機微と機智

チャイムギリギリで校門をくぐり、今日もセーフと一息ついてから、クラスの教室に入ると、いつもとは違う空気が流れていた。
何かあったの?と右隣の席の奴に尋ねると、何も言わず一人の女子を指差した。
その子の名は片桐さん。
彼女は成績優秀で眉目秀麗、それこそ学生としての褒め言葉はほとんど当てはまってしまうような子で、それでいて性格も良く、学校のマドンナとして注目を集める存在。
別段いつもの彼女と変わらないので、片桐さんが何？とまた聞いてみると、今度は顔のほうを指差した。

うん、でてるね。でちゃいけないものが鼻から・・・
整った鼻からなんとも鼻毛が猛々しく自己の存在を主張していた。
気づいてからは、もう周りの空気に同化しちゃった俺。
普段彼女と話さない俺は誰か注意してやれよ・・・と他人任せ。
それは他の奴らも同じようで、彼女の周りにはバリアが張られているかのように人が寄り付かない。その癖視線は、彼女のほうを向いているという非常に奇妙な空間。
こんな時に限って彼女とよく話してる奴は来てねえ。
もうね、西部劇さながらの緊張感。誰が銃を抜くか皆息を殺して、待ってんの。
当の彼女は、どうもそのおっとりとした性格からか、周りの視線や空気が気づかない様子。

そんな中、一人の女子が片桐さんのほうへ向かった。
キターーー(・∀・)、よし教えてやってくれ。その美しい鼻からお毛々がでてますよっと。
「何？」と、片桐さん。
「あの〜、その〜」勇気を出すんだ！
「き、今日も可愛いね！」・・・違うだろorz
「そんなこと無いよ。」と、片桐さん。笑顔になると余計見えてしまいます・・・

そうこうしているうち、担任が来てHR。
一時的に空気正常化・・・
「〜は欠席。〜〜以上で連絡終わり。」いつもどおりのHR。
担任「そうだ片桐。」　！！先生あなたが神か？
「お前日直だろ。二時限目の俺の授業の教材一時限目終わったら取りに来てセットしといてくれ。」
そうですね。片桐さん日直でしたね。黒板に彼女の名前書いてありますもの。
しかし、先生。あなたには失望しましたよorz

担任が教室を出て行くと同時に一人の勇者が彼女の前に。
よしきた！HR中に蓄えた勇気と知略を存分に披露してくれ！
「片桐さん、前髪しっかり留まってないよ。はい鏡。」
そうか！そうきましたか！大胆且つスマートなその手口。美しい。実に美しいではないですか!?
「ああ！！」と、片桐さん。よし！っと心の中で俺。
「今朝のジャムが口についてた・・・」白い顔が仄かにピンク色になる片桐さん。
てかあんた口元見えるなら鼻もみなよ！おっとりじゃなく天然！天然美女片桐！

がっくしと肩を落とす勇者に敬礼しつつ、こりゃだめだと思いかけてた矢先、
「おはよう」と、左隣の席の奴で俺の友人でもある木下なる男が登校してきた。
「重役出勤かよ。」軽くどつきながら言う俺。
「殴ったね・・・親父にもぶたれたことないのに。」と、木下。木下昇、コテコテのアニオタである。
俺「甘ったれんな！今日は朝から大変なんだぞ。」
木下「ん、なんだ？俺にだけ話してみろよ。ミッターマイヤー」今度は銀英伝かよ！（分からない人はアナゴさんの声で脳内変換してください）
事の次第を話す俺。
一通り聞いた後、木下はおもむろに携帯を取り立ちパチパチッ。
木下「ポチッっとな。」
間を空けて片桐さんの携帯が振るえ、それを見た彼女は教室外に一目散。

ものの数分で戻ってきた片桐さん。彼女の鼻からは鼻毛はもう見えない。
間をおかず木下の携帯にメールが入った。
無題　ありがとう　との簡単なメールだったかが、送信者の所には片桐！！
俺「お前、メールで教えてやったのか！？てかアドレス知ってたのかよ？」
木下「美人のメアドは入手しとくもんだろ。常考。」

正直、顔は十人十色の俺と木下。しかし、俺と違い木下は女子からとてもモテる。
今まで、なんでこいつだけこんなモテるんだ？何か使ってんの？超能力？薬？
と僻み精神１００％だったけど、わかったよ・・・こういうことなんだなorz

数日後、木下と片桐さんは付き合いだした。
なんで、木下と！？と悔しさ満点の男子の中、俺だけが理由を知っている。

「なんで、仲良くなったんだ？」二人に聞かずにはいられない俺。
「共通の趣味で意気投合してな。」と木下。
「ね〜。」と笑顔の片桐さん。
片桐さん、その笑顔を僕にも向けてください。もっと僕を見てください。
てか片桐さんもアニオタかよorz

この件で多くのことを学んだ俺。
今朝の朝食の時、妹の鼻から鼻毛発見。
「昔の俺と今の俺は違うのだよ。」と、誰に言うわけでもなく、呟く俺。
朝食をたいらげ、学校の準備をし、後は出るだけになってから、
送信相手　妹　
タイトル「鼻毛」
本文「でてるぞ。」


数分後、
携帯が鳴り、見てみると
送信者　妹
タイトル「Re:鼻毛」
本文「さっき言えよ。キモ、死ね。」

なんだかよくわからなくなってきたよorz

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