学校帰りに、何気に公園を見ると、幼馴染の香織がいた。 片隅のベンチに腰掛け、俯いていた。 香織とは、幼稚園から中学まで一緒。 幼稚園時はほぼ毎日、小学生になっても時々だが、遊んだりする仲だった。 中学になると香織は陸上部に入り、また可愛い顔の香織はアイドル的存在となり、俺と接する事がなくなった。 俺、まぁ不細工な方だから・・・ 高校生になると、学校が別々だった事もあって、顔すら合わす事がなくなった。 家、2軒挟んだ隣なのにね。 正直思うのは、生きる世界が違うのだろう。 俺も香織の存在を忘れてたし、きっと香織も、俺なんかの事は忘れてたろう。 公園で見かけるまではね。 泣いてるように見えた。 いや・・・間違いなく泣いてたろう。 声をかけようかと思ったが、ほぼ3年近いブランクがある。 相談しあう仲でもないし、笑いあう仲でもない。 俺は歩を進め、通り過ぎようとしたが・・・ でも、やはり気になってしまった。 俺は自販機でコーラを買い、香織の側に足を進め、黙ってそれを差し出した。 「俊ちゃん・・・」 声は出さなかったが、香織の口がそう動いた。 3年もまともに喋ってないのに、俺、通り過ぎようとしてたのに、あの頃と同じような呼び方をされて、何だか嬉しかった。 でも、手放しに再会を喜べる雰囲気ではなかった。 香織の目が案の定、真っ赤だったから。 暫く黙ったまま、目だけを合わせていた。 「ほらっ」 俺はやっと口を開き、香織に尚もコーラを差し出した。 ところが香織はそれを受け取らず、突然立ち上がると、いきなり俺に抱きついてきた。 可愛い子に抱きつかれ、悪い気なんてしない。 でも俺にしてみたら、女の子に抱きつかれるなんて、生まれて初めての事だった。 香織は俺に抱きつくと、声を上げて泣き出した。 周囲の視線が突き刺さるが、俺、どうしていいか分からなくて。 どうしていいか分からず、ただ立ち尽くした俺の足元に、コーラの缶が転がった。 香織は尚も泣き続けていた。 「ごめん・・・それから・・・ありがと・・・」 泣き止んだ香織は俯いたまま、俺を見る事無くそう言った。 「折角だから・・・これ・・・貰っとくね」 俺の足元のコーラを拾うと、俺に背を向け、 「少し・・・スッキリしたよ」 そう言うと、一人で公園を後にした。 俺は黙って、香織の後姿を見送った。 翌朝、学校に行こうと玄関を開けると、門の所に人影が見えた。 向こうも俺に気付いて、手を振った。 「俊ちゃ〜ん!」 香織だった。 「駅まで、一緒に行かない?」 「別に・・・いいけど・・・」 俺はツレなく答えたが、内心はドキドキだった。 俺がそんなんだから、当然会話なんて弾まない。 俺自身は、「あぁ」とか、「いや・・・」とか返すだけで、色々と話しかけてくるのは香織。 でも俺、何を聞かれたとか、まるで覚えてなくて・・・ ただ、あっと言う間に駅に着いた気がする。 「じゃ〜ね!」 笑って手を振り、反対側のホームに行く香織の事を、昨日と同じように見送った。 学校が終わり、いつものように電車に乗った俺。 いつもの駅で降り、改札を抜けると、そこに香織がいた。 俺を認めた香織は、手を振って微笑むと、俺に近付いて来た。 「一緒に帰ろう!」 そう言うと香織は、ポケットに突っ込んだ俺の右手に、自分の腕を絡めて来た。 俺はまたドキドキしながら、朝来た道を歩いた。 朝のように、「あぁ」とか「いや・・・」しか口にしてない。 「俊ちゃんって共学だったよね?」 「あぁ」 「俊ちゃんは優しいから、もてるでしょ?」 「いや・・・」 「うそ〜っ!絶対もてるって!」 「そんな事ねぇよ!」 俺は初めて、「あぁ」「いや・・・」以外を口にした。 「ごめん・・・怒った?」 「いや・・・」 「怒ってるでしょ?」 「いや・・・」 「あたし・・・迷惑かな?」 「いや・・・」 「静かにしてた方がいいなら・・・黙ってようか?」 「いや・・・俺こそ・・・大きな声出してゴメン。」 謝ったけど、何か重苦しい空気が流れてしまった。 「上田さん(香織)、陸上は?」 初めて俺から、香織に話し掛けた。 しばらく香織は黙ってたが、「やめちゃった」と言うと、なんだか寂しそうに笑った。 俺はそれ以上は、聞いてはいけない気がして、「そう・・・」とだけ返した。 香織は中学時代、100mで県大会3位の実力者だった。 高校は勿論特待生。 そう言えば・・・高校は寮だって聞いた記憶が・・・ やめたから、今は家から通ってるんだ。 「かなり・・・いじめられちゃってね・・・」 香織はそう付け加えると、昨日の様に下を向いた。 また、重苦しい空気が流れた。 俺の家の前で香織は、絡めた腕を解いた。 そして俺に微笑みかけながら、「明日も、一緒に行っていい?」と聞いてきた。 俺は「あぁ」と答えた。 「あのさー・・・」 俺が香織に目をやると、「『上田さん』は寂しかったぞ!」と言った。 「昔はさ〜・・・『香織ちゃん』って呼んでくれてたよね?」 「あぁ」 「『香織ちゃん』って呼んでよ」 「あぁ」 「『香織』でもいいぞ!」 「いや・・・」 笑う香織。 「それからさ〜」 「本当にもてないの〜?」 「あぁ」 「ふ〜ん・・・」 その後に、香織が何か言った気がした。 でも、聞き返さなかった俺。 「じゃ、明日ね〜」 香織はそう言って手を振ると、自分の家に入って行った。 翌朝も、香織は門の側に立っていた。 そして夕方には、駅の改札口にいた。 その翌日も、そしてその次の日も。 俺らは毎朝一緒に駅に行き、夕方には並んで帰った。 ある時、中学時代の同級生と鉢合わせた。 「えっ?」と一瞬驚いたそいつ。 「お前ら・・・付き合ってんの?」 その問い掛けに、「へへっ」と笑った香織。 そして俺は、「そんな訳ないだろ!」と強く否定。 「だよな!」 同級生は安心したような顔をした。 その日は途中まで、3人で並んで帰った。 香織はずっと、そいつと喋ってる。 俺は一言も口を利かなかった。 同級生と別れ、また二人きりになる。 いつもはずっと喋ってる香織が、珍しく一言も喋らない。 気になりながらも俺は、訳を聞く事が出来なかった。 そして香織との別れ際、「あんなに強く否定しなくてもさ・・・」 そう言うと香織は手も振らず、家に入って行った。 翌朝、門の前に香織は来なかった。 夕方も、駅の改札口にはいなかった。 気になった俺は、香織の家に行ってみようかと思った。 でもいざとなると、呼び鈴を押す勇気がなかった。 小学生の頃は躊躇なく、押すことが出来たのに。 下からただ、灯りのついた香織の部屋を見上げるだけだった。 翌朝俺は早起きをして、いつもよりも随分早くに家を出た。 家を出て行く先は、3軒隣の香織の家。 でも30分たっても40分たっても、香織は出て来なかった。 諦めて、学校に行こうかと思った時、香織の家の玄関が開いた。 出て来たのは、香織の母親。 「あら〜俊ちゃん・・・久しぶりねぇ」 俺は挨拶をすると、「香織ちゃんは?」とおばさんに聞いた。 「香織ねぇ・・・昨日から具合が悪いんだって・・・」 そう言うと2階の、香織の部屋の窓に目をやった。 「困った子よね〜・・・」 そう言うと俺の方を見た。 「そうですか・・・」 俺はそう言って頭を下げると、駅に向って歩いた。 香織がいない道は、とても寂しかった。 その日の夕方、俺は香織の家の前にいた。 ケーキ屋で買った、ショートケーキが入った包みを持って。 相変わらず、呼び鈴を押すのは躊躇した。 躊躇はしたが、でも思い切って呼び鈴を押す。 出て来たのは、おばさんだった。 「香織ちゃん・・・いますか?」 おばさんに尋ねると、「いるけど・・・お部屋から出て来ないのよね・・・」と、困った顔をした。 「そうですか・・・そしたらこれ、香織ちゃんに。僕が来たって、伝えて下さい。」 そう言って頭を下げ、立ち去ろうとした俺を、おばさんが呼び止めた。 「俊ちゃんの顔を見たら・・・元気になるかもね・・・」 俺はおばさんに続いて、狭い階段を上った。 5年生の時に上って以来。 でも、懐かしさに浸る余裕なんてなかった。 おばさんがノックしても、中からは何も反応がない。 「俊ちゃんが来てるわよ。開けるわよ!」 そう言っておばさんがドアを開けたのと同時に、「えっ?」と驚いた声が聞こえた。 完全にドアが開き、布団から顔だけだした香織と目が合う。 「ちょっと待ってよ〜!」 香織はそう言って布団にもぐるが、おばさんはお構いなし。 「さぁ、入って、入って。」 そう言って俺の背中を押すと、「ごゆっくり〜」と言ってドアを閉めた。 ただ立ち尽くす俺。 香織も布団を被ったまま、顔を出そうとしない。 そしてドアをノックする音。 おばさんがジュースとグラスをトレーに乗せて、部屋に入ってきた。 「あら俊ちゃん、立たされてるの?」と笑ってる。 「はい・・・そんなとこです・・・」 「香織に遠慮しないで、座っていいのよ。」 そう言うとおばさんは、クッションに目をやった。 「はい・・・」 俺は返事をすると、クッションの側に腰を下ろした。 「香織ちゃん!いい加減にしなさいよ!」 おばさんは布団の中の香織に、厳しい口調で言った。 「俊ちゃん、香織が出てこなかったらそのケーキ、おばさんに頂戴ね。」 そう言うとおばさんは、部屋から出て行った。 「ケーキとか・・・買って来てくれたの?」 おばさんが出て行くと布団の中から、香織が聞いてきた。 「あぁ」俺はそれだけ返した。 「ケーキ、食べたいけど・・・恥ずかしいよ〜」 布団から顔だけ出して、香織がそう言った。 「じゃ俺・・・帰るから。ケーキ食べて元気出して。」 俺が立ち上がろうとすると香織は、「待って!」と言って布団から出て来た。 でも次の瞬間、「キャッ」と言うと、ピンクのパジャマの胸元を隠し、前かがみにになった。 「帰るよ」 俺は立ち上がり、ドアノブに手をかけた所で、香織に腕を掴まれた。 「待って!一緒に・・・ケーキ食べよ・・・」 「ノーブラだから・・・あまり見ないでね。」 俺の正面に座った香織は、襟元を左手で抑えながら、俺にそう言った。 「上に・・・何か着たら」 そう言われて照れた俺は、そう言うのがやっとだった。 「そだね・・・」 香織は立ち上がると、薄いピンクのカーデガンを出し、それを上にまとった。 でもそれで無防備になった香織。 ケーキが入った箱を覗き込んだり、食べようと前屈みになった時に、チラリと胸元が覗く。 その都度俺は、目のやり場に困って、香織から視線を逸らした。 人の気も知らずに香織は、「おいしい」と嬉しそうな顔をした。 「昨日ね〜子供の頃の写真を見てたんだ〜」 ケーキを食べ終えると、香織はそう話した。 「ふ〜ん・・・」 「そしたらね〜俊ちゃんが水溜りで転んで、ベソかいてる写真が出てきたの〜」 「そんな事、あったっけ?」 「覚えてな〜い?3年生の時だったかな・・・ウチの庭で転んでさ〜」 「そうだっけ・・・」 「お母さんに服脱がされて、素っ裸なの!」 「嘘だ〜!」 「嘘じゃないよ!写真あるもん!」 そう言うと香織は、押し入れから古いアルバムを取り出し、俺の横に座った。 「ほら〜っ!これだよ〜」 確かに俺、素っ裸になってベソかいてる。 「ほらね。」 勝ち誇ったような香織の顔。 「こんな写真、いつまでも持ってんなよ」 「だって俊ちゃん、ベソかいて可愛いんだもん」 香織はそう言うと、その写真をまじまじと見た。 「香織ちゃんだって、面白い写真、隠してんじゃないの?」 「見たい?」 香織はそう言うと、尚も俺に近付き、肩を並べるようにして、アルバムのページをめくった。 「俊ちゃんって小さい頃、ホント小さかったのに、今は背が高くなったよね〜」 時々写ってる俺の写真を見ながら、香織はそう言った。 「今も・・・男にしては高くはないよ・・・」 「でもこの頃って、あたしより頭一個分小さいんだよ」 「だね・・・」 いつしか香織と俺の肩は、ぴったりとくっついていた。 でも俺は、あえて気付かない振りをした。 気にしてしまうと、恥ずかしさに耐えれそうになかったから。 香織は気付いてたんだろうか? 肩がくっついてる事に。俺のそんな思いに。 「こっから先は、見せてあげない」 そう言って香織は、アルバムを閉じた。 「乙女の秘密があるもんね〜」 「あっ!ズルイ!」 そう言って香織の方を見た時、すぐ側に香織の顔があって驚いた。 慌てて目を伏せた俺。 「ねぇ俊ちゃん・・・」 香織の呼び掛けに、再び顔を上げた俺。 目の前に香織の顔。 「あたしの事・・・キライかな?」 「キライな訳・・・ないじゃん・・・」 「ホントに?」 「あぁ・・・」 「じゃ何であの時、あんなに大声出して否定したかなぁ?」 「だって・・・俺なんかと・・・香織ちゃんが嫌かと・・・」 目を伏せて呟いた俺の唇に、温かくて柔らかい感触が急に。 「あたしの・・・ファーストキスだかんね」 目の前の香織が笑った。 勿論俺もそうだったけど。 「ケーキの・・・味がしたよ」 そう言って笑う香織。 「俊ちゃん・・・ケーキの味、分かった?」 「いや・・・」 「え〜っ!?マジで?」 「うん・・・」 「じゃ俊ちゃん・・・今度は俊ちゃんが・・・ねっ?」 目を閉じた香織の唇に、俺はそっと唇を重ねた。 確かに香織の言うように、イチゴのケーキの味がした。 でもイチゴのケーキよりも、今この瞬間、香織と唇を重ねあってる事のほうが、俺にとっては嬉しい事だった。 「2回もしちゃったね」 そう言って笑う香織。 「あぁ・・・」 「俊ちゃん、何であたしの顔見ないの?」 「だって・・・」 「何よ?」 「恥ずかしいのと・・・」 「何?」 「胸が・・・見えてる・・・」 前屈みになった香織の襟元から、しっかりと谷間が見えていた為、俺は香織の方を見れないでいた。 「えっちぃ〜」香織はそう言い、一瞬だけ体勢を変えたが、また前屈みに戻った。 「ホントは見たいくせに」 きっと香織、俺を見て笑ってる。 だから尚更、俺は香織を見れないでいた。 左手をふいに、香織に取られた。 香織は両手で俺の手を掴むと、それを自分の胸に持っていった。 初めて触れる、柔らかい感触。 「あたしも・・・恥ずかしいよ・・・」 その言葉に香織を見ると、香織も赤い顔をしていた。 「直接・・・触っていいかな?」 コクリと頷く香織。 だが襟元からは手が入らず、俺はパジャマのボタンに手をかけた。 「全部は・・・ダメ。恥ずかしいから・・・」 上2つだけボタンを外し、俺はそこから手を入れた。 もっともっと柔らかい感触。 香織は時々、「アッ・・・」とか「ウッ・・・」とか声を洩らした。 俺は香織に、3度目のキスをした。 香織は俺の頭を抱いてきた。 俺も胸から手を外すと、香織の腰を抱いた。 この日、一番長いキスだった。 「Bまでしちゃったね」 香織の部屋を出る俺の耳元で、香織がそう囁いた。 「あぁ」 俺は短く答えた。 玄関まで見送ってくれた香織が、「明日・・・一緒に行こうね」と言った。 「それから・・・」 「なに?」 「香織ちゃんよりも・・・香織がいいな」 香織はそう言うと、赤い顔をして舌を出した。 1学期が終わり、香織は高校を退学した。 陸上を辞めた為に特待生ではなくなり、学費も高く距離も離れた学校ではなく、近くて安い高校に通いなおす為だ。 始業式の日、俺の高校に転校生が入った。 勿論香織だ。 結構可愛い香織はたちまち、数名の男にアタックされたらしい。 でも香織は「彼氏います」と、全て断った。 その彼氏が俺だなんて。 この事実は程なく、我が校の「7不思議」に数えられる事になった。 キスしたり、(服の上から)胸を触ったりは、何度かあった俺達だが、なかなかその先には進まなかった。 既に双方の親公認の仲になり、双方の家には行っていたが、「節度は守れ」と父親から言われたせいか、先に進めないでいた。 勿論俺、したくない訳じゃない。 でもした事なかったし、そう言った雰囲気に持ち込む事も出来なかったし、そうする場所もなかったし。 2年生になり、付き合いだして1年が経過しても、俺は童貞だったし、香織もバージンのままだった。 だからと言って、慌てるような事もなかったし、その必要もなかった。 香織と付き合ってるだけで、俺は良かった。 1年生の女の子(陽子)から、俺は告白された。 俺、生徒会の役員だったし、成績も良かったから、見た目は良くなくても、ある程度は目立った存在ではあった。 だからだろうと思うが、でも俺は、それを断った。 勿論香織がいるから。 でもその子、断ったにも関わらず、かなり積極的だった。 「じゃ、ファンならいいですか?」 そう聞かれ、「いいよ」と答えたのが悪かったか・・・ 校内で俺に話しかけて来たり、遠くから大声で声をかけてきたり。 通学時にも同じ電車に乗っては、俺と香織の間に割って入り、俺と香織を苦笑いさせた。 香織は香織で、「可愛い子だね〜」と意に介す様子もなく。 「浮気しちゃダメだよ〜」とは言うが、きっとその言葉は、本気ではなかったと思う。 ある日、生徒会の会合で遅くなった俺。 ただでさえ遅くなったのに、定期を学校に忘れてる事に気付き、慌てて教室まで戻った。 そうしてやっと学校を出た所で、陽子に会った。 香織は遅くなるのが分かってるので、とっくに家に帰ってる。 だけど陽子はファンだからか?こうして時々いるんだよね・・・ ま、いつもの事と俺は諦め、駅に向って歩き出す。 その少し後ろを陽子が歩いていた。 その時だった。 「おう、高校生カップルか?」 「だめだね〜学生は勉強しないと!」 ガラの悪そうな4人組が、俺達を見てそう言ってた。 「こんな可愛い彼女を従わせて、キミ、亭主関白?」 そう言いながら近付いて来た。 そして次の瞬間、そのウチの一人が陽子のスカートをめくった。 「キャーッ」しゃがみ込む陽子。 しかし、しゃがみ込んだ陽子を囲み、尚も4人がスカートを持ち上げようとしている。 「やめて下さい」 気が弱い俺も流石に、4人に向って大声を上げた。 「なにぃ?」 数秒後にはボコられて、俺は地面に蹲っていた。 「あんたの出方次第で、こいつ許してやってもいいよ」 4人がそう、陽子に言ってる声を聞いた。 程なく俺は抱え上げられ、どこかに連れて行かれる。 通りからまるで見えない、資材置き場の裏に連れて行かれた。 地面に叩き付けられ、悶絶する俺。 「やめて下さい」 泣き叫ぶような陽子の声がした。 「分かった、分かった・・・お前の出方次第だったよね・・・」 その声の後に、腹部を蹴り上げられた俺。 「大人しくしないと・・・またやっちゃうよ」 我に返った時、辺りは既に暗かった。 しかしすぐ側で、下卑た男たちの声と、くぐもった声。 スカートを捲し上げられ、胸を露出した陽子がいた。 一人のモノを咥え、一人のモノを握らされてる。 一人に胸を弄られ、もう一人にはスカートの中を。 「何やってんだ!」 俺は叫んだが、散々やられた体が言う事を聞かず。 例え言う事を聞いたとしても、俺が勝てる相手ではなかったが・・・ 「おっ!彼氏が気付いたようだね・・・」 「もう少し待ってろ!すぐ済むから。」 一人に腹を蹴り上げられ、再度悶絶する俺。 だが、意識ははっきりしていた。 悲しい目をした陽子が時々、俺に目をやってるのが分かった。 そして男の腰の動きが早くなり・・・ 「1滴残らず飲むんだぞ」 陽子はコクンと喉を鳴らした。 「俺達だけ楽しんでも悪いからね〜」 一人が俺に近付き、また腹を蹴った。 そして俺のズボンに手をかけ。 「パンツは彼女に脱がさせてやろうぜ」 陽子が連れて来られ、俺の側に座らされる。 そして一人がまた、俺の腹を蹴る。 「脱がせ!」 力なく、俺のパンツを脱がす陽子。 「咥えろ」 逃れようとしたが、胸を踏まれて動けない俺。 「大きくなったか?」 陽子は一端口を離し、「はい」と答える。 「じゃ、跨がれ」 陽子の血の気が引くのが分かった。 「跨がれって言ってんだろ!」 4人は陽子の足を無理矢理開き、俺の上に乗せた。 そして・・・ ずぶずぶと言った挿入感と、陽子の悲鳴。 しかし陽子の悲鳴はすぐに、男たちの手でかき消された。 二人掛かりで陽子の体を上下させ、そして程なく・・・ 俺は陽子の膣内に、精液を吐き出してしまっていた。 男たちに開放された後、自分の服の乱れも直さぬまま、陽子は俺を気遣ってきた。 「俺がもっと強かったら・・・」 陽子に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 俺の顔の血をハンカチで拭う陽子。 「ごめん・・・」 俺はそう言うのが精一杯で。 でも陽子は、「いいんですよ」と、涙を流しながら笑った。 この事を俺は、香織に告げた。 話しを聞いた香織は、「陽子ちゃん・・・可哀想・・・」と絶句した。 程なく俺は、香織と別れた。 陽子と付き合う為に。 一番好きな女は、紛れもなく香織だった。 でも自分のせいで、俺は陽子を傷付けてしまった。 その事に対し、俺は責任を感じていた。 別れを告げると香織は、笑って「うんっ」と言った。 涙を流しながら。 「君を俺に守らせてほしい」 陽子にそう告げた時、陽子は涙を流して抱きついてきた。 俺の胸で泣きじゃくる陽子に、俺は「強くなるから」と誓った。 陽子は「うんうん」と頷いた。 毎朝、5kmのランニング。 そして夕方は、空手の道場に通う日々。 入門当初は、小学生にすら勝てなかった俺。 でも3ヶ月後には、中学生に勝てるようになっていた。 しかも半年後には、大人の有段者相手でも負けなかった。 毎日毎日、ひたむきに稽古をした俺。 そんな俺に師範が、「よく頑張るね」と言った。 俺は俺の稽古に、毎日ついて来る陽子を見て、「彼女の為ですから」と師範に言った。 「そっか」 師範はそう言うと、優しい顔をした。 久しぶりに、香織に会った。 学校で時々、顔を合わす事はあったが、お互いに目を背けていた。 朝のランニングが済み、家に戻ろうとすると香織がいた。 「頑張ってるみたいね」 香織の笑顔を見たのは、別れた日以来だった。 「あぁ」 「顔つきが最近、たくましくなってきたよ」 「ありがと」 「陽子ちゃんと仲良くやってんの?」 「あぁ」 「そっか・・・じゃ、頑張ってね」 たったそれだけの会話だった。 たったそれだけの会話だったけど、俺はやっぱ、香織が好きだと気が付いた。 陽子とは時々、キスならばした。 でも胸を触ったりとか、それからやりたいとは思わなかった。 きっかけがきっかけだけに、傷つけたくないと思ってた。 ちゃんと責任を取れるようになって、それからだとも思ってた。 それから・・・ あの4人組の身元が分かった。 学校周辺では有名らしく、リーダー格は「梅田」と言うらしい。 仕事もせず、パチンコ店なんかに毎日出入りしてるらしい。 腕に自信がついた俺は、復讐しようと思った事がある。 でも陽子に止められ、思い直した。 「復讐なんか、絶対に考えないで」 そう懇願されると、何も出来なかった。 空手に熱中しすぎて勉強が疎かになり、2年時にT大確実と言われてた俺だが、3年時は特進からも外れてしまった。 それでも3年の2学期以降、なんとか持ち直し、同じ六大学のR大に合格した。 陽子も特進で、T大も固いと思われるが、来年はあえてT大を避け、R大を受験すると言う。 ま、1年の差はあるが、俺の後を追うって感じかな。 香織は・・・ 噂で聞いた程度だが、私立はR大に合格したらしいが、地元国立にも受かっており、そっちに行くと思う。 それから、梅田の事を新聞で見た。 梅田は喧嘩して刺されて、あっけなく。 他の3人については知る由もないが、ま、どうでもいい。 卒業式の日、「お祝いしたい」と言う陽子に呼ばれ、俺は陽子の家に向った。 テーブルには、陽子お手製のオムライスとサラダが。 陽子以外には、家族は誰もおらず・・・ 「もしかしたら?」 そう言う思いも、あるにはあった。 食事が済み、陽子の部屋でしばし雑談。 雰囲気が良くなって、キスするまではいつも通り。 でも相変わらず、それより先には進もうと思わない俺。 「抱いてほしいよ」 煮え切らない俺に陽子が、いよいよ業を煮やしたか・・・ 「ちゃんと責任取れるようになってから・・・ねっ?」 そんな言葉すら、陽子を傷付けていた。 「好きだから・・・抱いてほしいんです!」 俺に覆い被さり、唇に吸い付く陽子。 やがて俺のベルトに手を伸ばし・・・ 「陽子ちゃん、そんな事しないで・・・」 思わず俺は、そう言ってしまった。 「どうしてですか?」 目に涙をいっぱい溜め、陽子は俺に尋ねた。 「だから・・・ちゃんと責任取れるようにな」 「ウソっ!」 「俊也さん、あの事・・・あの日の事を気にしてます!」 「えっ?」 「あたしの事、不潔だとか・・・汚いとか思ってるでしょ?」 「あの日の事、絶対に引きずってます!」 「そんな事ないよ」 「じゃ、どうして・・・」 陽子は声を上げて泣き出した。 「あの日、あの男達は・・・あたしの体に触る前から・・・」 「でも俊也さん、全然反応しない」 「キスしてもそう。さっきあたしが上に乗ったのに・・・」 「男の人って、『したいもんだ』って聞きました。」 「でも俊也さん、あたしを全然求めない。」 「『責任取れるまで』って言うなら、避妊してもいいじゃないですか?」 「なのに俊也さん・・・触れようとしない・・・」 「帰って!」 そう言われ、家から追い出された俺。 暫く玄関先に留まったが、中に入れてくれる様子もない。 俺は仕方なく、重い足取りで家路についた。 陽子の言葉は遠からず、的を得ていた。 「不潔」とか「汚い」とかは思ってない。 思ってはいないが、「あの日」の事を意識しない訳じゃない。 今付き合ってる事も、俺なりの「あの日」の償いだったから。 でももしかしたら俺・・・ 陽子に言われて気付いた事があって、「陽子にかなり失礼な事をしたんじゃないか?」って事。 好きでもないのに、ただ償いの為に付き合いだした事は、優しさではなく、また償いでもなく・・・ 一人の家には帰る気がしなかった。 俺は家の側の公園に行き、ベンチに腰掛け俯いていた。 陽子に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 また、自分が歯痒くて仕方がなかった。 と、その時、コーラの赤い缶が、目の前に差し出された。 見上げた俺に、「どうした?彼女と喧嘩でもした?」 香織だった。 俺は立ち上がり、香織を抱きしめた。 「ちょっと、ちょっとー」 香織はそう言ったが、俺は尚もきつく抱きしめた。 そして声を上げ、大声で泣いた。 そう・・・あの日の香織のように・・・ 「落ち着いた?」 香織の声に、自分を取り戻した。 「ごめん・・・」 俺は香織に謝った。 「謝るより・・・感謝されたいな、あたしとしてはね」 「あぁ・・・ごめん・・・」 「座ろっか?」 クスリと笑った後、香織はベンチを指してそう言った。 俺は黙って頷き、腰を下ろした。 「喧嘩した?」 「いや・・・そうじゃなくて・・・」 「自分自身が情けなくて・・・そしたらなんだか泣けてきて・・・」 「そしたら香織が目の前にいて、なんだか甘えたくなった。」 「ごめん・・・」 「そっか・・・」 香織はそう言うと、コーラの蓋を取って俺に差し出した。 俺は受け取るには受け取ったが、飲む事が出来なかった。 「3年も前だね〜あたしがここで泣いたの。誰かさんに抱きついてさ。」 「先輩にいじめられた位で、好きな陸上を辞めた自分が、なんだか情けなくてね〜」 「そしたら目の前に、突然コーラが出て来たじゃない?」 「『今、この人に甘えたい』って思った訳よ」 「そしたらさ〜その相手が、幼馴染の俊ちゃんでしょ!もうびっくりでさ。」 「気付いたら、抱きついて泣いてた訳よ」 そう言うと香織は、俺の手からコーラを取り、一口飲んで返した。 「あの日のコーラ、美味しかったよ。缶に砂ついて、ぬるくなってたけどね。」 「あのコーラのお陰で、あたし元気になれたんだ。」 「だから俊ちゃんもコーラ飲んで、元気出しなって!」 そう言って香織は、俺の肩を思いっきり叩いた。 「俊ちゃん・・・」 暫く黙ってた香織だが、口を開いた。 「キス・・・しよっか?」 俺は驚いて、香織の顔を見た。 その途端香織は顔を近づけ、唇を重ねてきた。 「あ〜っ!ちゅーしてるぞ〜!」 遠くで子供の声が聞こえるまで、香織は唇を離そうとはしなかった。 「じゃ、あたし行くね」 唇を離すと、立ち上がった香織。 「オマタ、興奮してるみたいだから、彼女に頼んで沈めてもらいなさい!」 そう言うと香織は、ゆっくりと公園の出口へと歩く。 その背中に俺は、「香織、好きだよ」と叫んだ。 「人をふっといて、今更だぞ〜」 香織は俺の方を見ずに、手だけを振った。 3日後、陽子から手紙が届いた。 俊也さん、あなたがあの日の事の償いの為に、私と付き合い出したって事は知ってました。 あんな事があって辛かったけど、でも結果として、俊也さんと付き合えて良かったと、私は思ってました。 でも俊也さんは、ずっとあの日の償いのままで。 責任とか償いとか、それだけなら愛じゃないです。 愛されてないのに、ずっと一緒にいるのは辛いです。 出来る事なら俊也さんの愛で、あの日の事を忘れさせてほしかった。 でも、もう・・・ 俊也さんは十分、償いを果たしてくれました。 これからは自分の為に、俊也さんが愛せる人をみつけて下さい。 ありがとう。楽しかった。これからもっともっと、楽しみたかったけど・・・ さようなら。 陽子 大学に入学した俺。 入学して1ヶ月が経つが、引っ込み思案な性格が災いし、友達はまだいなかった。 一人で登校し、一人で授業を受け、一人で昼食を摂り、一人で帰る生活。 慣れない一人暮らしで、正直寂しかった。 でも、自分からなかなか解けこめない俺。 情けない・・・ 「隣り、空いてますか?」 学食で昼食を摂る俺に、声をかけて来た女。 見上げると・・・ 「彼女、出来た?」 「いや・・・」 「優しいから、もてるでしょ?」 「いや・・・」 「うそ〜っ!絶対もてるって!」 「そんな事ねぇよ!」 「ごめん・・・怒った?」 「いや・・・」 「怒ってるでしょ?」 「いや・・・」 「あたし・・・迷惑かな?」 「いや・・・」 「静かにしてた方がいいなら・・・黙ってようか?」 「うるさくてもいいから・・・俺の彼女になってほしい。好きだよ。ずっと好きだった。香織・・・」 「あたしだって・・・ずっと俊ちゃんの事・・・好きだったんだよ」 「そうなの?」 「そうだよ。子供の時から好きだったんだからね。」 「えっ?」 「あたしのアルバムね〜・・・俊ちゃんがいっぱい写ってんの!」 「それはそれは・・・奇特な方で・・・」 「『蓼喰う虫も好き好き』って事!」 ヴァージンロードをゆっくりと進む香織。 そしてそれを待つ俺。 「大学だけは、きちんと卒業します。」 香織の家に挨拶に行った19歳の正月に、香織の父親とした約束。 俺たちはきちんと4年で卒業し、香織はOLになり、俺は都内の商社に勤め、2年後にこの日を迎えた。 香織を待つ間、俺は昔の事を思い出してた。 出典:orz リンク:orz |
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