エレベーターには裏技があるらしい
2007/11/08 23:21 登録: 以下、名無し
エレベーターには裏技があるらしい。
エレベータのボタンを押し間違えた時に、それを訂正するテクニックがあるというブログを読んだ。
僕が働いている会社のエレベーターは日立製である。日立の場合、キャンセルしたい[階数ボタン]を押し続けるとのことだ。
おもしろそうだ。やってみたい。悪戯とも言えないレベルだが、こういうものは試したくなる。
次の日、会社でエレベーターに乗ると、いい感じに一人だった。4000人を超える大会社の中では、3日に一度あるかないかくらいのタイミングだ。試すには絶好のチャンス。試すしかない。
何階にしようか少し迷ったが、26階を押すことにした。僕の階は18階なので、全く関係ない。26階はちなみに社長室がある階で一般の社員が降りることはまずない。
まあ、どうせすぐキャンセルするんだし、と思いつつもなぜか緊張してしまう。もしキャンセルできなかったらどうしよう、とも思ったが、その時はその時だ。
えい、と押したと同時にドアが開いた。そして誰かが乗ってきた。
僕の、昔の彼女だ。
彼女は僕の会社で社長室で働いている。秘書、とまではいかないが上の連中の面倒をかなり見ており有能と評判だ。
そんな彼女と知り合ったのは会社の忘年会。料理の注文やビールの追加など、あわただしく働く彼女に「ちょっとは座って飲みなよ。僕も手伝うからさ」
と声を掛けたのが始まりだった。そのあと、連絡先を交換し、ちょくちょく会うようになった。
付き合って半年くらいで、お互いに忙しくなってしまい、自然消滅のような形になってしまった。心残りがないわけじゃないが、僕にも彼女にもキャリアというものがあるわけで、無駄な時間の浪費はやめよう、そんなことを言った覚えがある。
男よりも自分の成長を取るような子なのだ。実際、デートをしていても、仕事の話しになることも多かった。
彼女は仕事に、スキルアップのための勉強と、忙しさは僕以上だった。ごめん、仕事で今週は会えない、ということもしょっちゅうだった。
だから、君の将来を考えると僕といるのはあまりエフェクティブではないよね、と言ったのは本心からだった。
誤解のないように言うと、僕は彼女と本当に別れたかったわけではない。ただ、なんとなく不安だったのだ。一緒にいることは、彼女にとって無駄な時間ではないだろか、と。
意外にも彼女は、別れたくない、とはっきりといった。そして声も出さずに涙をこぼし始めた。彼女の涙を見たのは初めてだった。
君にとって、今大切なのは僕じゃない、君の足かせにはなりたくないんだ。そういい、彼女をなだめて納得させた。
繰り返すが、僕も別れたかったわけではない。単に、その場で自分の言った発言が矛盾してしまわないように説得を続けていただけだ。
賢い子だけあって、感情的に議論になったりはしなかった。聞き分けがよすぎる、とあまりに勝手なことを思ったくらいだ。
そのまま別れ話は終わり、そして、僕らは別れた。3ヶ月前の話だ。
その彼女がエレベーターに乗ってきた。
乗ってきた彼女は僕を見て少しびっくりしたみたいだがすぐに涼しい顔に戻った。同じ会社なのだから、会うことくらい珍しくないわよ、
とでも言っているようだ。
彼女がボタンを押そうとしたところ、26階が押されているのに気づいた。
「社長に用でもあるの?」
彼女は少し笑いながらそういった。あわてて言い訳をしようとして
「違うんだ。」
と口に出したが、そのあとが出てこない。説明をすればいいんだろう。まさかキャンセル技を知って、試したかった、というのも子供じみていて恥ずかしい。
しかし、きょとんとしながら僕の顔を見る彼女を見ていると嘘をつくのも難しそうだ。ここは正直に話すしかなさそうだ。
「エレベーターにはキャンセル技っていうのがあるんだ。ボタンを押し間違えた時にその技をすると元に戻せるらしい。それを試そうと思ったんだ。」
彼女は少しあきれた顔をした。
「変わらないのね。」
そして、ため息まじりにいった。
「で、どうすればキャンセルできるの?」
「押し続けるんだ、ボタンを」
「ボタンを?」
「そう。間違った階を押し続けるだけでキャンセルできる。」
「そうなんだ」
彼女が答えて、そして二人とも黙った。エレベーターの中はやけに静かだ。
僕はつぶやいた。
「あの時、押し間違えたボタンはどうすればキャンセルできるのかな。」
18階が開き、そして誰も乗り降りしないまま、ドアが閉まった。
「押し続ければいいんじゃない?まだキャンセルは効くみたいよ」
なるほど。
そして、僕は黙って彼女の唇に唇を押し当てた。あの時押したボタンがキャンセルされるまで、ずっと。
出典:はてな匿名ダイアリー:エレベーターには裏技があるらしい
リンク:http://anond.hatelabo.jp/20071031020615

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