かみ合わない3人の言い分
2007/07/17 08:09 登録: えっちな名無しさん
高校のときの話。
友人山田(仮名)の両親が法事でニ三日家を空けることになった。
俺と田中(仮名)は暇な夏休みを送っていたので、
泊りがけで遊びに行くことにした。
夕方から集まり、料理を作ったりしてちょっとした合宿気分。
夜になりだべっていたら、怖い話で盛り上がりそうになった。
怪談を始めたちょうどその時、山田の中学時代の友人、鈴木(仮名)も遊びに来た。
鈴木は、大人しくて真面目そう。
一見いいとこの坊ちゃん風で、幼い感じがした。
かなり小柄で、高校生には見えなかった。
俺と田中は鈴木と初対面だったが、鈴木はすんなり話の輪に加わった。
山田が都市伝説みたいな話をした後、
俺がとっておきのネタを始めたのだが、田中のノリが悪い。
くだらないツッコミや煽りを入れて茶化してくる。
「おまえ本当は怖いんだろ。だから白けさせようとしてんだな」
「違うよ、おまえの話が全然怖くねえんだよ」
当時俺らはいろんなことで、互いにライバル意識みたいなのがあった。
それが口論に発展することもしばし。
見かねた山田が諭すように提案してきた。
「おまえらどっちがビビリか、肝試しで対決してみたら?」
田中は乗り気だったが、俺は少し腰が引けた。
「○○橋の方に防災倉庫がある。そこは出るっていう噂だ。
中学の時の先輩が、彼女と一緒に見たとか言ってた。そこでやろう」
鈴木はもう遅いので帰るとのことだった。
三人で防災倉庫に向かったのは、十一時くらいだったか。
橋の手前にちょっとした空き地があり、そこに古いプレハブ小屋があった。
入り口は建付けの引き戸で、 掛け金に南京錠がしてあった。
「実はこれ、壊れてんの」
山田はその古い南京錠を外しながら、淡々と言葉を続けた。
「先輩、彼女を連れ込んでやってたらしいよ。
で、真っ最中に二人して見たんだと。
何でも、ホームレスがここで行き倒れになったことあって、
多分それじゃないか」
中は教室くらいの広さで、土嚢やカラーコーン、ポールなどが整然と置いてあった。
数年来の川の護岸工事で、これらの用具も使用されず、部屋全体が埃っぽい。
天井には裸電球が一つ吊るされていたが、スイッチは手元になかった。
「一人でここいるのはさすがにやばいから、
おまえら二人で一時間ここにいてみろよ。
で、先にギブアップして小屋から出た方が負けな。
決着が着かなかったら、その後一人づつ三十分の延長戦てことでどうよ?」
田中は「それでいい」と即答した。
顔が引きつる俺を、にやにや笑いながら見ている。
(もう戦いは始まってるってか?)
俺は田中の挑発に乗ってしまった。
「じゃあ、お前らが入ってる間、表からドアに鍵掛けとくよ。
一時間したら鍵開けに来るから」
「待てよ。懐中電灯ぐらい置いてけよ」
俺が山田にそう言うと、スモーカー田中が百円ライターに着火して
「いらないだろ。これがあれば平気だって」
と俺にプレッシャーをかけてきた。
山田が扉を閉めてしまったので、もう俺はここに1時間いるしかなかった。
とりあえず俺は、1時間自分の身を置ける場所を探した。
薄暗い小屋を見回してみると、土嚢の上が最適な場所だと思った。
土嚢に登れば、裸電球にも手が届くから
いざというとき点灯させることもできるし、
窓から差し込む橋の常夜灯の明かりは、土嚢の上なら届いていた。
俺はすかさずその場所を確保し、座り込んだ。
そして我慢比べと覚悟して、
田中にプレッシャーをかけるために、だんまりを決め込んだ。
暗がりに目が慣れた頃、田中はタバコに火をつけて口を開いた。
「山田の先輩って知ってるか?」
「さあね」
「ここに彼女連れ込んでやったとか言ってたよな。何してたのかね」
「アホか」
田中も静寂や暗がりが怖いのだろう。
必死にくだらない話を振って来る。
だが、ここで普通にだべっていては勝負にならない。
俺は意地を張って田中を無視した。
「もしかして、この上にシートか何か敷いてやったのかな」
田中はすっと立ち上がり、辺りをライターで照らした。
部屋の中には大と小の土嚢がそれぞれ部屋の両端に山ほど積まれている。
この2種類の土嚢の山の間は、まるで細道のようなになっていて小屋の奥に続いていた。
小さな土嚢の方が窓側で、俺はその上に腰掛けていた。
そして俺の傍らには、蛇のようにトグロをまいたロープがあった。
「こっちの奥には何があんだろう」
田中は土嚢と土嚢の間細い通路を、奥に向かって注意深く歩き始めた。
信じられない行動だった。
俺は取り残される恐怖に怯え、思わず田中の後を追いそうになった。
頭の中には、死んだホームレスのことしかなかった。
何かあったらすぐ田中の方へ逃げられるよう、俺は腰を浮かして恐怖に耐えた。
「おーい、線香があったぞ」
暗がりにぼんやり見えていた山田が、突然姿を消したかと思うと、間延びした声
をあげた。
俺は背筋が凍りついた。
「といっても、蚊取り線香だけどなあw」
「最近誰かが入り込んだのかなあ?」
田中は恐怖よりも性欲が勝っているらしい。
信じられない想像力だった。
俺は、田中のくだらない冗談にさえ恐怖しているというのに。
「おいおい、コンドーさんの袋があるぞ」
俺は自らの負けを確信した。
「あいつ○○中だよな。うちの高校で、あそこ出身の可愛い子っていたっけか」
俺は、田中の質問に答える余裕はなかった。
田中の質問のこの問いかけに対して沈黙を押し通した。
「・・・そうだよなあ。可愛い子はみんな△△女子に行っちゃうからな」
俺は田中の姿を確認するので精いっぱいだった。
「あ、でもD組の××、あいつ確か○○中だろ。あいつ、けっこう良くねえ?」
ライターを点火するたび、あいつの姿が浮かび上がる。
「そうそう。特に体操着の胸のあたりとかな」
田中の話し振りに違和感を覚えた。
「待て。おまえ誰としゃべってんの?」
一瞬沈黙があり、田中がわめいた。
「うあああああああああ」
土嚢の間の通路から飛び出すと、田中は俺を無視して、
いきなり全力で扉に体当たりした。
建付けが悪かったのか、その引き戸は簡単に外れた。
扉が外れて外の街灯の光が小屋に入り込んできた。
今なら、真っ暗だった土嚢と土嚢の間も少し見える。
俺は土嚢の間の通路にちらっと目線を移した。
その間に人影が見えた。
あれっ!鈴木じゃないか?
だが俺は鈴木と話はせず、まずは狂ったように駆け出す田中の後を追った。
「ちょっと待て!あれ鈴木だよ」
コンビニの前で田中に追いすがり、やっと息をついた。
「はあ?」
「だまされたんだよ。山田と鈴木がぐるになって、俺らを脅かしたんだって」
「鈴木?鈴木って誰?」
田中は俺の話を全く理解できなかった。
きょとんとした顔つき田中。
「さっき山田の家に来たやつだって。もう忘れたのかよ?」
二人の会話はまったくかみあわなかった。
「じゃあ、あそこで誰と話してたんだよ」
「暗くて分かんなかったけど、てっきりおまえだと思ってた。
顔は見えなかったけど、俺の後ろに、確かに誰かがいた」
「だから、それが鈴木なんだって」
そう言いながら、
こんないたずらや悪ふざけするような奴には見えかったなと思った。
俺の正面に座り、一番熱心に俺の話に耳を傾けていた。
ほとんど喋らなかったが、時折軽く相槌を打ったりして、
真剣に聞く姿は好感すら持てた。
だが田中は、鈴木なんて奴は訪ねてこなかった、と言い張る。
らちが明かないので
とにかく山田に聞くしかないなということで、
俺らは足早に山田宅へ向かった。
チャイムを鳴らすと、山田が不安げな表情で出てきた。
「おまえら、どこに行ってたんだよ」
俺と田中は唖然として顔を見合わせた。
俺たちと山田の話もかみ合わなかった。
「だから、飯食った後、ソファに座って三人で野球中継見てたよな」
ここまでは皆同じだった。
「俺は昨日遅かったから、野球見ながら寝ちゃったんだよ」
と山田は言う。
「で、おまえが眠そうにしてたから、俺が怪談話を始めたんだよ」
と俺。
田中も同意する。
「話してる最中に、鈴木っていう山田の中学の同級生が部屋に入って来ただろ」
俺だけが確認している。
山田がその話を聞いて、顔を曇らせた。
「俺、鈴木って友達いないぜ。
なんだそいつ?勝手に俺の家に上がりこんだのか?」
俺があっけにとられて言葉を失ってると、田中が後を引き継いだ。
「あの川べりの小屋に案内したのは覚えてるだろ。
おまえが度胸試ししようって言い出したんだから」
だが驚いたことに、山田は知らないと言った
そういえば、あのときの山田はおかしかった。
遠いから自転車で行こうと言う俺を無視して、山田は一人で先に歩き出した。
防災倉庫に着くまで、ずっと無言で
到着するなり、俺たちの意見なんか聞かず
あらかじめ決められていたように、肝試しの設定を滔々と喋りだした。
それに「先にギブアップして小屋から出た方が負け」と言いながら
山田は外から小屋に鍵を掛けている。
それでは、俺も田中も外に出られなくなる。
山田は頭を抱え込んだ。
「だ、か、ら、俺はもう完全に寝てたんだよ。
外には出てないの」
今度は田中が言葉を失った。
「じゃあ、あの小屋のことも知らないのか?」
絶句した田中に変わって、俺が訊ねる。
「知ってる。あそこは中学の時の通学路だった」
山田は真っ青な顔していた。
「ずっと前、いじめに遭ってたやつが、あそこで首吊り自殺したらしい」
全員黙り込んでしまった。
そのまま誰も話さず、長くて重い沈黙が続いた。
「寝てる最中、夢を見たんだ」
沈黙を破って、山田が口を開いた。
「おまえらが、どっかの小屋に行って、首吊って死んでる夢だ」
三人が顔を見合わせた瞬間、部屋の照明が落ちて真っ暗になった。
ふと上を見ると、真っ暗なソファーテーブルの上に、
首を吊った男が見えた。
顔は、まるで塗りつぶしたように真っ黒で、どんな顔なのか見えなかったが、
ロープと体ははっきり見えた。
首を吊った男は、服も肌も真っ白で、暗闇の中で浮かび上がるようだった。
出典:うは
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