深夜のHELP

2007/11/27 01:31 登録: えっちな名無しさん

最初のメールを受信したのは11時を廻った頃だった。
眠りに就こうとする中、機械音が耳元に届く。「誰やろう?こんな時間に…」と思いながら携帯を手にした。
送信者はアヤ。前の会社での良きライバルであり戦友だ。彼女との付き合いはもうかれこれ10年に及ぶ。
2人で買い物や食事にも出掛けたりする間柄だが男女の仲でない。気兼ねない本当の意味での親友である。
アヤは美人ではあるが負けず嫌いで少々きつめの性格。きつめと言うよりは男勝りと言う方が似合っているかもしれない。
そんなアヤからのメールは「今、Aちゃん(会社の後輩)と飲んでるんだけど今日、泊まっても大丈夫?」といった内容だった。
俺はいつもの事だと思い何の躊躇も無く「OK」と返信をした。

俺の家は繁華街のマンション。仕事で朝が非常に早いので利便性を考えて賑やかな街の中に住んでいる。
そんな俺の家には友人たちが度々ホテル代わりにやってくる。もちろん終電が無くなった後に酔ってやってくる訳である。
もちろん男性が殆どだが中にはアヤのように女性もいたりする。ただし、この簡易ホテルは週末だけで平日に泊まる人間はほぼ皆無だった。俺の仕事の時間に合わせて早朝に起こされ、酒の抜けきらない身体で叩き出されるのが辛いのだろう…
しかし、この日は水曜日だった。俺の頭で???の文字が少しだけ駆け巡った。

眠い目を擦りながらタバコを片手にアヤを待つ事、1時間。一向に来る気配が無い。普段なら30分も経たない内に賑やかに訪れるはずなのに…
俺はアヤに「もう帰ったの?」とメールをしてみた。もしかしたら、終電で帰ったのかもしれないしタクシーを拾ったのかもと考えたのだった。
すると、アヤから意外な返事が返ってきた。「ううん。Aちゃんは終電で帰っちゃったよ。そっちに向かう途中でナンパされたんで、飲みに行ってる。」だった。
俺は「もう寝るから好きにして。鍵は開けておくから」と返信し寝付いた。

残念な事に俺の眠りは浅い。実家にいたときは親に「アンタ、犬みたい」って良く言われた程だ。そんな俺が着信音で起こされたのは2時前だった。
「HELP バー○○まで迎えに来て! お願い!」アヤにしては珍しく女性を思わせる文だった。その店は俺が毎週のように覗くバーでマンションから2分ほどの距離だ。仕方なく身支度をしているとまたもやメールが来た。
「めっちゃヤバイ。彼氏のフリして直ぐ来て… ホンマにゴメン」と…

胸騒ぎがする中、急いで店に向かった。扉を開けると馴染みの店員がテーブルを指差す。と同時に小声で「強引に連れて行かれそうになってましたよ。」と教えてくれた。
俺は何食わぬ顔で「アヤ、遅いやないか? 何時まで待たせんねん!」と言いながら席に着いた。演技なのかアヤは俺に抱きつくようにもたれ掛かった。
ナンパ男が一瞬怯んだ様に見えた。それを見て「会社の後輩か?こんな時間までつき合わせてスイマセンねー」と俺は続けた。
男は「一緒の席になっただけです。僕、もう帰りますから…」と席を立とうとした。
俺は「一杯ぐらい付き合ってもいいじゃないですか?どうせこんな時間ですし…」と制止した。

しばし沈黙の時が流れた。BGMが途切れた時、アヤが口を開いた。「コイツ、メッチャむかつくねん。ホテル行こ言うてしつこいねん。シバいたろか!」と…
俺は無言で男を睨み付けた。男はバツが悪そうにしながら「すいません。酔った勢いの出来心で…」と頭を下げ続けた。
アヤは「もうええわ。ほな、ご馳走さん」と言い席を立ち、俺も合わせて席を立った。
その時、アヤは頬にキスをして「ありがと」と耳元で囁いた。
俺がアヤに始めて女性を意識させられた瞬間だった。
店を出てもアヤは俺の腕に抱きついたままだった。「もう、大丈夫」の俺の声に無言で首を横に振った。エレベータに乗るとアヤは正面から抱きつき、「ほんまにありがとう。」と言うと泣き出した。
僅か10数秒かそこらの時間だったが強く抱きしめた。もっとも、その時間は俺にはもっと長い時間に感じられたのだが…
部屋に着くと、アヤはいつものアヤを取り戻したようだった。慣れた手つきでソファーベッドを用意し、風呂に入っていったのを見てから俺は自室に戻り眠りについた。

翌朝、アヤは寝息をたて良く眠っていたので「先に出ます。鍵は持って行って下さい。」と手紙と予備の鍵を残し家を出た。
仕事中も昨日の出来事が頭を駆け巡っていた。鍵を返して貰うという口実で会う事は出来るのだが何と言って良いのか自分で整理出来ずにいた。
自宅に帰るとテーブルに「昨日はありがと。お礼に食事作ってあげるので腹を空かして待ってなさい。」と手紙があった。

少しばかりの期待と大きな不安が交錯する中、待っている間にうたた寝してしまった。
そして、買い物袋を提げたアヤに蹴り起こされた。「寝て待ってるなんて失礼な奴ね!」と言いながら笑っていた。
そんなアヤの胸元には服に似合わないピンクのリボンが付けられてあった。
「そのリボンどうしたの?」と聞くと「昨日のお礼かな… でも返品できないから良く考えてね」と少しはにかんだ表情で…

出典:2年前の出来事
リンク:先月結婚しました。

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