二人目の親父 (泣ける体験談) 23514回

2004/09/30 01:28┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者

漏れには親父が二人いる(いた)。
本当に血のつながった親父は漏れが幼稚園の頃に交通事故で突然死んだ。
ガキすぎて人の死が理解できなかった漏れは葬式の時も元気に走り回り、
周りの人の涙を誘っていたらしい。
漏れが消防の高学年になりつつあるころ、おかんが一人のおじさんを連れてきた。
おじさんというにはまだ早い、30代後半のその人は体格もでかく、
顔も外人みたいに彫りの深い、本当の親父とは似ても似つかない人だった。
その人は杉浦さんと言ったので、漏れ達姉弟は「杉さんのおじさん」と
ずーっと呼んでいた。
何度か通ううちに、いつしかおじさんは漏れの家に住むようになり、漏れが
厨房になるころには立派に家族の一員になっていた。
市場に勤めていたので朝早く、毎日4時に起きて仕事に行くくせに晩飯の用意とか
片づけを手伝ってくれたり、漏れの悪い友達が家に遊びに来た時にはゴルフクラブを
持って追い返してくれたり、漏れはいつしか「親父ってこんなもんかな」なんて
思うようになっていた。
漏れが高校に入るとき、漏れの高校はたまたま学ランからブレザーに変わる年で、
漏れ達が初の生徒だった。
学校でサイズをしっかり計って注文し、家にブレザーが届いた。
漏れは嬉しくなってしまってそれを着て家の中を走り回っていた。
その時、杉さんのおじさんが家にちょうど帰ってくると、漏れのブレザーを
見るなり一言。「ちゃちなアップリケだなぁ」
確かにその制服にはダサいワッペンが胸についていたが、漏れはこれから三年間
着るその服をいきなりけなされた事にめちゃくちゃ腹が立って
「お前なんか大っ嫌いだ!」と言ってその場を去り、
それからおじさんと口をきくことがなくなった。


だがそれから一ヵ月後。
おじさんが突然仕事場で倒れ、胃潰瘍で病院に運ばれた。
漏れはその時、おじさんに対して「氏ね!」とか思っていたのであまり気にしなかった。
おかんが看病の為に病院につきっきりになったのをいい事に夜遊びに没頭していた。
だが、それからまた一ヶ月たって事態が急変する。
胃潰瘍だと思っていたのが実は胃がんで、もってあと三ヶ月だというのだ。
さすがに漏れもただ事ではないというのはわかって、心配するようになった。
ただやっぱり心にわだかまりは残っていたので、見舞いには行かなかった。
おじさんは漏れに会いたがっていたらしいが、漏れは7月になるまで全く
見舞いに行こうとすらしていなかった。
7月も終わりに近づくと、おかんが珍しく昼間に家に帰って漏れを呼ぶとこう言った。
「おじさん、もうダメかもしれない」
漏れは驚いたが、まだなんとなく実感がわかず「そう」とだけ返した。
「だから、杉さんのおじさんね、大した額じゃないけど私達にお金を残してくれるために私と
結婚しようって。籍を入れるだけだけどね。○○、私の苗字変わっちゃうけどいい?」
おかんが神妙な顔で漏れに聞いてくる。
当時はドライだった漏れは「別にいいんじゃない?」と即答。
おかんはほっとしたような顔で、「ありがとう。ありがとう」と繰り返した。
それが決まってから、漏れは一度だけおじさんの病室を訪ねた。
おじさんは春から久しぶりに漏れと話すのにも関わらず笑顔で漏れを迎えてくれ、
「俺、お前の親父になるんだなぁ。新田さん(漏れの本当の親父)に
怒られないようにしっかりしないとなぁ」
と、黄色くなった目を細めながら言った。
漏れは不意に涙があふれそうで、ジュースを買ってくると嘘をついて
その場をごまかした。


それから一週間後。おじさんがいよいよやばいという知らせが届き、漏れ達は
全員でおじさんの病室に駆けつけた。
病室にはおじさんの前の奥さんやその子供、漏れ達の方の親戚がたくさん集まっており、
夜遅かったがみんな悲痛な面持ちでおじさんを見つめていた。
漏れ達もずっと見ていたかったが、さすがに夜も3時を過ぎると眠くなってくる。
漏れはおかんに促されて待合室のソファで眠った。
朝7時ごろ。朝日の眩しさに目を覚ますと、ちょうど姉ちゃんが漏れを呼びにきた。
「おじさんが、おじさんが・・・!」
走る漏れ。
病室に駆け込むと、色んな点滴やチューブをつけられたおじさんが苦しそうに息を
している。本人の希望で体を起こしているのだが、誰かが支えていないと倒れて
しまうらしい。
何人か代わったが、漏れもおじさんを支える事になった。
おじさんの体からは、すでに死臭にも似た匂いがした。不思議な話だが、漏れは
その時直感で「これは死臭なんだ」と感じた。
漏れの肩を汗でびしょびしょにしながら、最後の命の灯火を消さないように頑張る
おじさん。まるで一分一秒でも長く現世にとどまっていたいみたいだった。
漏れはそんな時も、工房特有のひねくれた考えで「ここで泣いたらみっともない」
なんて、くだらない事を考えていた。
やがて、おじさんの息の感覚が長くなり、「はひっ、はひっ・・はひっ・・・・はひっ」
と、その時が近づいてくる。
みんな、妙な連帯感で一回でもその呼吸を多く、長引かせようと応援していた。
もう、おじさんという存在そのものが今までと同じように生きてる
訳じゃないから、息がいくら長引いても変わらないのに。
漏れはその時初めて、涙で目の前が見えなくなった。


結局その後は滞りなく葬式やら火葬やら終わり、数年も経つころにはおじさんの
話もほとんど出なくなっていた。
ただ漏れは今でもたまに思い出す。
おじさんが黄疸で真っ黄色になった目で漏れを「息子よ」って呼んでくれた時、
漏れの口からかすかに漏れた「お父さん・・・」って台詞と、
大っ嫌いだって言った事を謝れなかった事。
杉さんのおじさんはいい人だったから、多分今頃俺の本当の親父と一緒に
天国で飲んでるんじゃないかな。


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