失踪した友人

友人（♂・30代・妻と幼い子供あり）が失踪した。

いなくなって今日で5日目。
家族は警察に捜索願を出した。

昔から酒好きで、飲み始めると止まらなくて、朝帰りなんて
しょっちゅうな奴だった。
でも、翌日には必ず家に帰ってきてたし、仕事場にも顔を出してた。
失踪する数日前、自分とも携帯で連絡をとりあっていて、
お盆あたりに会って飲もうかなどと話していた。

先日、友人の上司と名乗る男（この人の事は友人から以前聞いた事がある。
性格的にそりが合わないのか、酒に酔った勢いで殴られたことがあるらしい）
が、いきなり自宅にやってきた。

平日でまだ4時か5時くらいだったか、当然俺は仕事で帰宅してはいない。
家には妻がひとりきりだ。
妻の話では、社名と名前を名乗り
「F君（友人）は来ていないですか？」
と尋ねてきたそうだ。


いきなりの問いに妻がﾊｧ?(ﾟДﾟ)状態で詳しい話を聞いた所、
「仕事を終えた後、1人で飲みに行ってその後の行方がわからない」
「2日も無断欠勤するなんて今までに無かった」
同郷の友人である俺の連絡先（TEL)がわからず、住所だけは年賀状等で
確認できた為、わざわざ車で訪ねてきた、という。
（友人の奥さんから聞き出したそうだ）

ちなみにこの時、妻はうっかり玄関にカギをかけ忘れていて、
呼び鈴を押した後、妻がしばらく反応しそびれていたら
その男はおもむろにドアを開けてきたそうだ。
慌てた妻が「どちら様ですか？」と訪ねると、社名と氏名を名乗ったそうだ。

友人（Fとする）の失踪の話なんて初耳だし、何も連絡も来ていないと
妻はその上司に伝え、暫く玄関で立ち話をして、
俺の連絡先（携帯）ナンバーを渡して帰って貰った。

その夜に妻とその件についてなんとなく話していた所、妻が
妙な事を言い始めた。

「■■（俺）は、あの人（上司）のこと、どう思う？」
「どうって？」

そう問われても、俺自身はそう彼と面識がある訳では無い。
以前にFから、酔っぱらって殴られた事や、仕事に対する姿勢について
その上司に関する愚痴を電話で聞いたくらいだ。
実際会ったのも、Fの仕事場近くで顔をちらりと見たことがあるぐらいで。

「なんかね…なんか、うまく言えないけど、妙にひっかかるの、あの人」


俺が言うのもなんだが、妻は、人を見る目は結構ある方だ。
勘がいいというか、洞察力があるというか。

「私と話してる時、なんだか妙に視線を外すの。
話してる内容も別に疑わしいっていうんじゃないんだけど…
何か、なにか変なの。うまく説明できないんだけど」

勝手にドアを開けられたせいで印象が悪くなってるだけかもしれないけど、とも言った。

妻に言われて、俺もふと考えてみた。
Fとは小学校から、かれこれ30年近い付き合いだ。
確かに酒にはだらしのない奴だが、奥さんや子供の事は大切にしていたし
仕事からも家庭からも逃げ出して家出、なんて奴の性格上、ちょっとありえない。
大体そんなに手持ちは無い筈だ。
（奥さんはFにキャッシュカードは持たせていない）
奥さん名義の携帯電話は持たせてあるが、ずっと電源が切れている。


奥さんとも電話で話してみたが、Fの失踪以降、上司から何かにつけ
電話がかかってくるという。
「今日は※※まで探しに行ってみた」とか
「これから家（Fの自宅）まで行くから」とか、そういった内容だ。
俺の携帯にも同様に何度か留守電が入っていた。

奥さんにしてみれば、親身にFを探してくれたり心配してくれてて
ありがたいと思う…とは言っていたが、その上司から最初にＦ失踪の報を
聞かされた時に、口には出さなかったが、ある疑問が浮かんだという。


「どうしてＦがひとりで飲みに行ったってわかるの？」
「その時にあなたはどこにいたの？」

奥さんはどうしてもその疑問を口にできなかったそうだ。

善意のある見方をすれば、酔った勢いで部下（F)を殴ったりした過去の
負い目があるので、一生懸命に捜索をしている、とも思えなくも無いが…

とりあえず、明日奥さんに会って話をしてくるつもりだ。
携帯の通話記録の取寄方法（記録から発信地域などある程度絞りこめる）など、
俺の出来る限りのアドバイスを奥さんにしてこようと思う。
（Ｆ宅にはPCが無い）

他に何か準備すべきてだてはあるだろうか？
失踪人の捜索なんて生まれて初めてで何を調べればいいのやら…

蛇足だが、妻には俺の留守中にもし誰かが尋ねてきても
絶対にドアを開けるなと言ってある。


本日、奥さんと話していくつかわかったこと。

箇条書きにしておく。

1.発信履歴は既に取り寄せ済（発信から位置を絞れる事は知らなかった）

2.今日の夕方、上司が家に来た（捜索の進捗具合報告の為？？）

3.上司に、聞きこみの為にFの写真を貸してくれと言われた

4.履歴を取り寄せた件を話した所、上司に発信履歴を貸してくれと言われた
　（奥さん自身がまだ全部確認しきれていない為、断わったそうだ）

5.発信履歴の内容だが、失踪したと思われる当日深夜を最後に以降は
　一度も発信した形跡無し。
　何度かけても、「電源が入っていないか電波の届かない場所にいる」
　メッセージのみ。


先述した内容の補足だが、うちに突然やってきた旨を
奥さんに伝えた所、ひどく驚いていた。
なんでも、失踪２日目に奥さんから俺の家の住所を聞き、
その日の夕方に訪ねてきたらしい。
「まさかその日に行くとは思ってなかった」と奥さん談。

先日は、夜0：00頃にアポ無しでいきなりF自宅を訪ねてきて
奥さんも驚いたと言っていた。
そんな深夜にいきなり来て何を話したのかと思えば、特に
進展も無い捜索状況のことばかり。奥さんも少し不審がっている。

俺も今日ずっとFの事が頭から離れず、俺の上司
（紛らわしいので以後「部長」と呼ぶ）に相談してみた。
かなり色々な場数を踏んでる部長曰く、やはり

「その男の言動は少しおかしい」

と言われた。

「失踪して僅か二日目で、わざわざ奥さんから親友の情報まで聞き出して
　当人の家まで訪ねていくか？お前ならそうするか？
　よほど仲が良かったとかならまだしも、酒の勢いとはいえ
　部下（F)をタコ殴りにするような男なんだろう？
　そんなにそりが合わなかった奴の為に、平日に仕事も
　半ばおっぽりだして、あちこち駈けずり回るか？
　企業人はそこまでやらんだろ、普通」


部長曰く、

「よっぽど自分にやましい所があって、じっとしていられない、
　…ってなら話は別だけどな」

それと、妻の勘の件も一応話してみたが、部長にも
「人間の直感ってのは、信じといた方がいいぞ」
と言われた。


ちなみに、俺とFは同郷出身の幼馴染み。
小学校上がる前からの付き合い。
たまたま家が同じ県内にあるだけで、お互い忙しくて滅多に会えない。

Fと上司は同じ会社。小人数で切り盛りしてる。


Fの消息もつかめない中、
俺の会社の海外工場にトラブルが発生し
俺は急遽、海外勤務を命じられることになった

とりあえず俺一人が慌てて現地に行ってみたところ、
トラブルは予想以上に深刻だった。
急いで生産体制を復旧させるため
俺は猛烈な業務量に追われることになった。
毎日、深夜2時過ぎまで働き、休日など一日もなかった。

どんなに短くても半年はいることになりそうだったので、
妻も呼び寄せてこちらで暮らすことにした。
だけど俺は、引越しの手続はおろか睡眠時間すらままならない状態
転勤に必要な手続のほとんどは、妻にしてもらった。

海外に行っても、やはりFの消息も気になったけど、
まずは与えられた自分の仕事をこなすことと
自分が過労死しないこととだけで手一杯で
Fの奥さんに連絡できないでいた。

妻も妻で、海外転勤の手続のほとんどを自分でやらなくてはならず
目が回るような忙しさだったみたいだ。
Fの奥さんに連絡するのをすっかり忘れていたそうだ。

妻がFの奥さんに連絡したのは、それから2ヶ月ほど経ってからだ。

日本の日中に時間を合わせて電話を掛けたんだが
まったく電話に出なかった。
奥さんの携帯は電波の届かないところにいるか、電源が入っていない状態だし
自宅に掛けても全くでないそうだ。

何か嫌な予感がした。

その話を妻から聞いた俺は、
俺の実家に電話して、
俺の親に同窓会名簿でFの実家の連絡先を調べてもらうように言った。

その日、妻が職場に震える声で電話を掛けてきた。
妻が実家に掛けたところ、
なんと、今度はＦの奥さんと子どもが失踪したというのだ。

今度は、俺自身がFの実家に電話を掛けた。
久しぶりにFのお袋さんと話をしたんだが
お袋さんが言うには、実家にも何度となく上司は来たという。

Fの住んでいたところから実家までは
新幹線で数時間かかる距離だ。
そんな田舎まで、上司は何度も足を運んだという。

Fの実家来るたびに、Fと交友関係がある人物の連絡先を教えるよう
Fのお袋さんに迫ったそうだ
上司の不審な行動をFの奥さんから聞いていたFのお袋さんは
「今、警察が捜査している最中なので
プロではない人たちが面白半分に手を出して、警察の捜査を混乱させてほしくない」
という趣旨のことを遠回しに言って
友人の連絡先を教えなかったそうだ。

上司が来たとき、他に何か変ったことがなかったかを聞いたら
「そう言えば、あたしが『警察』て言ったとき、ホッペがヒクヒクっていってたねえ
あの人、やっぱり何か隠してるんじゃないのかね」
と答えた


今はもう、俺は日本に帰ってきてる。
しかし、FとFの奥さん、そして幼い子どもの行方は依然分からないままだ。
上司もFのいた会社を辞め、もう連絡が取れなくなっている。

しかし、ときどき思うことがある。
もし俺があの時急に海外転勤にならず、あのままFの行方を捜し続けていたら
もしかしたら、俺も妻も行方不明になっていたかもしれない。


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