愛したひとが実の妹だった 〜サスペンス編〜
2007/08/21 13:49 登録: えっちな名無しさん
1ヵ月後、計画を立てていた『その日』が来ました。
貴裕と綾香さんは、一緒に貴裕の故郷に向かいました。
まずは地元のチョコレート屋に立ち寄り、綾香さんが大好物なチョコレートアソートをお土産に買っていくことにしました。
小さなプラスチックのカプセルに入ったチョコレートです。
貴裕は、
「ガチャガチャのカプセルみたいなこんなのが、なんでこんなに高いんだ?」
と不思議に思うくらい、高級なチョコらしいです。
そして予め手配しておいた新幹線の切符を握り締め、列車に乗ります。
田園風景を眺め、貴裕はまず英子さんに何を話すか、じっと考えていました。
家につくと、貴裕の妹の早紀ちゃんが出迎えてくれました。
「おかえりなさい!ひっさしぶりだねー!」
相変わらず早紀ちゃんはハイテンションだったそうです。
綾香さんは、この子は自分の妹なのか、姉なのか、、、ちょっと複雑な気分で挨拶を交わしました。
貴裕のお母さんの英子さんも来ました。
「つかれたろ、とりあえず床の間に荷物置きなさい」
やさしく貴裕と綾香さんを迎えてくれました。
早紀ちゃんは貴裕に
「兄ちゃんの彼女かわいいねぇーー」
なんて冷やかしたりしていました。
貴裕は英子さんにさっそく綾香さんを紹介しました。
「紹介するよ、こちら、え〜っと、、綾香さん。」
「初めまして、あ、綾香といいます、、、」
フルネームでの紹介はわざと避けました。
「ま〜〜、どうも、初めまして、貴裕の母です。」
英子さんは目を細めて、自分の連れてきた彼女に見とれていました。
「これ、よかったら、、、」
と、綾香さんは用意したチョコレートの手土産を英子さんに渡しました。
「あらー、ありがとうね!」
英子さんは笑顔でお礼をいって受け取っていました。
その後、早紀ちゃんは、
「ちょっと遊びに行ってくるー」
といって玄関を出て行きました。
家の中には3人だけになりました。
貴裕はかしこまって、話をしたいと切り出します。
予め電話で、英子さんに大事な話があると伝えていました。
客間に3人が向かい合い、貴裕が改めて、フルネームで綾香さんを紹介します。
気づいた英子さんが口を開きます。
「あなた、、、もしかして、、、、、」
「母さん、実は、この子は」
綾香さんはゆっくり自己紹介を始めました。
自分の生い立ち、自分の両親のこと、貴裕との出会い、
そして、自分の父親が昔貴裕の家庭を捨てたということ、、、
すべてを正直に話しました。
英子さんは、ただただ黙って、綾香さんの話を聞いていました。
そしてすべての話が終わり、最後に、
綾香さんは英子さんに向かって誠心誠意を込めて、謝罪しました。
しばらく、お互い無言の状態が続きました。
縁側からは、道路を走る自動車の音と、鳥のさえずりだけが響いていました。
「顔をあげてください。」
英子さんがようやく口を開きました。
「貴方が謝ることではないわ。」
「母さん・・・」
「そんな昔のことにこだわるのは、やめましょう。」
貴裕と綾香さんは、英子さんの穏やかな表情の前に、黙っているしかできませんでした。
「昔は確かに、あの人を恨みました。
でもね、今は、貴裕という頼りになる息子が立派に大学生になって、
早紀ちゃんも高校に受かってくれたし、二人とも親孝行だしね
私は今とっても幸せなんですよ。
・・・だからね、あんた達も、そんな昔のことを、いつまでも気に病むことは無いのよ。」
綾香さんは、その時、安心したのか緊張の糸が切れたのか
またいっきに泣き出しました。
英子さんは
「あなたも、つらかったでしょう。ね。」
と、綾香さんをしっかりと抱きしめてあげました。
貴裕はそんな二人を、やっぱり泣きながら見つめていたそうです。
その夜、帰ってきた早紀ちゃんも交えて、4人で夕食をとりました。
ひさしぶりの楽しい、一家団欒でした。
また、綾香さんは早紀ちゃんと一緒にお風呂に入ったり、一緒に花火をしたり
姉妹のように楽しい時間を過ごしました。
ただ、早紀ちゃんには、いたずらに真実を告げることはしませんでした。
綾香さんにとってこんなに暖かい、家族で過ごす時間は
長いこと無かったのではないでしょうか。
早紀ちゃんは貴裕に言います。
「兄ちゃんの彼女さん、いい子だね。 お母さんも気に入ってるみたいだし。」
「あ、そう?へへ。」
「すごいんだよ!私達、誕生日が同じだったの!」
「あっ、そういえば、、、!そうだったな!」
「同い年で同じ誕生日ってことは、、、同じ瞬間に生まれたのかもしれないね!」
「そ、そ、そうだね、、、」
「でもよかったー、お母さん元気になって。」
「えっ?」
「え?」
「いや?何?『元気になって』って? 母さん何か病気してたっけ?」
「あそうか、兄ちゃんには言ってなかった。」
「どうしたの?」
「うん、最近ね、お母さんずっと元気がなくて、ずっと塞ぎこんでいたんだ。
ほとんどご飯食べないし、私が何を話しかけても上の空で・・・」
「何で言ってくれなったんだ?」
「ごめんね。 ・・・でもね、兄ちゃんが彼女つれて帰ってくるって聞いたら、
すごく明るい表情になって喜んだんだ。」
「へぇ」
「だから、きっと、あれだよ、兄ちゃんがあまり帰ってこないから寂しかったんだよ。きっと。」
「そっか。ならよかった。。」
貴裕と綾香さんは、初めて二人のことを認めてくれる相手が出来て、
つかの間の幸せをかみ締めていました。
そう、この幸せな時間も、つかの間だったのです。
夜中、貴裕は、何故か急に不安な予感で目がさめました。
何か胸騒ぎがしたそうです。
そういえば、お風呂上りのときに見た、精神薬らしきものを飲む英子さんの姿を思い出しました。
一抹の不安を貴裕は感じて始めていました。
とりあえず、水を飲むために、1階の台所へ行きました。
不安は的中しました。
綾香さんは1階の客間で寝ています。
その客間から、ミシミシと音が聞こえてきたのです。
泥棒?と思い、とりあえず確認することに。
一応武器、ということで、その場にあった包丁をもって向かいました。
音を立てず、慎重に客間の前まで行きました。
貴裕の心臓はバクバク爆音を立てていたそうです。
もし泥棒だったら、どうしよう、俺、綾香を守れるか? 母さんや早紀はどうしよう?なんて
考えていたそうです。
ふすまの向こうからは、スルスル、ミシミシと、
誰かが動いているような気配が感じられました。
貴裕は、思いきってふすまをゆっくり開けてみました。
そこには、、、、
何者かが、綾香さんの上にまたがり、首を今にも絞めようとしている姿がありました。
ビックリして貴裕は叫びました。
「誰だ!なにやってんだ!」
貴裕は、部屋の電気をつけるのも忘れて、
すぐさまその人影を押し倒しました。
その下で綾香さんはゲフンゲフンと苦しそうにしていました。
その人影は
「どけっ!」
と叫び、貴裕を思いっきり突き飛ばしました。 すごい力だったそうです。
貴裕が持っていた包丁は弾き飛ばされてしまいました。
そしてまた綾香さんにのしかかりました。
「きゃあっ!!」
綾香さんは何が何やら分からず、ただ暗い客間の中で叫んでいました。
貴裕はまたその人影を後ろから取り押さえて、綾香さんから引き剥がしました。
「がっ!!」
なぎ倒された人影は部屋の隅に倒れこみました。
ところが運の悪いことに、ちょうどそこには、先ほど貴裕が落とした包丁があったのです。
人影はそれを探り当て、こちらに刃を向けて握り締めました。
(強盗か?変質者か?でも、さっきの「どけ!」の声って、、、)
、、、と貴裕は必死に思い出しました。
貴裕はとっさに綾香さんを抱き起こし、自分の背中の後ろで綾香さんを守るような体勢になりました。
人影は包丁を振りかざしました。
貴裕は必死に人影を取り押さえて、包丁を奪おうとしました。
とっさに人影は包丁を奪われまいと振り回し、貴裕は右腿を切りつけられてしまいました。
「あっ!」
貴裕はあまりの激痛に、その人影の腕を放してしまいました。
人影はすぐさま、綾香さんに襲い掛かりました。
「きゃああああああ」
綾香さんの悲鳴と同時に、とっさに貴裕は人影の足をつかみ転ばせました。
そのままシーツを人影に被せ、その上からのしかかりました。
「くそっ誰だっ!やめろっ!」
貴裕は必死に叫びましたが、人影はなおも、シーツの下から抵抗します。
右腿から出血している貴裕は痛みのせいで、上手く人影を押さえつけられません。
今にも人影はまた、綾香さんに襲いかかろうとしています。
綾香さんは訳も分からず、叫び続けていました。
「貴裕さんっ、なんでっ! いやああっ!」
「綾香っ、110番だっ!」
もはやこの怪我でとにかく、この人影から綾香さんを守る為には
警察を呼ぶしかないと判断した貴裕は、綾香さんに警察へ通報させようとしました。
しかし、気が動転したのか、綾香さんは携帯電話のありかが分かりません。
貴裕は、シーツを抑えながら
「そっちの部屋の、右側の棚にっ! 俺の携帯電話があるっ!」
必死に叫びました。
綾香さんは慌てて、隣の部屋に行きました。
同時に人影がシーツの内側から包丁を突き上げてきました。
貴裕はそれによって右腕を切りつけられました。
「うぐっ!」
貴裕は右腕をとっさに抑えてしまいました。
次の瞬間、シーツをビリビリとやぶって、人影は貴裕から抜け出してしまいました。
その時ちょうど貴裕は、目が慣れてきたのか、床に落ちている部屋の照明のリモコンを探り当てました。
すぐさまスイッチをオンにします。 ピッ、と音がして、部屋の明りが付き始めました。
包丁を握り締めていた人影は、、、
「早紀!!」
早紀ちゃんのその表情は、尋常でなかったそうです。
「正気か? いったいどうしたんだ!早紀!」
「そいつがいなければ!いなければ!」
貴裕は鈍痛の中、必死に早紀ちゃんの腕につかまろうとしますが、早紀ちゃんは、そのまま振り切り
隣の部屋の綾香さんを追いかけました。
綾香さんは運良く、隣の部屋にあった貴裕の携帯電話をすぐ発見できました。
が、それを取り上げようとしたその時、早紀ちゃんが綾香さんに追いついてしまいました。
「・・・! 早紀ちゃんっ!!!なんでっ!!!」
早紀ちゃんは綾香さんに包丁を突きつけます。
「きゃあっ」
綾香さんが叫んだ瞬間
「やめろっ!」
貴裕が後ろから早紀ちゃんを突き飛ばしました。
包丁の刃先は綾香さんの頭の上をかすめ、壁に突き刺さりました。
早紀ちゃんはすぐに立ち上がると、台所のほうへ消えていきました。
貴裕はとっさに
(やばい!もう一本の包丁を持ち出す気だ!)
と感じ、右腕と右腿の痛みをこらえて早紀ちゃんを追いかけました。
早紀ちゃんはやっぱり、新たな包丁を手にしていました。
ふーぅ、ふーぅ、と興奮した息遣いで、こちらをにらみつけています。
「早紀!どうしたんだ!落ち着くんだ!」
貴裕の問いかけにも答えません。
そのまま早紀ちゃんが突進してきます。
貴裕は、台所の椅子を抱え、椅子の足を早紀ちゃんに向けた格好で、
早紀ちゃんの体を押さえつけました。
「うあああああっ!うあああああああ!」
早紀ちゃんは興奮し、貴裕に包丁を振り回します。
貴裕は身をかがめて、そのまま椅子ごと早紀ちゃんを床に押し倒しました。
早紀ちゃんは床に倒れ、椅子がそのまま早紀ちゃんの上に覆いかぶさるようになりました。
貴裕は椅子の上に乗り、早紀ちゃんの包丁を奪い、テーブルの上におきました。
そのまま椅子に座りこみ、早紀ちゃんを見下ろすような格好になります。
「おちつけ!おちついて、、、、」
早紀ちゃんに問いかけました。
早紀ちゃんはとっさに、テーブルクロスの端っこをつかみ、いっきに引き下げました。
テーブルの上に載っていた物は大きな音を立てて床に散らばります。
そして、宙を舞ったテーブルクロスは、貴裕に覆いかぶさりました。
とっさのことで動揺した貴裕はバランスを崩してしまいました。
その隙を狙って早紀ちゃんは椅子を跳ね除けて、立ち上がりました。
貴裕はそのまま跳ね飛ばされ、台所の床に倒れました。
早紀ちゃんは周りの景色が見えていないようでした。 ただひたすら綾香さんのいる部屋の方にダッシュしました。
(やばい!このままじゃ!)
貴裕はふと、先ほどテーブルから落ちて散らばった物の中で、あるひとつの物が目に入りました。
綾香さんが買ってきたお土産のチョコレートアソートです。
その中身をとっさに早紀ちゃんの足元に投げつけました。
綾香さんは、この小さな卵の形みたいなプラスチック殻に入ったチョコが大好きでした。
普段、綾香さんが
「絶対これがおいしいんです!」
と笑顔でいっていたのを思い出します。
床に十数個散らばったその、カプセルチョコは
足元を見ていない早紀ちゃんを転ばせるには十分でした。
すぐさま再び早紀ちゃんの背中の上にのしかかりました。
「早紀っ!目を覚ませっ!」
「うあああああっ!ぐああああああああっ!!!」
早紀ちゃんは興奮が収まりません。
綾香さんがこちらの部屋にやってきました。
「た、貴裕さんっ、、、とりあえず、、電話したんですがっ!」
「綾香っ、悪い、そこの引き出しの中に、たしかガムテープが入っているはず」
「はいっ」
「ああああああああああああっ!!!!!!!!!」
「ちょっ、、、おとなしくしてくれ!早紀っ!」
「貴裕さん、ガムテープです!」
「とりあえずこれで早紀を縛ってくれ!」
貴裕は早紀ちゃんを押さえつけるのに必死でした。
綾香さんはちょっとためらいつつも、早紀ちゃんの体に闇雲にガムテープを巻きつけていきました。
「ふーぅ、ふーっ、、ううう、、、」
すこし早紀ちゃんが息を切らして、おとなしくなりました。
「いいこだから、、おちついて、おちついてくれ!ねっ?」
「貴裕さん、、もう、、、これくらいでいいですか、、、?」
早紀ちゃんの手足はとりあえずガムテープで固定された為、それ以上早紀ちゃんは
身動きが取れなくなりました。
「警察には?」
「ごめんなさい、上手く事情を説明できなくて、、、とりあえず来て下さいって言ってしまいました。」
「そうか、そういえば住所、、綾香しらないよな、、、、?」
「聞かれたんですが、答えられなくて、、、道路標識か、電柱か、自販機か何かはありませんかって。」
「それも答えられなかった?」
「はい。 もう気が動転して、切ってしまいました。」
「まぁ、それはそれで、、よかったかもしれない。」
貴裕は、さっきは綾香さんを守る為とっさに通報をさせてしまいましたが、
この状況では早紀ちゃんが傷害で捕まってしまうので、安心しました。
「早紀・・・、一体どうしちゃったんだ・・」
「貴裕さんっ! すごい怪我っ!」
「うん、でも最初ほど痛みは無いかも・・・」
「とりあえず、血を止めなきゃ!」
救急箱から、包帯とガーゼをめいいっぱい使って、綾香さんは貴裕の応急手当をしました。
血は止まりましたがそれでもまだズキズキと痛みます。
「私、お母さんを呼んできます。」
綾香さんはそういって、英子さんの寝室のほうへ向かいました。
「早紀・・」
「ううっ、、、うっ」
いつのまにか早紀ちゃんは静かに泣いていました。
「何故こんなことを・・・、お願いだから、話してくれないか?」
「・・・アイツのせいで、、お母さんが、、」
「・・・・! まさか、早紀、、、」
「アイツが生まれて来なければ、私達は、、、」
「昼間の話、聞いていたのか?」
早紀ちゃんが遊びに出て行ったと思って、貴裕と綾香さんが英子さんに真実を告げているとき、
実は早紀ちゃんは一度忘れ物を取りに帰っていたようです。
そして真実を聞いてしまったのでした。
「だからって、、、なんで、綾香のことを、、、」
「ううっ、、、うええええええええええ」
早紀ちゃんは大きな声で泣き出してしまいました。
「貴裕さんっ!」
綾香さんが駆け寄ってきます
「どうしたっ」
「お母さんがっ!!お母さんがっ!」
・・・
そういえば貴裕と早紀ちゃんの格闘の騒ぎで、まったく英子さんが起きてこないのは不思議でした。
英子さんは、すぐに救急車で病院に運ばれました。
早紀ちゃんの手足のガムテープは解いて家に残し、
綾香さんを救急車に乗せ、貴裕もタクシーで後から病院へ向かいました。
貴裕は自分の怪我の手当ても受けようと思いましたが、
病院から通報されることを恐れて、長袖の服で隠していました。
深夜の待合室に座っている綾香さんを見つけました。
「母さんは・・・」
「救急隊員の方の話では、命に別状はないだろうって言ってました。
心的ストレス、、、みたいな、心臓麻痺状態だったみたいで、、、」
「そっか、、、それはあぶなかったな、、、助かってよかった。」
「はい。」
「あ、、綾香、ゴメン、怪我ないか?」
「はい、大丈夫です。」
「よかった、、、本当、ゴメン、、、」
「いえ、貴裕さんは別に、、、、」
「・・・」
「早紀ちゃん、一体、どうしちゃったんでしょうか。」
しばらくして、英子さんが運ばれた病室に案内されました。
英子さんは目を覚まし、意識もはっきりしているようです。
「ああ、ごめんね、貴裕、、、綾香さん。」
「びっくりしたよ、でも、安心した。」
「ええ。 心配かけてごめんなさい。
なんだか、早紀が、叫んでいる声が聞こえて、、、それから、、ごめんなさい、よく覚えていないの、、、」
貴裕は、ためらわれましたが、さっきの早紀ちゃんのことを正直に話しました。
綾香さんを襲ったこと、殺そうとしたこと、
「アイツが生まれて来なければ」といったこと、
ひょっとしたら、綾香さんの出生の話を聞かれていたかもしれないこと。
綾香さんもうなだれて聞いていました。
英子さんは涙を浮かべ静かに口を開きます。
「そう、、、本当にゴメンナサイ、綾香さん、、、本当に、、、」
「いえ、私は別に、何も怪我も無いし、、、」
「早紀ちゃん、、早紀が、本当にゴメンナサイ、、、」
「母さん、、、」
「・・・」
「貴裕、、綾香さん、、」
「ん?」
「実は、、、貴方達に隠していたことがあります。」
「何を、、、?」
英子さんは静かに続けます。
「綾香さん、、、、貴方は、、、、私の本当の娘なの。」
「・・・!!」
貴裕と綾香さんは、全身をツララで貫かれるような衝撃を受けました。
話は17年前に遡ります。
当時3歳だった貴裕。
英子さんは、とある産婦人科で子供を出産しました。
その時、善次郎さんの浮気相手もまた偶然、同じ産婦人科で子供を出産していました。
英子さんは、善次郎さんと浮気相手がなにやらもめている現場を発見します。
善次郎さんが
「何故俺に黙って生んだ!」
と激しく浮気相手を叱責していたのを目撃したそうです。
これまでも善次郎さんの浮気相手の存在をそれとなく察知していた英子さんでしたが、
あえて黙っていました。
浮気相手が同じ日に同じ産婦人科で子供を生んだのは、信じられない奇跡でした。
しかし、もっと残酷な奇跡がまっていました。
実はこのときすでに、信じられないことが起きていました。
病院の手違いで、お互いの子供が入れ替わっていたのです。
つまり英子さんが生んだ子供は、浮気相手の子供として、
浮気相手の生んだ子供は、英子さんの子供として、
それぞれ入れ替わってしまったのです。
英子さんと、善次郎さんの子供は、実は綾香さんでした。
しかし綾香さんは、そのまま浮気相手の子供として、つまり、あの冷たい表情の母親に育てられました。
浮気相手と、善次郎さんの子供は、つまり早紀ちゃんです。
早紀ちゃんは、英子さんに育てられました。
その3年後、善次郎さんから離婚を切り出され、貴裕と早紀ちゃんと英子さんの3人暮らしになりました。
そしてさらに7年後、つまり出産から10年後、病院側から連絡があり
10年前のミスの謝罪と、今後の対応を話し合う場が設けられようとしていました。
浮気相手、つまり綾香さんの育ての母と善次郎さんに再会するのを嫌がった英子さん。
すでに早紀ちゃんは自分のことを母親だと信じて疑わずなついてくれて
英子さんも早紀ちゃんを本当に愛していました。
英子さんは、話し合いを拒否しました。
謝罪も慰謝料なども何もいらず、このままでいいことを病院側へ伝えます。
「早紀ちゃんが自分の夫の浮気相手の子供だという事実」よりも「現状維持」を望んだ英子さんの気持ちは
言葉からは汲み取れませんでした。
深い、深い、感情の底に沈んでいた、何かがあったと思います。
一方、何故か綾香さんの育ての母と善次郎さん側も、英子さんがそれでいいのなら、と、
やはり何も無かったことにしました。
ニュースにはなりましたが、表向きには、「和解」が成立したという形になっています。
英子さんは、最初貴裕から綾香さんを紹介されたとき、
この子が本当の私の子供だと、不思議な気持ちになったそうです。
「早紀ちゃんは他人の娘」、「綾香さんが本当の娘」、 と割り切れなかった英子さんは、
この本当の真実を告げるべきかどうか、迷っていたそうです。
本当ならこのまま知らないほうが貴裕や綾香さんにとっては幸せだったのかもしれません。
しかし、本当のことを正直に打ち明けて、涙ながらに謝罪する綾香さんに対して、
ちゃんとした真実を教えないことは、綾香さんに対して永遠の罪になると思い、
今、告白する決意に至ったそうです。
これは友人の予想ですが、綾香さんの母が綾香さんに冷たくなったのは、
やはり年が経つにつれ、やはり綾香さんは自分の本当の娘として見れないと
感じてきたからじゃないかと思われました。
英子さんは話を続けました。
「私は、、、早紀にはいつも お父さんのことを言ってたの。
私と早紀や、貴裕を捨てて、 ひどいお父さんだったんだ、って
そんな父さんのようなひどい男とはつきあっちゃいけないよ、って。
それに、、、貴裕、、、実はアンタには言ってなかったけど、
アンタが東京の大学に行ってから、私は、、一度過労で倒れたことがあるの。
早紀がすごくがんばって看病してくれたから、よかったんだけどね。
早紀は『お母さん、働きすぎだよ、、私はお兄ちゃんみたく頭よくないから、奨学金貰ってまで
大学いけないし、無理しなくていいんだよ。』って言ってくれたの。
そのとき、、私はつい、、言ってしまったの。
『ウチが貧乏なのはお父さんのせいだ、 アイツが全部悪いんだ』 って。」
だって、早紀にこんな思いをさせてしまっていたなんて、考えたら、、、
ついカッとなって、そんなことを口走ってしまったの。
、、、、たぶん、、そういうのが、、すべて早紀の中で、、、
激しい恨みの感情になっていたのかもしれないね、、、、
早紀は、、、、貴方のことも、、、、恨んだのでしょうね、、、、
でもね、、、、虫のいい話なんですけど、早紀を、
早紀を許してあげて下さい、、、お願い、綾香、、、」
・・・
・・・
その後、しばらくの間英子さんは入院していました。
早紀ちゃんと顔を合わせずらい綾香さんだけは先に帰して、
貴裕は英子さんが退院するまでの間実家に残り、英子さんのお見舞いをしていました。
早紀ちゃんは、あの日以来、部屋にこもりっきりになってしまいました。
早紀ちゃんとのことは、綾香さんも忘れると言ってくれたそうです。
出生の本当の真実を聞かされた綾香さんは
「やっぱり、私のお母さんは、私を育ててくれた母だから・・・」
ということで、英子さんに対して、特別な感情を抱くことは
なかったようです。
貴裕が東京に戻ってきてからしばらくの間は、綾香さんは貴裕の部屋で暮らしました。
綾香さんは、貴裕が綾香さんの母を床になぎ倒したあの日以来、母親とも口ケンカが絶えず、
もうあの家にはいたくなくなったそうです。
お互い、大学も高校も、とりあえずしばらくは色々忘れて、、、
貴裕と綾香さんは、腹違いではなく、真の兄妹でしたが、
それ以上に真の心通わせる恋人同士でした。
1週間程度は、何も無くても幸せに暮らしていました。
さて、1週間たったその日、貴裕の実家から電話が入りました。
英子さんからでした。
「どうしたの?母さん。」
「貴裕っ!落ち着いて聞いて!あの人が、そっちに行ったかもしれないっ!!」
「えっ!!」
気が動転している英子さんの言葉によると
先日、善次郎さんが実家に乗り込んできたそうです。
早紀ちゃんは2階に閉じこもって眠っており、英子さんは台所で洗い物をしていたときのことでした。
突然玄関のドアが開き、誰かが上がりこんできました。
「誰?」
英子さんが玄関に向かって声をかけると、
真っ黒なスーツに身を包んだ善次郎さんが姿を現しました。
「よぉ、久しぶりだな。」
「・・・! 久しぶりね。」
「懐かしいなぁ、この家も、、、」
「何の用?」
「時間が無いから、単直にいうけど」
「何?」
「貴裕、あいつ邪魔なんだよな。 ウチの綾香に手を出さないでほしい。」
「はぁ?何をいってるの?」
「お前んところにアイツ、泣きついてきたんだろ? 綾香と一緒に。」
「そんなの、あなたには関係ありません!」
「どうでもいい。
とにかく、貴裕に、お前からも強く言ってあげてくれないか?
もう俺達家族にかかわらないように。」
「貴方には貴裕たちの人生をどうこう指図する資格はないわ!」
「ふん、資格か、、、」
「用はそれだけですか?」
「まぁとにかく時間が無いんだけどな。
こんなことを言うためだけにわざわざこんな辺鄙なところにきたわけじゃないしな。」
「まだ何かいい足りないんですか?」
その時、言い争いの音に気づいた早紀ちゃんが、台所に降りてきてしまったのです。
「早紀ぃ。 久しぶり、といっても、顔覚えてるかな?」
「・・・・!」
早紀ちゃんの表情が凍りました。
ひとめで、直感的に、その黒いスーツの男が、何者かを感じ取ったのです。
「早紀ちゃん、2階に戻っていなさい。」
「いや、ここにいろ、早紀、俺のことちゃんと覚えてくれていたか?
お前が3歳のころにはもう、俺はいなくなってたから、やっぱりわからないかなぁ。」
「写真でしか見たことはありません。」
「じゃあ、俺が誰だかわかるよな?」
「・・・、少なくとも、あなたは私達家族にとって敵、、、、殺してやりたいくらい、、、、」
早紀ちゃんの目が鋭くなってきました。
「なんか目つき怖いな、さすが俺のムス」
「黙れっ!! 私はお前の娘なんかじゃないっ!!!」
「早紀ちゃんっ、やめなさいっ、早く2階に戻りなさいっ!!」
英子さんが早紀ちゃんの左腕をつかんで、無理矢理台所から連れ出そうとしたとき、
善次郎さんがそれをさえぎりました。
「どきなさい!もう帰って!」
「おい、早紀!いいことを教えてやる!」
「何よっ!」
「やめて、アナタやめなさい!!」
善次郎さんは、、、、あの真実を早紀ちゃんに話してしまったのです。
「お前の本当の親、知ってるか?」
「イキナリ何の話っ!」
「17年前の出来事だ。 お前が生まれたときの話。
こんなニュースを知っているか?
病院で赤子の取り違えがあったそうだ!」
善次郎さんは、当時の新聞記事、週刊誌の記事を2つほど、かばんから取り出し
早紀ちゃんの前に広げました。
英子さんはいち早く、それを奪い取ろうとしましたが、善次郎さんに押さえつけられました。
早紀ちゃんはその記事を見てしまったのです。
「・・・」
早紀ちゃんの顔は真っ青になり、震えが止まりませんでした。
「これ、、私のこと?」
「そうだよ、お前のことだ。
今まで17年間気づかなかったか? お前は、母さんにも俺にも全然似てない!
でもお前は 『お母さん似』 なんだよ?うはっ!」
「・・・」
「何をいってるの!早紀、聞いちゃ駄目!」
「おい、早紀ぃ! お前は本当は!お前が大嫌いな『アイツ』の娘なんだよ?
いま、ここにいるお母さんは、本当のお母さんじゃないんだよ?
知ってたか? 知らなかっただろ?
はははははっ!」
「・・・・!」
「やめなさいっ!」
英子さんは善次郎さんの口をふさごうとしましたが、善次郎さんに弾き飛ばされました。
早紀ちゃんはその場に崩れ落ち、身をブルブルさせるだけでした。
もはや早紀ちゃんは、何もしゃべらなくなりました。
善次郎さんは、なにやらその場で早紀ちゃんに耳打ちをし、引きずるように早紀ちゃんをつれて行き
車に乗り込んでいってしまいました。
英子さんは抵抗しましたが、突き飛ばされ、早紀ちゃんを連れ去られてしまったそうです。
最後に善次郎さんがいい放った言葉は
「貴裕は、、、ちょっとお仕置きが必要かもしれないなぁ!」
だそうです。
そして、英子さんは心配して、貴裕の元へ電話をかけたのでした。
警察にはすでに通報しているから、とにかく戸締りをして、
しばらく外出を控えなさいと英子さんは伝えて電話を切りました。
貴裕は、早紀ちゃんのことも、とても心配になっていました。
その日の夜、再び貴裕のPHSが鳴り響きました。
善次郎さんからでした。
「おれだけど」
「・・・・! お前っ!今どこにいるっ!!」
「うるさい、おい、綾香、そっちにいるんだろ?」
「早紀をどうしたんだ!」
「あまり手荒なことはしたくないんだよ。 とりあえず話がしたい。 綾香と3人で話をしないか?」
「早紀はっ! 早紀に何かしてないだろうな!」
「心配しなくても、俺がちゃんと保護してるからさぁ」
「どこだ!どこにいるんだ!」
「半蔵門駅1番出口のマックの裏手に、『カタメタワー』っつービルがあるんだわ。
綾香と一緒に2時間後に来い。
そのころにゃ電車無いから、タクってこい。 金はあとで出すから。」
「なんで、そんなところに・・?」
「いいから、来いよ。 早紀が寂しくて、、、死んじゃうかもよ?」
「なっ!!」
「綾香と一緒に来い。お前一人できても、ビルには入れないからな。」
そこで電話が切れました。
となりの綾香さんは心配そうな顔で貴裕を見つめます。
「ねぇ、ねぇ、もしかしてお父さんですか?」
「ああ。 ちょっと今から、出かけてくる。お留守番よろしく。」
貴裕が出て行こうとすると、綾香さんが引き止めました。
「待って!一緒に行きます!」
貴裕は迷いました。
確かに善次郎さんは「綾香さんと一緒」という条件を出しました。
しかし、そこまで善次郎さんが綾香さんに固執する理由、、、
貴裕は最悪の想像をしていました。
(もしかしてアイツは、「家族」として綾香を守りたいのではなく、、、)
だから綾香さんを一緒に連れて行くことには抵抗があったのです。
「お願いします!貴裕さんっ!!連れて行ってください!!」
「う、、でも、、、」
「もう、一人にしないでくださいっ!!!」
綾香さんは真剣なまなざしで、少し涙を浮かべて貴裕を見つめました。
貴裕は、綾香さんを連れて行く、、守り抜く決心をしました。
愛したひとが実の妹だった 〜バトルアクション編〜 に続く
出典:2ch
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