女体改造産婦人科病院 「ある日突然に」
2007/08/06 18:31 登録: えっちな名無しさん
女体改造産婦人科病院
女性化短編小説集「ある日突然に」より
その日、私は風邪で会社を早退しました。
酷い悪寒で、身体がぶるぶる震えて、足取りも重いのです。
「家に帰ったら、風邪薬を飲んですぐに寝よう」
帰路の途中に病院があるのに気づきました。
病院の看板には、診療項目として、産婦人科と内科とが記されています。
「産婦人科か……」
大きなお腹を抱えた妊婦が出入りするのを目にします。
気恥ずかしくて、さすがに入るのがためらわれます。
「でも内科とも、ちゃんと書いてあるよな」
この酷い症状は風邪薬だけでは治りそうもありません。
意を決して、その病院へと入っていきます。
すると、男性である私に対し、異様な妊婦達の視線が集中します。
判り切っていたことですが……。
マスクをし咳を連発する私をみれば風邪だとすぐに判るはず。
ここは内科でもあるのです。
受付けで初診の手続きを済ませてベンチで待っていると、すぐに呼び出しがかかり
ました。
「いやに早いな」
すると看護婦が、他の妊婦達にも聞こえるように答えてくれました。
「ひどい風邪のようですから先に診療します。院内感染で他の妊婦さん達にうつして
は大変ですからね。風邪は妊婦には大敵なんですよ。お腹の子にも差し障りがありま
す」
「それもそうだね」
診療室に入ると、早速医師が診療をはじめます。
シャツをまくしあげた胸や背に聴診器をあてていた医師が変な事を言い出しました。
「君、結構色白だね。身体もわりと細身だし」
「ええ、まあ……」
「それに童顔だ。女性と間違われたことはないかね」
「は、はあ。たまにあります」
「だろうねえ。女装した経験は?」
「ありません」
「そうか。化粧して髪型もそれなりにすれば、立派に女性として通用するはずだよ」
「な、何言っているんですか」
変なこと言う医師だと思いました。
「新型肺炎ということもあるので、検査用の血液を少し採取してもいいかね」
「新型肺炎?」
それは2003年夏に、中国を発祥地として全世界に蔓延し、死者もたくさん出し
た病気です。
「いや、念のためだよ」
驚いた表情をみて医師が確認するように言いました。
「わかりました。どうぞ」
看護婦が早速注射を静脈に刺して血液を採取していきました。
やがて診断が下されました。
「症状はひどいが、たんなる風邪だね」
「そうですか、良かったです」
「注射を打てばすぐに良くなるよ」
と言って、そばのもう一人の看護婦に合図を送りました。
「一応速攻性のある静脈注射と、持続性のある筋肉注射の二本打ってあげよう」
「二本も打つのですか?」
「その酷い咳と悪寒をすぐに止めるために、まずは一本。そして風邪の症状を抑える
ための風邪の特効薬をもう一本だよ」
「そうでしたか」
看護婦がトレーに乗せて運んできた二本の注射を、静脈と筋肉にたてつづけに打た
れました。
「よし、これでいい。三十分もすれば咳も悪寒もたちどころにおさまるはずだ。即効
性がある分、副作用もあるが気にしなくてもいいだろう」
「副作用があるんですか?」
「ああ、命に関わるようなものじゃないから安心したまえ」
診療代を払って、その病院を後にしました。
両腕に処置された注射箇所の痛みが続いています。
家に帰りつきました。
部屋に入り、パジャマに着替えるのですが、咳と悪寒がきれいに治まっていました。
「へえ、さすがに注射だな。すぐに効いているよ」
しかし身体全体がほてって熱く感じるのは何故でしょう。
とにかく今日は何もする気が起こりません。
すぐに布団を敷いて寝る事にしました。
股間の当たりがひどく痛みます。
インフルエンザなど高熱を発する疾患では、睾丸などが高熱の影響で痛みを伴う事
があるのを知っていました。睾丸は熱に弱いのです、それは身体の体外にあって、ラ
ジエーター効果をもたらす陰嚢に収められていることからも理解できるでしょう。
朝になりました。
ひどい寝汗です。風邪の回復期によく見られる現象であることが判ります。
汗を拭おうと腕を動かした時でした。
胸の部分に異様な感覚が走りました。
あわてて飛び起き、布団を跳ねのけて確認します。
「なんや! これは!」
私は絶句しました。パジャマをはだけた胸には、見事に大きく膨らんだ豊かな乳房
があったのです。
おそるおそる触ってみると、弾力のある膨らみであることが確認できました。
風呂場にある鏡に、自分自身の身体を映してみました。
豊かなバストに、大きなヒップが確認されました。
「もしかして副作用があると言ってたのこのことか!」
身体は、どこからみてもまさしく女性のボディーラインでした。
ただ一ヶ所を除いて……。
股間には見慣れた例のモノがぶらさがっていたのです。薬のせいで小さくなっては
いますが、さすがにここまでは変化の余地がなかったようです。
とにかく一大事です。
この状態をなんとかしなければなりません。
会社の出勤時間はとうに過ぎていました。
「電話しなくちゃ。風邪ということで休ませてもらおう」
会社に連絡を取ります。所属の庶務課への直通回線をダイヤルします。
発信音の後に、電話の向こうから○○○○商事ですという受付嬢の声が届きます。
「庶務課の倉本里美ですが」
と声を出した途端に驚きました。キーの高い女性の声になっていたのです。
相手から返事が戻ってきます。
「倉本……。確かに庶務課に倉本はいますが、そちら様は?」
女性の声で男性職員の名前を出したので確認してきたようです。
「あ、あの……倉本の姉です」
とっさに結婚して近くに住んでいる姉を装いました。就職の際の身元保証人になっ
ていますし、姉が看病の為に訪問していることは有り得る事です。
「お姉さまですか」
「はい。倉本は風邪で、休ませていただきたいのですが」
「かしこまりました。上司にはお伝えいたします。昨日は早退されたようですし、ご
容体もかなりひどかったご様子ですが、二・三日お休みということになりそうです
か?」
本格的な風邪となれば一日では治らない。二・三日高熱が続くことも良くあるこ
と。それを確認していたようです。
「はい。最低三日は寝込むかもしれません」
「わかりました。その点も合わせて報告しておきます」
「それでは、お願いします」
「はい。お大事にどうぞ」
送受器を置いて、思わずため息をもらします。
「声まで、女性になってしまうとは……」
もう一度、あの病院に行くしかない。
あの注射のせいで、こんな女性の身体になってしまったのは明らかなようです。
きっと解毒剤もあるに違いないはずです。
不思議な事には、注射のせいで熱も悪寒もすっかり治まっていました。
さっそくパジャマを脱いで着替えます。
しかし、大きな胸のせいで、シャツのボタンを留めることができません。ズボンも
やはり大きなお尻が邪魔でファスナーを上げることができません。
しかたなくTシャツにジャージの上下を着て出かけることにしました。
ジャージの上からも、大きな胸の膨らみがはっきりと見えるので、人目につかない
ように腕を組むようにして、胸を押さえていなければいけませんでした。
そして通行人が見えなくなると駆け出します。一刻も早く病院に着きたかったから
です。
大きな胸がTシャツの下で、ぷるるんぷるるんと軽やかに弾みます。大きな胸とい
うものは、走るのにはまったくの邪魔物でしかない事を再認識しました。世の女性達
はこのようなものを胸にくっつけて生活していると思うと気の毒にも感じました。も
っともそれが男性にとっては、魅力の一つでもある事も知っています。
乳首がシャツに擦れて、痛いというか微妙な感覚が全身を駆け抜けていきます。
やっとの思いで病院にたどり着きました。
受付けを済まし順番待ちでベンチに座ります。
腕組をし、胸の膨らみに気づかれないようにします。
やがて自分の番になり、処置室に入るなり医師に食って掛かりました。
「一体何を注射したのですか?」
「女性ホルモンと成長ホルモンだよ。超即効性のハイパーエストロゲンとアンチアン
ドロゲンの混合剤、そしてスーパー成長ホルモンをね。効果はご覧の通り、一晩で女
性化してしまうという素晴らしい薬だよ。でも、風邪もちゃんと治っただろう。風邪
薬を混ぜておいたから」
何という事でしょうか。
本来の目的だった風邪の薬は二番煎じ的な言い方です。
「元に戻してください」
「といっても薬じゃ治らないし、となると手術になるが、大胸筋の中まで浸潤した乳
腺組織を取り除くのは大変だぞ。全身麻酔をかけてじっくりと組織を取り除いていか
なければならない。大手術になる」
「そんなこと知りませんよ。あなたが勝手にホルモン剤を投与したから、こんな身体
になったんです。手術でもいいですから、元のまんまに戻してください」
「そうか、そうまで言うのなら」
入院手続がとられ即日の手術となりました。
手術前の緊張を解きほぐす為の前麻酔薬を飲まされた後に手術台の上に乗りました。
乳房の上に執刀ラインが引かれていきます。
やがて前麻酔剤が効きはじめたのを確認して、
「それじゃあ、オペを開始するよ」
と本麻酔用のマスクが掛けられました。
やがて意識が遠くなっていきます。
麻酔から覚めました。
ベットの上に横たわり、しばらくは意識朦朧状態で、天井を何気なく見つめていた
ようです。
次第に意識が回復していきます。
「そ、そうだ! 身体はどうなって……」
掛け布団を跳ね上げて、わたしは絶句してしまいました。
可愛らしい女物のネグリジェを着せられており、以前のままの豊かな胸がネグリジ
ェの上からもはっきりと確認できたからでした。
そこへ丁度医師が入室してきました。
「気分はどうですか?」
ほとんど事務的な回診の口調でした。
「どうして……元の身体に戻してくれると言ったじゃないですか」
「いやあ。完璧に手術は成功したよ。後は回復を待つだけだ」
「胸はあるじゃないですか、一体どんな手術をしたのですか」
「SRS。性別再判定手術というものだよ」
「SRS……。何ですかそれは」
「股間を触ってみればわかる」
医師に言われた通りに、股間に手を当て、覆われたガーゼの中に指を差し込んでみ
ると、
「な、ない!」
その場所にぶら下がっているはずのモノが見当たりませんでした。
しかも異様な感触もあったのです。溝らしきものがあって、まさぐっていた指があ
る部分で、すっと少し中へ入っていく感触。
「ま、まさか!」
わたしは、医師や看護婦がいるのにも気がつかない状態で、ベッドを起き上がりネ
グリジェを脱いで、大きなガーゼを取り除いて、その股間を明るい光の中で確認した
のでした。
手術の為にきれいに剃りあげられたその部分には、ほのかなピンク色をした女性の
外陰部があったのです。
「こ、これは……」
あまりのショックに、その後の声が出せませんでした。
「心配するな。私は中途半端は嫌いだ。脳死した女性の内性器と、外陰部から恥毛を
含めた鼠径部ごとそっくり移植したんだ、どこから見ても完全な女性にしか見えない
ぞ。膣や子宮、そして卵巣もあるから、性行為はちゃんとできるし、妊娠も可能だぞ。
せっかく大きくて豊かな胸になったんだ、どうせなら身体全体も完全な女性になりた
いだろうと思ってね」
「そんなこと、聞いていません」
「ああ、大丈夫。拒絶反応は起きないよ。血液を採取しただろ、あれで血液型や免疫
抗体などの検査をしている。うまい具合に血液型の一致した脳死者の女性が見つかっ
た」
「そうじゃなくて……」
「以前の状態のままなら、豊かな胸を維持するために毎週注射を打たなければならな
かったし、あれだけ強力な薬だから、女性ホルモンの禁断症状は麻薬のそれとは比べ
ものにならないほどの苦痛が、再び薬を打つまで続いていたはずだ。しかし卵巣を移
植したからもうその心配はないよ。血液中に女性ホルモンがある限り、禁断症状は起
きない。いずれ薬の効果も消えるから禁断症状も消失する」
まるでこっちの話しを全然聞いていない。陶酔したように自分の執刀した手術のこ
とばかり説明している。それはさらに続く。
「契約書も交わさずにこっちで勝手に手術したんだ。その費用はいらないよ。じつは
SRSの腕を磨きたくてね。しばらくは研究目的で無料で手術してたが、その最後の
患者が君というわけだ。運がいいよ、君は」
「とんでもない、最悪ですよ」
「普通のSRSでは、ダイレーションといってペニス状の拡張具、ダイレーターを挿
入して、形成した膣が再び癒着しないようにしなければならないのだが、君の場合は
外陰部まで含めて女性のものをそっくり移植しているし、傷口もきれいだからその必
要はないよ」
この医師に何言っても無駄かな……。諦めの境地になっていました。
……姉さんが、この姿を見たら卒倒するだろうな……
ふと姉の事が思い浮かびました。
……姉さんを装って会社に休みの連絡したっけ……
「会社! そうだ、会社だよ」
それは大問題でした。
一人暮らしをしているので、生活費を稼ぐためには働かなくてはなりません。
身体も声も完全な女性になってしまいました。誰が倉本里美と信じてくれるでしょ
うか。男として育ててくれた両親だって、信じてはくれないでしょう。仮に信じてく
れたとしても、会社では奇異の視線を浴びるだけですし、両親は悲嘆にくれてしまう
だけです。
「どうしてくれるんですか。こんな身体にされて、もう今の会社に行けないじゃない
ですか。生活費をどうやって工面したらいいんですか」
大声で医師に詰め寄りました。さすがに陶酔してした医師も、我を取り戻したよう
です。
「おお! そうじゃった。忘れるところだったよ。そうだろうと思ってね。新しい就
職先となる会社の面接の紹介状を書いてあげた。時期遅れだけど、そこの社長と懇意
でね。すでに電話連絡してあるから面接を受けさせてくれるはずだ。退院の時に、渡
してあげよう」
手術創が治るのを待って退院することができました。
二週間の入院生活で、すっかり変わり果てた自分の性器でしたが、今では自分自身
のものとして慣れ親しむような感情を持つまでになっていました。いえ、そうならざ
るを得なかったというべきでしょうか。
「移植した性器が完全に自分のものになるまで、女性ホルモンを投与しなければなら
ないから、二週間に一度は来院してくれ。ああ、例の薬じゃなくてごく普通の女性ホ
ルモンだよ、安心したまえ。移植した部位がちゃんと今の身体に同化しているかも調
べなければならいし、卵巣や子宮が正常に機能しだしたら生理もはじまる。その手当
の仕方も教えなければならないからな」
「わかりました」
「君は、もう一人前の女性だ。これからは、素敵な男性と恋をし、結婚をして、子供
を産んで育て上げ、女性としての幸せを掴んでくれたまえ」
「はい」
「そうだ! 約束の紹介状を渡しておこう。期日は今日だ。退院したその足で会社に
面接に行ってくれ」
「いきなりの今日なんですか?」
「相手も忙しい身なんだよ。こんな時期に面接を受けさせてもらえるだけでも感謝し
たまえ」
「わかりました。確かに会社訪問の時期ではありませんからね」
「それとその格好じゃ、面接どころか門前払いされる、ついでにリクルートスーツを
新調しなくちゃな。女装者とかにも理解あるブティックを教えるから、面接の前に訪
ねたまえ」
「ブティック?」
医師は、紹介状と共に、会社とブティックの位置を記した簡単な地図を渡してくれ
た。
「このブティックって商店街じゃないですか」
「あたりまえだよ。人気のないところに店を開いてどうするんだ? 商店街じゃなき
ゃブティックはやっていけないよ」
地図に記された場所は、わたしの会社のそばに広がる商店街の中にあるようでした。
「ここか……?」
そこは一階がしゃれたデザインの婦人服売り場で、二階がランジェリーショップと
なっているようでした。
リクルートスーツを新調するために来たのですが……。
確かに下着からスーツに至るまで、一揃いの女性衣料が購入できそうでしたが、入
店するには相当の覚悟がいりました。
婦人服売り場をきょろきょろしていると、物腰のよい店員が声をかけてきました。
「あの、倉本里美さんではございませんか?」
「え? あ。は、はい」
「先生からお電話を頂いております。どうぞ奥へ」
店員に案内された先は、鏡のついたドレッサーが並んだ化粧室のようでした。
「こ、ここは?」
「どうぞお座りください」
「何をするのですか?」
「お化粧ですよ。すっぴんのお顔で面接は受けられませんでしょう」
「しかし化粧は……したことないし」
「会社に就職したいと思っていらっしゃのでしょう?」
「そ、それはそうですが」
「なら、私達の言う通りになさってください。悪いようには致しませんから」
そして店員は耳元で囁きました。
「いいですか、あなたはもう元には戻れないのですよ。今日からは、女性として生き
るしかないのです。化粧は女性のたしなみの一つですよ」
その店員は、医師からすべての事情を聞いて知っているようでした。
「さあ、私達にまかせてね」
やさしい声で諭されてしまいます。そして店員を呼び寄せて、数人がかりでわたし
の顔に化粧を施しはじめたのでした。
いきなり眉を剃刀で剃られました。
「女性の眉は細いですからね。後で眉を描きますからね」
さらに顔全体に広がっている産毛も剃っていきました。
女性ホルモンのおかげで男性特有の濃い髭などはすっかり消え失せていましたが、
産毛が残っており、化粧のりにひびく邪魔なものなのです。
そして、下地クリームからはじまってファンデーション、頬紅……。
入念に化粧が施されていきました。
女性の化粧って、こんなにも手が掛かるのか?
すでに三十分以上が経過して、改めて認識しました。
化粧の間にもう一人の女性が手際良く髪の毛をセットしていました。普段から少し
長めにしていた髪ですが、それをショートカールにして整えていきます。
「はい! 出来上がりよ」
と改めて鏡をのぞくと、本物以上に本物らしい女性の顔をした自分の姿がありまし
た。真っ赤なルージュの口元がいやに艶めかしいです。きれいにカールされ整えられ
た髪と、その耳元には小さなピアスが輝いています。どうやら手術の合間にピアス孔
の処置がなされていたようです。
「じゃあ、今度は服装ね。まずはランジェリーからよ」
化粧をしているうちに準備されたのか、女性衣料の乗せられたワゴンが持ち込まれ
ていました。
ここはブティックとランジェリーショップです。必要な衣料はすべて揃っています。
「じゃあ、まずはランジェリーからね。サイズは合ってると思うわ」
といいながらピンクのブラジャーを手に取りました。
「ほら、これ可愛いでしょう。着けてあげるわね」
あっけに取られているうちに、着ている服を身ぐるみ脱がされ、裸になった身体に
ブラジャーが着けられました。正しいブラジャーの着け方の説明を受けながら。
注射によって大きく膨らんだ胸がブラジャーのカップの中にきれいにおさまります。
何ともいいがたい感情が湧いてきていました。
「な、なんか変。気持ちがいい……」
女性だけが着用する事のできるブラジャー。動く度にふるふると揺れてしようがな
かった大きな胸をしっかりとカップで支えています。乳首が衣服に擦れて痛くなると
いうこともないでしょう。
さらにお揃いのショーツ、そしてガーターベルトとストッキングと履かされていき
ます。
「いいでしょ。男性を魅惑する悩殺下着よ」
ドレッサーの脇にある全身を映すことのできる大きな鏡の前に移動させられて、全
身像を見せつけられる。
「それじゃあ、次はお洋服の番ね」
「会社訪問にふさわしいリクルートスーツを用意したわ」
それはバイオレット色のミニのタイトスカートにブレザーのスーツでした。
大きめのヒップを包み込んでキュートなタイトスカート。しゃれた透かし編みの施
されたベアトップがその豊かな胸を覆い隠しつつも、その存在をアピールしています。
そしてベアトップが覗けるように大きく胸元が開いたブレザー。
「良く似合っているわよ」
最後のとどめは、スーツと同色のハイヒールの靴でした。
「はい、これで完璧よ」
女性の必需品である化粧セットなどの入ったショルダーバックを渡されました。
「ほんと可愛らしいわ。とっても素敵よ」
「どこかのご令嬢みたいです」
鏡に向かいます。
どこか幼さを残しながらもお嬢さまといった雰囲気の女性が立っていました。
「これが、わたし……」
自分が女性である事を再認識せずにはおれませんでした。
「それじゃあ、行ってらっしゃい。頑張るのよ」
という励ましの声に送られてそのブティックを後にしたのでした。
ヒップにぴったりとフィットしたタイトスカートにハイヒールを履いていては、歩
きづらくてしようがありませんでした。何度も躓きそうになります。
すれ違う人々のほとんどがこっちを見つめているようでした。
「恥ずかしいよ……」
女装した……いや、女装とは言えないでしょう。今は完全な女性の身体になってい
るのですから。
ともかく女性の容姿で街を歩く事などはじめての経験です。
他人の視線が気になってしようがありませんでした。
まともに前を向いて歩けません。
カップルの男女がすれ違った後に、背後でいさかいの声が届きます。
「どこ見てんのよ!」
「な、なに言ってんだよ」
「とぼけないでよ。あのきれいな女の子に見とれていたくせに」
確かに視線がこちらに向けられているのは確かでしたが、どうやら私のことを一人
の美しい女性として認識しての反応であることが、次第に判ってきました。
少し自信がついてきました。
その矢先のことでした。
「あ、あれは?」
会社の同僚達が前から歩いてくるではありませんか。
どうやら昼食で会社から出てきたところらしい。
「ど、どうしよう……」
くるりと引き返して逃げようかと思いました。
しかし、今後も知り合いと出会う事は頻繁に起こりうることです。
その度に逃げ回っていては、真の女性には成りきれません。
医師やブティックの店員が念押ししたように、これからは一生を女性として生きて
いかなければならないのです。
これは女性として生き抜くための最初の試練なのかもしれない。
気がつかなければそれで良し。
ばれたらばれたで、女性に性転換したことを正直に告白しよう。
MtFなどの性同一性障害が次第に認知され、性別再判定手術が正式に行われる時
代になりつつあります。彼らもそれなりに理解してくれるかもしれません。
なるようになるしかない。
意を決し、しっかりと前を向いて、彼らとすれ違いました。
当然の如く彼らの視線がこちらを見つめているようでした。
わたしは、あくまで知らんぷりして足早に通り過ぎていきます。
「おい。なんで声を掛けなかったんだよ? あんな可愛い子、放っておくおまえじゃ
ないだろう」
「ああ……見惚れていて、つい声を掛けるチャンスを失った」
「確かにな」
そんな声が背後から聞こえてきました。
「どうやら気づかれなかったみたいね」
女性ホルモンによって女性化した顔に化粧をしているのですから気づかれないのも
当然のことでした。
わたしは、ほっとすると同時に、彼らや先のカップルの男性のように、美しい女性
に見惚れて呆然と立ち尽くす姿を想像して、何か言い知れぬ快感のようなものを覚え
ていました。
女性ホルモンは、より魅力的な完全な女性に変身させてしまっていることを確信し
ました。もう何も恥ずかしがる事はありません。しっかりと姿勢を正して前を向いて
歩いていきましょう。
そして目指す面接を受ける会社に到着したのでした。
受付けに紹介状を提示すると、
「連絡は受け賜っております。人事部長他の面接担当者が、あなたをお待ちしており
ました。どうぞ面接会場へご案内いたします」
といって一人の受付嬢が先に立って歩きだしました。
「やけに手回しがいいわね……ああ、そうか。期日は今日のこの時間と指定されてい
たのだから、そのためのセッティングも済んでいるというわけね。でも、たった一人
の面接にこんなに早く面接担当者が揃う事なんてあるのかしら?」
疑心暗鬼でした。
面接担当者がずらりと並ぶ前で、パイプ椅子に腰掛けて質問を待ちます。
ミニのタイトスカートですから、意識しなくとも自然に膝を合わせ女性的な姿勢に
なってしまいます。その膝の上にハンドバックを置いています。こうすれば下着が見
えるということもありません。電車などに乗っていて、前に座る女性のタイトスカー
トからショーツが覗いて見えているのに遭遇していますから。念の為です。
やがて質問がはじまります。
先の会社に就職できるまで、幾度となく面接を経験しているので、緊張する事はあ
りませんでした。
しかしその面接質問には、
「お化粧は何分くらいかかりますか」
「衣装代には、どれくらいかけていますか」
などという、女性的な身だしなみに関する事が数多く質問されるのには、閉口しま
した。
女性蔑視という態度が見え見えでした。
今わたしが着ているスーツと化粧を見れば、推測できるでしょう。
そう思いながらも、明日からの生活のためには、受かるために我慢して、丁寧に一
つ一つ答えていきました。
「以上で一次面接を終わります。続いて二次面接を受けて下さい。先程の受付けの者
がご案内します」
二次面接があるのね。
「ありがとうございました」
深々とあいさつして、その面接会場を退室すると、扉の外で先程の受付嬢が待ち受
けていました。
「それでは、二次面接会場へご案内致します」
長い廊下を渡り次ぎなる面接会場へと向かう受付嬢とわたし。ふたりの女性の履い
ているハイヒールの足音が、乾いた廊下に響きます。
「こちらでございます」
立ち止まったドアには、社長室という豪華なプレートが貼られていました。
「二次面接は、社長直々に面接いたします」
といってドアをノックしました。
「入りたまえ」
中から返答があって、ドアを開けわたしを社長室に通す受付嬢。
「社長。紹介を受けた面接希望の方をお連れしました」
その人物は豪華な椅子に座って背を向けたまま答えました。
「わかった。君は下がってよろしい」
「かしこまりました」
深々と礼をすると、受付嬢はわたしを残して部屋を退室していきました。
「紹介状を持ってきたそうだね」
背を向けたまま社長が質問します。
「はい」
その声には、どこかで聞き覚えがありました。
何度となく日常的に聞いていたはずの声。
……しかしまさかそんなはずはない……
しかし、次の言葉で決定的なものとなったのです。
「その紹介状は誰が書いてくれたのかね」
え、うそ。やっぱり間違いない。あの産婦人科の医師の声。
椅子がくるりと回って、その人物が顔を見せました。
「ああ! あなたは?」
やっぱりそうでした。
「驚いたようだね。私がこの医薬メーカーの社長だよ。あの病院は父が経営している
ものだ。一応医師免状を持っているので時々手伝っているが、こっちが本業だよ」
「まあ、ソファーに腰を降ろして、私の説明を聞きたまえ」
といいながらわたしに来客用のソファーに座るように指示しました。
「君に、商店街にあるあの店に立ち寄らせたのは、女性として生きる決心をしたこと
を確認するためだよ。女性衣料専門店に入るには、あの時の君なら相当の勇気がいっ
たはずだよね。普通の男性なら、買い物しても彼女への贈り物ということにすれば何
とか言い分けがたつけど、胸が膨らんでいる身じゃ、当然それは自分自身が着るもの
と、店員に判ってしまうからね。何とかその関門をパスしても、しっかり化粧を施さ
れ、女性の衣服を着てすっかり女性の容姿になった君は、商店街を歩いて会社までた
どり着かなければならないという次の試練が待ち受けている。昼食時間帯の商店街だ、
人通りはひっきりなしで絶える事がないし、見知った人物に出会うとも限らない。そ
んな中を女性の姿で歩いた経験のない君がどうするか知りたかったのだよ」
ドアがノックされて先程の受付嬢が、お茶を運んできたので、話しが一時中断しま
した。お茶をそれぞれの前に静かに置いた後、一礼して退室しようとする彼女を、社
長が呼び止めます。
「ああ、君も残っていてくれないか」
「はい。かしこまりました」
彼女は、お茶を運んできたトレーを、ウェイトレスがするように正面で両手で軽く
抱えるようにして、ソファーのそばで立ったまま待機しました。
こんな意味慎重なる会話の中に、彼女を同席させるなんて不思議でした。
社長は、話しを続けます。
「ま、こうして面接を受けにきた事をみると、その試練も無事パスしたようだね。君
には悪いと思ったが、従業員にあの店から後をつけさせてもらった。人通りを避けて
裏通りを通らないかと監視するためにね。が、君はまっすぐ商店街を抜けて会社まで
歩いてきたようだ。その報告によると、最初のうちは下を向いておどおどしていたが、
やがてしっかり前を向いて歩きはじめたとある。どうだね」
「はい、その通りです。はじめのうちは、とても前を向いて歩けませんでした。しか
し、そうこするうちに、わたしを見つめるその視線が女性にたいするものと判りまし
た。そうしたら自信がついてきて、前を向いて歩けるようになりました」
「ともかく、君は合格だ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「それから改めて紹介しておこう。こちらの女性だが、君と同じSRSの手術を受け
ている。元男性の響子くんだ」
「うそっ! 信じられません」
受付けで出会ってから、その接客応対の態度、廊下を歩く姿勢、お茶を運んできて
差し出すその仕草、紛うことなき女性そのものの動きでした。そして自分で施したと
思われる化粧術は完璧です。とても男性だったとは思えません。
「この娘も、私が本人の意志に無関係に手術を実施した最初の女性だ。はじめての時
は今の君とまったく同じだったよ。それが見ての通りの完璧の女性に生まれ変わった
のだよ。どうだね、響子くん」
「はい。最初の頃は、社長を恨みもしました。でも今は、素直に感謝しております。
戸籍も女性に変更されましたから、何の心配もしておりません」
「そういうわけだから、君も立派な女性になれるよ。そう確信してSRSを実施した
のだからね」
社長は言葉を続けました。諭すように静かな口調で。
「以前の男性のままの君だったら、一生うだつの上がらないごく平凡なサラリーマン
で終わったに違いない。多くの部下を従え、率先して行動し、会社全体を活性化させ
るような人物というものは、男性ホルモンを活発に分泌し、オーラを発しているもの
だ。それが君には微塵もない。決して人の上に立てるような人物ではなかった。会話
していてすぐにぴんときたよ。それは君の潜在意識の中に存在する、女性的な部分が
そうさせるものだ。診察していて私は確信した。君の潜在意識が表に出たがっている
ように感じた。それが君の体躯にも顕著に現れている。色白で細身の身体、そして童
顔がそれを物語っている、男性ホルモンが正常に分泌されていれば、あそこまで華奢
な身体ではなかったはずだ。だから君には女性として再出発したほうが幸せだと判断
した。そして女性ホルモンを投与し、再来院した時に無断で手術した。話しをすれば、
君がそれを肯定するとは思わなかったから。君は二十歳前だから、女性ホルモンをも
う少し投与すれば、骨盤もさらに発達して、出産も楽にできる、より完全な骨格が形
成できるだろう」
「そうでしたか……」
「さて、人事部長から、受付嬢に推薦するという連絡がきているよ。受付嬢は会社の
顔にあたる部署だ。社でも一・二位を争う美人が配属されることになっている。君の
素性は内密にしていたが、どうやら人事部長は君の容姿に惚れ込んだようだね。もち
ろん受付嬢は、接客応対のエキスパートである必要もあるが、その辺は研修で徹底的
に教育を施されるから、安心したまえ。今後は、この響子くんと一緒に、社のために
尽力してくれたまえ」
響子と名前を呼ばれた彼女は、
「里美さん? で、よろしいでしょうか。一緒に頑張りましょうね」
とにっこりと微笑んで、その白く透き通るような細い手を差し出しました。
「あ、はい。お願いします」
あわてて立ち上がり、その手を握りかえします。柔らかい女性的な感触が伝わって
きます。
「ああ、名前だけど、里美のままでも構わないだろう? 響子くんは男性的な名前だ
ったから、戸籍変更の際に、改名したのだがね」
「はい。結構です」
先程、響子さんが疑問形で名前を呼んだのは、そういうわけね。
「早速で悪いのだが、明日から出社してくれたまえ。ユニフォームは用意してある。
それと、以前の住まいには戻れないだろう。しばらくは響子くんのところで一緒に暮
らしたまえ。いいね、響子くん」
「はい、喜んで。先輩として、私生活面でも女性としての身のこなし方など、お教え
しようと思います」
「うん。いい心掛けだ。感謝するよ」
「お願いします」
改めて響子さんに対し、深々とお礼をしました。
「響子くん、今日はこれで退けていいよ。里美くんにユニフォームを試着してもらっ
て、会社内を一通り案内してあげたら、そのまま一緒に帰りたまえ」
「はい。ありがとうございます。里美さん、行きましょう」
と手を引いてくれました。
ドアの前で再び姿勢を正して、
「ありがとうございました」
深々とお礼を述べて静かに退室しました。
「さあ、まずは女子更衣室へ行きましょう。あなたのロッカーとユニフォームが用意
してあります」
手を取り合って仲良く歩いていきました。まるで長年付き合った親友のような感情
になっていました。
こうしてわたしの新たなる人生がはじまったのでした。
出典:谷口death
リンク:http://erika.girly.jp/syosetsu/joseika/joseika.html

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