洋服屋のおじいちゃん

2007/09/26 02:19 登録: えっちな名無しさん

 僕も昔、不思議な体験をしたので書かせていただこうと思います。
 それは僕が小学校低学年だった夏の出来事です。その当時、僕ら一家は夏休みになると父の生家、つまり祖父の家に2〜3日泊まりに行くのが恒例でした。
 さてその年の夏休みの事。僕ら一家は祖父の家に到着して挨拶を済ませると、いつも遊んでくれる従兄弟のお兄ちゃんが野球部の練習から帰っていなかったので、僕は一人で村内を探険に出掛けました。
 僕には真っ先に行きたい場所がありました。○○洋服店という、ひなびた山間の集落には珍しい背広の仕立屋でありながら、田舎にはありがちな日曜雑貨や駄菓子も扱っているお店です。
 そのお店の老夫婦は、毎夏東京から遊びに来る僕をまるで本当の孫のように可愛がってくれたし、僕も従兄弟達も本当の親戚のように「洋服屋のおじいちゃん」と呼び、駄菓子を食べたり、従兄弟達とやる花火をおじいちゃんと相談しながら選んで買うのが夏の楽しみなのでした。
 さて。そのお店へ向かう途中の事でした。「ん?」僕はなにげに裏山へ続く山道に人の姿を認めました。だけど何か妙なのです。
 “その人”は…。土の色というか茶色っぽい色をした浴衣のような着物を着ているのです。そして足を引きずりながら、ヨロヨロと今にも死にそうな病人のように歩いているのです。
いや、よくよく目を凝らして見ると…。茶色の浴衣ではありません。それは赤土で泥まみれの白装束で、頭も手も全身泥まみれの人なのでした。
 僕は「な、なんだあの人」といぶかしく思いましたが、ふと僕はある人の姿を思い出しました。
「…洋服屋のおじいちゃん?」。猫背の背中、てっぺんが少し尖った特徴ある禿頭、先の大戦中に戦地で痛めたという不自由な左足の歩き方。あれは確かに洋服屋のおじいちゃんに思えるんだけど…。
 僕はそう思いながらも、ぐずぐずしてると帰りが遅くなると思い、その人に気を留めるのを止めて○○洋服店へ急ぎました。
 お店へ到着して店に入ると、僕は元気に「こんにちは〜。○浩だよ〜。来たよ〜」と挨拶しました。だが…奥から出てきたのはおばあちゃんだけでした。
 おばあちゃんは僕を見るとニッコリと「おお、よう来たねえ。大きくなってぇ」と言いましたが、僕が「おじいちゃんは?」と聞くと、途端におばあちゃんの表情が曇りました。
 僕は「おじいちゃん、さっき裏山の道に居たけど何か採りに行ったの?」と言うと、おばあちゃんは「えっ?」というようないぶかしがる表情をした後でこう言いました。
「浩くんね、おじいちゃんはね…先月死んじゃったのよ」と寂しそうに語りました。
「ええっ!」僕は絶句しました。僕は悲しみが溢れてどうしていいのか分からず、まだ子供でおばあちゃんにお悔やみが言えるような知恵も無かったので、「また後で花火買いに来るね」と、お店を後にして祖父の家へ逃げるように帰りました。
 僕は夕食後に祖父達に洋服屋のおじいちゃんが亡くなった事情を聞きましたが、親族でもないから知らせる必要は無いと思っていた。お前が懐いてたの知ってたから言い出すのが辛かったといいました。気落ちする僕に祖父は「じゃあ明日、お墓地にお墓参りに行こうか」と約束してくれました。
 翌日、僕らは洋服屋のおじいちゃんの眠るお墓地にお墓参りに行きました。
 僕が初めて来る村の墓地。苔むして風化しかけた小さな石塔と腐りかけた卒塔婆が立ち並び、僕には不気味な場所に思えました。祖父に「ここがおじいちゃんのお墓だよ」と指差された場所は…。
 土が畳一畳ほどの面積でボコッと陥没しているのです。祖父が言うには、この現象は中の遺体が土に還ったという証拠らしいです。そして遺体が腐敗して発生したガスが発火したのが人魂現象で、自分も見たことがあると。
 そうです。この地方では、そしてこの村では土葬が一般的なのでした。仏様は白装束にして棺桶に入れて埋葬され、盛り土がされるのです。
 そして…。祖父がおじいちゃんの埋葬場所で言った言葉にドキリとしました。

「ん?こりゃなんじゃ?ほれここだ。掘りかえしたような跡じゃな。まだ新しいぞ。タヌキやイノシシもお墓地でこんな悪させんだろしな。誰じゃろなこんな…」

 「!」
 僕は咄嗟に昨日おじいちゃんのお店に行く途中に見た光景が脳裏に浮かび戦慄が走りました。

 全身泥だらけの死に装束の人物…。それを見た山道はこの埋葬地から目と鼻の先…

 おじいちゃんなのか? あれ洋服屋のおじいちゃんだったのか? 
 
 その夏に僕が見た事は祖父にも親族にも話しませんでした。そしてそれ以降祖父の村に行くのが怖くなりました。

 なぜなら…墓から出た洋服屋のおじいちゃんがどこかに居ると思うと…
 





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