お姉ちゃんの涙
2004/08/11 05:01 登録: えっちな名無しさん
ある日の朝のこと。
横になりながらダルダルな感じで『こたえてちょ〜だい』を見てた時のこと。
今日のテーマは、女の涙でした。
それを見ながらワタクシ、不覚にも涙ぐんでしまいました。
今日はそんなお話し。
以下回想
夜遅くまで働く母親を助ける為に。
泣き虫だった弟を守らなければいけないと云う思い故に。
彼女は、まだ幼い頃からずっと、”お姉ちゃん”だった。
時にヒステリックな叫び声をあげて自分を「役立たず」と罵る母親の前でも、彼女は決して涙を流さなかった。
流せなかった。
『お姉ちゃんは泣かないよ? 泣いたら負けだもん』
それは、虐められて泣きながら帰ってくる事が常だった弟に向けた言葉であると同時に、自分自身を励ます為の言葉でもあったのだろう。
事実彼女は、弟の見ている前では、たとえ弟が傍に居ないときでも、泣いたりはしなかった。
それから両親が離婚した。
母親は再婚したが、再婚の相手は暴君であった。
家庭内での暴力に耐えかねた彼女達は、遂に家を出る決心をした。
再婚相手に裏切られて生きる気力をなくした母と、己の無力さに唇を噛締める弟。
それでも、”お姉ちゃん”は泣かなかった。
三人でまた頑張って暮らしていこうと、二人を励ました。
彼女の夢は看護士になる事だった。
だが、母子家庭の経済状況では看護学校への進学など望めるはずもなかった。
多少の無理をすれば可能だったのかもしれない。
家庭を顧みずに、弟の進学の事など考えずに。
ただ自分の事だけを考えていれば、夢は叶えられたのかもしれない。
”お姉ちゃん”は、看護士になる夢を諦めて、就職した。
それからまた二年ほどの時間が経ち、彼女は家を出て一人暮らしを始めていた。
諦めきれなかった夢の為に、少しずつお金を溜めながら。
と、そんなある日。
突然のチャイムにドアを開けると、そこには膨らんだバッグを携えた弟が立っていた。
不審に思いながらもともあれ家の中に招き入れ、話しを聞く彼女。
そこで語られたのは、要約すると「母親とケンカして家を出てきた」だった。
せっかく内定を貰った会社をすぐに辞めた弟は、再就職がなかなか巧くいかずに燻っていた。
自分でも成果が挙らない事に苛立っていたのに、そこに母親が駄目押しで説教をかましたらしかった。
内心では少々困りつつも、自分を頼ってきた弟を無下に突き返す事は彼女にはできなかった。
彼女にとって弟は今でも”弟”だったし、彼女は今でも”お姉ちゃん”だった。
「ちゃんと就職活動するのよ?」
「わかってるよ」
その日から、二人の共同生活が始まった。
だが、物事はそう簡単には進まなかった。
単純に考えて今までの二倍の出費は、彼女が夢のために少しずつ溜めてきたお金を次々と食い尽くしていった。
弟は、ゲームばかりしてお金を入れようとしなかった。
遂に貯金が無くなった彼女は、会社の仕事が終わった後に居酒屋でバイトをして生活資金を稼ぎ始めた。
弟は、就職活動の『しゅ』の字すら見せようとしなかった。
会社とバイトの二重労働に、彼女の疲労はピークに達しようとしていた。
肉体的にも、そして精神的にも。
ある日、彼女は居酒屋でミスを冒した。
最近よくミスが目に付くようになった彼女を店長が呼びつけ、「やる気が無いなら辞めろ」と叱った。
酷く、疲れていた。
フラフラになりながら家のドアを開ける彼女。
その目に映ったのは、またしてもゲームをしている弟の姿だった。
「……ただいま」
呟くような声で彼女は言った。
弟は、無言だった。
「ただいまっ」
多少強めに言った。
弟は、無視してゲームを続けていた。
「ただいまって言ってるのにおかえりも言えないのっ?」
バッグを床に投げつけて叫ぶ。
それでも弟は、振り向こうともしなかった。
瞬間、彼女の中で、何かが、切れた
「……ぅ、いや…」
力無く床にへたり込む。
「あんた一体これからどうやって生きていくのよっ!」
その声がいつもと違う事に、さすがの弟も気付いた。
振り向く。
そこには。
「姉ちゃん…あんたより先に死ぬかもしれないんだよっ?」
”お姉ちゃん”が泣いていた。
今まで一度だって泣いた事の無い”お姉ちゃん”が、泣いていた。
母親の罵倒にも泣かなかったのに。
両親の離婚にも泣かなかったのに。
義父の暴力にも夢の断念にも泣かなかったお姉ちゃんが、自分の所為で泣いている。
弟はようやく、その事に恐怖した。
それから、また少しの時間が経った。
あれから一念発起した弟は二週間ほどでとある会社から内定を貰い、彼女の家を出ていた。
そんな時、今はもう社会人として立派に勤めを果たしているのだろう弟からの呼び出しがあった。
何事かと思って呼び出された日の当たるベンチに、弟と二人で座る。
二人で過ごしたあの日々が今では遠い昔の様に思えて、少しだけ名残惜しい気がした。
「姉ちゃん。 これ」
手渡される、飾り気の無い封筒。
不思議顔で受けとって中を改めると、そこには二十万とも三十万ともつかないお金が入っていた。
「俺の給料から。 姉ちゃん、看護士になりたかったって…」
夢を、自分の為に諦めてしまった姉ちゃん。
いつだって、自分よりも俺を優先してくれた姉ちゃん。
涙すら、自由に流せなかった姉ちゃん。
今度は俺が、その夢を守るから。
姉ちゃんを、守るから。
「ば…ばか……ばかぁ…」
二度目の涙はもう、誰にも我慢する必要が無かった。
”お姉ちゃん”はやっと、涙を流す事を赦された。
それはきっと、とても幸せな事に違いなかった。
回想終了
お姉ちゃんごめんよっ! 俺、真面目に働くよっ!(お前じゃない
もうね、なんつーかね、妹なんか敵じゃないと。
最強はやっぱ姉だと。
ああもうヤバイ。
まさか『こたえてちょ〜だい』でここまで萌だえ苦しむとは思わなかった。
ビバ、お姉ちゃん!
それにしても。
アレが義理の姉なら共同生活が始まった時点でフラグ、涙を流した姉ちゃんを抱き締めてエンディング確定だとか思った私はそろそろ死んだ方がイイんだと思います。

(・∀・): 112 | (・A・): 75
TOP