チンピラさんの小噺

2007/07/26 15:56 登録: えっちな名無しさん

私は20代の頃、ある大繁華街でチンピラとして過ごしました。
チンピラというのはもう社会の底辺中の底辺ですし、兄貴達にも世間様にも人間扱いされません。
しかし、ストレスが溜まりまくってる分、逆説的ですがスーッとする機会も多いわけです。
そんな生活をしていた頃のこと、ちょっと思い出したことを書きます。

今回は、思い出すのも恐ろしい、私が史上最大のピンチに直面した事件を書きます。

ある日、本部事務所に大至急で呼び出された私は、組幹部のただならぬ表情に大事件が勃発したことを悟りました。
若頭から直々に応接室に呼ばれ、緊張した面持ちで正面に座ると、案の定、とんでもない話を持ちかけられました。
曰く、「○○(組員のひとり)が、ついさっき路上でパクられた。
あのバカ、シャブなんぞ持ってやがって現行犯逮捕だ。そんで、今日明日中にもガサ(家宅捜索)が入りそうなんだよ、ここの事務所に。
で、ヤバイもん分散して持ち出してんだけど、おめえの担当はコレだ。いいって言うまで保管しててくれや」
と、テーブルの上にゴトリと置かれたものは、まごう事なき拳銃でした。
そんなもん、いきなり預かれってアナタ、ぶったまげましたよ。
断るも何も、アワ食って言葉にならない私に、
「おい、確かに頼んだぞ。これに入れとけ」
と、お菓子か何かが入ってたらしき箱を置き、出てってしまいました。
中には油紙が敷き詰められていて、実弾が数発入っています。
「あ、あの、ちょっと、カシラ、これ、いつまでですか?」
「いいって言うまでだバカ。てめえ、人の話聞いてんのか」

さあ、困りました。
こんなもん所持して捕まれば、それだけで5〜6年は塀の中です。
その前には、出所はどこだっていう過酷な取調べ、つまり猛烈なヤキが待ってます。
そこでネをあげてゲロっちまえば、これはもう一生命を狙われますし、つまりどう考えてもいいことなんざひとつもないのです。
私は、お菓子の箱をデパートの紙袋に入れて、つんのめるように本部のビルを出ました。
どうしようどうしよう。
後ろ暗いときは、どうしても挙動不審になるものです。
泣きそうな顔でデパートの袋を抱え、オロオロしてるチンピラを見かけたら、誰だって110番したくなるに決まってます。
こりゃイカン。とりあえずタクシーに飛び乗り、少し離れた喫茶店に行きました。
コーヒーを飲みながら保管場所をあれこれ考えましたが、いい考えが浮かびません。
そうこうするうち、事務所当番の時間が迫ってきました。
しようがない、保管場所はあとで考えることにして、仕事先へ向かいました。
敵を騙すにはまず味方から、と言いますが、この時の私も同じ心境で、
努めて平静を装いつつ事務所に入り、とりあえず紙袋は冷蔵庫の後ろに隠しました。
この日の当番は午後9時まで。
いつもならすぐに事務所を出て一杯飲みに行くのですが、今日はそれどころじゃありません。
あれこれ保管場所を考えているうちに11時になってしまいました。

ホント困った、どうしよう。頭を抱えていたその時、カシラから電話がありました。
「ああ俺だ。今朝預けたモンな、もういいぞ。明日の10時にこっちへ持ってきてくれ。ご苦労さん」
「えっ!? ホントですか? もういいんスね? はいっ!! 間違いなくお持ちしますっ!!」
この時の開放感! おわかり頂けますか? 大きく大きく溜息をついて、
「はぁーー良かった良かった!さぁーて飯でも食いに行って一杯飲んでっと・・」
その瞬間、私、目ん玉飛び出そうになりましたよ。間違いなく心臓は止まってたと思います。
無い!無いんですよ!紙袋が!
何度ホッペを殴ろうが、頭を壁に打ち付けようがホントに無い!
もうどうしようなんてモンじゃないですよ。
狂ったように事務所中家探しして、冷蔵庫なんざ分解せんばかりに開けたり閉めたり覗きこんだりしましたが、無いモンは無い。
こりゃあヤバい。
誰が持ってったんだかわからない上に、聞いたって名乗り出るわけありません。
もうホントに高飛びですよ、こうなったら。
しかし、今の所持金でどこまで行けるかサイフを開いても万札2枚じゃどうしようもない。
逃げても逃げても追っかけられるわけで、捕まったときは下手すりゃ殺されます。

どうしよう。
いや、確かに監督不行き届きですが、拳銃盗んだ真犯人は別にいるわけで、
事情を話せば2〜3発殴られるくらいで助かるかも、いやいやそんなに甘くねえわな、
遂に俺も小指とサヨナラか、などと一人で思いつめててもラチがあかない。
すがる思いで唯一無二の親友に電話をかけ、一部始終を話しました。
「殺されるぞお前」
これが親友の第一声でした。
そして第二声で、俺、聞かなかったことにするから、と言って電話は切られました。
皆さん、友達だの親友だのホントにあてになりませんよ。私が保証します。
逃げることもできず、思い切って小指を落とす決心もつかず、朝を迎えてしまいました。
逃げられない以上、約束の時間に出向いて詫びを入れるしかありません。たとえその後どうなろうとも。
私は決心を固め、本部に赴きました。
カシラはまだ来ておらず、応接室で待つよう言われました。
待ってる間、ドクンドクン心臓は脈打ち、口の中はカラカラで、シャツは汗でびっしょりです。
怖い。もう嫌だ。やっぱり逃げようか。そうだ、逃げよう。後で来なおすって言って逃げよう。
私が腰を上げかけたとき、その時です。そうはさせじと言わんばかりに、その扉は開きました。

カシラと本部長が2人で入ってきて、私の前に座りました。
「おう。おはよう。ご苦労さんだったな。さっき確かに本部長から受け取ったから」
「は?」
「これ、少ねえけど取っとけ。お茶でも飲め。そんじゃな」
カシラはテーブルに3万円置くと、忙しそうに出てってしまいました。
扉が閉まり、2人だけになると、汗びっしょりで目を見開いたままの私に本部長が話しかけてきました。
「バカかてめえ。あんなところに拳銃置きやがって。本当に無くしたらおめえどうなってたと思ってんだ」
「そんじゃ、本部長が・・・」
「てめえにゃ荷が重いと思ってよ。ま、これに懲りたら仕事にゃもうちっと責任持つこった」
ほんぶちょ〜っとだらしなく泣いてしまったとき、私は足を洗い、今度こそ真っ当に生きる決心を固めたのでした。
(了


出典:胸がスーッとする武勇伝を聞かせて下さい
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