朝起きたらシリーズ 朝起きると、妹に看病されていた……らしい。 (妹との体験談) 79513回

2004/10/01 10:57┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
346 :(1/3) 339[sage] :04/07/02 05:01 ID:zxeilhpW
口直しに。なるかな?

 朝起きると、妹に看病されていた……らしい。
 らしい、というのは、あいつの姿が見えないからだ。
 俺は体を起こすと周りを見渡した。誰もいない。額から落ちた濡れタオルを拾う。
「ん……」
 布団の脇に丸いお盆が置いてある。コップに入った水と、薬袋(何の薬だ?)と、ぐずぐずに
なったお粥(?)が乗っていた。その隣に、妹の小さな小さなポシェット。
 おもしろ半分にポシェットを取って、中身を見ようとする。

 がたがたがたっ

 襖の向こうで物音がした。俺は声をかける。
「おーい、いるのかー?」
 しーん……
 ポシェットを開けると、白いハンケチが目に付いた。ふちに沿って可愛らしい刺繍が施されて
いる。小銭入れに……1842円。くくく、なかなかお金持ちだ。横には、カード入れかな、これは。
表面にミッ○ィーのシールがぺたぺた貼ってある。カード入れの中には……
 がたがたがたっ
「いるんだろー?」
 しーん……
 探索を続けた。カード入れの中には、予備のバスカード、名前と住所と通っているお嬢様学
校の名前を書いた紙きれ、連絡網のコピー。それから……こりゃ何だ?
 厳重に折り畳んで奥に押し込められていた、一枚の紙を開く。
「……おいおい」
 何かを破ったと思しき紙きれには、妹の四角い字で、俺の名前、生年月日、大学名、学部名、
身長体重(一年前のだ)なんかが書きつけてあった。降りる駅や、大学の地図みたいなものも
書いてある。
 バシッ!
 紙切れを奪われた。いつの間にか入ってきていた妹が、顔を真っ赤にして立っていた。

347 :(2/3)[sage] :04/07/02 05:02 ID:zxeilhpW
「だめ」
 妹はぼそりと言った。紙切れを元通りに折り、ワンピースのポッケに入れる。
 十歳以上も年の離れた妹だった。引っ込み思案な子でもあり、なかなか会話の機会も少な
いが、時折こんな風に、唐突な行動で俺を驚かせることがある。
 土曜の朝、兄の寝室に入り込んで看病を始めるとか。
 妹の姿を見上げる。ワンピースの薄緑色に、綺麗な長い黒髪が映えていた。その黒髪の先
端を小さな指先でいじりながら、俺の方にちらちらと視線を送る。今にもまた逃げ出しそうだ。
「じゃ、じゃあこれで――」
「俺のことを看病してくれてたの?」
 びくりと震えると、後から小さく頷いた。
「そうなんだ。ありがとう、嬉しいよ」
 妹は赤い顔で、こくこくと何度も頷いた。向き直って枕元にちょこんと座ると、俺の額を両手
で押し始める。
「ん」
「え? ……寝ろって?」
「そう」
 大人しく体を倒すと、かいがいしくタオルケットを肩まで上げてくれる。小さな体が俺の顔を
覆い、ちょっとドギマギする。
「そういえば、ちょっと聞いていいかな」 濡れタオルを一生懸命絞る彼女に尋ねた。
「なに、お兄ちゃん」
「さっきの紙って、何なの」
「…! ………………………………………………何でもない」
「俺のことストーキングしてるとか」
 ぶんぶんと音がするぐらいのスピードで首を振った。勢いで頬にかかった髪をつまみながら、
小さい声で言う。
「違うの……想像してるだけ」

348 :(3/3)[sage] :04/07/02 05:03 ID:zxeilhpW
 そ、想像ですか。
「想像って、何を?」
「え……」
 ふにゃあ、となった。しかし、ストーキングなどという誤解を解くべく、律儀にも説明を試
みる。うーん、カマかけが効き過ぎたか。
「あ、あの、お兄ちゃんって、普段どういう風なのかな、って。色々……。大学ってどんな
かな、とか……」
「普通だよ」
「そんなことない。大学かっこいい。お兄ちゃんかっこいい」
 えらく斬新な意見だった。
「じゃあ、大学について、お兄ちゃんが一ついいことを教えてあげよう」
「え?」
「大学の教科には、試験よりもレポートを重視するものがある。レポートというのは、まあ
宿題みたいなものだが、中には自分で資料を集めて沢山考えないと書けないものもある」
「すごいね」
「昨日が締め切りのレポートが三つもあったんだ」
「あ、大変」
「俺は病気じゃない」
「そうなん…………えっ……ええええっ!?」
 濡れタオルを胸に構えた妹の顔が、白くなり、赤くなり、紫になった。衝撃で震えている。
「あ、あ、あの、ママがね、『お兄ちゃんは体調良くなくて今日は寝てるから』 って言って
たから、てっきり……ご、ごめんなさい」
「いや、いいけどね。って、そんな泣かなくても」
「だ、だって……もう恥ずかし……っ」
「お粥のような謎の食べ物まで作ってくれたしな」
「もういやぁっ! いじわるぅ!」 妹は泣き笑いで俺の腕をぺしぺしと叩いた。
「さて。そういうわけで俺はまた寝る。今度は起きても逃げるなよ」
 え、と彼女は涙目のまま俺を見た。
「居てくれるんだろ? つーか、居なさい」
 妹は、目元をごしごしとこすった。そして、小さな声で「はい」 と答えた。
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