1 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:17:23.31 ID:vLqKmyu00 月日は無常なほど早く流れ、ドラえもんが未来に帰ってからもう数年がたった。 僕は中学三年になっていて、ジャイアンやスネオ、しずかちゃんと同じようにひとつひとつ大人に近づいていった。 ドラえもんがいない寂しさにも、もうなれた。 朝起きて、押入れを確認してうなだれるようなことも、なくなった。 思っている以上に僕は強かった。 みんなの手助けがあったからかもしれないが、ドラえもん抜きでもうまく生きてこれた。 テストで0点を取ることもなくなった。さすがに、このままではまずいと自分でもわかっていたから。 ジャイアン「よう、のび太。今日も早いな」 7 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:20:00.87 ID:vLqKmyu00 のび太「ジャイアン」 ジャイアン「今日も朝練か?」 のび太「うん」 ナイキのスポーツバッグは、ずっしりと重い。 中学に入って僕は陸上部に入った。 運動神経がない僕でも、走るくらいなら出来るだろうと思って入部したのだ。 今思えば、僕は昔からジャイアンから走って逃げていたし、短距離に限るならそこそこ早かったのだ。 ジャイアン「もうすぐ俺たちも引退だしな」 のび太「うん。次の大会に、すべてを出し切るよ」 9 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:22:53.03 ID:vLqKmyu00 ジャイアン「俺ももうすぐ夏の大会だ。四番として打てるのも、それまでだな」 のび太「勝てそうかい?」 ジャイアン「勝つ、さ」 ジャイアンはそういって親指を立てて見せた。 のび太「じゃあ、また教室でね」 練習は、きつい。 今日の朝練のメニューは、200メートルを四本、二セット。 のび太「ふぅ……」 しずか「お疲れ様、のび太さん」 のび太「しずかちゃん」 13 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:26:01.05 ID:vLqKmyu00 しずかちゃんは、マネージャーとして同じく陸上部に入っていた。 彼女は水の入ったボトルを僕に手渡して、タオルで僕の額の汗をぬぐってくれた。 のび太「ありがとう」 しずか「すごい汗。あんまり無理しないでね」 のび太「無理はしてないよ。なんたって次が最後の大会だからね」 しずか「そうね」 のび太「ああ、そうだ。最後に一本だけ100mをはかってくれないかい?」 しずか「100m?いいわよ」 のび太「ありがとう」 アップシューズで、100mを12秒30。 のび太「最後の最後で、11秒は出せそうだな……」 僕は小さくガッツポーズをした。 15 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:28:56.63 ID:vLqKmyu00 部活があるといっても、最後の大会があるといっても。 僕たちはなにを隠そう受験生なのだ。 教室の雰囲気はどこかぴりぴりしていて、今の時期から既に机にかじりついて勉強しているやつもいる。 出木杉も、その一人だ。 スネオ「おお、のび太」 のび太「スネオ」 机に座って勉強していたスネオが、僕に気づいて言った。 20 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:31:35.52 ID:vLqKmyu00 スネオ「また練習か?がんばるな」 のび太「スネオこそ、また勉強かい?」 スネオ「まぁ……な。受験まであと半年くらいだしな。慶應の中等部には、どうしても行きたいし」 のび太「そっか」 スネオ「お前は、大丈夫なのか?」 のび太「何が?」 スネオ「何がって、もちろん受験さ」 のび太「ああ……」 スネオ「もう、遊んでる余裕はないんだぜ」 のび太「わかってるよ。僕だって、少しは勉強してる」 スネオ「まぁ、確かに成績は上がってるよな」 26 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:34:05.05 ID:vLqKmyu00 まじめに勉強すれば、成績はついてきた。 僕は努力がたりなかっただけなのだ。 のび太「でも最後の大会までは、しっかりと走りたいんだ」 スネオ「そうか。まぁ、それもそうだよな。ジャイアンも、最後の試合だってがんばってるし」 のび太「大会が終わったらみんなでそろって勉強しようよ。しずかちゃんも誘ってさ」 スネオ「いいな。それ。びしびし教えてやるよ」 のび太「助かるよ」 僕らは笑った。 31 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:37:36.37 ID:vLqKmyu00 昼休み。 けだるい授業から開放されて、僕は大きく伸びをした。 しずか「のび太さん」 のび太「しずかちゃん」 伸びをして視線をずらした先に、しずかちゃんがいた。 手にはお弁当を持っている。 しずか「天気も良いし、一緒に食べない?」 のび太「どうしたのさ。久しぶりだね、一緒に食べようなんて」 しずか「たまには、一緒に食べたくなるの」 のび太「わかったよ。ちょっと待ってて」 僕は鞄から弁当を取り出そうとした。 出木杉「のび太くん」 35 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:41:28.02 ID:vLqKmyu00 不意に出木杉の声がした。 僕をじっと見据えている。僕は姿勢を正して出木杉と向かい合った。 のび太「なんだい?」 出木杉「あ、いや……」 出木杉は急に視線を足元に落とし、もぞもぞと口を動かしていった。 出木杉「あの、僕もしずかちゃんと……」 のび太「しずかちゃんと……?」 出木杉「……いや」 のび太「なんだよ、はっきり言えよ、よくわからないじゃないか」 僕は笑っていった。 しかし、出木杉の顔からは、笑顔が消えていた。 出木杉「……なんで君なんだよ」 42 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:44:51.27 ID:vLqKmyu00 不意に発せられたその言葉の真意を、僕はうまく理解することができなかった。 出木杉の、ぎゅっとにぎられたこぶしは少しだけ震えていた。 出木杉「なんで、僕じゃなくて、君なんだよ!」 さっきよりも大きな声で、出木杉は言った。 のび太「出木杉……?」 出木杉「僕は、しずかさんがっ!」 しずか「待って」 沈黙を守っていたしずかちゃんが言った。 しずか「私の答えは、もう伝えたはずよ」 出木杉「……」 のび太「……?」 よく、わからない。 49 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:47:58.64 ID:vLqKmyu00 出木杉「でも……!」 しずか「何度も、言わせないで」 しずかちゃんのその言葉には、有無をいわせない何かがあったと思う。 出木杉「僕のほうが勉強も出来て、スポーツも出来て……なのに」 しずか「それはわからないわ」 しずかちゃんは言った。 しずか「それにね」 彼女は続けた。 しずか「あなたは、あなたが思っているよりも」 僕は黙っていた。クラスが黙っていた。 しずか「ずっとずっと馬鹿だわ」 60 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:50:53.23 ID:vLqKmyu00 雰囲気が一気に重くなった教室を二人で逃げ出して、僕らは屋上に出た。 屋上は立ち入り禁止。 知ったことじゃなかった。 しずか「ごめんなさい」 屋上に出て、開口一番にしずかちゃんは言った。 しずか「あんなこと言うつもりじゃなかったのに……」 のび太「大丈夫だよ」 何が大丈夫なんだろう。 しずか「のび太さんが馬鹿にされている気がして」 のび太「僕は気にしない」 しずか「ならいいのだけれど……後で出木杉さんに謝っておかなくちゃ」 彼女は言った。 65 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:54:58.46 ID:vLqKmyu00 ママの作ってくれたお弁当と、しずかちゃんのお弁当と。 比べてみて、どちらがおいしいかと問われれば、ごめんなさい、ママ、しずかちゃんのほうが100倍おいしいです。 何がそうさせているのかわからない。見た目は同じ卵焼きなのに。 のび太「どうすればこんなにおいしくできるの?」 しずか「そういってくれて、嬉しいわ。どうすれば……は、よくわからないわ」 僕らは二人して、よくわからない、というのが口癖らしい。 二人で談笑しながらお弁当を消化して、食べ終わったら床に背をつけて二人で空を見上げた。 青い空に、くもがまばら。 僕らはぼんやりとそれを眺めていた。 78 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 22:59:05.56 ID:vLqKmyu00 午後の授業が終わって、部活の時間になった。 本メニューは、スタート練習30m×3、50m×3、100mの加速走、6本。 のび太「ひゃー、きついな」 でもまだスピード練習だからいいかな、と僕は自分に言い聞かせた。 100mの加速走のタイムは、11秒2から11秒3の間。 土のトラックで、土ピンの走りにしては、上出来だと思う。 先生「野比、これなら次で11秒がでるかもな」 のび太「出るといいですね」 先生「怪我に気をつけろよ」 のび太「はい」 僕は笑っていった。 86 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:04:01.60 ID:vLqKmyu00 練習の後、しずかちゃんを家に送ってから、僕は一人空き地にやってきた。 土管は昔から変わらずそこにある。 僕は動きやすい格好になると、軽く体操をしてスプリントドリルを始めた。 陸上の基本動作というのは、まさに変人の動きだと僕は思う。 腿上げはただのキモイ足踏みだし、クロスもなんかキモイし。 のび太「ふぅ……」 ある程度メニューを消化したそのとき、不意に声がした。 ジャイアン「よう、のび太」 のび太「ジャイアン」 ジャイアン「また練習か?がんばるなwww」 のび太「そういうジャイアンは?」 ジャイアン「練習だ」 90 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:06:48.98 ID:vLqKmyu00 のび太「君もじゃないかww」 ジャイアン「まぁな。のび太は練習、もう終わりか?」 のび太「いや、まだやるよ」 ジャイアン「そうか。じゃあ、俺の素振りが終わったらラーメンでも食いにいこうぜ」 のび太「いいね。そうしよう」 ジャイアン「それにしても……」 のび太「どうした?」 ジャイアン「俺たちも、変わったよな」 のび太「そうかい?」 ジャイアン「変わったさ。特にお前は」 のび太「僕には、よくわからない」 ジャイアン「まぁいいさ。でもお前、だいぶかっこよくなったよ」 ジャイアンは言った。 92 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:09:29.35 ID:vLqKmyu00 僕はラーメンは家系がいい、と言った。 しかしジャイアンは二郎がいいといって譲らない。 のび太「とんこつ醤油、食べたいじゃないか!」 ジャイアン「いや、これだけ腹が減ったんだから野菜マシマシに決まってるだろう!」 のび太「わーっかった!ここはジャンケンしかないな……僕パー出すっ!」 ジャイアン「わかった……!俺はチョキだ」 のび太「いくよ、じゃんけん!」 …… 正直者は、得をしない。 96 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:13:35.43 ID:vLqKmyu00 時は重なり、日々も重なり、大会までの時間はどんどん少なくなっていく。 スネオ「もう8月かぁ」 のび太「今月はもう大会だよ」 ジャイアン「俺も俺も。まぁがんばろうぜ」 スネオ「その後は君たちも勉強だね」 のび太・ジャイアン「はぁ……」 スネオ「まぁ、僕がしっかり教えてあげるよ」 のび太「ところでさ」 スネオ「ん?」 のび太「しずかちゃんて、どこの高校いきたいか知ってる?」 101 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:17:09.35 ID:vLqKmyu00 スネオ「しずかちゃん?あー……あの成績なら日比谷とか西とかじゃないの?」 のび太「やっぱそうかなぁ」 スネオ「っていうかお前、一番しずかちゃんと一緒にいる時間長いんだから聞いてみろよ」 のび太「なんか聞きにくいんだよ……。差を見せ付けられる気がしてさ」 ジャイアン「それにしても、もう完全にしずかちゃんはのび太にとられちまったなーw」 スネオ「だよなぁジャイアン。僕たちの立場ないよね」 のび太「そんなことないだろー」 ジャイアン「んだとてめー」 のび太「うわ、殴るなよw」 スネオ「もう僕にはジャイ子ちゃんしか……」 ジャイアン「なんだって?」 スネオ「い、いや。二重の意味でなんでもない」 107 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:21:56.60 ID:vLqKmyu00 大会まであと一週間になった。 ここから先は、完全に調整メニューになる。 先生「野比、お前が自分で気になるところはなんだ?」 のび太「ちょっとスタートが気になりますね。4歩目からは加速していく感じがするんですが、最初の三歩のダッシュが弱く感じます」 先生「それは私も思っていたが……まあお前は後半型だからな。そこまで気にすることもないだろう」 のび太「でも、最初で頭ひとつ抜け出したほうが絶対良いですよ」 先生「それは得手不得手ってもんで、選手によって違う。お前はカールルイス型だ。 その上にベンジョンソン並みのスタートをつけるというのは欲張りな話だ」 のび太「確かにそうですね……」 先生「まぁ何度も意言うが、怪我しない程度にな」 のび太「はい」 111 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:25:12.40 ID:vLqKmyu00 メニューを着々とこなしていくうちに、僕はしずかちゃんがいないことに気づいた。 僕は足を止め、近くで砲丸を投げていたジャイ子ちゃんに声をかけた。 のび太「ジャイ子ちゃん」 ジャイ子「は、はい!なんですかのび太さん!」 のび太「な、なんでそんなに緊張してるんだい」 ジャイ子「え、だって、だってぇ……」 のび太「ま、まあいいや。ねぇ、しずかちゃんどこにいったか知らない?」 ジャイ子「え、しずか先輩ですか?」 のび太「うん」 ジャイ子「欠席報告は受けてないですけど、どうなんでしょう。私にはよく、わかりません」 のび太「そっか……」 116 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:26:50.67 ID:vLqKmyu00 のび太「先生、僕はもうこれで上がります」 先生「ん、もういいのか。まぁ無理はいかんしな。お疲れ」 のび太「はい。お先に失礼します」 大急ぎで荷物をまとめた。 嫌な予感が、した。 126 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:30:34.48 ID:vLqKmyu00 時刻は17時を過ぎていたが、夏なのでまだまだ明るい。 僕は荷物を脇に抱えて街中を走っていた。 しずかちゃんが無断で欠席することなんて、今までで一度もなかった。 休むときは必ず、僕に知らせてくれていた。 のび太「なんなんだろう……胸騒ぎがする」 僕はしずかちゃんの家に走った。 131 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:33:07.88 ID:vLqKmyu00 のび太「しずかちゃん!」 扉をたたいて、僕は叫んだ。 数秒の、沈黙があった。 のび太「……いないのか?」 もういちど、扉をたたこうとした。 その瞬間。 しずか「のび太さん?」 のび太「うわっ!」 しずかちゃんが、扉を開けて出てきた。 出典:続き リンク:欲しい? |
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