従姉紀子と (従姉妹との体験談) 68872回

2008/05/18 23:10┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:50氏
前編:従妹アキ、従姉紀子との・・・ (近親相姦の体験談)
http://moemoe.mydns.jp/view.php/11002


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出典:従姉妹でハァハァ…(以下ry)×4
リンク:http://venus.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1188747719/
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644 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 00:57:40 ID:ymcYa2CA0
    お久しぶりです。
    レスをくれた人にはレスをするのがオレのジャスティスでしたが
    このスレを開いていない間にレスをくれた人、申し訳ない。
    未だにコメントくれている人がいるみたいで
    びっくりするやら嬉しいやらです。ありがとうございます。

    もうここは見ないようにしていたのですが、
    とうとう見ないようにする理由がなくなったので
    どなたかまた、オレの独り言にお付き合いいただけませんか。
    ただし、エロ話については期待に応えられないと思います。


652 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:54:07 ID:ymcYa2CA0
    ポストに普段見かけないサイズのものが入っていた。
    何だろう。

    ビニール袋、の中は、箱。シンプルな箱だ。
    おかんだろう。その時は特に気にも留めなかった。
    いつもはツンだが、
    オレが家を出てからというものデレる時も少なくない。

    今年は何があったのか、会社の規模からは予想外の
    二桁に届く数のチョコレートをもらった。
    義理のいっぱいつまった紙袋の一番上に
    ポストから取り出したビニール袋を置く。

    オレ、チョコレートは嫌いなんだけどなあ。
    お返しを考えると頭が痛くなりそうだった。

653 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:55:02 ID:ymcYa2CA0
    あの会社の女社員達も
    オレのそんな苦悩を楽しめそうなSが多そうだしな。
    気にしたら負けだわ。

    一つだけ気になったチョコレートが
    普段あまり関わらない部署の女の子から貰ったもの。
    「けいさんの部署はけいさんにだけですから」
    女の子のイタズラっぽい笑顔が気にかかる。
    取り敢えずその包みは開けてみるか。

    『最近、元気ないですね。今度飲み会でもしましょうよ』
    最後に手書きの小さいハートとアドレスが書いてある。
    てっきり部署の皆さんからのものだと思っていたが
    どうも個人からのようだ。ノノ。どこからオレを見ていたんだ。
    うん、気にしたら負けだ。

654 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:55:42 ID:ymcYa2CA0
    正直興味がないわけではなかったが
    それよりも興味が引かれたのは
    ポストに入っていたものだった。

    そういえば、おかんってオレにチョコレートくれたことあったっけ?
    いや、それでも。
    おかんだろう、と思わなければ直視できなかった。
    開けた後のショックが大きいだろうから。
    そんな筈はない。現実的に考えろ。
    バレンタインデーにわざわざうちまで来るか。
    来るわけない。悩む。
    時間が経てば経つほど開けられなくなっていく。

    今更何を期待しているのか、
    と第三者的に自分を眺めても、すぐに目の前の袋に意識が戻される。

655 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:56:30 ID:ymcYa2CA0
    ええい、開けてしまえ。
    ノと手に取りながらも箱を軽く振ってみる。固めの音がする。
    臆病だなあ。一人で何やってんだオレは。
    『焼かれながらも人は、そこに希望があればついてくる・・・!』
    ああ、言ってることわかります。

    『死ねば、助かるのに・・・』
    ですよねー(笑)

    さて、何の変哲も無い箱。
    メーカーの名前さえ入っていない。
    言い換えれば、買ったものではない可能性が高い。
    封印していた名前が口から出そうになる。

    複雑な感情の交錯に耐えられなくなったオレは箱を開けた。

656 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:57:23 ID:ymcYa2CA0
    中から出てきたのは
    手作りのお菓子とノノ

    CDノだと!?テラブリーチwww
    誰だ。
    中に何が入っている。
    すぐにPCの電源を入れる。
    立ち上がりの遅さがもどかしい。

    CDの中にはテキストファイルと
    音楽ファイルがきちんとフォルダに分けられ入っていた。
    テキストが脳に入り込んだとき反射的に
    オレは名前を口にしていた。

    「紀子姉ノ!」

657 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:58:21 ID:ymcYa2CA0
    人の名前を呼んだだけなのに鳥肌が立った。

    『  察しの良いあなたなら分かると思う。
     音楽は好みに合うと良いなノ。
       あなたが欲しがっているものだったら幸いです。
     星を見るたびに思い出します。
     あの夜のこと。
     あなたは覚えていますか。
     私の勝手な振る舞いを許すばかりか身に余るほどの幸せをく
     れたことを。』
    (もう少し原文は長いが割愛する。また事情により多少変えている)

    何故、またオレの前に姿を現した。
    完全に消したと思っていた火はまだくすぶっていて
    ディスプレイの奥にゆらゆらと小さな炎が見えた。

658 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:59:14 ID:ymcYa2CA0
    音楽フォルダは平凡なものだった。
    スターフィッシュが入っていたことが何か嬉しかった。
    「持ってるし」とか笑いながら独り言。きめえw

    しかし、大きな疑問が残る。
    もうお互い連絡を取らないと言ったのに何が伝えたかったのだろう。
    感謝の気持ちなら、既に伝えてもらっている。
    急いで、家の外を一周してみたが居ない。
    切手が貼ってなかったから、直接持ってきたのは確実だ。

    ノマリッジブルーか。
    現実的に考えてそれが一番可能性が高いな、と思った。
    (本当はこの考えに至るまでかなり時間を費やした)

    でも、プレゼントを貰ったのだからお礼を言わないと。
    ん?どうやってお礼を言うんだ。

659 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 13:59:54 ID:ymcYa2CA0
    バレンタインデーにわざわざうちまで来て
    彼氏は大丈夫なのか。
    彼氏の立場になったら、自分を放っておいて
    他の男にチョコレート渡しに行くってあり得ない行動だろう。
    不安になるが夜も遅いし連絡を取る手段がない。

    紀子姉の実家にかけても良いが、
    実家に居るとは限らないし、深夜だし、両親に不必要な心配をかけたくない。
    こんな心配かける子じゃなかったんだけどなノ。

    何も出来ぬ間に月は傾いていき、もう三時になろうとしている。
    まだもう一日仕事もあるし、取り敢えず寝ようノノ

    zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

    ノしまった寝過ごした。

660 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 14:01:00 ID:ymcYa2CA0
    上司にからかわれる。
    「バレンタインデーだからって無理したんじゃないのかwww」
    セクハラですね、わかります。
    まあある意味正解ですが。

    普段の態度が真面目(の筈)だからか皆笑って遅刻を許してくれる。
    何だか午前中は仕事にならなかった。

    そして問題の昼休み。
    件の女子(以下香織さんとする)がぼーっとしているオレのところにやってきた。
    「メールくださいよー」
    「ん、ああごめん」
    「何か素っ気無いなあ」
    ふくれている横顔が可愛いのは認める。
    失礼かもしれないがELTのボーカルに空気を混ぜた感じ。

661 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 14:01:58 ID:ymcYa2CA0
    「携帯の番号も書いておけば良かったんですか?」
    「いや、そういう意味じゃなくて」
    「ノ?何かちょっと元気になりました?」
    「え、そう見える?」
    「わかんないけどノやっぱり元気なかったんですね」
    なんていう流れから、携帯の番号を交換してアドレスも教えた。
    「本名がアドレスなんですねwww」
    「悪いか」
    「何と言うか、正直者ですよねw」
    とりとめもなく続きそうなので、一旦自分の部署に戻ることを告げ、別れる。
    一分後にメールが来たのにはびっくりしたがw

    歩きながら携帯を触る。やはり、どこにも紀子姉の番号は残っていない。
    『あなたが欲しがっているものだったら幸いです』昨日のメッセージを思い出す。
    オレが知りたいのは紀子姉の電話番号だよノ

662 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 14:02:59 ID:ymcYa2CA0
    ノ「!」
    乱れ雪月花!
    なんてレベルを軽く超えた。
    今日ばかりは自分を褒めたい。

    仕事後急いで家に帰り
    送られてきたテキストファイルを再び読む。
    明らかに、おかしい。
    頭の空白が1行目と3行目にある。段落的なものではない。
    変なところで改行が入っている。
    昨日はウィンドウが小さいからだと思っていたが、違う。意図的だ。

    縦読みかノ?と誰もが思いそうな瞬間、理解する。
    空白は「0」を指しているのではないか。
    縦に読むと、0※0ノノ身震いがする。


663 :えっちな18禁さん:2008/04/06(日) 14:03:56 ID:ymcYa2CA0
    「音」が9を示すなら、
    これは携帯番号につながる扉。
    必死に検索をかけるが、
    グーグル先生もどうやら教えてくれない。

    紙に縦書き部分を何度も書いてみる。
    そもそもなんで空白が0なんだ。
    それも根拠がない。A4の紙が文字で埋め尽くされる頃
    空白を文字として書けないことがオレに閃きを与えた。


    0 画 だ。

    音は、間違いない。9画。
    紀子姉ノしばらく見ない間に性格悪くなったなwww

684 :50:2008/04/06(日) 22:24:47 ID:ymcYa2CA0
    素直に番号書けば良いものを、と思いながらも
    右手はコートの中の携帯電話を探していた。
    紙に目を落とす。見覚えのある番号だ。
    無意識に紙の上の丸で囲まれた番号を覚えようとする自分がいる。
    記憶に残ると、消去は容易ではない。
    あんなに辛い思いをして消したのに。
    何でこんなに簡単に教えようとするんだ。
    聞きたいことが沢山あった。
    携帯電話を開いて番号を打ち込む。

    だが、待て。浮かれるな。
    今彼氏と一緒にいたらどうする。
    ダメだ、良い案が浮かばない。
    あまり取りたくない方法だが、非通知でかけるか。

685 :50:2008/04/06(日) 22:26:05 ID:ymcYa2CA0
    通話ボタンが押せない。
    このボタンを押さなければ、
    紀子姉との約束を守り通すことができる。
    この前の一事はそんな簡単に破って良い約束ではないと思う。
    少なくともバレンタインデーに吹き飛ばされるような軽いものではなかった。
    紀子姉もそれは承知している。

    だが、考えてみればその姉が再び
    オレと連絡を取ろうとしている。
    何か理由があるのではないか。
    それを無下にできるのか。

    その一方で、もしこのボタンを押すなら
    未来に何が起ころうが
    自分の行動に責任を持つ覚悟が必要だという思いもあった。

686 :50:2008/04/06(日) 22:26:53 ID:ymcYa2CA0
    もう電話番号も覚えてしまった。
    結局オレはボタンを押すのだろう。
    ただ、何か理由が欲しかった。

    逃げの理由ではなく、
    前向きな理由。
    このスレで皆からもらった言葉が響く。
    客観的な言葉は本当に考えさせられた。
    親身になってくれる言葉も嬉しかった。

    スレを開くのはある時を境に止めた。
    実際にはそうでなくとも
    自分が何かに縋っているような気がしたから。
    かさぶたを弄っている内は傷は消えないんだ。

687 :50:2008/04/06(日) 22:27:50 ID:ymcYa2CA0
    でも、思い出せばここに書いている時は
    色んな人の支援を受けながら
    傷を別のものに変えることができた。
    既にかさぶたではなくなっていた。
    オレ、もしかして強くなることができたんじゃないか。

    今なら、新しい自分で紀子姉と向き合えるかも知れない。
    悩んではダメだ。思考が行動の邪魔をするんだ。
    ボタンを押して、それから考えればいい。

    ム押した。

    電話の呼び出し音が鳴る。
    規則的な呼び出し音とは異なり、心臓は早鐘を打つ。
    ガチャ。「はーーーい」
    おまwww何だその暢気な声はwww

688 :50:2008/04/06(日) 22:29:08 ID:ymcYa2CA0
    「紀子姉ノ」
    「!!けい!?」
    「そうだよ。一応ありがとう、だけど、説明して」
    「うーーーーーん、ごめんね、今酔ってて頭が働かないノ」
    「おいwww」
    どうやら今は一人のようだ。
    「ちょっと落ち着いたらかけ直すねノ」
    「あ、オレ非通知でかけガチャ」

    やられたwwwそんなに酔う人じゃなかったんだけどな。
    もう一度、番号通知でワンコール。
    どうせ明日は休みだ。しばらく待つか。

    PRRRR
    はえーな。ん?香織さんからだ。
    「もしもし」

689 :50:2008/04/06(日) 22:29:45 ID:ymcYa2CA0
    「あ、けいさん、夜分にすみません」
    ちょっと落胆しながら「どうしたの?」と訊く。
    「明日休みですよね?ちょっと相談してもいいですか」
    「何かあった?」
    本当はそれどころじゃないんだけど、
    香織さんの少し真剣な声に耳を傾けざるを得ない。

    「私、会社辞めようと思うんです」
    「ええ、何で」
    彼女への社内の評判は上々で
    社外の人からも好かれている、と記憶している。
    「あの、誰にも言わないでくださいよ」
    「うん」
    こう答えなければこの類の話は進まない。

690 :50:2008/04/06(日) 22:30:53 ID:ymcYa2CA0
    要するに、男性上司絡みで困ったことがあるらしい。
    プライバシーなどもあるので、詳しくは書かない。
    推してしるべし。

    彼女が精神的に疲れているときに、
    (偶々)オレが一つ仕事を受けてあげたことがあった。
    嬉しかったのでチョコレートをくれたらしい。

    頭の中で紀子姉がよぎりながらも
    どうやら香織さんはオレに好意を持ってくれているらしく
    話を切ることができない。
    「辞めてどうするの」
    「しばらくゆっくりしようと思います」
    「そうかノノノ」
    「辞めないでとは言ってくれないんですね」

691 :50:2008/04/06(日) 22:31:36 ID:ymcYa2CA0
    自分の欠点を突きつけられた気がした。
    「ノいや、辞めて欲しくはないけど
     オレにはその問題を解決してあげられる力がないと思う」
    「じゃあ、彼氏を演じてくれませんか」
    「snegノじゃなくて、それはどうだろう」
    「迷惑はかけないようにします」
    どこかが紀子姉と重なる。

    「明日、もう一度会ってお話できませんか」
    「ノわかった」
    もう軽く二時間は話している。時間と場所を約束して電話を切る。
    紀子姉のことも気にかかる。

    電話を切ると
    一分も経たない内に、メールが入る。
    留守番電話のお知らせ。

702 :50:2008/04/06(日) 23:27:57 ID:ymcYa2CA0
    「けい。電話つながらないノ彼女できたんだね。おめでとう。
     新しい彼女さんとお幸せにね。ややこしいことして本当にごめんなさい。
     かけ直さなくて良いからね」

    な ん と い う 早 と ち り 
    いや女性と話していたのだから、勘が良いと言うべきか。
    急いでかけ直すも、電話に出てくれない。

    これは。どうすれば良いんだ。
    留守電に吹き込むにも、嘘はつきたくない。
    本当のことを話すにも短時間では伝えられない上に
    言い訳がましくなることが目に見えている。

    考えたあげく
    留守電に一言だけ吹き込んだ。
    「明日、そっちに行きます」言ってしまった。

727 :50:2008/04/08(火) 23:05:01 ID:IJeuY5mA0
    次の日、朝早くオレは家を出た。
    2月の寒さの所為ではなく、足早になってしまう。
    今竦んでも意味がない。男ならやってやれだ!

    紀子姉は真面目な人だ。
    勤務の前日に酔うほどお酒を飲むことはないだろう。
    今日は休日の可能性が高い。賭けにはさほど強くないが敢えて賭けよう。
    賭けるものはノそうだな。

    新幹線は驚くほど静かにオレの身体を運んだ。日本人は偉いなあ。
    もうそろそろ某県につく。
    気がつけばメールが2件来ている。1つ目は、香織さん。
    『起きてますかー♪11時に○○で待ってますからねー』
    忘れてた!!11時も何も行けません><

728 :50:2008/04/08(火) 23:06:51 ID:IJeuY5mA0
    急いでメールを返す。
    『ごめんなさい。急に某県に行く用事ができて
     今新幹線に乗っているんです。今度、ちゃんと話を聞かせてください』
    返信を待つ間にもう1つの留守電通知メールを。紀子姉からだ。
    きっと運悪くトンネル素通り中にかけて来たのだろう。デッキで内容を聞く。
    「けい!本気???」本気ですwww

    悪戯をしかけているような気分で電話をかける。
    「けい!何してるの!」
    「もう何十分かで○○駅につくよw」
    「ばかーーーーーーーー」いきなりその仕打ちwww
    「悪いけど、駅でしばらく待っててね」
    紀子姉のテンションが少し高くなっているのが分かる。
    「もし、私と電話つながらなかったらどうするつもりだったの?」
    「紀子姉の家も知らないし、終電で帰ろうかと」
    「そんな頭悪い子じゃないでしょwww」

729 :50:2008/04/08(火) 23:07:47 ID:IJeuY5mA0
    久しぶりに紀子姉の笑い声を聞いた。こっちまで楽しくなる。
    「じゃあ、私も準備するから。一度、切るね。誰かさんの所為で
     友達と買い物行くのキャンセルしなきゃいけないし」
    「いや、ごめん予定あるなら、いいよww」
    「そんな訳にはいかないでしょ。もう、解ってるくせに」
    「ばれた?www」
    あれ、オレもっと聞きたいことあるはずなのになノ。
    この空気に流されていて良いのかな。
    取り敢えず、話は会ってからだ。

    一旦背筋を伸ばして電話を切ると、
    香織さんからメールが届いていた。

    『もしかして、ご不幸でもありましたか?
     残念ですが、また落ち着いたら連絡くださいね。』

730 :50:2008/04/08(火) 23:10:17 ID:IJeuY5mA0
    香織さん良い子だな、と少し思ったのは秘密だ。
    流れていく景色を見ていると、
    紀子姉との距離が縮んでいくのを感じる。

    『本当にごめん。必ずまた連絡するから』
    香織さんになるべく事務的に返信する。
    『近いうちに美味しいご飯に連れて行ってくださいね。
     お酒も可ですよ♪』
    何と言うか、積極的だなあ。

    アナウンスが入る。駅に近づく。
    コートを着て襟を正す。

    さて。大きく息を吸う。吐く。
    それを数度繰り返し、呼吸を整えてから足を踏み出した。

731 :50:2008/04/08(火) 23:11:12 ID:IJeuY5mA0
    ホームを見渡した。ここは記憶に残る場所となるだろうか。
    また密度の高い時間を過ごしている自分を笑った。
    ここからはしっかりしないと。

    場合によっては怒らなければならない。
    浮ついてはいけないと思えば思うほど
    地に足がつかなくなりそうだった。
    今日何度思ったことか。「オレ、何やってるんだろう」

    しかし、待ち時間なんて
    考え事しているとあっという間だな。
    「○番出口付近に着いたよ」
    と電話が入り、駆け足で向かう。

    いた。
    ハイハイ美人美人。

732 :50:2008/04/08(火) 23:13:20 ID:IJeuY5mA0
    「もう、何で来たの」
    いきなり言う台詞がそれかwwwこっちの気も知らないでwww
    「紀子姉こそなんであんなこと」
    「お腹空いてない?」無視ですかorz
    「空いた」
    「ふふ良い店あるんだ。行きましょ」

    紀子姉の伸びた髪が時間の流れを思わせる。
    膝までのプリーツのスカートが機嫌良さそうに揺れている。
    ぱっと見ただけでもファッションセンスが良さそうなのは分かる。
    「こっちは少し暖かいね」
    「そう?もう慣れたから分からないけど、寒いよ」

    いつもと変わらないやりとり。
    もっと色んな心情が交差する対面だと
    思っていただけに拍子抜けする。

745 :50:2008/04/09(水) 21:18:40 ID:+LqpSxKA0
    「あっノん」
    耳たぶから口を離す。
    顔を真っ赤にした紀子姉が両手を軽く縛られたままこっちを見つめる。
    「抱いて、ください///」





       *      *
      *  夢です   +
         n ∧_∧ n
     + (ヨ(* ォ∀`)E)
          Y     Y    *

    何て夢見てんだorz

749 :50:2008/04/09(水) 21:45:21 ID:+LqpSxKA0
    >>747
    いや、昨日寝ながらまとめてたらこんな夢を見たんだ。
    ※実際こんなシーンはありません。

750 :50:2008/04/09(水) 21:54:32 ID:+LqpSxKA0
    店は結構な賑わいで、20分は待たされそうだった。
    「待っても大丈夫?」
    「うん」本当はウィダーしか摂ってないからすぐにでも食べたいw

    「けいは、私の電話番号どうやって知ったの?」
    「え?紀子姉がくれたテキストで」
    「やっぱり分かったんだ。信じて良かった」
    「2日かかったけど」
    「そのおかげで昨日酔いつぶれたんだけどwww」
    「?」
    「また話すね、多分」
    「ん、ああ分かった」
    「でも流石だなあノへへ」
    くっノ!貴様ッどこでその笑い方を覚えたああ。
    椅子に座ってブーツを交互にプラプラさせている紀子姉を見ていたら、
    怒るのは無理だなと思った。テラ過保護。

751 :50:2008/04/09(水) 21:55:20 ID:+LqpSxKA0
    店内にて。
    「待っている人多いし、あんまりゆっくりは話せないかもね」
    「でも、紀子姉、一つだけ聞かせて」
    「何?」
    不安げな目つきでこちらを見る。
    怯んではダメだ。
    「何で、バレンタインデーにあんなことを」
    「一つ、と言いながら範囲が広いよ」
    「彼氏は?」
    「大丈夫だよ」
    「どう大丈夫なんだよ」
    「黙秘します」
    「えええ」
    「ごめん、今はあんまり聞かないで」

    会話が途切れる。気まずい。気まずい。気まずい。

752 :50:2008/04/09(水) 21:55:53 ID:+LqpSxKA0
    紀子姉が気を取り直したように言う。
    「取り敢えず、食べてしまいましょう」
    「そうだな。しかし、うどんでここまで並ぶってすごいな」
    「美味しくない?」
    「美味しいよ」
    ただ、後味の悪い会話をしてしまったから
    ゆっくりと味わっては食べられなかった。

    「ねえ、カラオケ行かない?」
    「ん?良いけど」
    何かオレの思っているのと違う方向に
    流されているような。
    駅前のどこにでもありそうなカラオケ屋に入る。
    というか連れられて行く。
    それでもいいかと思わせる異国情緒恐るべし。

753 :50:2008/04/09(水) 21:58:18 ID:+LqpSxKA0
    「何で今日来たの?」
    「いや、紀子姉が誤解していたから」
    「誤解?」
    「彼女できてないし」
    「でも女の子と喋っていたんでしょう?」
    「うっ」詰まるなwww
    「ほら。その人に悪いと思ったし
     ノ何ていうか自己嫌悪もあったから。
     何でけいの家まで行ったのかなって」
    「うん」ちょっと聞きたい話に近づく。
    「だって約束したのに」
    頼むから悲しそうな顔しないで。
    そういうのは伝染するんだ。
    「もう連絡は取らないって決めたのに
     あんだけ勝手なことしたのに
     今日だってまたけいを振り回してる」

754 :50:2008/04/09(水) 21:59:32 ID:+LqpSxKA0
    「いや紀子姉、オレは今日自分の意思で来たんだ」
    「私ね、困ったことが起きたら、昔から
     けいの顔が浮かんでしまうの」
    「ノノノ」
    「けいに甘えたいって思うこともあれば、
     けいだったら何て言うだろうって考えたり」
    驚いた。オレも似たようなことをよく考えていた。
    紀子姉だったらどうするだろう。何て言うだろう。
    それだけで嫌なことを我慢できたり
    前向きに考えられたりした。何度救われたことか。

    ふと目元を手の甲で拭う紀子姉。
    「もう、泣いてもいいかな。
     今日来てくれるって聞いて本当に嬉しかった」

755 :50:2008/04/09(水) 22:00:24 ID:+LqpSxKA0
    店員がジュースを二つ置いていく。
    グラスを置く音がはっきり聞こえるほど
    カラオケ屋の中なのにしんとした空間。
    周りの部屋から漏れ聞こえる
    能天気な声が羨ましい。

    「何か歌って」
    目元を拭き、溜息を一つついて紀子姉が言う。
    この状況で何を歌えと。
    ハードル高いなあ。
    ロンドン、パリ後の聖火リレー並だ。
    でも、歌わないと何も進まない気がして
    一つ曲を入れた。

    けれど空は青

756 :50:2008/04/09(水) 22:01:31 ID:+LqpSxKA0
    歌いながら思う。
    難しいこと考えてばかりだと
    本質には近づけない。
    案外、近くに在るものじゃないんだろうか。
    もう少しで何かに届きそうな気がする。

    『手も振らずに別れた 思い出色した夢たち
     もしも涙で色が消えても
     けれど空は 空は青』

    視界一面の空を背景にして
    紀子姉が自分だけに微笑む風景が見える。

    「ずるい、歌だなぁ」
    涙を拭いもしない紀子姉に笑いかけた。

784 :50:2008/04/11(金) 23:26:10 ID:3j8QGzf+0
    「私ね、罰があたったの」
    涙声を必死で聞き取る。
    「罰?」
    「嘘をついたから、けいにもノ自分にも」
    堰をきったように言葉が溢れる。
    「けいに抱かれて、自分で区切りをつけたつもりになってた」
    頷いて優しく先を促す。
    「それで良かったと思えた」

    「ごめんね」

    「私、結婚したくない」
    何度もごめんね、と繰り返す紀子姉が痛かった。
    涙の跡が紀子姉の壊れかけの心を
    修復している過程にも見えた。

789 :50:2008/04/11(金) 23:58:39 ID:3j8QGzf+0
    「なんでノ?」
    少し予想していたことだが、実際に聞くと衝撃を受けた。
    希望に灯された火が妖しく揺れる。

    「彼は、悪い人じゃない」
    「じじゃじゃあ、なんで」オレが動揺してどうするw
    「こないだ、初めて彼のご両親に挨拶に行ったの
     そしたらお母さんが、この子は大丈夫なの?って」
    「何が?」
    「ご両親、あまり聞いたことない宗教だけど、その中の偉い人だったんだ」
    「ちょっと引くな」
    「そういう風に言ったらだめなんだけどねノ」
    この辺りになると、流石に涙も途切れていつもの声が戻ってくる。
    「紀子姉は入らなければ」
    「そんな訳に行くと思う?」

790 :50:2008/04/11(金) 23:59:44 ID:3j8QGzf+0
    「どうだろうね」
    「wwノでも、彼が『お前は大丈夫だよな』って言ったのが
     ちょっと怖くて」
    「大丈夫って何がだよ」
    「宗教家の長男の嫁として恥ずかしくない人間ってことかな」
    「ノ」
    怒りで拳が震えそうになる。

    「普段は優しいんだけどね。
     宗教のことを隠していたのじゃなくて、私も同じ宗教に入るのが
     当然だと思っていたことに少しノ」
    「紀子姉、あんまり人のこと悪く言いたくないけど、彼、ずれてない?」
    紀子姉をなんだと思ってるんだ。

    「ダメだ、断ってくれ。オレが祝福できない」
    言ってしまった。こんな従弟でごめん。

819 :50:2008/04/13(日) 00:56:26 ID:/w7XUWcS0
    浅田次郎「シェエラザード」より
    百合子は悲しい瞳で土屋を見つめた。答えようのない責め方をしたと、
    土屋は後悔した。だが、言葉に誤りはないと思う。
    この世には神も仏もないのだということを、百合子にわかってほしかった。

    ---------
    第二次大戦中、宗教が人の命を救ったことがあったか。
    殺したのも、殺されたのも同じ十字架を握ったものではなかったか。
    意地悪な問いを恋人のクリスチャンに投げかける場面。
    それでも「試練だ」と答える百合子。
    (偏見を持ちたくない方はご一読を。名作なのは保証します)

    自分と紀子姉に重ねては浅田さんに失礼だが、
    紀子姉はまだ「試練だ」と断じられるほど彼の宗教を知らない。
    まだ遅くはない。可能性を見つけたからには足掻くしかない。

820 :50:2008/04/13(日) 00:57:54 ID:/w7XUWcS0
    「けい?」
    「しかも、『お前は』って何だよ。
     他にもいたけど逃げられたってことか」

    「ノあまり深くは聞いてないけど、そう、だと思う
     宗教とか難しいことはあまり分からないけど、
     相当な覚悟がいるんだと思う。
     私って、昔から頑固だし、多分心に謝って嘘つきながら
     毎日うわべだけのお祈りするんだよ」
    また声が涙に混ざっていく。それがオレを却って冷静にさせる。

    「嫌ならやめたらいい」
    「無理だよ。うちの両親と彼が会う日も決まってるし」
    「まあ、ちょっと力抜こう。けれど空は?」
    「青。何それww力抜けすぎだよ。
     ノノノでもけいの空だったらノいいなあ」

821 :50:2008/04/13(日) 01:00:35 ID:/w7XUWcS0
    紀子姉がオレに凭れてくる。
    触れてはいけないという意識が働くが、
    同じくらい強く触れたいとも思った。

    結局背凭れと化すオレw
    こんなもんですよ。実際。

    目を閉じて紀子姉の質量を感じる。
    きっと紀子姉も目を閉じていたと思う。
    「いいなあ」

    紀子姉はそれしか言わなかったが
    身体越しに伝わってくるものが補って余りある。
    間隙をついたようで手放しでは喜べないが
    この時間は、紀子姉がうちに来て、オレが気付かなければ無かった。
    不謹慎だが何かに感謝したい気持ちになった。

822 :50:2008/04/13(日) 01:06:58 ID:/w7XUWcS0
    先に言っとくが事後じゃないぞwww
    一時間ほどそうしていただろうか。何という静止画。
    「もう、いっかあ!」
    勢い良く立ち上がる紀子姉。
    顔を左右に軽く振っている。
    「別れよう」
    「なんだよそれwww」
    笑って紀子姉の決断を称えたいという思いと
    その陰で一人の男性の人生を動かしてしまったという思いが戦って
    きっとオレはぎこちなく笑っていただろう。

    小悪魔(笑えない)の笑みを浮かべた
    紀子姉がオレの唇に唇を重ねた。
    「今のは、ただのお礼なんだからねっノ
     ちょっとお化粧直してくる」
    この日一番の嵐が去っていった。

823 :50:2008/04/13(日) 01:08:16 ID:/w7XUWcS0
    「紀子姉ノいつの間にツンデレなんて勉強したんだ
     ノベタなやつが一番破壊力あるんだぞノ」
    ってそこじゃねーだろwww。

    化粧で何とか隠したつもりだったかも知れないが
    紀子姉の目の下のクマが痛々しかったんだ。
    仕事も忙しいと聞いているし、
    プライベートでそんなに悩んでいたなんて。

    オレは今日ここに来ることをもっと軽く考えていた。
    どうせ今回も結婚の後押しをする役だろうと思っていた。

    でも、話を聞いたら後押しなんてできなかった。
    したくなかった。むしろ口をついて出たのは反対の一語。
    これは、オレの我が儘かも知れない。
    オレは間違っているのか。教えてくれ、エロイ人。

824 :50:2008/04/13(日) 01:09:13 ID:/w7XUWcS0
    別に宗教なんて何を信じてもいい。
    結婚は全く違う環境で育った人間一対がするものだから、
    折り合いをつけていかなければならないのも分かる。

    でも、紀子姉が色んなことを妥協して
    自分を殺していく様なんて見たくなかった。
    そんなのは似合わない。
    表情をなくして行く紀子姉を想像しただけでぞっとした。
    嫌なモノを嫌だと言って何が悪い。
    子供じゃないんだから理解しろというのか。吐き気がする。

    勧めるのはいい。だが押し付けるのは違う。
    宗教ってそういうものじゃないだろう。

825 :50:2008/04/13(日) 01:10:48 ID:/w7XUWcS0
    ノ紀子姉、遅いな。
    何か歌いながら待つか。

    これが流行の一人カラオケか。
    数曲歌っているうちに
    紀子姉が別れると言ったのだから
    オレが怒っているのが変な気もしてきた。

    っていうかどんだけ待たせるんだよw
    焦らされてお預け食らっているような感じ。
    オマエラなら分かるはずだwww

    「ごめんね、けい、お待たせ」
    どこかスッキリしたような紀子姉。
    ま、いいか。と許せてしまう心境もオマエラなら分かるはずwww
    いや、分かってくれ。

826 :50:2008/04/13(日) 01:11:28 ID:/w7XUWcS0
    「ね、あれ歌ってよ久しぶりに」

    はいはい。ぴ。
    This ain't a love song

    本当、いつの曲だよ。
    いまや洋楽歌うのは痛いヤツなんだぜ。
    だが、聴きたい人が実際に目の前にいるのだから歌わない理由はない。

    昔、カラオケに行くたびに歌えと言われたなあ。
    ダメだwww体力がついていかない。
    ヘロヘロになりながら歌い終えると
    紀子姉が拍手してくれた。

    「相変わらずうまいね。じゃあお返しに」

827 :50:2008/04/13(日) 01:14:32 ID:/w7XUWcS0
    おとぎ話の続きを見たくて
    すぐ側のものは見えなかった

    一番の歌詞に何故か、過去の紀子姉を重ねて
    二番の歌詞に今を重ねた。

    紀子姉歌うますぎワロタ。オレはエルレこんな上手に歌えない。
    もう最後のサビだ。
    勿体無い。もう少しこの声を自分だけのものにしていたい。

    どうしても「君」に会いたいと思った♪

    紀子姉がこっちを指差した。
    オレもだよ。目を見ただけだが伝わったと思う。
    二人で笑った。

855 :50:2008/04/14(月) 00:38:16 ID:EAVjgraM0
    部屋の電話が鳴る。フリータイムってすぐなのな。
    改めて事後じゃないからなw

    「お願い、けれど空は青、最後にもう一回歌って
     さっきは涙で歌詞があまり読めなかったの」
    おk。もう泣くなよ。
    ASKAは何を思ってこの曲を書いたのだろう。

    もしも涙で地図が濡れてもけれど空は 空は青

    こんな歌詞逆立ちしても書けない。
    この歌詞のためだけに作られたメロディー。

    女の子はころっとイクかもね。
    とは紀子姉の談。

857 :50:2008/04/14(月) 00:39:29 ID:EAVjgraM0
    だから、泣くなって言ったのに。
    確か、延長はできないと言っていたな。

    紀子姉がオレの後をついてくる。
    入ってきたときとは逆だな。
    お金を払うとき店員がこちらを訝しげに見ていた。
    まあ、後ろで女の子が目を腫らしていたら引っかかる罠。

    再び駅前に出る。
    ベンチで少し休憩。
    「またお化粧直さなきゃw」

    確かに、目も鼻も赤くして薄めの化粧もまばらになっていたが
    今まで見た一番綺麗な紀子姉だった。
    多分、これまでになく清清しい表情だったからだろう。

858 :50:2008/04/14(月) 00:40:56 ID:EAVjgraM0
    「私ね、本当は昨日けいから電話もらった時に
     別れるって決めてた。他力本願だけどw
     けいがまた私を見つけてくれたら、私も決心しようって」
    また紙一重なことするなあこの人。

    「新幹線に乗って、記憶に任せてけいの家に行って
     チョコレートおいて帰るだけ。
     それでも私には、あの日と同じくらい勇気が必要だった」
    暖かいと思ったら、朝は曇っていたのに
    いつの間にか陽光が地面にしっかり到達していた。

    紀子姉を見ている。
    「もし、けいが気付いてくれなければ
     私は結婚する覚悟をしようと思ってた。
     あなたに大事な選択を委ねてしまったね」

859 :50:2008/04/14(月) 00:42:10 ID:EAVjgraM0
    「それでね、待ってても全く電話が無くて
     昨日も仕事で失敗して、家に帰ったら
     自分が悲しくなって、虚しくなって」
    ノ酔うほど飲んでしまった、と。

    「まあ、過ぎたことはいいとしても危ない橋渡るんだな」
    少し喉に違和感を感じる。歌い過ぎたかノ。
    「いいじゃない、けいでダメなら何してもダメだもん」
    「もし、オレがあのテキストで気付かずに
     アキやお母さんに紀子姉の電話番号聞いてたらどうする」

    「はっ。考えてなかった」
    「wwwそーなのか」紀子姉の頭を撫でてやる。
    「改めて、ありがとう。ごめんね」
    「もう、いいよ。しかしいい天気だな」
    「ノふふ、そうだね」

860 :50:2008/04/14(月) 00:42:50 ID:EAVjgraM0
    「でも、あの夜から全部変わったんだよね」
    「うん」
    思い出す。紀子姉を抱いた日を。
    あの奇跡の瞬間が二人の間に作ったものは大きかった。
    時が一定に進まない空間。
    全てを支配したと勘違いしてしまいそうな感覚。
    そして、寂しさの種。

    あの日がなければ、紀子姉は
    オレを頼ろうなんて思わなかっただろう。
    あの夜、紀子姉に電話が繋がったことが
    ここまで未来を変えたんだ。
    同じことを考えていたのか、紀子姉が言う。

    「責任とってくださいよ、けい」
    「くぁwせ(ry」

861 :50:2008/04/14(月) 00:43:56 ID:EAVjgraM0
    ※プライバシー保護のため音声を変えてあります。

    「急にボールが来たので」







    ああ、空が眩しいなあ。

    「ふふ、嘘だよ」
    紀子姉、嘘つくの下手すぎだろ、常考。
    「ね、今からどうする?明日は仕事?
     ノノあ、電話。ちょっと待っててね」

862 :50:2008/04/14(月) 00:45:31 ID:EAVjgraM0
    電話に集中している紀子姉を眺めながら、ちょっと落ち込む。
    この期に及んで何の覚悟も持っていなかった。
    何も考えずにプロポーズした宗教家と
    考えすぎて、意気地も無くて付き合おうとも言えないオレ
    どちらも馬鹿だと思った。

    紀子姉が電話を切り、少し真剣そうにこちらを見る。
    「ノけい。」
    そのいかにも真剣な話します的な目は何ですかw
    「もう、うちのお父さんノノダメかも」
    「何!?どうしたの??」

    ノ病気なのか。
    あの元気玉みたいなおっさんが。
    次の紀子姉の台詞を固唾を飲んで待つ。


930 :50:2008/04/16(水) 00:19:58 ID:xkjwl+L80
    「他の女の人と家出したみたい」
    サラッと言う紀子姉。
    「w」
    不謹慎だが、吹いた。
    「あはは。何かお母さん吹っ切れてた」
    「笑ってていいの?」オマエモナ。

    「うん。お母さん、もうしんどそうだったし
     別れれば、ってアキと一緒に勧めてたんだ
     ノなかなか煮え切らなかったけどね。
     これで良かったような気がする」
    「そうか」
    事情も知らないし、口は出すまい。
    まああのおっさんだし、今日も元気でいるだろう。
    一瞬吹き抜けた風が懐かしい何かを運んでいった。

932 :50:2008/04/16(水) 00:20:42 ID:xkjwl+L80
    「ちょっとお腹空いたね」

    自分のことや両親のこと、仕事のこと
    色んなことを背負っている紀子姉は
    しんどい筈なのに背筋が真っ直ぐ伸びている。
    それは、同情をかけられたくないとか、
    強がりとかでは決してなく、
    人生に真摯に向き合う美しい姿だった。

    「何か食べようか」
    「うん!けいに任せます」
    「じゃあ、オレが作ろうか?」

    「うち来るの?」
    「いや、冗談」
    「なーんだノ本気にしたのに」

933 :50:2008/04/16(水) 00:21:26 ID:xkjwl+L80
    「そーいや、アキの結婚式出席してくれるんだよね」
    「うん。行くよ」
    「もうあと一ヶ月かあ。我が妹ながらやりおるわw」
    運ばれてきたケーキセットに目を移しながら
    嬉しそうに紀子姉がはしゃぐ。田舎の朴訥とした喫茶店も悪くない。

    どうやら、紀子姉とアキとその婚約者は三人で
    何度か会っているらしい。

    少しの沈黙の間、明るい通りを見ていた。
    紀子姉に目を戻すと、同じように通りを見ながら笑みを浮かべていた。
    不思議な感じがする。

    「前もあったね、こんなこと」
    「あったあった」
    窓に映る紀子姉に話しかけられたことがあった。

936 :50:2008/04/16(水) 00:22:11 ID:xkjwl+L80
    「けい、私が何て言ったか聞かなかったもんね」
    「聞いて欲しい?」
    「えらそー。でももう既に伝えています。
     残念でした」
    「そうなの?」
    「あ、その様子は気付いてないね」
    「多分」
    何かあったっけ?

    「大事なこと?」
    聞き落としてるか忘れているなら申し訳ない。

    「うーん。けい次第だね」
    「うそ、教えて」
    「けいが本気で聞きたいと思ったら言うかもね」

937 :50:2008/04/16(水) 00:23:37 ID:xkjwl+L80
    「さっきね、カラオケ屋さんで
     しばらくいなかったでしょ、私」
    「ああ、いなかったねw」唐突に話が変わるのは女の性です。

    「あれね。彼に電話して別れたいって伝えてたの」
    「うおノ何、え?」
    言えよwwwww居合いの達人かお前は。あっさり切られたわ。
    「あの勢いがないと言えないと思ったから」

    「彼、何て?」
    「他に男がいるのかって問い詰められた」
    今日はやたらと剣先が喉元に来るな。
    「で?」
    「そんなわけないって答えたよ」

939 :50:2008/04/16(水) 00:25:02 ID:xkjwl+L80
    落胆と安堵に包まれる。
    「正直に伝えた。私にはあなたの家に嫁いで
     宗教に入ることはできませんって」
    うん。
    「そしたら、『そう』って」

    「元々ね、あのご両親に会った日以来、距離置いていたの。
     自信がないから考えさせて欲しいって」
    なるほど。それでバレンタインデーは
    うちに来ることができたんだな。

    「もし、男がいるって答えたらどうだったんだろうね」
    気になっていることを聞く。
    「怒ると思う。そういうの嫌いだと思うから」
    そりゃそうだ。
    「そこまでけいに迷惑かけられないよ」

941 :50:2008/04/16(水) 00:28:41 ID:xkjwl+L80
    「私が決めたことだから」
    オレが入り込む余地はないと紀子姉の目が言っている。
    自分で決着をつけなければいけないと分かっているのだろう。
    「今日だけで終わらないよな?」
    結婚の話が出てくるまで進んだ二人が
    電話のやり取りだけで「はいそうですか」とはならないだろう。

    「うん、もう一度会って話すことになるだろうね」
    一度区切ってオレの目を見る。
    「でも、多分別れてくれると思う」
    少しだけだが、彼が可哀想に思えてきた。
    「何でよりによって宗教家なんだろうな」
    誰に問うともなく、問う。我ながらなんという愚問。

    「彼は生まれたときからそれが普通なんだもん。
     だから、それを否定するのは人生を否定するようなもの」

943 :50:2008/04/16(水) 00:29:38 ID:xkjwl+L80
    「多分ね、彼なりに思うところはあると思う。
     過去の彼女ともそれが原因で別れてるし」
    その家に生まれなければ、紀子姉と結婚できたかも知れないのに
    幸せになるための一つの手段が原因で
    別れることになるとは、皮肉だ。

    そうまでして信じたい神か仏があるとは
    オレには信じがたいが
    それも他人の育った環境。オレが口を挟めることではない。

    一つ違えたらオレがその立場だったかも知れない。
    そして、一つ違えたらオレと紀子姉は
    全く交わることのない他人同士だったかも知れない。

    こういうとき何に感謝すべきなんだろうな。

962 :50:2008/04/16(水) 19:45:56 ID:xkjwl+L80
    >>953
    少し違うけどね。

    紀子母と不倫を指摘されて開き直るおっさんのバトル。
    「あんた、きっぱり女と別れてからアキの結婚式出なさいよ」
    「別れない」
    「大体何度目だと思ってんの。そんな有様でお目出度い席には出ないで頂戴」
    「はあ?アキはわしの娘だ。お前に止める権利ないだろ」
    「今のあんたに父親を名乗る資格はないでしょ」

    修羅場です。しばらくお待ち下さい。

    「お前と結婚したのが間違いだったわ!頼まれても結婚式は出ないからな」
    家出。こんな感じらしい。

    どう見ても最低の男です。本当にありがたくない。



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出典:従姉妹でハァハァ…(以下ry)×5
リンク:http://venus.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1208436069/
=========================================================

37 :50:2008/04/19(土) 04:39:43 ID:LWlDR9EI0
    話がよく分からない人や新しい人用。

    もう互いに連絡を取らないと決めたオレと紀子姉。
    しかし、紀子姉がバレンタインデーに
    オレの家までプレゼントを持ってきた。
    それがキッカケで再びオレは電話をし、紀子姉に会いに行くことになる。

    紀子姉は彼氏との別れを決意し、
    カラオケ屋で席を外している間に彼氏にその旨の電話をしていた。
    その後、図ったかのように紀子母も父と別れを決めたことを知る。
    エロくない癖にカオスな従姉話が新スレに突入してしまいました…。

    流石に三行は無理だったw

41 :50:2008/04/19(土) 04:48:25 ID:LWlDR9EI0
    「ありがとう」
    自然に口にしていた。
    「ん、どうかした?」
    紀子姉が不思議そうに顔を覗いてくる。
    「何でもありんせん」
    ちょっとそっぽを向いてみた。オレ演技派w

    「けい、もしかして喉痛くない?」
    なんだこいつサイコメトラーか。
    「どうして?」
    「少し声がおかしいよ。もしかして、歌い過ぎた?」

    「あ、それはあるかも。やけに一人で歌わされた気がするな」
    「はいはいwここはご馳走させてもらいます」
    「ご馳走したいなら、させてあげてもいいよ」

42 :50:2008/04/19(土) 04:49:50 ID:LWlDR9EI0
    「えー。この人けいじゃない」
    「オレだよ」
    「最近のオレオレ詐欺って進んでるよね」
    「そうだね」
    話が止まったwwwシュールw

    「明日は結局休みでいいの?」
    「うん、紀子姉は?」
    「休みですよー」
    そんなに都合よく休みが重なるかよ。
    本当は仕事じゃないのか、紀子姉。

    しばらく互いの仕事の話をする。
    「私、結構愚痴ってるね」
    「いつも良い子でいるのはしんどいからね。
     愚痴くらいいつでも聞くよ」

43 :50:2008/04/19(土) 04:50:47 ID:LWlDR9EI0
    「ありがと。けいの愚痴も聞くから」
    「オレ別にないよ」
    「なに世捨て人みたいなこと言ってるの。べー」
    どうやらオレが愚痴を言わないことにご不満な様子。

    ふと、香織さんの笑顔が頭をよぎる。
    帰ったら香織さんの話を聞いてあげよう。

    「どしたの?ぼーっとして」
    「いや、何でも」
    「この後は何か予定ある?」
    「あるように見える?」
    「なさそうだねw」
    「お察しのとおりです」
    「外出ようか」

44 :50:2008/04/19(土) 04:52:08 ID:LWlDR9EI0
    「寒いな〜」
    「ね」
    あてもなく歩く。

    「けい。今日帰るよね?」
    隣の紀子姉が俯きながら弱々しく訊ねる。

    質問の意味を理解する。
    泊まると言いたい。
    しかし、オレは一定の意思を以って答えた。
    「帰るよ」
    紀子姉に気付かれないようにしなければ
    いけないこともあった。

    「ですよね。はは」
    自嘲的に笑う紀子姉の表情を見たくなくて視線を外した。

45 :50:2008/04/19(土) 04:53:50 ID:LWlDR9EI0
    カッ。

    ブーツの高い音が鳴る。


    「ごめんなさい。少しだけ」
    囁くように言われて鳥肌が立つ。


    正面から両腕を首に回されれていた。

    少し遅れて
    紀子姉の背中に手を添えた。

    顎のあたりに紀子姉の額がある。
    (まずい。どうか、ばれませんように)

49 :50:2008/04/19(土) 04:59:09 ID:LWlDR9EI0
    少しなんて言うな。
    そう言う代わりに、オレは両腕に力を入れた。
    ずっとこうしていても良いくらいだ。


    「けい…」
    さらに力を強める紀子姉。

    しかし、その時間は長く続かなかった。
    埋めていた顔を離してオレの目を見る紀子姉。
    「あなた。もしかして熱あるでしょ」

    はいはい、瞬獄殺、瞬獄殺。
    カラオケ終わったあとくらいから
    何かしんどいな、って思ってたんだ。

50 :50:2008/04/19(土) 05:00:01 ID:LWlDR9EI0
    「風邪?」
    「ちょっと喉が痛いかな」
    看護師に嘘を突き通す自信はない。

    「取り敢えず、うちに来て」
    愛情半分、仕事半分ってとこか。
    凛とした紀子姉も素敵だ。
    オレの頬を優しく両手で包む。

    「気付かなかった。ごめん」
    今日は色々あって疲れているのに謝らないで。
    ばれる前に帰ろうと思ったのに。

    客待ちのタクシーに積み込まれる。
    一言も発する間もなく駅は遠ざかって行った。

52 :50:2008/04/19(土) 05:02:20 ID:LWlDR9EI0
    紀子姉のマンションにつく。
    どうやって部屋にたどり着いたかあまり憶えていない。
    ゆっくりできるという安心感が、逆に精神を弛緩させ、
    風邪の症状が表面に出始めるきっかけを作った。

    だるくなってくる。
    「ちょっとここで寝ておいて
     はい、水飲んでからね」
    言われるとおりにする。
    コップを置く。薄着になって布団を被る。
    記憶が途切れる―

    目を開けたら誰もいなかった。
    物音一つ聞こえない。

53 :50:2008/04/19(土) 05:05:59 ID:LWlDR9EI0
    Tシャツはかなり汗を吸っていた。
    寝返りを打つと本棚が目に入る。
    へー。結構本読んでるんだな。

    あ、あれが彼か。
    今時写真なんて飾るか、普通。
    やっぱり、当たり前だけど
    彼のこと好きだったんだろうな。
    暗い感情が湧き始めたが、良い香りのする温かい布団が
    心強い盾のようにオレの心を守ってくれた。

    上を向いてみる。
    何か天井の模様に意味を探してみる。

    「紀子姉…」
    返事がないことがこんなに悲しいこともある。

56 :50:2008/04/19(土) 05:10:00 ID:LWlDR9EI0
    喉が渇いたけど、立ち上がる体力もないので
    大人しく目を閉じる。
    出来れば、元気なときにこの布団で眠りたかった。
    そんなことを考えながら、また浅い眠りについた。

    夢の輪郭がはっきりしだす頃
    額に心地よい冷たさが触れた。
    「…紀子姉」当てられたタオルを手で押さえる。
    「はーい」
    オレは片目を開けて力なく微笑んだ。良かった。居た。
    「もう、いつから無理してたの」
    「無理してないよ」

    「じゃあ、馬鹿だね」
    「そうだな」
    「はぁ。おかゆなら食べられそう?」

57 :50:2008/04/19(土) 05:13:18 ID:LWlDR9EI0
    「それよりも喉が渇いた」
    「分かってるよ。こんだけ汗かいてるんだもん
     アクエリアスでいい?」
    すぐに手にグラスを持たせてくれる。準備がいい。流石。
    「上等」
    一気に飲み干した。

    紀子姉がゆっくりオレの額に手を当てる。
    「もう、私が一緒にいながら風邪引かせちゃうなんて…」
    横目で紀子姉の表情を確認する。髪くくってるんだな。
    真剣な顔と相まって、いつもより格好よく見える。

    「どこに行ってたの?」
    「買い物。重かったよー」
    気付けばベッド脇にゼリーやら飲み物やらが沢山おいてある。
    「www」

59 :50:2008/04/19(土) 05:14:18 ID:LWlDR9EI0
    「今何時?」
    「教えない」
    「何でだよwww」
    「聞かない方がいいよw」
    「教えてくれ」
    「教えたら、一つお願い聞いてくれる?」

    部屋を見回す。
    時計が目に入った瞬間目隠しをされた。

    「分かった分かった」
    「じゃあ、教えてあげる。9時半」

    覚悟はしていたが実際に聞くとびびる。
    頭で幾つかのルートが組み立てられる。

60 :50:2008/04/19(土) 05:15:13 ID:LWlDR9EI0
    今から帰れば間に合う。
    だが、身体が言うことを聞いてくれそうにない。
    新幹線に乗るのは重労働だな…。

    紀子姉が少し心配そうに見ている。
    「お願い言ってもいい?」
    ヤバイ。このままだと後手に回る。
    泊まって行ってとか言ってくれるなよ。
    「待っ」

    「折角作ったんだし、おかゆだけは食べて帰って」

    長年紀子姉と接している人間。
    そういうものだけに働く勘がある。
    その勘が言ってる。
    オレはここで泊まる。

71 :50:2008/04/20(日) 00:08:22 ID:LWlDR9EI0
    諦めると、まだ10時か、と思える。
    心に余裕ができると少しは楽しめるようになってきた。

    「はい、おかゆ。ゆっくり食べてね」
    鮮やかにとじられた卵の色が食欲を喚起する。
    その上でなめたけが光っていて、自然にスプーンに手が伸びた。
    今日は色々あったな。
    朧になっている頭で思い出そうと努力する。
    紀子姉が別れる決心をして、紀子母も別れる決心をして。

    「紀子姉、伯母さんは紀子姉のこと知ってるの?」
    「言いたかったけど、今日は言えなかった」
    「彼氏が居ることは知ってるの?」
    「うん。何回か話した」
    「じゃあ、びっくりするだろうね」
    「どうだろ?」

72 :50:2008/04/20(日) 00:09:22 ID:LWlDR9EI0
    「ごちそうさま」
    「いいえ。キレイに食べてくれてありがとう」
    「やっぱり伯母さんの子供だな。すげえ美味しかった」
    「お世辞は良いよ。簡単なものだから」

    と言いながらも紀子姉は
    軽い動作で茶碗を持っていった。
    機嫌はすこぶる良さそうだ。

    紀子姉が透明の器に盛られた苺を持ってくる。
    「けいさん、何ニヤニヤしてるんですか」
    「何か嬉しいなと」
    「嬉しいですか…風邪引いてるのに…ふふっ変な子」

    「ちょっと紀子姉こっち来て」

73 :50:2008/04/20(日) 00:10:25 ID:3uMlSoQr0
    「んー」
    オレが半身を起こして
    紀子姉がベッドの端に座る。
    苺をサイドテーブルに置いたのを確認してから。

    えい。
    「え、ちょwwwwwwっとwwwwwなwwにwwwすんの!!www」
    紀子姉vipperになれるぜ。
    「くすwwwぐらwwwwwないで」
    病身に鞭打ってくすぐり続けるオレ。アホだな。
    しばらくして解放する。

    涙目になりながら、うーうーうなって睨んでいる紀子姉が可愛い。
    気を抜いた刹那紀子姉の目が光る。
    「待たれよ、オレは病人だぜ」
    「問答無用!」

74 :50:2008/04/20(日) 00:10:54 ID:3uMlSoQr0
    あなたには武士の情けとかないのですか。
    笑いすぎて涙で視界がぼやける。
    笑いながら思う。

    本当に辛かったんだな。
    部屋着になっている紀子姉が
    目の前で楽しそうに揺れる。
    しばらく笑ってあげよう。

    …

    ……

    ………

    どうやらお前は調子に乗りすぎたようだ。

75 :50:2008/04/20(日) 00:11:35 ID:3uMlSoQr0
    二人では手狭な布団に引きずり込む。
    額を寄せ合って笑う。

    「そういうとこ変わらないね」
    「何がだよ」
    「そうやって相手に悟られないように気を遣うとこ」
    「悟られてるwww」
    「風邪なんだから無理しないでね」
    「しないしない」

    「私のせいで引いた風邪なんだし
     絶対に、私が看病するからね」
    「もう帰りたくなくなったし、お手柔らかにお願い」
    「ご一泊でよろしいですか?」

76 :50:2008/04/20(日) 00:12:14 ID:3uMlSoQr0
    「タダ?」
    「どうしようかな」
    頭を撫でてみる。
    「ん…まあ風邪だし、それで許すか///」

    こういうやり取りは楽しくて仕方がない。
    空気の読める相手がいてこそ。

    「ふぅ。笑いすぎたら涙一杯出てきた。けいのせいだよ」
    恐らく笑ったことだけにる拠る涙ではないだろう。
    いいんだ。誤魔化しであっても涙を流せばスッキリする。

    「彼氏と別れて、お父さんが家を出て
     でも、思ったほど寂しくない」
    「良かった」

77 :50:2008/04/20(日) 00:13:04 ID:3uMlSoQr0
    「本当にありがとう」
    「いいよ。オレも下心があったのかも知れないぜ?」
    失言だった。

    「あっても…いいよ」
    自然な流れで抱き合う。

    でも、オレにはこれ以上できなかった。
    「ダメだよ、紀子姉」
    少し腕に力を入れて紀子姉を真っ直ぐ座らせる。
    「オレはそんなことをしに来たんじゃない
     最初は軽く考えてたけど、今は違う。
     紀子姉、今は逃げないで。全力で応援するから」

    「ごめん、そうだね。私、お風呂入ってくる」
    寂しそうに紀子姉が言った。放っておかれた苺が濡れている。

78 :50:2008/04/20(日) 00:14:04 ID:3uMlSoQr0
    間違ってなかったと思いたい。
    風邪が多少酷くなろうが、抱こうと思えば抱けた。
    でも、そんなに軽い存在であって欲しくなかった。

    オレは一度紀子姉と別れを決めたときから
    今に至るまでに強くなれたと思っている。
    だから、紀子姉にも今を乗り越えて欲しかった。
    オレから離れて、他の男と結婚しようとしたけど
    やはりその男とも別れると決めた。
    その手段がオレだったら滑稽だろう。

    きっとオレの役目は背中を押すところまで。
    紀子姉は今、お風呂で泣いているだろう。
    ただ解ってくれることを祈った。

79 :50:2008/04/20(日) 00:14:46 ID:3uMlSoQr0
    オレは、うつらうつらしながら苺をくわえていた。
    美味しいなあ。
    温くなっていたが、それが逆に甘味を感じさせた。

    僅かに聞こえていたドライヤーの音が止んだ。
    「何自分だけ苺食べてんの」
    「ああ、紀子姉の分も残してあるよ」
    「私は、また明日にする。
     けい、今日何回謝ったか分かんないけど、ごめんね」
    「気にすんな。自分を大切にして欲しかっただけだよ」
    「私、今日は看護師だもんね」

    微笑む紀子姉の目に闘志が秘められているのを感じた。
    大丈夫だろう。
    心配するようなことじゃなかったな。

80 :50:2008/04/20(日) 00:15:22 ID:3uMlSoQr0
    「取り敢えず、水分は沢山摂って」
    「はい」
    「あと、今更だけど、ロキ○○○服む?」
    「よく分からないけど貰うわ」
    「よし、これで、今日はおやすみなさいしよっか」

    紀子姉がベッドの横に布団を引いた。
    「おやすみ」
    「紀子姉………手、貸して」
    「うん」
    紀子姉の右手を両手で包む。
    この後二言三言交わしたが、すぐにオレは寝てしまった。


    そして、予期せぬ決戦の日が始まる。


113 :50:2008/04/23(水) 23:50:55 ID:gRdUfjzS0
    夢を見ていた。
    しかし、それは目を開けた瞬間に消えた。
    何の夢だったかも思い出せない。

    どこだここは。
    隣にはきちんとたたまれた布団があった。
    そうか、紀子姉のマンションだ。
    微かに紀子姉の声が聞こえる。

    電話で話しているのだろう。
    オレを起こすまいと気を遣ってか
    隣のダイニングキッチンで話していた。

    …違う。
    もう一つ聞いたことのない声が混ざっている。
    オレは耳を澄ました。

114 :50:2008/04/23(水) 23:51:37 ID:gRdUfjzS0
    「玄関の靴は誰の?明らかに男物だよね」
    「今従弟が泊まってるんだ」

    「へえ、そんなバレバレの嘘つくんだ」
    「本当だよ」
    「…まあいい。会わせろよ」
    「今風邪で寝てるの、寝室には行かないで」
    「嘘は良いって」
    「嘘じゃない」

    一瞬の間。

    「馬鹿にするな!昨日振っといて、もう新しい男か!
     昨日言ったよな。新しい男じゃないって」
    一気に心臓が高鳴る。このプレッシャーは半端じゃない。

115 :50:2008/04/23(水) 23:52:50 ID:gRdUfjzS0
    「違うって言ってるじゃない!どうして信じてくれないの」
    「事実じゃないか」

    何だこれ。何でこんな展開になってるんだ。
    ガラッ。寝室のドアが開く。

    「よく寝てられるな」
    紀子姉が必死に入らないように男を止める。
    出来れば一生対面したくなかった男がオレを見据えている。

    「紀子姉」
    「けい、ごめん。彼なの」

    「僕を無視するな!お前、説明しろよ!」
    オレと紀子姉のやり取りのどこが気に食わなかったのか
    男は必死に声を荒げた。何というbeautiful Sunday

116 :50:2008/04/23(水) 23:53:29 ID:gRdUfjzS0
    凍りつく部屋。
    「オレは、けいと言います。紀子姉の従弟です」
    「よく出来た口裏合わせだな」
    「本当ですが」
    きつく睨みそうになるが、熱くなってはいけない。

    「僕は暴力は嫌いだが、お前は殴ってもいいか」
    恐らく人を殴るのには適さない細い腕が震えている。
    そんなに殴りたいのか。少し覚悟する。
    「○○!」
    紀子姉が一歩こちらに近づいた男の腕を引っ張る。

    「じゃあ、この布団はなんだ。
     隣で紀子が寝ていたんじゃないのか」
    「だから、風邪引いてるって言ってるでしょ。
     従弟だし何もないよ」

117 :50:2008/04/23(水) 23:54:47 ID:gRdUfjzS0
    「卑怯だな、お前。黙ってないで何か言えよ」
    何だこの高圧的な口調は。
    「オレは紀子姉の従弟です。
     熱があったので一晩休ませてもらいました」

    「今日はな、オレと紀子は出かける約束をしてたんだ。
     どう責任とってくれるんだ」
    「オレとは関係なくないですか」
    ダメだコイツ早く(ry。スイーツ(笑)かよ。
    紀子姉が涙目になっている。今日休みって本当だったんだな。

    「お前が従弟だっていう証拠を見せろよ」
    「名乗るだけじゃダメですか」
    「免許証を見せろ」
    見てどうにかなるもんじゃないだろと思ったが、
    面倒なので財布から抜いて渡す。

118 :50:2008/04/23(水) 23:55:12 ID:gRdUfjzS0
    「住所は、紀子の実家の近くなのか?」
    「そんなに遠くありません」
    「適当に答えるな!お前が紀子の従弟であるという
     証拠を見せろと言ってるんだよ、僕は!」
    何この取調べ。放られた免許証を拾う。

    「分かったよ。私が実家に電話をかけるから」
    紀子姉が諦めたように男に言う。
    「紀子姉、その前に」
    オレは男を見た。

    「もしオレが従弟だって証明されれば紀子姉から手を引いてください」

    男は『お前にそんなこと言われる筋合いはない』
    とでも言いたげに凄い勢いでオレを睨んだ。
    今思えばその通りなんだがな。 


161 :50:2008/04/26(土) 23:53:13 ID:NlrxS+yE0
    オレは男から目を逸らし、トイレに立った。
    「紀子姉、かけといて」
    「お前、絶対逃げるなよ」
    男が釘を刺してくる。本当に釘が刺さったように反応するオレの身体。
    こんな臆病で紀子姉を守れるか。まだ喉が痛むことに今更気付く。
    洗面所の鏡に映る自分を睨む。冷水で顔を叩く。
    よし、戻ろう。

    「もしもし、お母さん、忙しいときにごめんね。
     今けいが来てるんだけど、少し話してくれない?……けい、早くしろって」
    携帯電話を受け取る。
    「もしもし、伯母さん、お久しぶりです。
     忙しいところ悪いんですが、一つお願いしたいことがあります」
    「なに、言ってみ」
    後ろで厨房特有の古臭い金属音が聞こえる。一人だし、忙しいんだろうな。
    「今、オレが紀子姉の従弟だって証明して欲しいんです」

162 :50:2008/04/26(土) 23:55:45 ID:NlrxS+yE0
    「紀子姉の彼 だ っ た 人に換わります」
    頼む、これで解ってくれ、伯母さん。
    男の顔から血の気が引いていく。
    無言で電話を男に渡す。
    男の手からは最初の勢いが削がれていた。

    「もしもし」
    仕方なく電話に出る男。
    ここからは、後に伯母さんから聞いた話で補完。

    「けいに頼まれたから言うけど、
     けいは紀子の従弟だよ。それ聞いてどうすんの?」
    「いえ。紀子さんの家に一人男がいるので、
    不審に思いまして」
    男は明らかに不機嫌な様子でボソボソ返している。

163 :50:2008/04/26(土) 23:56:37 ID:NlrxS+yE0
    「あんたは、うちの娘が信用できないの」
    「そういう訳ではありませんが、
     同じ部屋で寝るのはおかしくないですか」
    「昔からよくあったけど。結局何が聞きたいの」
    「いやでも、もう大人ですよ」
    「とにかく、けいは紀子の従弟だよ
     いつも世話になってんだから、声聞き間違えたりしないよ」
    「そうですか」

    コイツ。一方的に電話を切って紀子姉に投げて返しやがった。
    男は立ち上がった。
    「じゃあ、紀子。なんで別れるって決めたんだ」
    今度は標的が紀子姉に向く。
    紀子姉から聞いていた人物像とかなりかけ離れている。
    人は余裕を失ったときに本性が現れるって本当だな。

165 :50:2008/04/26(土) 23:57:39 ID:NlrxS+yE0
    「昨日も言ったとおり」
    紀子姉が説明を始めようとすると、
    それを遮るように紀子姉の携帯が鳴る。
    「ちょっと、ごめんね」
    「電話出てる場合じゃないだろ」
    男の声を半ば無視して紀子姉が通話ボタンを押した。

    「はい。うん。うん」

    「○○。お母さんが話したいって」
    電話を男に差し出す紀子姉。もう投げつけていいよ。

    「なんだよ…」
    とブツブツ言いながら受け取る男。
    何か知らんが、不愉快だ。

166 :50:2008/04/26(土) 23:59:11 ID:NlrxS+yE0
    「あんた、紀子と結婚も考えていたんでしょ」
    「はい」急に男がかしこまった。

    「さっきのは、嫁の母に対する電話対応ではないね」
    「どこがですか」
    「解らないならいいよ。
     そこに紀子がいるなら言っときな」
    「何をですか」
    「結婚は許さないって」
    「ご両親の許可がいるとは思えませんが」
    「それは誘拐じゃないの
     と に か く、あんたはうちには相応しくないから」
    「あ」プツッ。

    一方的に切られやがった。ざまあwww
    伯母さん、旦那さんのこともあってよっぽど頭にきたんだろうな。

167 :50:2008/04/27(日) 00:00:57 ID:UsQ/wEDr0
    電話の内容が大体どういうものかを察したのか、
    紀子姉は淡々と自分が別れる決心をした理由を語る。

    男は戦意を喪失したらしく聞いているのかいないのか
    分からない表情でじっとしていた。
    「紀子は絶対に不幸になるよ」

    「そうかもね」
    紀子姉が真っ直ぐに瞳を見て答える。
    「でも、それは誰にも分からない」

    「僕には分かる」テラ電波w
    「いいえ、分からない」
    「強情だな。もういい。紀子は自分で幸せを放棄したんだ。
     後悔してからでは遅いからな」
    悲しそうに男を見た紀子姉が痛かった。

169 :50:2008/04/27(日) 00:03:05 ID:UsQ/wEDr0
    「帰る、ここの部屋にいるだけで気分が悪い」
    「分かった」
    「止めてくれないんだな」
    「もう、○○とは違う道を歩き始めてるから」

    男は、玄関に向かう途中で一度こっちを見た。
    睨んでいるのか、悲しんでいるのか判らなかった。
    デジタル時計が無常に流れる時を無機質に刻んでいる。

    オレも立ち上がろうとしたが、
    思い直し、見送りは紀子姉に任せた。

    「ふう……」風船に穴を開けたように力が抜ける。
    男が紀子姉に暴力を振るわなかったことに安心した。
    全力で止めるつもりではいたが。

171 :50:2008/04/27(日) 00:03:58 ID:UsQ/wEDr0
    「けい、巻き込んでごめんね」
    「紀子姉が無事で良かった」

    紀子姉からの情報で状況を補完していく。

    紀子姉は、彼がどうしてもと言うので
    距離を置いてはいたが、今日の約束は守ろうと思っていた。
    (紀子姉に何を仕込む気だったのか
     宗教の集会だか会合だかに行く予定だったらしい)
    しかし、昨日別れを切り出したことで
    行く必要が無くなったと紀子姉は思っていた。

    結果的にそれは紀子姉の思い込みで
    彼は集会に何としても行くつもりだったらしく、紀子姉を迎えに来た。

    すると玄関に男物のスニーカーがあった。

173 :50:2008/04/27(日) 00:06:09 ID:UsQ/wEDr0
    「でも、けいのことは隠す必要はないと思ったの」
    疚しいことがない、と言えるギリギリのラインだったと思う。
    昨夜に限っての話だが。

    彼の立場で言えば、惨めな終わり方だっただろう。
    胸にちくりと罪悪感を感じる。
    「オレがいなかったら、すんなり別れられたかも知れないのに」
    オレがいたために話が余計にこじれた。
    知らない男が泊まっていたら浮気だと思うに決まっている。
    決め付けてかかるのも無理はない。
    実際オレはグレーゾーンなのだから。

    「私は、けいが居て良かった」
    「そうかも知れない。でもオレが居なかったら」
    「居てくれたし、心強かった。自分を責めないで」

174 :50:2008/04/27(日) 00:06:50 ID:UsQ/wEDr0
    「もともと私が蒔いた種だもん」
    「…」
    否定はできない。
    どうあれ、別れたのだ。
    オレはもう偽善者でいるのは止めようと思った。
    別れて欲しいと願ったし、口にも出した。
    その口で彼に対する情を吐くのは間違っている。
    体調が悪かったとは言え、ここに泊まったのも事実。
    同じ部屋で寝たのも事実だ。

    「紀子姉、指輪、彼に貰ったんだよね」
    「え?」
    「前つけてたやつ」
    今回は一度も見ていないが、
    恐らくどこかにしまっているだろう。

175 :50:2008/04/27(日) 00:09:03 ID:UsQ/wEDr0
    「よく見てたね。そうだよ、彼から貰ったの」
    「良かったら、オレに預けてくれない?」

    「なんで?」
    躊躇っている内心がありありと分かる。
    オレの目から何かを探ろうとしている。
    紀子姉を無言で見つめ返す。

    「けい、先にお母さんに電話していい?」
    「もう忙しい時間帯過ぎてるの?」
    「日曜はずっと忙しいからね…迷惑ついでに」
    いいよ。と笑って、オレは飲み物を貰うことにした。
    ずっと喉がカラカラだ。

    「お母さん、さっきはごめんね」
    「何でそっちにけいがいるの」

241 :50:2008/04/29(火) 23:38:40 ID:qbaOECIz0
    「けいが、こっちに出張で来てるから一緒に食事をしたの。
     そしたらけいが熱出しちゃって、それでね
     急に泊まるとこないから家に泊まってもらったの」
    紀子姉が平静を装って喋っている様子を
    笑いを堪えながら見ていた。オレ出張じゃ無いんですけどwww
    ときどきオレの膝をたたく素振りを見せる紀子姉が可愛い。

    「ふうん。でさっきの男は、前聞いた彼?」
    「そう、でも別れるって決めて」
    「けいが浮気相手だと思われたんだね」
    「そうなの」
    「あんたもいい歳なんだから、
     ふらふらしてないで、しっかりしなさい」
    「ごめんなさい」
    「ちゃんと彼と別れたんでしょうね。あの男はダメだわ。
     いざとなったら身内にも冷たくなるタイプ」

242 :50:2008/04/29(火) 23:39:16 ID:qbaOECIz0
    「そう、かもね」少し表情が翳る。
    「あんたは危なっかしいんだから
     変な男にだけは捕まらないでよ」
    「はーい」
    どうも、紀子姉も伯母さんには頭が上がらない様子。
    「あと、けいに換わって」

    何か説教されそうでドキドキする。
    「けい、ごめんねえ。変なことに巻き込んで」
    「泊まったオレが悪いんですよ」
    「まあそれもある」
    否定してくれないwww流石。
    「紀子は大丈夫そう?」
    声のトーンを落として聞く意味ないぜ。電話だし。
    「見た限りでは」横目で紀子姉を見る。

243 :50:2008/04/29(火) 23:40:06 ID:qbaOECIz0
    「あんたがそう言うなら大丈夫なんだろうね」
    「だと良いんですが」
    「男なら自分の勘に自信を持ちなさいよw」
    「サーセンwww」
    「もう昼の準備するから切るよ」
    「はい」
    「紀子に、男なんかいくらでもいるんだから
     あんまり気にするなって言っといて」
    「おk」

    一本の電話で空気が軽くなった。
    紀子姉も少しテンションが上がったようだ。

    「伯母さんが ↑ みたいなことしみじみ言ってたよ」
    「お母さん、自分に言い聞かせてるのかなw」

244 :50:2008/04/29(火) 23:41:01 ID:qbaOECIz0
    「あるあ……あるあるwww」
    「私に似て負けず嫌いだからね」
    「紀子姉が似たんだろうw」

    笑いながらも、
    これで、本当に結婚が破棄になるのかな
    なんて少し不安になった。
    そして、彼はもう現れないと仮定して
    オレはどうしたいんだ。

    不安の枝はどんどん伸びて
    さらに枝分かれし、いつの間にか
    心にどんどん絡んでいった。
    顔が引き攣っていくのが分かる。
    この考え方はやばい。
    一人歩きする不安がこちらを振り返って嘲う。

245 :50:2008/04/29(火) 23:42:16 ID:qbaOECIz0
    『付き合おう』と言うのか。
    紀子姉が何と答えるかは分からない。
    このタイミングで言えるのか。
    タイミングの問題だろうか。

    もし、付き合っても良いと言われたら。

    頭を振ってみる。考えられない。
    ……一度仕切りなおそう。

    「紀子姉、今日は体調もマシだし帰るわ」
    「今から?」
    「うん」
    紀子姉は引き止めなかった。
    満ちかけていた潮が引いていく。

246 :50:2008/04/29(火) 23:43:08 ID:qbaOECIz0
    「熱は下がった?」
    「ああ、大丈夫。紀子姉のおかげだよ」
    「そう、良かった」

    このとき額に手を当てられた後は、
    しばらく身体に触れられなかったし、触れなかった。
    お互い何かを意識しながら
    近づくことができない。
    紀子姉は昨日オレが諌めたことを
    まだ引きずっているのかも知れない。

    今日はそれでいい、と思った。
    彼と別れてまだ時間も経っていない。
    二人とも冷静になる必要があった。
    このまま一緒に居たら……。
    まだ昼にもなっていないけど、オレは帰る準備をした。

247 :50:2008/04/29(火) 23:44:40 ID:qbaOECIz0
    「家に着いたら連絡してね。ご飯もしっかり食べるんだよ」
    「分かった」
    「寄り道しないで帰るんだよ」
    「子供かオレはw」
    「違うの?」
    紀子姉の頭に触れそうになって、手を引く。
    駅の中で人目が気になったからではない。

    「けい、来てくれてホントに嬉しかった。
     私は来てくれただけでも十分過ぎるから、好きな人がいるなら遠慮しないでね」
    返しづらいこと言うな。
    何て言っていいか分からなくて
    「大丈夫だよ」
    とだけ呟いた。
    「ん?どう大丈夫なのかなー?」
    「好きな人なんていないよ」

248 :50:2008/04/29(火) 23:45:46 ID:qbaOECIz0
    既に2回電車を逃している。
    紀子姉はまだ話をしたそうだったけど
    きりがないから、3回目の電車に乗ることにした。
    今生の別れのようにこちらを見られると辛いものがある。

    「また来るから」
    右手を差し出す。
    女性らしい細い指がしっかり絡みつく。
    久しぶりに紀子姉の体温を感じた気がした。
    「次は私が行く番だよ」
    「何それ」
    「久しぶりにお母さんのお料理が食べたいし」
    「ついでか」
    「どうでしょう」
    はにかむ紀子姉を見ているとつい言いそうになる。
    『付き合ってください』と。

249 :50:2008/04/29(火) 23:46:53 ID:qbaOECIz0
    指輪、結局うやむやになったな。
    そうした悔いも
    駅から遠ざかっていくにつれ
    清清しいような気分に変わっていった。

    紀子姉に大きく一歩近づいた。
    まだ引き返せるところにいるのが自分でも
    『卑怯だな』と思うが、今日はもう考えないようにしよう。

    明日はまた労働だ。
    ほんの一日と少し家から離れただけなのに
    明日から仕事ということが信じられない。
    密度の濃い旅だった。

    そうだ。深呼吸も束の間、思い出す。
    香織さんにお詫びのメールを送ろう。

250 :50:2008/04/29(火) 23:48:04 ID:qbaOECIz0
    「昨日はごめん。ひと段落ついたから、
     また香織さんに合わせて時間作ります」
    「大丈夫ですか?
     流石に、今日はダメですよね?」

    相変わらず返事早いな。

    「そうだなあ。夕方には家に着くけど
     少し風邪気味だし、今日は休めた方が嬉しい」
    「じゃあ、看病しに行きましょうか?なんて嘘です(笑)
     また風邪が治ったら食事に行きましょう」

    香織さんのメールって何かこなれてる気がする。
    自分の中で無意識に好感度が上がっていくのが分かる。

    「分かった。また連絡する」

251 :50:2008/04/29(火) 23:48:49 ID:qbaOECIz0
    家についたらもう晩飯の準備をする時間に近かった。
    しかし、疲れていたオレはとにかく眠りたかった。

    嗽をして、楽な格好に着替える。
    香織さんからメールと不在着信があった。
    「無事に家に着きましたか?
     何か食べるもの持って行きましょうか?」

    とても頼りたい。
    近くにコンビニがあるから、と油断していたが
    晩飯を作る気力も再び外に出る体力もない。
    だが、相手の好意を逆手に取るなんてできない。
    夜道を一人で帰すわけにも行かないし、断ろう。

    「大丈夫、食べてるよ。ありがとう。
     今から寝るから返事できないかも」

252 :50:2008/04/29(火) 23:49:46 ID:qbaOECIz0
    寝ようとして、飛び起きた。
    紀子姉に電話しないと。

    「紀子姉、家着いたよ」
    「元気になった?」
    「まあまあ、かな」
    「昨日からありがとうね」
    「こっちこそ」
    「あ、けい。カバンに既製品だけど
     おかゆとか入れといたから温めて食べなよ」
    「mjdk!ありがとう」
    「ぬかりはないよ」
    「流石だなあ」
    「そんなもので感謝の足しになればいいんだけどね」
    「嬉しいよ」
    女神すぐるw本当に有難い。

253 :50:2008/04/29(火) 23:50:35 ID:qbaOECIz0
    おかゆを食べながら思う。
    紀子姉、香織さん、紀子姉。
    こんなに思ってもらえるなんて
    オレ、恵まれすぎているよな。
    だからこそ、オレは結論を出さなくてはいけない。

    幸せへ向かっていくアキからの
    結婚式招待状が眩く見えた。
    アキ。
    お前はどうやって結婚を決めたんだ。
    今まで想像したことすらなかった
    紀子姉のウェディングドレス姿。
    誰もいない、何もされていないのに
    心臓が一拍止まり、その反動で強い脈が流れる。

    その隣に立つのは誰だ。

254 :50:2008/04/29(火) 23:51:15 ID:qbaOECIz0
    「けいさん、明日はどうですか」
    オレの風邪が治ったことを報告した日に
    香織さんがくれたメール。
    オレも明日が都合良いので二つ返事でおkする。

    「こないだは、急に行けなくなってごめん」
    「いえ、いいんです」
    香織さんは、プライベートな話には立ち入ってこなかった。
    今日は、オレが話を聞かなくてはいけない。
    セクハラなんてよくある話だ。
    だが、受けている本人の話を聞けば
    よくある話で片付けられるものでないことが判る。

    辞めるという判断も止む無しか。
    困ったように話す香織さんを見てそう思ったが。

255 :50:2008/04/29(火) 23:52:21 ID:qbaOECIz0
    「オレが上司に掛け合おうか」
    出た言葉はどこかで変換されていた。
    人事もかじっているし、人事を司っている上司とも仲は良い。
    配置転換できる可能性もある。

    できればオレはこの手は使いたくなかった。
    幾分かの私情を含むこと。
    上司への話し方が難しいこと。
    他部署の仕事上あまり関係ない女性のことなので、
    変に勘繰られる可能性が高いこと。

    だが、香織さんが今の会社自体を嫌になったわけではないことと、
    事務処理能力に秀でていることがオレにそう言わせた。
    加えて、以前香織さんから頼まれていた
    オレが彼氏を演じるということがどうも良い案に思えないのもあった。

256 :50:2008/04/29(火) 23:54:04 ID:qbaOECIz0
    「いえ、それは、けいさんに迷惑がかかります」
    「そんなこと考えなくていいよ」

    「私、今の会社好きなんですよね」
    告白でもするかのように照れて言う。
    「オレもだよ」
    「だから、出来れば辞めたくないんです」

    少し暑くなってきたらしく、
    香織さんは上着を脱いで椅子にかけた。
    案外ボリュームのある胸が
    シャツの内側から主張している。

    目を逸らそうとする途中香織さんと目が合った。
    しまった、胸見たの気付かれたorz

257 :50:2008/04/29(火) 23:54:52 ID:qbaOECIz0
    居酒屋のカウンター席は誰かがどけば
    新しい客が来るといった感じで、適度に空き始めた頃には
    明日の仕事に影響が出ないか考える時間帯になっていた。

    「もう一軒行きませんか?」
    香織さん、お酒を控えめにしているとは言え
    そろそろ帰った方が良くないか。
    そう言おうか考えていると
    カウンター席の下でオレの左手に柔らかいものが触れた。

    「左手が寂しそうにしてました」
    香織さんに手を握られていた。
    その後香織さんは口数少なくなった。
    オレも香織さんもまだ酔いが足りない。

    紀子姉、ごめん。

287 :50:2008/05/03(土) 02:47:46 ID:dCQmg4r70
    街の光の所為か星は見えなかった。

    「オススメの場所があります」
    左手はつながれたままだ。
    握り返すような勇気も無く、香織さんに預けている。
    違う。
    オレはこんな展開を望んだ訳じゃない……。

    星を探しながら
    無言で香織さんについて行く。
    意地悪な夜風が背中を押す。

    左手の温もりは魅力的で
    酔いを回すには効果があると思えたが
    何故かオレは、次第に冷静になっていった。

288 :50:2008/05/03(土) 02:48:42 ID:dCQmg4r70
    香織さんの部屋は思ったほど遠くも無く
    通勤的にも便利な位置にあった。
    オススメの場所と言いながら
    喧騒を離れていった時点で予想はしていた。

    「さっきの言葉がけいさんへの告白でも
     同じ答えをくれましたか」

    『私、今の会社好きなんですよね』
    『オレもだよ』

    今更思う。
    香織さんは、オレへの思いをぶつけてくれている。
    直接言葉に表さずとも好きだと示してくれている。
    オレも何かを伝えないと。
    今の気持ちを素直に。

289 :50:2008/05/03(土) 02:49:30 ID:dCQmg4r70
    バレンタイン以来このスレのことがちらついていた。
    また書く日が来るのだろうか。
    そうなったとき、オレは胸を張って
    自分に嘘を吐かなかったと言い切れるだろうか。
    香織さんの覚悟に見合う返答をしなければいけない。

    「オレ、今好きな人がいる」
    「知ってますよ。だから元気なかったんでしょう」
    「流石……」思わず苦笑してしまう。
    「私ではダメですか」
    「本当にその人が好きなんだ。何十年も」
    「ストーカーw」

    腹を括る。この人には正直に話そう。
    「いや、従姉なんだ」
    「従姉!ですか」

290 :50:2008/05/03(土) 02:50:16 ID:dCQmg4r70
    かいつまんで話していく。
    香織さんは恋敵にとても興味があるようで
    飽きた様子も無くずっと聞いてくれた。
    「ほう!」とか
    「それで!」とか。

    大体話し終えて一息つく。
    「香織さんだけにしか話してないから
     絶対に誰にも言わないように」
    「あれ……?聞き間違いかな。
     さっき友達に助言貰ったって言ってませんでした?」

    「うっ」
    しまった。だから話すのは苦手だ。
    「いや、香織さんだけだよ」

291 :50:2008/05/03(土) 02:51:22 ID:dCQmg4r70
    「もしかして、
     私を振るための作り話じゃないですよね?」
    そういう疑い方ですかw

    「作り話でここまでしないよ」
    「本気なんですね」
    香織さんに言われてハッとする。
    そう、本気なんだ、オレ。

    「そこまで想ってもらえて羨ましいなぁ」
    「でもその従姉には、好きな人がいるなら
     遠慮するなって言われたよ」
    「で、他に好きな人はいませんでした、と」
    香織さんは笑いながら言った。彼女なりの気遣いだった。
    「もうさ、答え出てますよね」

292 :50:2008/05/03(土) 02:52:32 ID:dCQmg4r70
    次々と心を抉ってくるコイツは何者だ。
    「答え?」
    「分かってるんでしょう?」
    いつの間にかオレが相談しているみたいに見える件

    以下香織さんの台詞を抜粋
    「私、二人を応援したいです」

    「その従姉さん、素敵な人ですね」

    「さっきは、手をつないでスミマセンでした。
     けいさん、優しいから拒否しないだろうなって思って
     本当にごめんなさい」

    「けいさん、一度思いを伝えてスッキリした方が良いですよ。
     諦めたら私のとこに戻ってきて良いですからw」

293 :50:2008/05/03(土) 02:55:08 ID:dCQmg4r70
    香織さんが引き止めるのも聞かず
    タクシーに乗って帰った。

    紀子姉と話したい。

    女性にあそこまで言わせないと
    行動に移せないなんて、ダメすぎる。
    しかし、その反省とは裏腹に心が熱いもので満たされていた。
    ありがとう、香織さん。

    その気持ちを大切に保存するかのように
    携帯のボタンを押す。
    「もしもし、夜分にごめんね。オレだけど」
    「起きてるよ、けい」
    電話から届く紀子姉の息遣いは
    子守唄のように穏やかだった。

294 :50:2008/05/03(土) 02:56:35 ID:dCQmg4r70
    「こっちに帰ってくる予定はある?」
    「そうだね。そろそろ一回帰ろうかな」
    「もしさ、帰ってくるならうちに寄ってくれない?」
    「……どうしたの?」

    「伝えたいことがある」

    「大事な、こと?」

    「大事」
    言い切る。今を逃せば、もうない。
    二つの星の軌道が一つになれる瞬間は。

    「そっかあ」
    「そうです」
    「そっか。楽しみ」

295 :えっちな18禁さん:2008/05/03(土) 02:57:11 ID:fdKXFDhxO
    しーえーんー!!

296 :50:2008/05/03(土) 02:57:39 ID:dCQmg4r70
    「楽しみにするほどじゃないかも知れないけどね」
    「私は、けいに期待してます」
    「ハードル上げるなww」
    「上がったの?」

    「じゃあ、紀子姉もオシャレしてきて」
    「それは任せて。前の日からバッチリメイクするよ」
    「アホの子w」
    「アホって言うなー。でもけいの好きそうな服選ぶよ
     これで大事なことじゃなかったらガッカリですよね」
    「だから、緊張させるなwww」
    「じゃ、緊張解いてあげようか」
    「どうやって?」

    「ふふ、私が持っていったCDをパソコンに入れてみて」

297 :50:2008/05/03(土) 02:58:40 ID:dCQmg4r70
    あーあ。ヤラレタ。
    煙草を吸うなんて久しぶりだ。

    少しでも心を落ち着かせようと火をつけた
    ジタンの味はずっと忘れないだろう。
    結局、紫煙のように落ち着くことがなかった
    心の昂揚も記憶に残るに違いない。

    これで逃げ道はなくなった。
    もとより逃げることは考えてなかったけれども。

    約束の日が近づくことにドキドキしながら
    時間の流れのもどかしさにヤキモキする。

    そうだ。
    ずっと聴こうと思っていた曲があったんだ。

298 :50:2008/05/03(土) 02:59:36 ID:dCQmg4r70
    聴きながら思う。
    紀子姉が何故こんなに近い存在なのか
    恨んだこともあった。
    また、それと同じくらい、
    近い存在であることに感謝もしていた。

    しかし、もうそのジレンマも解消されつつあった。
    ここに書ききったあと
    気持ちが軽くなった反面、
    紀子姉との初めての交わりを
    文章にしてしまった自分に嫌悪感を持った。
    身を切る思いをして書いたところで
    紀子姉が戻ってくるわけもない。

    大切な思い出を晒してしまったんだ。

299 :50:2008/05/03(土) 03:01:16 ID:dCQmg4r70
    そうすることでオレにはもう紀子姉を
    想う資格が無くなれば良いとも思っていた。
    しかし、時間を追うにつれ、
    このスレを開くことが出来なくなっていった。

    このスレで勇気や暖かい気持ちを貰った。
    少なくとも日常生活に支障がないくらいに
    立ち直ることができた。感謝してもしきれない。

    でも、いくらスレを開いても
    文章化された紀子姉の時間は止まったままだった。
    痛いほど気付かされた。

    やっぱり、紀子姉が好きだったんだ。
    S t i l l l o v e h e r

300 :50:2008/05/03(土) 03:02:52 ID:dCQmg4r70
    3月に入ったものの、まだ寒い日が続く。
    昨晩は考えすぎてあまり眠れなかった。

    紀子姉が帰ってきたのはアキの結婚式が間近に迫った頃だった。

    今日の夜はアキと二人で思いっきり飲むとか言っていた。
    これからは姉妹二人っきりであまり話せなくなるから、と。

    「さて、約束どおり、わざわざ遠回りして
     けいに会いに来ましたよっと」
    「長旅お疲れ。ありがと」

    紀子姉の笑顔が光る。一度部屋を見渡す。
    ここでオレは紀子姉を抱いた。
    そして、紀子姉は去っていった。もうあんな思いはしたくない。

301 :えっちな18禁さん:2008/05/03(土) 03:03:30 ID:fdKXFDhxO
    涙が止まらない(´;ω;`)

302 :50:2008/05/03(土) 03:03:31 ID:dCQmg4r70
    長い道のりだったようで
    でも今日という日は何か小さい偶然達によって作られた
    必然だったような気もする。

    このスレに来たことも
    香織さんに会えたことも
    そして、再び紀子姉が姿を現したことも。

    これだけの要素が後押ししてくれているんだ。
    流石に鈍感なオレでも解る。自然と背筋が伸びる。
    ここで背くようなことはできない。
    早すぎる鼓動をなだめるように
    ゆっくりと口を開く。

    今までの人生を賭けた言葉は
    あまりにも単純なものだった。

303 :50:2008/05/03(土) 03:04:47 ID:dCQmg4r70







    「ずっと、好きでした。オレと付き合ってください」









355 :50:2008/05/06(火) 23:56:44 ID:tjuR0R920
    「けい、私」
    紀子姉の声を聞いて、自分が言ってしまったことを認識する。
    「紀子姉、今は返事は要らない」
    「……?」
    「それよりも、一緒に行きたいところがある」
    「う、うん」
    「今から時間は空いてる?」
    「まだ、しばらくは」
    紀子姉が微妙な表情をしている。そりゃそうだw

    外を出る準備をしている間に紀子姉に訊く。
    「紀子姉、今日はもともと休みだったの?」
    「今日は病気で休んだんだよ」
    「病気!?」
    「恋の病かな」
    本気で心配した自分がアホらしくなる。

356 :50:2008/05/06(火) 23:58:30 ID:tjuR0R920
    突き抜けるような青空が心を奮い立たせた。
    並んで歩く道は、もう少しすれば
    桜が一杯に咲き、道行く人を喜ばせるに違いない。

    紀子姉は俯きながら歩いていたが
    口許がほころんでいるのは判った。
    それだけで幸せな気持ちになって、
    今すぐ紀子姉を抱きしめたい衝動が湧き上がる。
    しかし、まだ冷静でいなければ。
    もう少し待て、と自分に言い聞かせる。

    ずっと無言で歩いていた紀子姉が
    とうとう話しかけてきた。

    「手、つないでもいい?」

358 :50:2008/05/06(火) 23:59:25 ID:tjuR0R920
    「どうしたの?」
    「つないでないと……けいが急に逃げていったら困りますから」
    「困りますか?w」
    少し意地悪く聞いてみる。
    口を尖らせる紀子姉もまた可愛い。

    「私、本気で走ったら速いからね」
    「知ってますw」

    「大体、勝手なんだよね、けい」
    「重々承知してるよ」
    「気持ち伝えるだけ伝えて、逃げないでよ」
    「断じて誓う。逃げない。後でちゃんと聞かせて」
    「最近、私、涙もろいんだから
     あまり不安にさせないでよ……」

359 :50:2008/05/07(水) 00:00:13 ID:tjuR0R920
    目的地にたどり着いたときに紀子姉の
    目が腫れていても良くないだろう……
    と自分に言い訳しながら手を差し出した。

    互いに温もりを求める二つの手は
    パズルのピースの様にしっくりと収まった。

    「紀子姉も十分勝手だよw」
    本当にこの従姉には振り回されたなあ。
    自ら望んで振り回された結果
    こうなっているので何とも言えないが。
    「私は女の子だよ」
    「アキみたいなこと言うなwww」

    「ここんとこアキを見習わなきゃなって思う」
    「そういうところは見習わなくていいw」

360 :50:2008/05/07(水) 00:00:49 ID:tjuR0R920
    「もうアキの結婚式だね。我が妹ながら天晴れだよ」
    「幸せへの最短ルートを行った感じだな」
    紀子姉がオレの言葉の真意を質すべく、
    顔を覗き込んできた。

    『私達は遠回り?』
    紀子姉の顔にそう書いてある。
    答えを返す代わりに手を心持ち強く握る。
    それに呼応するように紀子姉も力を入れた。

    改札を通るときも、電車に乗るときも
    その手が解かれることはなかった。
    横でずっと微笑んでいる紀子姉を見て
    幸せだな、と思った。
    でも、オレはまだこの幸せに浸ってはいけない。

361 :50:2008/05/07(水) 00:01:33 ID:ScepaU+00
    紀子姉は、そこに着くまで行き先を聞きはしなかった。
    途中からは分かっていただろう。

    ここに来たのは
    アキにプレゼントを持ってきて以来か。
    思っていた以上に、緊張する。
    何から話そうかずっと考えていたのに
    いざ、建物が見えてくると頭が白んでいく。
    ただ一つ決めていたことは憶えている。

    言うべきことを、真摯に伝える。

    「けい」
    さっき以上に紀子姉が手の力を強めた。
    「あはは、入ろうか」
    オレは緊張を悟られたくなくて、汗で濡れた手を解いた。

363 :50:2008/05/07(水) 00:03:27 ID:tjuR0R920
    丁度、昼の忙しい一時が過ぎて
    従業員も休憩を取り始めている時間。

    未来へ続くのれんをくぐる。

    「あら、これは珍しいお客さん」
    オレと紀子姉の普通ではない様子を察した伯母さんは、
    「取り敢えずお茶淹れるから待ってて」
    と客席にオレと紀子姉を座らせた。

    ほどなくして伯母さんがお盆を持って現れた。
    「あたしもいただいて良いかしら。喉が渇いて渇いて」

    「伯母さん、お久しぶりです」
    「どうしたのよ、そんなに畏まって」
    伯母さんは、怪談を恐れる少女のように見えた。

364 :50:2008/05/07(水) 00:04:12 ID:tjuR0R920
    恐れているとすれば、それは
    恐らくオレが今から伝えようとすること。
    伯母さんを見ていると、言えなくなってしまいそうで
    オレは目を閉じて口を開いた。

    「伯母さん」
    「はいよ」
    重い話は聞かせてくれるな、と
    わざと軽い調子の返事が返ってくる。

    それでも、言わなければ前に進めない。
    伯母さんを見て口を開く。
    「紀子姉と付き合わせてください」
    横で紀子姉がオレのシャツの裾を
    ギュッと掴んだのがわかる。
    「……それは、本気で言っているの?」


431 :50:2008/05/11(日) 00:24:34 ID:zXihY1rs0
    伯母さんの声が震えている。
    出来ればそれだけは聞きたくなかった
    そんな風に聞こえた。
    しかし、オレは告げた。
    「本気です」

    伯母さんが紀子姉の方を見る。
    「私からもお願いします」
    一瞬、伯母さんの表情に翳が差す。

    「はあ。お父さんがいないときで良かったねえ。
     あの人なら先ず、手が出てると思うよ」
    「あ、それは私も思う」
    「茶化すんじゃないよ」
    「……ごめんなさい」

433 :50:2008/05/11(日) 00:25:20 ID:zXihY1rs0
    こうなるのは分かっていたこととは言え、
    いつも明るい伯母さんが苦悶の表情を
    浮かべているのを見るのは辛かった。

    以前までのオレは、身内の人たちを悩ませてまで
    付き合いたいとは思っていなかった。
    祝福されないのは家族を大切にしてきた
    紀子姉が可哀想だったからだ。

    それでもオレがここに来たのは
    香織さんに教えられたから。
    このスレで勇気をもらったから。
    何より、祝福されずとも
    オレがそれ以上に紀子姉を幸せにしようと決めたから。

435 :50:2008/05/11(日) 00:26:42 ID:zXihY1rs0
    「あたしにはね、お兄ちゃんがいたの」
    伯母さんが犯罪者の自白のように話し始める。
    「でも、あたしが生まれる前に……」
    あまり聞きたくない話だったが
    目を背ける訳にはいかない。

    そういう土台を踏んでまで、
    この道を選ぼうとしているのだから。

    「お婆ちゃんは、そりゃ周りから
     非難もされたし、一度は自殺を図ろうとしたほど。
     この近辺に限らず、血の濃い結婚は望まれないんだよ」

    「結婚なんて、まだ……」
    紀子姉が呟く。
    「じゃあ、付き合ってどうするんだい」

436 :50:2008/05/11(日) 00:27:40 ID:zXihY1rs0
    伯母さんの話は続く。
    「お婆ちゃんは、従兄の他に旦那さんを迎えた。
     それが、今のお爺さん」
    ここまでの話だとは正直思っていなかった。
    世間体ではなく、この家自体が拒んでいるんだ。

    「紀子、あんたは、もっと周りの見える子だと思ってた」
    紀子姉が下唇を噛んでいる。
    「それから、けい、何でうちの子なんだい」
    頼むから、うちの子を攫ってくれるな。
    他に女などいくらでもいるじゃないか。
    静かな恨みを帯びた目つきが突き刺さる。
    心が折れそうになる。

    「オレは、ずっと、好きだったんです」
    一語一語やっとの思いで口にする。

438 :50:2008/05/11(日) 00:28:58 ID:zXihY1rs0
    「好きだけで付き合える間柄じゃないことは分かっているだろ?」
    「分かっています。だから来ました」

    「この間から、そうだったのかい?」
    紀子姉の部屋に泊まった夜を思い出す。
    あれは、今思えば悪い材料にしかならない。

    「いえ違います。今日初めて伝えました」
    泊まっていたという事実が、説得力をかなり削った。
    「その言葉、信じてもいいの?」
    「信じて」紀子姉が間髪入れずに言う。

    「紀子も、こないだの彼氏と別れたばかりで
     よくこんな話を持ってこられたもんだ。節操がないねえ」
    伯母さんの突いて来るポイントは至極まともで
    どう足掻いても分が悪かった。

439 :50:2008/05/11(日) 00:29:55 ID:zXihY1rs0
    それでも粘れるだけ、粘る。
    双方気分を害したまま終わっても何も生まない。
    しかし、オレ達は返す言葉を徐々に失っていき
    黙りがちになった。

    「あんたたち、何か喋らないと分かんないよ」
    ずっと伯母さんの目を見ていたオレは
    伯母さんも疲れていることに気付いた。
    紀子父のこともあったし、疲れて当たり前だろう。

    「伯母さん、もう一度だけお願いします。
     紀子姉と付き合わせてください」

    「……けい。本気なのは分かった。
     今日はあたしが預かっとくから、もう帰りな」
    落としどころ、か。

441 :50:2008/05/11(日) 00:31:08 ID:zXihY1rs0
    一口お茶を飲んで伯母さんは
    思い出したように言った。
    「……一応お婆ちゃんにも、言ってみ」

    元よりそのつもりだった。
    「分かりました」

    「あーあ、疲れたよ。紀子ちょっと肩揉んで」
    「はい」

    紀子姉が伯母さんの肩を慣れた手つきで揉んでいる。
    紀子姉はオレより伯母さんと過ごした時間の方が
    長いんだ、と実感する。
    「紀子、あんたを苦労させたくないんだよ」
    「分かってる」

442 :50:2008/05/11(日) 00:32:02 ID:zXihY1rs0
    「好き、なんて保証も無いんだから
     あてにするんじゃないよ」
    「うん」
    「これで、お前、けいに振られた日には目も当てられない」
    そんなことしない、と反射的に声が出そうになる。
    だが、それは結果でしか示せないことだ。
    口にしたところで、虚しく響くだけだろう。

    「私は、けいを信じたらダメ?」
    「あんたは信じてるから、こうやって一緒に
     来たんじゃないのかい」
    「そう、だけど」
    「じゃあ、あんたはその姿勢を貫くんだよ。
     女は女で、惚れた男を信じなさい。
     裏切られても、恨んだらダメだよ」

445 :50:2008/05/11(日) 00:33:33 ID:zXihY1rs0
    話の途中から、伯母さんが
    認めようとしてくれているのが伝わった。
    表向きに言わなくてはいけないことは
    全部言ってくれた気がする。

    オレは紀子姉と、お婆さんの部屋へ向かった。
    接客の現役を退いた今でも
    朝早くから農作業をしている元気なお婆さんだ。
    温厚なお婆さんが怒ったのは見たことがない。
    今日、もしかしたらそのお婆さんの怒り顔を
    初めて見ることになるのかも知れない。

    そう思うと気が重かったが、お婆さんに話もせずして
    隠れて付き合うなどオレが嫌だった。
    紀子姉も隠すのは嫌だっただろう。

446 :50:2008/05/11(日) 00:34:35 ID:zXihY1rs0
    「二人して、どうしたん?」
    お婆さんは、気の抜けるような笑顔で迎えてくれた。
    「お婆ちゃん、話があるんだ」
    「ん?何じゃろ?」
    人懐っこい独特の表情には、
    一筋縄ではいかなかった人生の跡が幾筋も刻まれている。

    「オレ紀子姉と付き合いたいんだ」
    「なんと……」
    「本気なんだ」

    随分と間が空く。
    中庭に差し込んでいる光が眩しい。

    「許さん、と言ってみたいが、さっきから
     紀子が鬼の様な形相をしとるからなあ、はっはっ」

448 :50:2008/05/11(日) 00:35:48 ID:zXihY1rs0
    「わしが言いたいのは、覚悟はあるか、の一言」

    お婆さんは、その小さい背中に何人分も苦労を背負って
    オレの母と、その姉である紀子姉の母を育ててきた。
    この人が苦労を耐えて生き抜いてくれたから
    今のオレと紀子姉がある。

    「あります」
    「私も、あります」
    お婆ちゃんへの誓いは結婚式での神への誓いよりも重いに違いない。
    自然に背筋が伸びる。

    「あるんなら、紀子もけいも久しぶりだからゆっくりしてけ。
     漬物でも出してやるから」

451 :50:2008/05/11(日) 00:37:34 ID:zXihY1rs0
    「ほお、それにしても、あんたら二人がなあ。
     わしは難しいことは分からんが
     今の時代でも結婚できるじゃろ、従姉弟同士なら。
     姉弟に生まれなくて良かったなあ」

    お婆さんの一言一言が暖かい雪のように
    身に降りては染み込んでいく。
    紀子姉が泣いている気がしたが、
    オレは何も言わなかった。

    お婆さんは、あまり他人に意見をしない。
    本人がそうしたいと言うなら、そうしろと言う。
    やりたいようにしても、誰も何も言わんから、と。
    苦労してきたからこそ至った境地だと思う。

    しわがれた手で漬けられた漬物は最高の味がした。

453 :50:2008/05/11(日) 00:39:06 ID:zXihY1rs0
    「ついでだ、陽子(紀子母)も呼んできな」

    お婆さんが何を話すかは分からなかったが
    オレは、伯母さんを呼びに行った。

    「なに、お母さん。もう夜の準備しないと」
    「まあ、ゆっくりしていけ」

    オレと紀子姉の隣に伯母さんが遠慮がちに座る。
    「陽子。お前の兄は確かに弱かった。
     それでもな、わしは、好いた人との子だから、
     産んだとき、それは嬉しかった」

    断っておくが、オレも紀子姉も
    そんな話をしてくれとお婆さんに言った訳ではない。

454 :50:2008/05/11(日) 00:40:04 ID:zXihY1rs0
    「死んでしもうたときも、本当に悲しんだ。
     でも、従兄との子だから弱くって死んだ
     なんていっぺんも思ったことはない」

    誰も口を挟めない空気ができあがっていた。
    春を予感させる陽射しが窓を貫いて部屋まで降りている。

    「そう思うのは、生まれてきてくれた子に失礼な話だわ。
     周りの人間が好き勝手言うのは自由だが
     わしは、今でもその子を忘れた日はない。
     わしの子は、わしの子。陽子も夏子(オレの母)も同じじゃ」

    母親というものの片鱗を見た。
    ずっと、三人の子供の母親だったんだな。

    「兄は他の女を見つけて出ていきおったけどなあ」

455 :50:2008/05/11(日) 00:41:04 ID:zXihY1rs0
    どういうドラマがあったかは知らないが
    お婆さんの従兄は、お婆さんを守るために
    姿を消したのだと想像した。
    自分が悪者になることで、お婆さんが弱い子を
    産んでしまったということから周りの目を逸らせたんだ。

    「けい。辛いことがあったときこそ
     紀子についてやっとくれ」

    お婆さんの目は慈愛に満ちていた。
    お婆さんの後ろにある仏壇が静かにこの部屋を見ている。

    「陽子、呼び立ててすまんかったなあ」
    「お母さん。あたし、夜の準備が」
    伯母さんは、涙を隠すように立ち上がった。

456 :50:2008/05/11(日) 00:41:42 ID:zXihY1rs0
    帰り際に伯母さんに呼び止められる。
    「妹にも、一応伝えておきなよ。
     伯母さんは応援するから」

    忘れていたわけではないが、
    確かに、うちの親にも話をしなければ
    紀子姉も落ち着かないだろう。

    「けい、もう私の答えは必要ないかも知れないけど言うね」
    「うん」

    「私で良かったら、一緒にいさせてください」
    「ありがとう」

    オレと紀子姉は、初めてわだかまりのないキスをした。
    嬉しい、嬉しい、と紀子姉は泣いてくれた。

542 :50:2008/05/14(水) 01:07:56 ID:eTKWld3x0
    「……というお話だったのサ(AA略」
    「素敵!良かったですね!」
    「香織さんのおかげだよ。ありがとう」
    「そんな。私こそ、けいさんにお礼言わないと」
    「それこそいいよ」

    結局、その後セクハラオヤジは異動が決定し、
    香織さんは仕事を続けてくれることになった。

    「でも、どんな技を使ったんですか」
    「一番丸く収まりそうな方法を提案しただけだよ」
    「もうちょっとkwsk」
    「仕事はできる人だから、適当に役職与えて配置換え」
    「けいさん偉そうwww」
    「頭も使いようだよ。オレはあの人別に嫌いじゃないしね」
    「私も嫌いじゃなかったんですけどねw」

546 :50:2008/05/14(水) 01:10:11 ID:eTKWld3x0
    社長の前で「あのオヤジと一緒に仕事がしたい」
    と駄々をこねてみたら案外上手く行っただけのことなんだが。
    あのオッサン本当に仕事はできるし、人望もそこそこある……はず。

    「何ニヨニヨしてるんですか」
    「春だなあと思って」
    「今度、絶対彼女さんに会わせてくださいね」
    「何にでも積極的だなw」
    「うっ……けいさん、それは!」
    「いや、これはちが」

    女性というものは恐ろしい。
    香織さんは鮮やかな手つきでポケットから携帯電話を盗んでいった。
    「へー、けいさん、プリクラなんか撮るんだ」
    「これは、出来心で///」
    「何照れてるんですかwww」

547 :50:2008/05/14(水) 01:11:29 ID:eTKWld3x0
    「嬉しいよ」
    「普通の感想www」
    「箸が転げたらおかしい年齢でもあるまいに
     何にでも笑うなw」
    「いや、そうですけど、笑えるときに笑っておくんですよ」
    「昼から真面目に仕事しなよw」
    「私はいつも真面目ですよw」
    「香織さん、本当にありがとう」
    「いいえ、どういたしましてwww」
    「笑いすぎだろう」
    「いいんですよw今は、好きなだけ笑わせてください」

    「分かったよ。笑え笑え」
    「ねえ、けいさん、もし……」
    「ん?」
    「やっぱり何でもないwwwあはは」

548 :50:2008/05/14(水) 01:12:35 ID:eTKWld3x0
    「……というお話だったのサ(AA略」
    「えらく、仲良さそうですねえ」

    紀子姉の目が怖い。
    「そ、そんなことないよ」
    「その人、何を言おうとしたか分かる?」
    「分かるような分からないような」
    「分からないことにしてあげてください」
    「はーい」
    これ以上の追及は特になかった。

    「けいのご両親、案外アッサリだったねw」
    「ああ、何となく分かってたけど。
     あんだけアッサリだとメールで
     済ませても良かった気がするなw」

549 :50:2008/05/14(水) 01:13:37 ID:eTKWld3x0
    「アキには言ったの?」
    「うん、迷ったけど言った」
    「なんて」
    「おめでとうございますって」
    「ほお、普通だ。ヤツも大人になったのか」
    「けいには、時間かけすぎって言っとけって」
    「前言撤回w余計なお世話だ」
    「そうそう、『私達にはこれだけの時間が必要だったの』
     って言ったら鼻で笑われた」
    「ムカつくwww」
    「でしょーwww
     この世に姉より優れた妹などいないって言っといたわ」

    さてさて、明日はそんな妹様の生涯一度の晴れ姿。
    どうなることやら――



580 :50:2008/05/18(日) 21:29:12 ID:MMfKQiWL0
    ――三月吉日。

    まだ一度も着ていなかった白いシャツに袖を通す。
    目を細めてしまうくらいの眩い白だ。
    今日という日に相応しい。

    「あらあら、馬子にも何とやら」
    「けい、お前いいシャツ持ってるな」
    「おろしたばっかりだしな」
    お祭り前に目を輝かす子供のように
    うちの父母がはしゃいでいる。

    「けい、いつまでも髪の毛いじってないで」
    「はいよ」
    「とろとろしてたら、おいて行くわよ」
    勝手にうちに来たくせになんて言い草だ。

581 :50:2008/05/18(日) 21:30:13 ID:MMfKQiWL0
    「おい、けい、何か食い物ないのか」
    「勝手に冷蔵庫開けんな」
    「お前、披露宴までは何も食えないんだからな」
    「そうなのか?」
    「このゼリー美味そうだな」
    お前が持っているのは、紀子姉がくれたゼリーだ。
    何故か大切に残してある。
    「食ったら縁を切る」
    「お父さん、この食パン焼きましょうか」
    「頼む、母さん」
    お前ら何しに来た。

    「だから、おいて行くって言ったでしょ」
    「いや、あんたらがのんびりパン食ってたからだろ」
    「食パンなんて時間かかるものしかないのが悪いんだ」
    「そんなこと言ってる間に外出とけよ、遅刻すんぞ」

582 :50:2008/05/18(日) 21:31:12 ID:MMfKQiWL0
    紀子姉はこんなカオス一家を楽しい家族だと言う。
    幼少期、両親と十分な時間を過ごせなかった
    紀子姉からしたら羨ましいのかも知れない。

    (うちの家においで)
    なんてプロポーズの言葉としてはセンス無いよな。
    そもそも、まだプロポーズは早いだろ。
    ……なんという幸せな悩み。
    電車の荒っぽい揺れさえ心地良い。

    結婚式会場に向かうというだけで
    否応無く結婚を意識させられる。
    今日一日もつのか、オレw

    心の準備もほどほどに、どんどん時間は迫っていく。

583 :50:2008/05/18(日) 21:32:21 ID:MMfKQiWL0
    これがあのアキか。

    会場に来る誰もが、ハッと息を飲んだ。
    間違いなくアキがこの日の主役だった。
    隣の新郎は、自慢げに新婦を鑑賞している。
    この絵画の様な瞬間を永遠に残そうと
    幾つものフラッシュが二人をかたどる。

    少し街から離れた場所にある洋館風の会場。
    そこで二人は永遠の誓いを交わした。

    淡い水色のドレスを着た紀子姉も十分に美しかったが、
    やはりウェディングドレスは女性の最高装備だろう。
    キスのあとに、大人びた微笑を浮かべる姿は
    そこに大輪の花が咲いたと錯覚させる。

584 :50:2008/05/18(日) 21:33:37 ID:MMfKQiWL0
    紀子姉と目が合った。
    そのとき、互いに何を考えていたかは分からないが、
    考えた末に至った点が同じだったことに喜ぶ。

    式はそれぞれの心に厳かな気持ちを残した。
    誰もが引き締まった微笑で披露宴の会場に移動する。
    親族のみがその場に残り、互いの親族を紹介した。
    そして記念撮影。

    一通り済んでオレらもそろそろ披露宴の会場に移動か、
    というとき、会場のスタッフに声をかけられる。

    「少しお時間よろしいですか」
    オレと紀子姉のみが小声で呼ばれ、
    皆とは別のところに連れて行かれる。

585 :50:2008/05/18(日) 21:34:26 ID:MMfKQiWL0
    通されたのは、新婦の控え室。
    スタッフは、時間が押していることを
    アキに伝えて部屋を出て行った。

    「アキ、どうした?」
    何を問いかけて良いかも分からない。
    「いやいや、けいくん。水臭いんじゃない」
    紀子姉を見ると、首をかしげている。
    「ん、紀子姉のこと?」
    「そうそう……ちょっと待ってね。
     もうすぐ旦那様も来るから」
    ますます何がしたいかよく分からん。
    しかし、いつものアキの声だったので緊張が解かれた。

    微妙な沈黙を破って新郎が入ってきた。
    「無理言って、すみません」

586 :50:2008/05/18(日) 21:35:29 ID:MMfKQiWL0
    「時間が無いから、言うね。
     けいくん。ここでオネエとキスして」
    「ばっ「何?」」
    オレと紀子姉が同時に口を開く。

    「私ね、ずっとオネエとけいくんが付き合ったら
     良いなあって思ってたんだ。
     旦那様、この二人はね、長い間好き同士だったくせに
     つい最近から付き合い始めたんだよ」
    「そうなんですか」
    と驚きながらも、次の句は
    図々しいを通り越して清清しいものだった。

    「ごめんなさい、お義姉さん、けいさん。
     オレ今日だけはアキの願いは全て叶えてやりたいんです。
     お願いできませんか」

587 :50:2008/05/18(日) 21:38:09 ID:MMfKQiWL0
    なんてこと。

    再びアキが新郎に向かって口を開く。
    「この二人のキスを見せてもらったら
     私達もずっと好き同士でいられる気がするの」

    人前でキスなんて罰ゲームだろw
    紀子姉にテレパシーを送る。

    「それに、今日を逃したら、私がこんな我が儘
     言えるときないから」

    「オレらが結婚したらそのときに見られるじゃないか」
    我ながら苦しい。

    「だ か ら 私達のためだけに見せて欲しいの」

588 :50:2008/05/18(日) 21:39:23 ID:MMfKQiWL0
    「もう時間無いんだから、二人とも向かい合って」

    オレと紀子姉は半ば強制的に
    向かい合わせに立たされる。

    「けい、汝はこの女を妻とし」
    待て。そのパターンはずるいだろwww
    紀子姉が吹き出している。オレもつられて吹き出す。
    「ほらほら、新婦が神父役なんて滅多にないんだから」

    わかったよ。
    そこまで言うならやってやろうじゃないか。
    照れ笑いを隠せないまま、アキの文言が終わるのを待つ。

    「誓います」

589 :50:2008/05/18(日) 21:41:07 ID:MMfKQiWL0
    紀子姉が顔を赤らめながら
    オレに小声で「ありがと」と言った。

    アキは満足そうに頷き、次の言葉を発した。
    そして、一呼吸置いてから紀子姉が言った。

    「誓います」

    「では、誓いのキスを」

    やられたな、紀子姉
    やられたね、けい

    品のあるグロスの乗った唇にかかっている髪を
    少し除けてやり、オレは目を閉じた――

591 :50:2008/05/18(日) 21:42:41 ID:MMfKQiWL0
    「私、仕事辞めることにしたの」
    「なんで?」
    オリーブグリーンのワンピースが風に踊っている。

    「もっとけいと一緒にいたいから」
    確かに、今の距離では一週間に一度どころか、一ヶ月に一度会えるかどうかだ。
    「いいの、気は遣わないで。もう退職願も出したから。
     それに、親孝行もできてないしね」
    気丈に仕事を今まで以上にこなす伯母さんを、
    少しでも支えてあげたいのだろう。
    本当はこれが一番の理由かも知れない。

    オレには反対をする理由がなかった。
    「オレ年収400ちょいだよ」
    「なーに、遠まわしにプロポーズ?
     いいじゃない、私も働けば。看護師は売手市場だよ」

593 :50:2008/05/18(日) 21:44:49 ID:MMfKQiWL0
    7月からはこっちで暮らすんだ。
    また紀子姉が戻ってくる。そう思うだけで胸が熱くなる。

    駅まで見送った日が懐かしい。
    戻ってくるの遅すぎるよ。
    「けい」
    手を握られた。と思ったが硬いモノが手のひらに触れる。
    前の彼が紀子姉に送った指輪だった。

    憶えていてくれたんだな。
    「ありがとう」
    しばらく並んで歩いたが、オレは思い立ったように
    助走をつけて、できるだけ遠くの土手に指輪を放り投げた。
    「あらあら」
    紀子姉が他人事のように笑う。

595 :50:2008/05/18(日) 21:45:46 ID:MMfKQiWL0
    「掃除する人に謝っておきなよ、けい」
    「ごめんなさい」
    マジで、ごめんなさい。

    「私もね、ずっとけいのことが好きだった」
    「急にどうした」
    「伝えたくなったの」
    自然に身体を寄せ合う。

    「言いたくても言えなかったのに、
     今は、言っても誰からも何も言われないんだよ」
    「すごいことだよな」
    「本当にすごい。もっとけいのこと知りたい」
    「オレも紀子姉のこと知りたい」
    「そうやって、お互いが知ろうとすれば
     自然とお互いのことが分かっていくんだろうね」

597 :50:2008/05/18(日) 21:47:42 ID:MMfKQiWL0
    「ずっとそんな関係で在れたら良いな」
    「けいがそう思ってくれていれば、そうなるよ」
    影が一つに見えるほど重なって歩く。
    この道が、どうか途切れませんように。
    ふと、後ろを振り向くと
    曲がりくねった道がどこまでも続いていた。

    そうだ、これからは二人で行ける。
    オレと紀子姉だったら大丈夫。
    そう思わせてくれる温かい道だった。

    オレの部屋が遠くに見える。またここに戻ってきた。
    オレと紀子姉が一度は離れることを決めた場所。
    あの日をやり直せるなら、と何度思ったことか。
    今日のような日がまた来るなんて。

598 :50:2008/05/18(日) 21:49:17 ID:MMfKQiWL0
    「ただいま」
    紀子姉の第一声が嬉しかった。

    オレは溢れ出そうな感情を押し留めるように
    紀子姉を後ろから抱きしめた。
    「けい……」
    オレの両腕を華奢な両手で優しく包んでくれる。
    「今までできなかったこと、いっぱいしようね」
    「大切にするからな」
    「ありがとう。先ずは、ご飯作りましょうか」

    そう言えばお腹空いたな。
    出来上がるまでキッチンに来るな、と言われ
    仕方なく隣室に引き返す。

600 :50:2008/05/18(日) 21:51:49 ID:MMfKQiWL0
    紀子姉がくれたCDをパソコンに入れる。

    1 ZUTTO
    2 TSUNAMI
    3 Top of the world
    4 ありがとう
    5 イージューライダー
    6 少年時代
    7 天体観測
    8 Marie
    9 スターフィッシュ

    窓越しに伝えてもらった言葉の正体。
    ――ずっとあいしてます、か。
    本当に思い切ったことをしたもんだ。
    ちらとキッチンで卵と格闘している紀子姉を見る。

602 :50:2008/05/18(日) 21:52:53 ID:MMfKQiWL0
    アイシテルとケチャップで書かれた
    美味しそうなオムライスを泣く泣く食べた。
    「また作ってあげるから」
    と半ば呆れた顔で紀子姉がオレの頭を撫でる。

    「またここに戻ってきたな、おかえり紀子姉」
    「ホント、二人して約束破ったね」
    「こんな未来が待っているとは」
    「そうだね、ふふ」
    「結果的に従姉弟で良かったよな」
    「これから、いっぱい愛してくださいね」
    「それは、今日も…ってこと?」
    「……チュッ、もちろん♪」

    今年の春は、人生で最高の春となりそうです。

出典:従姉妹でハァハァ…(以下ry)×4 & ×5
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