最後の電話相手3
2004/08/20 14:50 登録: えっちな名無しさん
生徒会は終了。気が楽になった。
しかし、生徒会が終ったからといって、ユキと復縁できるほど世の中は甘くない。
ユキにはすでにタカオがいる。俺の出る幕はないのだ。
高校受験の勉強のために、塾に通っていた。自転車での通勤である。
勉強の甲斐あって、レベルの高いクラスに移動することに。
その教室には、あろうことかミキコがいた。
しかし、会話をする気はない。
冬。寒かろうがなんだろうが、塾は開かれる。
さて、帰ろうとして自転車置き場に向かう途中で、ミキコに呼び止められた。
「あのさ―――」
「なんだ。」
「いや、方向一緒だから、一緒に帰ろうと思って。」
どこの口がそんなセリフを吐くんだ、と言い出しそうになった。
しかし、こらえる。
よくよく見れば、ミキコは美人である。
今までは、その醜凶悪な性格のせいで歪んでみえた表情も、綺麗に整って見えた。
寒さで顔面の筋肉が麻痺している、というわけではなさそうだ。
実際、ミキコは以前よりもはるかに大人しくなった。
やはり、キャンプの時にボロクソ言われたのが、彼女を変えたのだろうか。
「ああ。」
曖昧な返事をして、一緒に帰ることに。
2月のはじめである。寒さも極まり、手袋・耳あて無しでは外出できない。
ミキコが何も喋らないので、仕方なく話題を作ってやった。
「オメェも大人しくなったよな。」
「え?そうかな。」
「メチャクチャ性質が悪かったじゃないか。」
「………うん」
なにが「うん」だ。素直にでられると、腹が立ってくる。
「俺に2度も泣かされたのか堪えたかよ。」
「まぁ、ね。」
「おかげで、俺は悪者扱いだったがな」
またミキコが黙りだした。本当、どうしようもない奴だ。
だいぶたって、やっと口を開く。
「アキラ君は、私のこと嫌いだよね?」
………いい加減にしてくれ。
俺を惑わさないでくれ。
「別に。」
また出た。俺の馬鹿。目先の女の可愛さに、見事にだまされている。
「じゃあさ―――」
すっと、ミキコは手袋の手で、一枚の便箋を渡してきた。
「あ?」
なんだよコレ、と言おうとしたら、すでにミキコは自転車を加速させて、道を曲がって消えていった。
家に帰って便箋を見る。「アキラ君へ」だと。
もういい。わかったから、やめてくれ。
ここで、この中身を見て、ミキコに心が動いてしまったら………
俺はたぶん、タカオに殺される。ユキにも殺されるかもしれない。
自分の中で信義とかが崩れ去る気がする。
結局、読んだわけだが。
要するに、ミキコは昔から俺のことが好きだったらしい。
しかし、俺はユキをはじめ、ミキコの嫌いな連中とばかり付き合っていたので、それが気に入らなかったのだと。
ユキと付き合ったことを知って、自分を見失って、ユキに俺と別れるように仕向けたこと。
そのことについては、何度も謝罪の言葉が綴られていた。
そして、キャンプの時に俺にののしられて気持ちがごちゃまぜになり、
最終的には、俺のことを以前よりも好きになったということだ。
―――で、付き合って欲しい、とのこと。
………わけがわからない。特にキャンプのあたりが。
人間は信用できない。すぐに気持ちが変わるし、本当の気持ちは本人でもわからなくなる。
しかし、今にして思えば、だからこそ人間は面白い、ということか。
「好き」と言われて嬉しくない男はおるまい。相手が美人ならなおさらだ。
そして、性格が完璧なら文句は無い。
………困ったことに、この手紙を読む限り、ミキコが超極悪な女だとは思えなくなってしまった。
タカオに相談するわけにはいかない。「断らないなら死んでしまえ」と来るだろう。
自分ひとりで考えてみる。
ミキコと付き合えば、ミキコを手に入れる(嫌な表現だが)ことができる。
なんせ、久しぶりの彼女だ。セックスだって十分楽しめるだろう(若さ故に)。
しかし、その代わりにタカオに殺される。親友を一人失うことになる。
ミキコに断りを入れると、どうなるか。
………なにも変わるまい。タカオがいる。そしてタカオはユキと付き合ってゆく。
よく考えると、タカオがユキと付き合いだしてから、ろくに口を聞かなくなった。
ユキと二人で、俺からは疎遠状態。
(ひょっとして、すでに失ったものなんじゃないか。)
だから、後は二人に嫌われるか、嫌われないかの差があるだけだ。
………男と女。親友と彼女を天秤に載せた結果。
俺は、彼女をとることにした。
自分の信義、プライドなんて、頭からなくなっていた。
ミキコと付き合うことになったものの、学校ではなるべくお互い近寄らないようにした。
学校で噂になるのはマズイだろう。俺とミキコが話をするのは、塾の帰りと、休日だ。
しかし、それもいつかは人の知れるところとなるだろう。時間の問題だ。
受験は終った。ミキコと俺は同じ高校に通うことに。
卒業式もあっという間に訪れた。
校門までの道のり。最後ぐらいはいいだろうということで、俺とユキコは並んで手をつないで歩いた。
「あっ」
声がして、横を見ると、同じく手をつないでユキとタカオがこっちを見ていた。
動けなかった。気まずい、とかそういったレベルではない。
ミキコも、気まずいのだろう。完全にかたまっている。
―――噂は本当だったのか、とでも言いたそうに、タカオがこっちを睨みつけている。
その視線が死ぬほど俺の良心を攻め立てる。
「いこう。」
俺は、逃げるようにミキコの手を引いて校門へ向かった。
タカオは追ってはこなかった。
ユキがどんな顔をしているかなんて、怖くて見れなかった。
高校生活は順調であった。
携帯電話を持つようになり、中学時代の悪友とも連絡先を交換する。
高校生にもなると、友人たちの不良度合いはさらに上昇。
茶髪、ピアス、お金があればバイクを入手。
たまに夜中に呼び出されては、友人のバイクを眺めては、コンビニの前でアイスを食べた。
しかし、だんだんと彼らの素行もマズいところまで進んでしまった。
暴行窃盗。レイプ。そして、麻薬。
友人たちは、「犯罪しない組」か「犯罪組」にわかれた。
当然、俺は「しない組」とだけ遊ぶようになった。もっとも、二つの境界線は曖昧だ。
ある日のことである。悪友たちと遊んでいた時のことだ。
「アキラぁ、お前のメアド、ユキの奴が知りたいってよ。」
「えっ?」
どうやら、ユキはこいつたちと付き合っているようだ。
以前のことがあって、少々気が引けたが、俺はそいつにメアドと連絡先をユキに教えさせた。
ユキに呼ばれて、公園まで行くと、そこにはタカオも来ていた。
「テメー!どのツラさげて会いにきた!」
タカオが殴りかかってくる。やはり怒っていたのだ。問答無用である。
しかし、俺も喧嘩が弱いわけではない。タカオの振り回される拳をよけまくる。
「やめて」
ユキが言う。それでタカオも手を引いてくれた。
久しぶりに見たユキは、金髪に化粧。昔よりやせて見えた。
「それよりさぁ、アキラ。昔みたいに、また仲良くやろうよ。私、寂しかったんだけどな。」
物言いの明るさは昔のままだ。変わったのは外見だけだと知って、ほっとした。
だが、何かこのセリフはおかしい、と違和感があった。
そこで、タカオが言う。
「………まだあの女と付き合ってるのか?」
「ああ。」
「………別れろよ。お前さぁ、ユキがいなくなって寂しくなって、女なら誰でもよくなって付き合ったんだろ、アイツと。」
なかなか酷い言い草。おまけに、否定しきれないところが怖い。
「そんな女、価値ねーよ」
だが、この言葉にはカチンときた。
「価値あるわ!」
「セックスするだけならな」
違う。ミキコはそこまで捨てたもんじゃない。
美人だということもあるが、彼女は優しく、可愛い存在だ。ユキにも決して劣らない。
全て付き合ってから気付いたことだが、それでも大切な奴だということには変わりない。
「クソ野郎!」
今度は俺がタカオを殴る番だった。
タカオは、高校で部活に入っていないのだろうか。動きが酷く鈍い。
殴る、蹴るの連打で、あっという間にタカオは地面に沈んだ。
「やめてよっ!」
ユキの声が耳に入ったのは、タカオが既にうずくまっている時であった。
俺はもう、これ以上ここにはいたくない。
「ユキ、悪かった。ミキコはあれで、意外とイイヤツだったんだ。嫉妬でお前にちょっかいだしたらしい。お前にも悪かったと言っていた。」
「………知らない」
「まあ、俺はもう帰る。次はもう、ケンカはごめんだ。」
俺は、そのまま帰宅した。
それからしばらくの間は何にもなかったが、半年も経つとユキからメールが来るようになった。
内容は大したことはなかった。
やれ「今夜のメシはまずかった」だの「あのテレビの司会者は気に食わない」だの。
雑談程度なら、俺も快く付き合うことにした。
高校3年になり、勉強が忙しくなった。
ユキのメールに付き合うことも控えた。返信を遅くするようにしたのである。
最後には、「受験だから、あんまりメールできない」というメッセージも送った。
それ以来、ユキからメールはこなくなった。
加えて、次第に今まで付き合っていたミキコとは疎遠になっていった。
自然消滅、ということである。
あれほど好きだった相手なのに、熱が冷めるときはいともあっさりしている。
大学生になった。一人暮らしのために、地元を離れる。
ヒマになったことをユキにメールで伝えたが、返事は来なかった。
嫌われたのだろうか。仕方あるまい。
ミキコは違う大学に入学した。自分の夢を追いかけたというのなら、俺は何も言うことはない。
一人にもどり、大学生活を満喫した。
大学2年になると、突然ユキからメールがきた。
最初は、雑談と昔の思い出話だった。
しかし、突然話は変わる。
『ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど。』
『なんだ?』
返信は、しばらくしてからやってきた。
『クスリを買って欲しい』
俺は、しばらく息をするのも忘れるほど硬直した。

(・∀・): 31 | (・A・): 49
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