香織 (その他) 108071回

2007/12/11 22:15┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
学校帰りに、何気に公園を見ると、幼馴染の香織がいた。
片隅のベンチに腰掛け、俯いていた。
香織とは、幼稚園から中学まで一緒。
幼稚園時はほぼ毎日、小学生になっても時々だが、遊んだりする仲だった。
中学になると香織は陸上部に入り、また可愛い顔の香織はアイドル的存在となり、俺と接する事がなくなった。
俺、まぁ不細工な方だから・・・
高校生になると、学校が別々だった事もあって、顔すら合わす事がなくなった。
家、2軒挟んだ隣なのにね。
正直思うのは、生きる世界が違うのだろう。
俺も香織の存在を忘れてたし、きっと香織も、俺なんかの事は忘れてたろう。
公園で見かけるまではね。

泣いてるように見えた。
いや・・・間違いなく泣いてたろう。
声をかけようかと思ったが、ほぼ3年近いブランクがある。
相談しあう仲でもないし、笑いあう仲でもない。
俺は歩を進め、通り過ぎようとしたが・・・
でも、やはり気になってしまった。
俺は自販機でコーラを買い、香織の側に足を進め、黙ってそれを差し出した。

「俊ちゃん・・・」
声は出さなかったが、香織の口がそう動いた。
3年もまともに喋ってないのに、俺、通り過ぎようとしてたのに、あの頃と同じような呼び方をされて、何だか嬉しかった。
でも、手放しに再会を喜べる雰囲気ではなかった。
香織の目が案の定、真っ赤だったから。

暫く黙ったまま、目だけを合わせていた。
「ほらっ」
俺はやっと口を開き、香織に尚もコーラを差し出した。
ところが香織はそれを受け取らず、突然立ち上がると、いきなり俺に抱きついてきた。
可愛い子に抱きつかれ、悪い気なんてしない。
でも俺にしてみたら、女の子に抱きつかれるなんて、生まれて初めての事だった。
香織は俺に抱きつくと、声を上げて泣き出した。
周囲の視線が突き刺さるが、俺、どうしていいか分からなくて。
どうしていいか分からず、ただ立ち尽くした俺の足元に、コーラの缶が転がった。
香織は尚も泣き続けていた。

「ごめん・・・それから・・・ありがと・・・」
泣き止んだ香織は俯いたまま、俺を見る事無くそう言った。
「折角だから・・・これ・・・貰っとくね」
俺の足元のコーラを拾うと、俺に背を向け、
「少し・・・スッキリしたよ」
そう言うと、一人で公園を後にした。
俺は黙って、香織の後姿を見送った。

翌朝、学校に行こうと玄関を開けると、門の所に人影が見えた。
向こうも俺に気付いて、手を振った。
「俊ちゃ〜ん!」
香織だった。
「駅まで、一緒に行かない?」
「別に・・・いいけど・・・」
俺はツレなく答えたが、内心はドキドキだった。
俺がそんなんだから、当然会話なんて弾まない。
俺自身は、「あぁ」とか、「いや・・・」とか返すだけで、色々と話しかけてくるのは香織。
でも俺、何を聞かれたとか、まるで覚えてなくて・・・
ただ、あっと言う間に駅に着いた気がする。
「じゃ〜ね!」
笑って手を振り、反対側のホームに行く香織の事を、昨日と同じように見送った。

学校が終わり、いつものように電車に乗った俺。
いつもの駅で降り、改札を抜けると、そこに香織がいた。
俺を認めた香織は、手を振って微笑むと、俺に近付いて来た。
「一緒に帰ろう!」
そう言うと香織は、ポケットに突っ込んだ俺の右手に、自分の腕を絡めて来た。
俺はまたドキドキしながら、朝来た道を歩いた。
朝のように、「あぁ」とか「いや・・・」しか口にしてない。

「俊ちゃんって共学だったよね?」
「あぁ」
「俊ちゃんは優しいから、もてるでしょ?」
「いや・・・」
「うそ〜っ!絶対もてるって!」
「そんな事ねぇよ!」
俺は初めて、「あぁ」「いや・・・」以外を口にした。
「ごめん・・・怒った?」
「いや・・・」
「怒ってるでしょ?」
「いや・・・」
「あたし・・・迷惑かな?」
「いや・・・」
「静かにしてた方がいいなら・・・黙ってようか?」
「いや・・・俺こそ・・・大きな声出してゴメン。」
謝ったけど、何か重苦しい空気が流れてしまった。

「上田さん(香織)、陸上は?」
初めて俺から、香織に話し掛けた。
しばらく香織は黙ってたが、「やめちゃった」と言うと、なんだか寂しそうに笑った。
俺はそれ以上は、聞いてはいけない気がして、「そう・・・」とだけ返した。
香織は中学時代、100mで県大会3位の実力者だった。
高校は勿論特待生。
そう言えば・・・高校は寮だって聞いた記憶が・・・
やめたから、今は家から通ってるんだ。
「かなり・・・いじめられちゃってね・・・」
香織はそう付け加えると、昨日の様に下を向いた。
また、重苦しい空気が流れた。

俺の家の前で香織は、絡めた腕を解いた。
そして俺に微笑みかけながら、「明日も、一緒に行っていい?」と聞いてきた。
俺は「あぁ」と答えた。
「あのさー・・・」
俺が香織に目をやると、「『上田さん』は寂しかったぞ!」と言った。
「昔はさ〜・・・『香織ちゃん』って呼んでくれてたよね?」
「あぁ」
「『香織ちゃん』って呼んでよ」
「あぁ」
「『香織』でもいいぞ!」
「いや・・・」
笑う香織。
「それからさ〜」
「本当にもてないの〜?」
「あぁ」
「ふ〜ん・・・」
その後に、香織が何か言った気がした。
でも、聞き返さなかった俺。
「じゃ、明日ね〜」
香織はそう言って手を振ると、自分の家に入って行った。

翌朝も、香織は門の側に立っていた。
そして夕方には、駅の改札口にいた。
その翌日も、そしてその次の日も。
俺らは毎朝一緒に駅に行き、夕方には並んで帰った。
ある時、中学時代の同級生と鉢合わせた。
「えっ?」と一瞬驚いたそいつ。
「お前ら・・・付き合ってんの?」
その問い掛けに、「へへっ」と笑った香織。
そして俺は、「そんな訳ないだろ!」と強く否定。
「だよな!」
同級生は安心したような顔をした。
その日は途中まで、3人で並んで帰った。
香織はずっと、そいつと喋ってる。
俺は一言も口を利かなかった。
同級生と別れ、また二人きりになる。
いつもはずっと喋ってる香織が、珍しく一言も喋らない。
気になりながらも俺は、訳を聞く事が出来なかった。
そして香織との別れ際、「あんなに強く否定しなくてもさ・・・」
そう言うと香織は手も振らず、家に入って行った。

翌朝、門の前に香織は来なかった。
夕方も、駅の改札口にはいなかった。
気になった俺は、香織の家に行ってみようかと思った。
でもいざとなると、呼び鈴を押す勇気がなかった。
小学生の頃は躊躇なく、押すことが出来たのに。
下からただ、灯りのついた香織の部屋を見上げるだけだった。

翌朝俺は早起きをして、いつもよりも随分早くに家を出た。
家を出て行く先は、3軒隣の香織の家。
でも30分たっても40分たっても、香織は出て来なかった。
諦めて、学校に行こうかと思った時、香織の家の玄関が開いた。
出て来たのは、香織の母親。
「あら〜俊ちゃん・・・久しぶりねぇ」
俺は挨拶をすると、「香織ちゃんは?」とおばさんに聞いた。
「香織ねぇ・・・昨日から具合が悪いんだって・・・」
そう言うと2階の、香織の部屋の窓に目をやった。
「困った子よね〜・・・」
そう言うと俺の方を見た。
「そうですか・・・」
俺はそう言って頭を下げると、駅に向って歩いた。
香織がいない道は、とても寂しかった。

その日の夕方、俺は香織の家の前にいた。
ケーキ屋で買った、ショートケーキが入った包みを持って。
相変わらず、呼び鈴を押すのは躊躇した。
躊躇はしたが、でも思い切って呼び鈴を押す。
出て来たのは、おばさんだった。
「香織ちゃん・・・いますか?」
おばさんに尋ねると、「いるけど・・・お部屋から出て来ないのよね・・・」と、困った顔をした。
「そうですか・・・そしたらこれ、香織ちゃんに。僕が来たって、伝えて下さい。」
そう言って頭を下げ、立ち去ろうとした俺を、おばさんが呼び止めた。
「俊ちゃんの顔を見たら・・・元気になるかもね・・・」

俺はおばさんに続いて、狭い階段を上った。
5年生の時に上って以来。
でも、懐かしさに浸る余裕なんてなかった。
おばさんがノックしても、中からは何も反応がない。
「俊ちゃんが来てるわよ。開けるわよ!」
そう言っておばさんがドアを開けたのと同時に、「えっ?」と驚いた声が聞こえた。
完全にドアが開き、布団から顔だけだした香織と目が合う。
「ちょっと待ってよ〜!」
香織はそう言って布団にもぐるが、おばさんはお構いなし。
「さぁ、入って、入って。」
そう言って俺の背中を押すと、「ごゆっくり〜」と言ってドアを閉めた。

ただ立ち尽くす俺。
香織も布団を被ったまま、顔を出そうとしない。
そしてドアをノックする音。
おばさんがジュースとグラスをトレーに乗せて、部屋に入ってきた。
「あら俊ちゃん、立たされてるの?」と笑ってる。
「はい・・・そんなとこです・・・」
「香織に遠慮しないで、座っていいのよ。」
そう言うとおばさんは、クッションに目をやった。
「はい・・・」
俺は返事をすると、クッションの側に腰を下ろした。
「香織ちゃん!いい加減にしなさいよ!」
おばさんは布団の中の香織に、厳しい口調で言った。
「俊ちゃん、香織が出てこなかったらそのケーキ、おばさんに頂戴ね。」
そう言うとおばさんは、部屋から出て行った。

「ケーキとか・・・買って来てくれたの?」
おばさんが出て行くと布団の中から、香織が聞いてきた。
「あぁ」俺はそれだけ返した。
「ケーキ、食べたいけど・・・恥ずかしいよ〜」
布団から顔だけ出して、香織がそう言った。
「じゃ俺・・・帰るから。ケーキ食べて元気出して。」
俺が立ち上がろうとすると香織は、「待って!」と言って布団から出て来た。
でも次の瞬間、「キャッ」と言うと、ピンクのパジャマの胸元を隠し、前かがみにになった。
「帰るよ」
俺は立ち上がり、ドアノブに手をかけた所で、香織に腕を掴まれた。
「待って!一緒に・・・ケーキ食べよ・・・」

「ノーブラだから・・・あまり見ないでね。」
俺の正面に座った香織は、襟元を左手で抑えながら、俺にそう言った。
「上に・・・何か着たら」
そう言われて照れた俺は、そう言うのがやっとだった。
「そだね・・・」
香織は立ち上がると、薄いピンクのカーデガンを出し、それを上にまとった。
でもそれで無防備になった香織。
ケーキが入った箱を覗き込んだり、食べようと前屈みになった時に、チラリと胸元が覗く。
その都度俺は、目のやり場に困って、香織から視線を逸らした。
人の気も知らずに香織は、「おいしい」と嬉しそうな顔をした。

「昨日ね〜子供の頃の写真を見てたんだ〜」
ケーキを食べ終えると、香織はそう話した。
「ふ〜ん・・・」
「そしたらね〜俊ちゃんが水溜りで転んで、ベソかいてる写真が出てきたの〜」
「そんな事、あったっけ?」
「覚えてな〜い?3年生の時だったかな・・・ウチの庭で転んでさ〜」
「そうだっけ・・・」
「お母さんに服脱がされて、素っ裸なの!」
「嘘だ〜!」
「嘘じゃないよ!写真あるもん!」
そう言うと香織は、押し入れから古いアルバムを取り出し、俺の横に座った。
「ほら〜っ!これだよ〜」
確かに俺、素っ裸になってベソかいてる。
「ほらね。」
勝ち誇ったような香織の顔。
「こんな写真、いつまでも持ってんなよ」
「だって俊ちゃん、ベソかいて可愛いんだもん」
香織はそう言うと、その写真をまじまじと見た。

「香織ちゃんだって、面白い写真、隠してんじゃないの?」
「見たい?」
香織はそう言うと、尚も俺に近付き、肩を並べるようにして、アルバムのページをめくった。
「俊ちゃんって小さい頃、ホント小さかったのに、今は背が高くなったよね〜」
時々写ってる俺の写真を見ながら、香織はそう言った。
「今も・・・男にしては高くはないよ・・・」
「でもこの頃って、あたしより頭一個分小さいんだよ」
「だね・・・」
いつしか香織と俺の肩は、ぴったりとくっついていた。
でも俺は、あえて気付かない振りをした。
気にしてしまうと、恥ずかしさに耐えれそうになかったから。
香織は気付いてたんだろうか?
肩がくっついてる事に。俺のそんな思いに。

「こっから先は、見せてあげない」
そう言って香織は、アルバムを閉じた。
「乙女の秘密があるもんね〜」
「あっ!ズルイ!」
そう言って香織の方を見た時、すぐ側に香織の顔があって驚いた。
慌てて目を伏せた俺。
「ねぇ俊ちゃん・・・」
香織の呼び掛けに、再び顔を上げた俺。
目の前に香織の顔。
「あたしの事・・・キライかな?」
「キライな訳・・・ないじゃん・・・」
「ホントに?」
「あぁ・・・」
「じゃ何であの時、あんなに大声出して否定したかなぁ?」
「だって・・・俺なんかと・・・香織ちゃんが嫌かと・・・」
目を伏せて呟いた俺の唇に、温かくて柔らかい感触が急に。

「あたしの・・・ファーストキスだかんね」
目の前の香織が笑った。
勿論俺もそうだったけど。
「ケーキの・・・味がしたよ」
そう言って笑う香織。
「俊ちゃん・・・ケーキの味、分かった?」
「いや・・・」
「え〜っ!?マジで?」
「うん・・・」
「じゃ俊ちゃん・・・今度は俊ちゃんが・・・ねっ?」
目を閉じた香織の唇に、俺はそっと唇を重ねた。
確かに香織の言うように、イチゴのケーキの味がした。
でもイチゴのケーキよりも、今この瞬間、香織と唇を重ねあってる事のほうが、俺にとっては嬉しい事だった。

「2回もしちゃったね」
そう言って笑う香織。
「あぁ・・・」
「俊ちゃん、何であたしの顔見ないの?」
「だって・・・」
「何よ?」
「恥ずかしいのと・・・」
「何?」
「胸が・・・見えてる・・・」
前屈みになった香織の襟元から、しっかりと谷間が見えていた為、俺は香織の方を見れないでいた。
「えっちぃ〜」香織はそう言い、一瞬だけ体勢を変えたが、また前屈みに戻った。
「ホントは見たいくせに」
きっと香織、俺を見て笑ってる。
だから尚更、俺は香織を見れないでいた。

左手をふいに、香織に取られた。
香織は両手で俺の手を掴むと、それを自分の胸に持っていった。
初めて触れる、柔らかい感触。
「あたしも・・・恥ずかしいよ・・・」
その言葉に香織を見ると、香織も赤い顔をしていた。
「直接・・・触っていいかな?」
コクリと頷く香織。
だが襟元からは手が入らず、俺はパジャマのボタンに手をかけた。
「全部は・・・ダメ。恥ずかしいから・・・」
上2つだけボタンを外し、俺はそこから手を入れた。
もっともっと柔らかい感触。
香織は時々、「アッ・・・」とか「ウッ・・・」とか声を洩らした。
俺は香織に、3度目のキスをした。
香織は俺の頭を抱いてきた。
俺も胸から手を外すと、香織の腰を抱いた。
この日、一番長いキスだった。

「Bまでしちゃったね」
香織の部屋を出る俺の耳元で、香織がそう囁いた。
「あぁ」
俺は短く答えた。
玄関まで見送ってくれた香織が、「明日・・・一緒に行こうね」と言った。
「それから・・・」
「なに?」
「香織ちゃんよりも・・・香織がいいな」
香織はそう言うと、赤い顔をして舌を出した。

1学期が終わり、香織は高校を退学した。
陸上を辞めた為に特待生ではなくなり、学費も高く距離も離れた学校ではなく、近くて安い高校に通いなおす為だ。
始業式の日、俺の高校に転校生が入った。
勿論香織だ。
結構可愛い香織はたちまち、数名の男にアタックされたらしい。
でも香織は「彼氏います」と、全て断った。
その彼氏が俺だなんて。
この事実は程なく、我が校の「7不思議」に数えられる事になった。



キスしたり、(服の上から)胸を触ったりは、何度かあった俺達だが、なかなかその先には進まなかった。
既に双方の親公認の仲になり、双方の家には行っていたが、「節度は守れ」と父親から言われたせいか、先に進めないでいた。
勿論俺、したくない訳じゃない。
でもした事なかったし、そう言った雰囲気に持ち込む事も出来なかったし、そうする場所もなかったし。
2年生になり、付き合いだして1年が経過しても、俺は童貞だったし、香織もバージンのままだった。
だからと言って、慌てるような事もなかったし、その必要もなかった。
香織と付き合ってるだけで、俺は良かった。

1年生の女の子(陽子)から、俺は告白された。
俺、生徒会の役員だったし、成績も良かったから、見た目は良くなくても、ある程度は目立った存在ではあった。
だからだろうと思うが、でも俺は、それを断った。
勿論香織がいるから。
でもその子、断ったにも関わらず、かなり積極的だった。
「じゃ、ファンならいいですか?」
そう聞かれ、「いいよ」と答えたのが悪かったか・・・
校内で俺に話しかけて来たり、遠くから大声で声をかけてきたり。
通学時にも同じ電車に乗っては、俺と香織の間に割って入り、俺と香織を苦笑いさせた。
香織は香織で、「可愛い子だね〜」と意に介す様子もなく。
「浮気しちゃダメだよ〜」とは言うが、きっとその言葉は、本気ではなかったと思う。

ある日、生徒会の会合で遅くなった俺。
ただでさえ遅くなったのに、定期を学校に忘れてる事に気付き、慌てて教室まで戻った。
そうしてやっと学校を出た所で、陽子に会った。
香織は遅くなるのが分かってるので、とっくに家に帰ってる。
だけど陽子はファンだからか?こうして時々いるんだよね・・・
ま、いつもの事と俺は諦め、駅に向って歩き出す。
その少し後ろを陽子が歩いていた。
その時だった。

「おう、高校生カップルか?」
「だめだね〜学生は勉強しないと!」
ガラの悪そうな4人組が、俺達を見てそう言ってた。
「こんな可愛い彼女を従わせて、キミ、亭主関白?」
そう言いながら近付いて来た。
そして次の瞬間、そのウチの一人が陽子のスカートをめくった。
「キャーッ」しゃがみ込む陽子。
しかし、しゃがみ込んだ陽子を囲み、尚も4人がスカートを持ち上げようとしている。
「やめて下さい」
気が弱い俺も流石に、4人に向って大声を上げた。
「なにぃ?」
数秒後にはボコられて、俺は地面に蹲っていた。

「あんたの出方次第で、こいつ許してやってもいいよ」
4人がそう、陽子に言ってる声を聞いた。
程なく俺は抱え上げられ、どこかに連れて行かれる。
通りからまるで見えない、資材置き場の裏に連れて行かれた。
地面に叩き付けられ、悶絶する俺。
「やめて下さい」
泣き叫ぶような陽子の声がした。
「分かった、分かった・・・お前の出方次第だったよね・・・」
その声の後に、腹部を蹴り上げられた俺。
「大人しくしないと・・・またやっちゃうよ」

我に返った時、辺りは既に暗かった。
しかしすぐ側で、下卑た男たちの声と、くぐもった声。
スカートを捲し上げられ、胸を露出した陽子がいた。
一人のモノを咥え、一人のモノを握らされてる。
一人に胸を弄られ、もう一人にはスカートの中を。
「何やってんだ!」
俺は叫んだが、散々やられた体が言う事を聞かず。
例え言う事を聞いたとしても、俺が勝てる相手ではなかったが・・・

「おっ!彼氏が気付いたようだね・・・」
「もう少し待ってろ!すぐ済むから。」
一人に腹を蹴り上げられ、再度悶絶する俺。
だが、意識ははっきりしていた。
悲しい目をした陽子が時々、俺に目をやってるのが分かった。
そして男の腰の動きが早くなり・・・
「1滴残らず飲むんだぞ」
陽子はコクンと喉を鳴らした。

「俺達だけ楽しんでも悪いからね〜」
一人が俺に近付き、また腹を蹴った。
そして俺のズボンに手をかけ。
「パンツは彼女に脱がさせてやろうぜ」
陽子が連れて来られ、俺の側に座らされる。
そして一人がまた、俺の腹を蹴る。
「脱がせ!」
力なく、俺のパンツを脱がす陽子。
「咥えろ」
逃れようとしたが、胸を踏まれて動けない俺。
「大きくなったか?」
陽子は一端口を離し、「はい」と答える。
「じゃ、跨がれ」
陽子の血の気が引くのが分かった。
「跨がれって言ってんだろ!」
4人は陽子の足を無理矢理開き、俺の上に乗せた。
そして・・・
ずぶずぶと言った挿入感と、陽子の悲鳴。
しかし陽子の悲鳴はすぐに、男たちの手でかき消された。
二人掛かりで陽子の体を上下させ、そして程なく・・・
俺は陽子の膣内に、精液を吐き出してしまっていた。

男たちに開放された後、自分の服の乱れも直さぬまま、陽子は俺を気遣ってきた。
「俺がもっと強かったら・・・」
陽子に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
俺の顔の血をハンカチで拭う陽子。
「ごめん・・・」
俺はそう言うのが精一杯で。
でも陽子は、「いいんですよ」と、涙を流しながら笑った。

この事を俺は、香織に告げた。
話しを聞いた香織は、「陽子ちゃん・・・可哀想・・・」と絶句した。
程なく俺は、香織と別れた。
陽子と付き合う為に。
一番好きな女は、紛れもなく香織だった。
でも自分のせいで、俺は陽子を傷付けてしまった。
その事に対し、俺は責任を感じていた。
別れを告げると香織は、笑って「うんっ」と言った。
涙を流しながら。

「君を俺に守らせてほしい」
陽子にそう告げた時、陽子は涙を流して抱きついてきた。
俺の胸で泣きじゃくる陽子に、俺は「強くなるから」と誓った。
陽子は「うんうん」と頷いた。

毎朝、5kmのランニング。
そして夕方は、空手の道場に通う日々。
入門当初は、小学生にすら勝てなかった俺。
でも3ヶ月後には、中学生に勝てるようになっていた。
しかも半年後には、大人の有段者相手でも負けなかった。
毎日毎日、ひたむきに稽古をした俺。
そんな俺に師範が、「よく頑張るね」と言った。
俺は俺の稽古に、毎日ついて来る陽子を見て、「彼女の為ですから」と師範に言った。
「そっか」
師範はそう言うと、優しい顔をした。

久しぶりに、香織に会った。
学校で時々、顔を合わす事はあったが、お互いに目を背けていた。
朝のランニングが済み、家に戻ろうとすると香織がいた。
「頑張ってるみたいね」
香織の笑顔を見たのは、別れた日以来だった。
「あぁ」
「顔つきが最近、たくましくなってきたよ」
「ありがと」
「陽子ちゃんと仲良くやってんの?」
「あぁ」
「そっか・・・じゃ、頑張ってね」
たったそれだけの会話だった。
たったそれだけの会話だったけど、俺はやっぱ、香織が好きだと気が付いた。

陽子とは時々、キスならばした。
でも胸を触ったりとか、それからやりたいとは思わなかった。
きっかけがきっかけだけに、傷つけたくないと思ってた。
ちゃんと責任を取れるようになって、それからだとも思ってた。

それから・・・
あの4人組の身元が分かった。
学校周辺では有名らしく、リーダー格は「梅田」と言うらしい。
仕事もせず、パチンコ店なんかに毎日出入りしてるらしい。
腕に自信がついた俺は、復讐しようと思った事がある。
でも陽子に止められ、思い直した。
「復讐なんか、絶対に考えないで」
そう懇願されると、何も出来なかった。

空手に熱中しすぎて勉強が疎かになり、2年時にT大確実と言われてた俺だが、3年時は特進からも外れてしまった。
それでも3年の2学期以降、なんとか持ち直し、同じ六大学のR大に合格した。
陽子も特進で、T大も固いと思われるが、来年はあえてT大を避け、R大を受験すると言う。
ま、1年の差はあるが、俺の後を追うって感じかな。
香織は・・・
噂で聞いた程度だが、私立はR大に合格したらしいが、地元国立にも受かっており、そっちに行くと思う。
それから、梅田の事を新聞で見た。
梅田は喧嘩して刺されて、あっけなく。
他の3人については知る由もないが、ま、どうでもいい。

卒業式の日、「お祝いしたい」と言う陽子に呼ばれ、俺は陽子の家に向った。
テーブルには、陽子お手製のオムライスとサラダが。
陽子以外には、家族は誰もおらず・・・
「もしかしたら?」
そう言う思いも、あるにはあった。

食事が済み、陽子の部屋でしばし雑談。
雰囲気が良くなって、キスするまではいつも通り。
でも相変わらず、それより先には進もうと思わない俺。
「抱いてほしいよ」
煮え切らない俺に陽子が、いよいよ業を煮やしたか・・・
「ちゃんと責任取れるようになってから・・・ねっ?」
そんな言葉すら、陽子を傷付けていた。
「好きだから・・・抱いてほしいんです!」
俺に覆い被さり、唇に吸い付く陽子。
やがて俺のベルトに手を伸ばし・・・
「陽子ちゃん、そんな事しないで・・・」
思わず俺は、そう言ってしまった。

「どうしてですか?」
目に涙をいっぱい溜め、陽子は俺に尋ねた。
「だから・・・ちゃんと責任取れるようにな」
「ウソっ!」
「俊也さん、あの事・・・あの日の事を気にしてます!」
「えっ?」
「あたしの事、不潔だとか・・・汚いとか思ってるでしょ?」
「あの日の事、絶対に引きずってます!」
「そんな事ないよ」
「じゃ、どうして・・・」
陽子は声を上げて泣き出した。
「あの日、あの男達は・・・あたしの体に触る前から・・・」
「でも俊也さん、全然反応しない」
「キスしてもそう。さっきあたしが上に乗ったのに・・・」
「男の人って、『したいもんだ』って聞きました。」
「でも俊也さん、あたしを全然求めない。」
「『責任取れるまで』って言うなら、避妊してもいいじゃないですか?」
「なのに俊也さん・・・触れようとしない・・・」

「帰って!」
そう言われ、家から追い出された俺。
暫く玄関先に留まったが、中に入れてくれる様子もない。
俺は仕方なく、重い足取りで家路についた。
陽子の言葉は遠からず、的を得ていた。
「不潔」とか「汚い」とかは思ってない。
思ってはいないが、「あの日」の事を意識しない訳じゃない。
今付き合ってる事も、俺なりの「あの日」の償いだったから。
でももしかしたら俺・・・
陽子に言われて気付いた事があって、「陽子にかなり失礼な事をしたんじゃないか?」って事。
好きでもないのに、ただ償いの為に付き合いだした事は、優しさではなく、また償いでもなく・・・

一人の家には帰る気がしなかった。
俺は家の側の公園に行き、ベンチに腰掛け俯いていた。
陽子に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
また、自分が歯痒くて仕方がなかった。
と、その時、コーラの赤い缶が、目の前に差し出された。
見上げた俺に、「どうした?彼女と喧嘩でもした?」
香織だった。
俺は立ち上がり、香織を抱きしめた。
「ちょっと、ちょっとー」
香織はそう言ったが、俺は尚もきつく抱きしめた。
そして声を上げ、大声で泣いた。
そう・・・あの日の香織のように・・・

「落ち着いた?」
香織の声に、自分を取り戻した。
「ごめん・・・」
俺は香織に謝った。
「謝るより・・・感謝されたいな、あたしとしてはね」
「あぁ・・・ごめん・・・」
「座ろっか?」
クスリと笑った後、香織はベンチを指してそう言った。
俺は黙って頷き、腰を下ろした。
「喧嘩した?」
「いや・・・そうじゃなくて・・・」
「自分自身が情けなくて・・・そしたらなんだか泣けてきて・・・」
「そしたら香織が目の前にいて、なんだか甘えたくなった。」
「ごめん・・・」
「そっか・・・」
香織はそう言うと、コーラの蓋を取って俺に差し出した。
俺は受け取るには受け取ったが、飲む事が出来なかった。

「3年も前だね〜あたしがここで泣いたの。誰かさんに抱きついてさ。」
「先輩にいじめられた位で、好きな陸上を辞めた自分が、なんだか情けなくてね〜」
「そしたら目の前に、突然コーラが出て来たじゃない?」
「『今、この人に甘えたい』って思った訳よ」
「そしたらさ〜その相手が、幼馴染の俊ちゃんでしょ!もうびっくりでさ。」
「気付いたら、抱きついて泣いてた訳よ」
そう言うと香織は、俺の手からコーラを取り、一口飲んで返した。
「あの日のコーラ、美味しかったよ。缶に砂ついて、ぬるくなってたけどね。」
「あのコーラのお陰で、あたし元気になれたんだ。」
「だから俊ちゃんもコーラ飲んで、元気出しなって!」
そう言って香織は、俺の肩を思いっきり叩いた。

「俊ちゃん・・・」
暫く黙ってた香織だが、口を開いた。
「キス・・・しよっか?」
俺は驚いて、香織の顔を見た。
その途端香織は顔を近づけ、唇を重ねてきた。
「あ〜っ!ちゅーしてるぞ〜!」
遠くで子供の声が聞こえるまで、香織は唇を離そうとはしなかった。
「じゃ、あたし行くね」
唇を離すと、立ち上がった香織。
「オマタ、興奮してるみたいだから、彼女に頼んで沈めてもらいなさい!」
そう言うと香織は、ゆっくりと公園の出口へと歩く。
その背中に俺は、「香織、好きだよ」と叫んだ。
「人をふっといて、今更だぞ〜」
香織は俺の方を見ずに、手だけを振った。

3日後、陽子から手紙が届いた。
俊也さん、あなたがあの日の事の償いの為に、私と付き合い出したって事は知ってました。
あんな事があって辛かったけど、でも結果として、俊也さんと付き合えて良かったと、私は思ってました。
でも俊也さんは、ずっとあの日の償いのままで。
責任とか償いとか、それだけなら愛じゃないです。
愛されてないのに、ずっと一緒にいるのは辛いです。
出来る事なら俊也さんの愛で、あの日の事を忘れさせてほしかった。
でも、もう・・・
俊也さんは十分、償いを果たしてくれました。
これからは自分の為に、俊也さんが愛せる人をみつけて下さい。
ありがとう。楽しかった。これからもっともっと、楽しみたかったけど・・・
さようなら。
陽子



大学に入学した俺。
入学して1ヶ月が経つが、引っ込み思案な性格が災いし、友達はまだいなかった。
一人で登校し、一人で授業を受け、一人で昼食を摂り、一人で帰る生活。
慣れない一人暮らしで、正直寂しかった。
でも、自分からなかなか解けこめない俺。
情けない・・・

「隣り、空いてますか?」
学食で昼食を摂る俺に、声をかけて来た女。
見上げると・・・
「彼女、出来た?」
「いや・・・」
「優しいから、もてるでしょ?」
「いや・・・」
「うそ〜っ!絶対もてるって!」
「そんな事ねぇよ!」
「ごめん・・・怒った?」
「いや・・・」
「怒ってるでしょ?」
「いや・・・」
「あたし・・・迷惑かな?」
「いや・・・」
「静かにしてた方がいいなら・・・黙ってようか?」
「うるさくてもいいから・・・俺の彼女になってほしい。好きだよ。ずっと好きだった。香織・・・」
「あたしだって・・・ずっと俊ちゃんの事・・・好きだったんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。子供の時から好きだったんだからね。」
「えっ?」
「あたしのアルバムね〜・・・俊ちゃんがいっぱい写ってんの!」
「それはそれは・・・奇特な方で・・・」
「『蓼喰う虫も好き好き』って事!」



ヴァージンロードをゆっくりと進む香織。
そしてそれを待つ俺。
「大学だけは、きちんと卒業します。」
香織の家に挨拶に行った19歳の正月に、香織の父親とした約束。
俺たちはきちんと4年で卒業し、香織はOLになり、俺は都内の商社に勤め、2年後にこの日を迎えた。
香織を待つ間、俺は昔の事を思い出してた。

出典:orz
リンク:orz
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