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2007/09/19 13:38 登録: えっちな名無しさん

「パパは死なないでね・・・」目に涙をためた娘が唐突に夫に言い出した。
多分一緒に見てた洋画に影響されてだと思うが、肩まで震わせて夫にしがみつく娘に私は声をかけるのを躊躇っていると夫が、
「大丈夫。パパは不死身なのだ^^」とおどけて見せた。
娘はその笑顔で安心した模様で、ぴたっと泣き止んでご機嫌。
「パパ〜、お風呂一緒に入ろ〜。」なんて珍しくいうもんだから夫もご機嫌。
なんだかその風景を見てたら私までいい気分になったりしちゃったりして。

その父が健康診断で癌が見つかった。
医者が言うには早急な手術が必要なそうで、入院してから数日で手術にあいなった。
はっきしいって、あまりに突然、そしてとんとんと進んでいく状況に心が追いつかなくて、手術直前の励ましてあげなきゃいけない時に私は泣き出してしまった。
そんな私動揺して娘まで泣き出すしまつ。
もう逃げ出したい。そんな気持ちになりかけてた時、
「パパは大丈夫。直ぐ戻ってくるよ。里香(私の名前)」と娘の頭をなぜながら言う夫。
娘誕生して以来、ママと呼ばれていた私は久々に夫に名前で呼んでもらったことで、なんだか安心できた。
そうだ、母である前に私はこの人の妻なんだ。
「実は俺にはとびっきりのお守りがあるんだ。」そう最後に言い残し、夫は手術室に入っていった。
その日、夫は帰ってこなかった。





それから十年たった今でも、この時のことは鮮明に覚えている。
娘は高校生になり、勉強に部活に精を出している。
朝練に行く娘の弁当を作り、それから朝食の目玉焼きとトーストを用意する。
そして、寝ぼけ眼で自室から出てきた娘と二人で朝食。
娘を送り出し、家事を一通り終わらせた私はあの日のことを再び思い出す。

手術は難航を極め、日をまたいでの大手術となった。
娘は疲れきって寝ていて、私も憔悴していたと思う。
そんな中、手術室のランプは消え、夫を乗せた台と医者がこちらに向かってくる。

手術は成功。癌は全部取り除けたとのこと。
張ってた気持ちが決壊してその場で崩れる私。きっと疲れでぼろぼろの私の顔は涙で更にボロボロになっていただろう。

翌日、麻酔から覚め、意識が戻った夫に娘と会いに行った。
手術の影響からか、言葉を喋るのはつらそうな夫に変わり私は矢継ぎ早に話したと思う。
「手術の成功したのは日ごろの行いが良かったからかしらね・・・私の笑」
「退院したら、おいしいものでも食べ行きましょう。」
「心配させてしまったあなたのご両親には連絡入れときましたからもうじき来ますよ。」等。
話し上手でもない私はすぐに言葉に窮してしまって、なにか他に無いか話ことは無いか考えていると、手術前のことを思い出し、
「お守り効いたみたいですね。やっぱり最後は神頼みってことかしら。」と。
父はにっこり笑い、ベッド横の棚を指差す。
そこには写真入れが入ってて中を見ると私と娘の写真が入っていた。

きっと、これが夫のお守りだったのだろう。言葉はなくても夫の目を見ると伝わってきた。
夫は私に耳を貸せとジェスチャーで言ってきたので、私はそれにならい耳を近づけた。
そして夫はかぼそくも私に一言・・・




今娘は学校、夫は会社で働いていることだろう。
死別の深い悲しみも、出世・成功の大きな喜びも私にはいらない。
日々を家族と共にできる安堵。これが私の幸せ。
だから、術後の夫があの日、私にくれた一言に、私もならおう。

出典:夫の最後のセリフは秘密にさせといてください。
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(・∀・): 153 | (・A・): 50

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