あの夏の日の思い出3
2007/07/19 21:30 登録: えっちな名無しさん
由香「ねぇ〜ねぇ〜金魚すくいやろうよぉ〜金魚すくいぃ〜」
俺「ダメだ。お前昔っから生き物の世話とかしないだろ。第一こういうお祭りの金魚はみんな弱ってるから、ちゃんと世話してもすぐに死んじゃうことも多いし」
由香「世話するもん。今回の私はいつもと違うんだから。それに、ここで一生暮らして死んじゃうの可哀想だよ・・・ならいっそ私の手で」
俺「自分から殺ってどうする。あぁ〜却下だ却下だ。ほら、いくぞ」
由香「おじさん!一回ねぇ〜」
金魚すくいのおじさん「あいよ、毎度あり」
あのやろう、人の話も聞かずに・・・
【数時間前】
それはいきなりだった。
由香「ねぇ〜お祭りいかない?」
俺「あぁ〜?お祭り?」
結局たいした案もでず、今時小学生でもやらないような『朝顔の観察』というものすごくポピュラーな研究に決定した。本来ならこんななんの捻りもない実験を認めてもらえるはずは無いのだが、夏休み期間中学校に植えてある植物たちに週3〜4水をやればこの実験を認め、なおかつスペースも貸してくれると言うのだ。こんなおいしい話はない。すぐに俺はこの案に乗ったが、由香は最後までブーブー言っていた。それでも観察が始まれば、毎回楽しそうに植物に水を撒く由香の姿があった。この日も水撒きと朝顔の計測のために俺と由香は学校に来ていた。
由香「っそ♪お祭りぃ〜」
俺「お祭りって・・・あっそっか、そういえば今日だな神社でのお祭り」
人ごみが嫌いだった俺はすっかり忘れていた。たしかそれなり大きなお祭りで、最後には100発程度花火もあげたはずだ。
由香「うんうん♪そうそう♪でねぇ〜私誰とも約束できなかったんだ。だからさ一緒に行かない?」
俺「誰とも約束してないって。お前、結構周りから誘われてたじゃん」
由香はバカだったが友達は多く、クラスの中でも人気者だった。
由香「いや〜ま〜ぁ。いたにはいたんだけど、え〜となんていうか・・・!!!っそっそう、行く約束してた子、彼氏ができちゃってさ〜。なんかその人と行くみたい」
俺「ふ〜ん。誰?」
由香「そっそんなの言えないよ。えぇ〜となんて言ったかな・・・あっそうそう、ぷらいべ〜とに関わることだもん。だからさぁ〜行こうよ〜花火観ようよぉ〜」
俺「分かった、行くか。」
由香「えぇ〜そんな即答しなくっても・・・ってええええええええええぇぇ!!今、行くっていった?OOって人ごみ嫌いじゃなかったけ?」
俺「嫌いだけどたまにはいいだろ。ってか何故にそんな驚く。」
由香「だってOOが私の言ったこと否定しなかったんだよ!!いつもなら悪魔みたいに『ダメだ』とか『嫌だ』とかバッサリ切り捨てるじゃん」
俺「やっぱ行くのやめる」
由香「あぁ〜ごめんなさいごめんなさい。ほら、肩揉むからね許して許して」
そういう訳でお祭りに行くことになったんだが
由香「おじちゃんもう一回!!」
これで由香のチャレンジは四回目だ。どう考えても由香が五回目に挑戦する光景しか目に浮かばない。
由香「あぁ〜破けちゃった・・・おじちゃんもう一かいいいいいいいったぁぁぁぁい」
由香の頭をチョップする。
由香「なにすんのさ!!!」
おっ今回は回復が早いな。もうちょい強めでもよかったか。
俺「おっちゃん、一回ね」
俺は由香を無視して、金魚すくいのおっちゃんに200円を渡す。こんなものは理屈じゃない肉体そう体で感じるだ。五感を刃物のように研ぎ澄まし、金魚の動きに集中する。
俺「もらったーーーー!」
【十分後】
俺「俺の千円が〜〜〜」
そこには金魚に翻弄された一人の敗残兵と
由香「あはははは、全然だめじゃんOO」
さらに追い討ちをかける追撃兵の姿があった。
それでもなんとか最後に一匹取れたのは不幸中の幸いだろう。
俺「ほれ」
由香「ん?何それ?」
俺「いや、金魚。やるよ。」
由香「でもそれはOOが獲ったんだからOOのだよ」
俺「だからやるっていってんの。欲しかったんだろ」
由香「うん・・・でもOOだって欲しいよね?」
俺「いらね〜よ。うち金魚飼える環境ね〜し。むしろ貰ってくれ。ほれ」
由香「じゃ〜貰っちゃおうかな。えへへへぇぇ〜ありがとう♪」
俺「っつっ!!」
由香「んんんん〜〜?どうしたの?顔赤いよ?熱でもあるの?」
うるせ〜よバカ。こんなつまらんもんでそんなに喜ぶんじゃね〜よ。可愛いじゃね〜かよクソ!!
がっ!!
由香「痛ったぁ〜い!!!何すんのさOO!!!」
俺「チョップだバカ野郎。ほれ、そんなもんで喜んでね〜でいくぞ。花火始まっちまう」
由香「あぁぁ〜待ってよOOぅ〜」
っぎゅ
俺「ばっバカ、手ぇぇぇ〜握んじゃね〜!!」
由香「いいじゃん♪いいじゃん♪こんな人ごみじゃ逸れちゃうし」
俺「っつぅぅ〜」
ひゅ〜〜〜〜〜〜〜っどん!!!!!!!!!
由香「あっ始まった!!!」
どん!!!ひゅ〜〜〜どっど!!どんっ!!!!どん!!どん!どん!!!
由香「きれ〜〜」
俺「きれいだな」
手を離すタイミングを失ってしまった。しかし、不思議と恥ずかしさは無くなっていた。
時間だけが過ぎる。永遠のようで一瞬なこの時間、きっとあっという間に過ぎてしまうだろう。この時間が永遠に続けばいいとか俺らしくもないこと思ってしまうのはきっと花火のせいだろう。
由香「ね〜・・・・OO・・・・私ね、一生この時間が続けばいいなって思うんだ」
そして、由香花火の魔法に掛かってしまったようだ。
由香「だけど・・・・っね・・・・・・私ね・・・・・・」
ひゅ〜〜〜〜どん!!どん!!!!!どん!!どん!どん!!!!!!!!!!どん!どん!!!どん!!!!
ここ一番の大きな花火が破裂する。
俺「ん?何??」
そのせいで由香の小さな声はかき消されてしまった。
由香「うんうん。なんでもないのなんでも」
俺「あっ・・・そう」
由香のいつもと違う表情に違和感を感じたが、その違和感のせいで俺は追及できなかった。
最後の一発も終わり、どこか寂しさだけが残る。
由香「・・・終わっちゃったね」
俺「あぁ〜そうだな」
由香「帰ろっか」
俺「そうだな」
二人して神社の階段を下りる。会話はなかったが、確かに右手には由香のぬくもりがあった。
このぬくもりを確かめるように右手に力をいれる。すると由香もしっかり握り返してくれた。
この時俺は気づいてしまった。
あぁ〜俺こいつのこと好きなんだ。
二人で歩く道は心地いい。永遠にこの階段が続けばいいのに。そんなことを本気で思ってしまう。
でも永遠なんてものは当然存在しない。
それにこの時の俺はまだ気づいていなかった。永遠なんて思えることが、どれほど贅沢かということに。
出典:オリジナル
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