω^; )「なんだかシリアスな展開を期待してたのにがっかりだお……」
なんだか、長岡の話がwktkしてた内容と掛け離れていることに不満そうだ。
_
( ゚Д゚)「いえいえ、それからなんです。重要なのは…………」
('A`;)「本当ですか?」
_
( ゚Д゚)「まあ、つべこべ言わずに聞いてくださいよ……」
24 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:08:34.20 ID:HwaEQaY10
夜半の候である。
雪は止み、空には薄い雲がたなびいている。
高い空には月がのぼっているが、雲の所為で満月だのに朧々とした光しか高松の街には届かない。
半端な月光と雲により、星といえば冬の第三角ぐらいしか満足に見えなかった。
反面、地上の星は明るい。
タクシー会社は煌々と灯かりを燈し、いつなんどきでも客を迎えることが出来るように
職員はスタンバイしている。歓楽街の方に足を運ぶと、そこは客待ちタクシーの墓場となる。
長岡タクシー?の事務所からも煌々と蛍光灯の光が漏れている。
そして、事務所の中はと言うと……
_
(**゚∀゚)「ショボさん、アンタ気に入った!! 今日は夜通し飲もう!! なに? 酒がもう無い!?
心配スンナ!! 酒なら事務所に腐るほどあるんだから! タクシー稼業じゃ酒は厳禁だからな!!
ふだん飲めない分アンタと飲み明かすぜwwwwww」
25 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:11:21.68 ID:HwaEQaY10
事務所内には様々なカラの瓶が散乱し、むっとするような酒気でが充満している。
見る限りでは、日本酒2升、焼酎1升、ウォッカが3ボトル、そしてバーボン・ウィスキーが1ボトル。
そして、事務所の入り口には『本日休業』のプレートが掛かっている。
――どうやら、完全に営業放棄したようだ。
(*・ω‐*)「長岡さん…お酒強いですねぇ…………」
_
(**゚∀゚)「おうよ!! おいコラそこのモララー! 全然飲んでないジャマイカ!!」
( ‐Д‐)「うー。もう飲めないんですよー」
26 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:13:14.45 ID:HwaEQaY10
(*・ω‐*)「まあ、仕方ないじゃないですか。もうモララーさんは相当深酔いしてますよ……」
_
(**゚∀゚)「じゃあ、やはり2人で飲み明かすしかないですね!」
(*・ω‐*)「まぁ、そうなりますかね……」
事務所内には2人しかいない。だが、そこには哄笑が、そして喧騒があった。
子の刻を過ぎても哄笑が途絶える様子はない。寧ろ、大きくなりつつある。しかしながら、
それは、独り長岡とショボのみに因るものだった。
_
(**゚∀゚)「――でね、タクシー稼業は県外の客を乗せるのが楽しいの。市内には掃いて捨てるほど
うどん屋があるから、そこを案内したりできるワケ。そんな所にお客さんを案内すると、こっちは
安上がりなんだけど喜んでくれるのよ」
28 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:15:33.23 ID:HwaEQaY10
(*・ω‐*)「へぇ……。流石は本場ですね……。東京とかから出張してきた人とかは長岡さんのような
人に案内されたら、さぞ幸せでしょう……」
_
(**゚∀゚)「当ッたり前よ。自分も、東京から来た客を案内したことがあるけど、みんな喜んでたね。
うどんを食べる度に『うまい、うまい』の輪唱だもの」
(*・ω‐*)「でも、なかなか出張のリーマンは、終日の観光をする余裕は無いんじゃないですかね……。
本社の方から日程は決められているワケでしょう……」
_
(**゚∀゚)「いんや、時には珍しい客もいるものよ」
長岡は、地酒「土佐鶴」を自分のグラスに注ぎながら続ける。その頬には濃い紅が差している。
32 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:18:30.34 ID:HwaEQaY10
_
(**゚∀゚)「たしか、去年ことでしたかね。嵐の日でした。橋は全部遮断され、本州との行き来は
全くできない。そんな日の朝に、ワイシャツ姿の2人組がココ、事務所に駆け込んできたんですよ。
で、話を聞いてみると、東京の本社からの出張中だけど、嵐のお陰で連休が貰えた。
連休なんて滅多に貰えなし、外は嵐だからタクシーで香川の観光をしたい、と」
(*・ω‐*)「――――へぇ……」
_
(**゚∀゚)「で、私が嵐の中その2人組を案内したの。まあ、その2人は翌日には本州の峡谷に行くみたい
だったから、一日限りの香川観光だったんだけど」
(*・ω‐*)「――――どんなコースを案内したんです?」
33 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:21:44.44 ID:HwaEQaY10
_
(**゚Д゚)「ええっと、確か香西にあるうどん屋と、88番札所の大窪寺でしたかね……」
(*・ω‐*)「――――その後、彼らはどこに?」
_
(**゚Д゚)「んんっと、たしか『vip峡』とかと言ってましたね。そのときまで聞いたことない地名でした」
(*・ω・*)「――まさか。vip峡ですか……」
34 名前: コレクター(石川県)[ズレてましたorz] 投稿日:2007/03/19(月) 00:25:21.77 ID:HwaEQaY10
_
(**゚Д゚)「ん、まさか?」
それまで酒を呷っていた長岡の左手が止まる。
(*・ω・*)「――実は私、そのvip峡に少なからぬ縁がありましてね」
_
(**゚∀゚)「へぇ」
(*・ω・*)「同郷に、vip峡で暮らしている者が居るんですよ。で、その人とかから、
vip峡にやって来た東京出身の男たちの事を聞いたことがありましてね。まぁ、
取るに足らない小噺なんですが」
_
(**゚Д゚)「まさか、その男たちのエピソードと私の体験談とが一致するなんてことは……」
35 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:29:42.90 ID:HwaEQaY10
(*・ω・*)「ご名答。そのまさか、ですよ」
_
(**゚Д゚)「へぇ……」
長岡は、今一度酒を呷る。左手に握られたコップの酒は日本酒、それもストレートだのに
ひと飲みでカラになった。
_
(**゚∀゚)「よかったら聞かせてくれませんかね? 酒の肴になりそうだ」
(*・ω・*)「――夏場に合いそうな話なんですがねぇ。こんな冬に話すようなモノじゃないですし……」
38 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:34:51.51 ID:HwaEQaY10
_
(**゚∀゚)「なァに、これだけ酒が入っていりゃ、夏だろうが冬だろうが、氷河期だろうが関係ないや」
(*・ω・*)「かしこまりました」
ショボはカットグラスにブランデーを注ぐと、それを左手に持ったまま大きく深呼吸する。
須臾の間が有った。
39 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:38:09.48 ID:HwaEQaY10
(*・ω・*)「vip峡にやって来た2人組は、当初は普通の観光をして帰るつもりだったようですね。
――谷川に下りてみたり、群青色の山に抱かれてゆっくり深呼吸したり、山の幸を心行くまで
堪能したりと、普通に保養して東京に帰る。そんな旅を思い描いていました」
_
(**゚∀゚)「まぁ、そんなもんでしょう。都市に倦んでいたら自然が恋しくなりますもんね……」
(*・ω・*)「――しかし、彼らの願いは叶わなかった」
グラスのブランデーを口にして、ショボは言葉を切る。
どうやら、彼なりの話の区切り方のようである。
そのとおり、暫らくの沈黙を措いた後に、彼の独白はより核心的な部分へと移っていった。
41 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:42:12.44 ID:HwaEQaY10
―――ある夜のこと。
子の刻である。
当然、こんな真夜中に起きている者などいない。ここは僻村も僻村、vip峡なのである。
旅館のふたりは、都会の喧騒から離れて軽い寝息を立てていた。
安眠を妨げる、あの忌まわしい車の音も無い。
しんしんと夜は静まり返っている。
限りなく、無音。
閑かだ。
とても。
だが。
そのうち、
「―― 。―― 。」
…………声が紛れ込んできた。
42 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:46:15.05 ID:HwaEQaY10
声の主は、ひとりの名前を呼んでいる。
誰ともなく名を呼ばれた男は、最初は声に気づかなかった。
だが、
「―― 。―― 。」
――――誰かが呼んでいるのか?
最度呼ばれて、男は覚醒した。
彼は、夢うつつのまま半身を起こして辺りを見回してみる。
――――隣で寝ている奴以外に誰もいないじゃないか。
44 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:49:01.39 ID:HwaEQaY10
部屋の中が昏いからだろうか、声の主と思しき影は見当たらない。暫らく目を凝らして周囲の様子を
見ていたが、矢張り見つからない。
――――気の所為か………。
彼は頭から布団を引っかぶる。
こんな奇怪な夜は寝るに限る……彼は、そう考えた。
考えた…………のだが、
「―― 。―― 。」
矢張り誰かが呼んでいる。
( )「誰だい、こんな夜中に……」
45 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:51:53.14 ID:HwaEQaY10
声の主が気になるので、彼はむくりと布団から起き出すと、隣で寝ている男を起こさないように、
そろそろと畳の上を歩く。
やがて、ふたりが寝ていた部屋を仕切っていた襖が、彼によって静かに開かれる。
( )「そっちに誰か居るのかい……?」
襖が閉められる。
足音が遠ざかる。
そのうち、畳の上を摺り足で歩く音が消え、廊下をスリッパで歩く音に変わる。
程なくして、足音そのものが『旅籠vip峡温泉』から消えた。
消えた。
完全に。
46 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:55:37.98 ID:HwaEQaY10
翌朝のことだ。
宿泊していた2人のうち、昨晩起き出さなかった方が覚醒した。
( )「ん、ああ……。いい朝だ」
布団の上で大きく伸びをし、首をコキコキと鳴らす。朝起きてからの一通りの動作を終えると、
目を擦って連れが寝ている筈の布団を目にした。
( )「ん…?」
――いない。そこに居るはずの連れがいない。
彼は小首を傾げる。
( )「早起きだな……。トイレにでも行っているのかな?」
47 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 00:59:36.16 ID:HwaEQaY10
そのことを確かめに、襖を開けて和室の土間の方へと歩いていった。見ると、スリッパが1足
無くなっている。
( )「やっぱりか。外履きの靴はあるから、館内に居るんだろうな」
暫らくの逡巡。
( )「自分もトイレに行くとするかな……」
そうひとりごちると、彼もスリッパを履き、トイレへと足を進める。
しかし、連れを探しにトイレまで行ったものの、そこに彼は居なかった。たしかに部屋からは
スリッパが1足消えている。なのに、その消えた主が行きそうな場所には彼は居ない。
( )「? トイレには居ないのか……」
48 名前: コレクター(石川県)[ちょいksk] 投稿日:2007/03/19(月) 01:01:04.14 ID:HwaEQaY10
此処に来て、少しばかり彼の中に疑念が湧き始めた。
まあ、トイレに来たのだから、折角なので用を足すことにする。白いタイル張りのトイレの
個室へと入ると、なかで唸り始めた。
( )「う〜〜〜〜〜ん」
( )「アイツは少食だから、食堂に居るとは思えないし……。まさか、売店でお土産でも
買っているのかな? だとしたら、案外もう部屋に居るかも知れないな……」
ブツブツとトイレの個室でそう呟き、済ますものを済ますと、彼はトイレから出て
部屋へと引き返す。
部屋にたどり着くと、少しばかりの期待を胸にして障子戸を開けた。
――やはり。
49 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 01:02:43.65 ID:HwaEQaY10
相変わらず、部屋には誰も居なかった。
( )「―――――」
おかしい。
何かがおかしい。
( )「―――――――」
( )「―――――――幾ら何でも、食堂には居るだろ」
50 名前: コレクター(石川県)[] 投稿日:2007/03/19(月) 01:05:12.80 ID:HwaEQaY10
疑念を払拭できないまま、彼は少々早い朝食を取りに食堂へと向かうことにした。
長い廊下を歩くのは彼ひとりだけである。静かな廊下にこだまする、彼のスリッパから来る
パタパタという音が妙に侘しい。
昨晩までは、この廊下をふたりで歩いていた。その時は、連れのスリッパの音もあった。
ひとりではなかったのだ。
それが、ひとりで歩くようになっただけで、こんなにも印象が変わるものか。
彼は、これまで感じたことのないような薄気味悪さに囚われる。
思えず、忍び足になっていた。
思うように足が進まない。
いつまでも続くかと思われた廊下を歩いていると、やがて食堂が見えてきた。食堂の中には
動く者がひとり。
それを認めると、彼は胸を撫で下ろした。
51 名前: コレクター(石川県)[orzorzorz] 投稿日:2007/03/19(月) 01:08:04.30 ID:HwaEQaY10
( )「――――ふぅ、散々人を怖がらせて……。一言ぐらい言って欲しいな」
すっかり気が軽くなると、足取りも普段どおりに戻る。
そして、揚々として食堂へと入ると、中の者へ呼び掛ける。
( )「お早う。こんな所に居たのか……」
――しかし。
彼に応えたのは、彼の意とする者ではなかった。
ξ ξ「――何よ。こんなに朝早くに」
第10幕:車内にて・2 了
つづく
出典:おっくせんまん
リンク:おっくせんまん

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