臥薪嘗胆

2007/07/22 07:16 登録: えっちな名無しさん

中学時代、俺のクラスでは、かなりのいじめがあった。
虐められていたのは、男子、女子、それぞれ3名ぐらいずつで、
特に、家が近所だった小林(仮)は、身長が150そこそこの短身痩躯だったこと、
兄弟が多くていつも家の手伝いばっかりだったこともあり、クラス内の
いじめっ子連中からいつもこき使われていた。
金をせびられることはあまりなかったようだが、絵に描いたようなパシリに
使われていた。
そいつらのなかには、町道場に通っている空手経験者やら兄弟がボクサーの奴もいて、
俺をはじめ、クラスメイトは、冗談交じりに止めることもできない状態だった。

ある時、小林は、不良連中の娯楽として、原稿用紙20枚文にも及ぶようなラブレターを
書かされ、学年1の美女に無理矢理渡しに行かされるということがあった。
不良連中が散々手を入れたそのラブレターは、卑猥な単語満載で、
その娘はそれを受け取った次の日に学校を休み、不審に思った両親が問いつめて、
その「ラブレター」の存在が明るみに出てしまった。

小林は担任とその子のクラスの担任、学年主任と生徒指導まで交えた教師陣に
呼び出され、凄まじい怒られかたをしたらしい。が、小林は、事情を説明できる
はずもなく、「ふざけてやっただけ」ということになってしまった。

普段はぼんやりしていた小林は、その日から、何かにとりつかれたような
険しい表情になって、誰とも話さなくなっていた。
俺は比較的、小林とは仲が悪くない方だったのだが、雑談に紛らわせて
話しかけようとしても、「ああ」とか「そうか」ぐらいしか言わずに、
座った目で宙を睨んでいた。
 知人中から、いろいろな情報が流れてきた。
『その学年1の美女は、本当に小林が密かに好意を寄せていた相手だった』
『不良連中は、小林の「ラブレター」をネタに、その子に接近している。
 「あんなキモい馬鹿、俺らがボッコボコにしてやるって!」などなど』
『事実、小林は彼らに、殴る蹴るの暴行を受けた後、ピースサインを出す彼らに
 引きずり起こされて、携帯で写真を撮られていた』

 小林がおかしくなりはじめて数週間、今度は奇妙な噂が流れはじめていた。
『小林は、密かに復讐をたくらんで、ナイフや刃物を通販で買って持ち歩いている』
『古武道の道場に通い始めた』『不良連中を一人一人闇討ちするつもりらしい』
 そんな噂が馬鹿馬鹿しく聞こえないほど、小林の様子はおかしかった。

 そして、その日。
 いつも通り、昼休みになり、不良連中は教室の前の空きスペースで、馬鹿な立ち話
に興じていた。そこに、ゆらっと近づいていく人影が。
 小林だった。
 あっとおもって思わず席から起ち上がったときにはもう遅く、小林は、両手を
腰だめに構えて、身体ごと相手にぶつかって行っていた。そいつは、不良連中の
リーダー格、中学生ながら初段を持っている空手使いだった。

「ぐぎゃーーーーーーーーっ!!!!」

 今までに聞いたことのない悲鳴。床を激しくのたうち回る不良リーダー。
 そして、あまりのことに唖然とする俺をはじめとするクラスメイト。
 小林は、彼は…なんと

『カンチョー』

 を、不良リーダーにいきなり喰らわしたのだった。
 だが、これか冗談で済むようなものではなかった、いったん低い体勢を取って
膝下のバネを十分にきかせ、背筋力で相手の身体ごと持ち上げるような、
まことにおそろしい勢いの一撃だったのである。
 不良リーダーはなおも尻を押さえて声にならない濁点だらけの悲鳴をあげ、
七転八倒中。ズボンに二種類の染みが広がっているのが、映画のワンシーンの
ように鮮やかに見えた。周囲の不良連中は、呆然としてなにもできない。
「なんだよ、大げさだなあ。たかがカンチョーぐらいで…」
 そこで、いやに陽気な小林の声が響いた。
(…小林、この一言を言いたいがために…)そして、のたうち回るリーダーを
落ち着き払って、ポケットから出したデジカメで何枚か撮影すると、
朗らかな笑顔で席に戻った。

 凍り付いたクラスの空気は、リーダーが、側にいた女子生徒の靴にしがみついて
その女の子が泣き出したことをきっかけに、爆発した。リーダーはそのまま病院に
担ぎ込まれた。
肛門が完全に避け、手術が必要かも知れないところまで行っていたらしい。
教師達から事情聴取があったが、小林は
「ふざけてやっただけです。いつも彼らが俺にやっているみたいに」
とだけいって、あとは薄く笑っていたとのこと。
 ただ、不良連中は、恐ろしくなったのか、「いじめ」を次々に自首。
小林の冤罪ははれたが、不良リーダーはそのまま転校したそうだ。
 小林は「厳重注意」とだけされ、事実上の無罪放免となった。

 ある時、正面玄関の掲示板に、A2版まで引き延ばされた「リーダー撃沈」の図が
貼られていたが、程なくはがされ、犯人の追及はなかった。

あとで、別人のように陽気になった小林とは、卒業までそこそこ仲がよかったが、
彼がぽつぽつと教えてくれた話を総合すると、
「最初は、自殺してやるつもりだった。でも、俺が自殺しても、不良どもが
喜ぶだけだとおもった。それで、奴らに復讐してやりたかった」
「できるだけ、思い切り恥をかかせてやりたかった」
「ボクシングのジムに通って、身体も鍛えた。それとは別に、一日500回、
 ヒンズースクワットと腕立てと腹筋をやった」
「冗談だって笑って言ってやりたかったから、カンチョーにした。毎日素振りをして
 練習した」
「人体急所の本も読んで、肛門は露出している内臓で、人体急所の一つだって知った。
 エイン(字不明)かどちらかに当てるつもりだった。そのまま相手が死んでも
 良いと思った」
「リーダーが転校した先の学校にも、夜中のうちにポスターではっておいたよ。
 これで復讐は完了した。すっとした」

 今から5年以上も前の話になるが、これまでの人生で、もっともショッキングで、
そして哀切に満ちた復讐劇だった。
 小林。君は今、どこで何をしているのか。

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